幼女先生の夜空教室
「人か、獣か……仇討人にも適性というものがあるわ。故にこそ瞬間的な二択でこそその真価が垣間見える……」
モンスターに襲われる幼子を取るか、路地裏に引っ張り込まれる女性を取るか。
大抵のプレイヤーは後者を先に済ませると思うのだが……随分と早い再会を果たした頭領はそうではない、と笑みを浮かべる。
「それは認識の視界、貴方の意識がどこを見ているのか……行動と結果は副次的なモノでしかない」
目の前の女性を見逃せないと意識から幼女の願いを外すのか、それとも所詮は人同士の下らないイザコザと断じてまだ見ぬモンスターの事を見つめているのか。それこそが仇討人の本質を示すのだと頭領は説く。
「貴方は中々珍しい結果を見せてくれたわ……どちらか一方を選びながらも、もう一方からも視線を外さない……視野が広いのね?」
いまいち理解できないが、要するに「システムが貴方の思考を読んでどっち優先にしたのか」を判定したって事ですかね? しれっとハイテク見せつけてくるなこのゲーム。
「というかもしかしなくてもあの二人も……」
「えぇ、ウチの「調査員」よ? 殴られ役、よく出来ていたでしょう……?」
つまり踊らされてたって事じゃないですかぁー、いやまぁ壁蹴りなんて力技が妙にクリティカルヒットしっくり入ったなぁとは思ってたが……受ける側が協力してたなら納得もできる。
「割と会心の一撃だったけど無事なんですかね……?」
「本職の暗殺者相手に死んだフリを成功させる名役者ですもの、心配はいらないわ」
いやそれあんまり関係な……いや待て暗殺者相手に死んだフリ? すげぇなオイなんだその生存特化、すごく興味あるんだけど。
「まぁいいや本題に戻ろう、結局俺の適性とやらはどのような結果になったんで?」
「そうねぇ……仇討人は大きく分けて「対人」「対モンスター」のどちらかを専門としてもらうのだけれど、どちらでも活躍してくれそうだし貴方が選んでいいわよ?」
「じゃあ対モンスターで」
ぶっちゃけシャンフロでは対人にそこまで熱意傾けてないからな、これが幕末とか世紀末円卓なら迷うことすら馬鹿馬鹿しいんだが。
「……付いてきて」
「え? あっ、ういっす!」
え、なんだなんだ。あっやめてティーアスさん半裸状態でインナー引っ張らないでアウトになっちゃう! アウトになっちゃううううう!!
「実地試験……倒して」
「倒してって……」
そんなわけでやって来ました去栄の残骸遺道、あぁダチの家が遠のいていく。
ジョブクエストが終わっていない以上、これもクエストの一環なんだろうが……一体、どうすればいいんだ。
ビキニアーマーの幼女に引っ張られながら半裸の女アバターで街中を突っ切るという中々の羞恥プレイをさせられ、今俺はティーアスが指差す先……なんだろう、さくらんぼに足生やしたような見た目全振りなゴーレムを「違うそっちじゃない、あっち」
「あっち?」
おや、何か猛烈な速度で走ってくるな……おやおや、チェリーゴーレムが暴発したアメリカンクラッカーみたいな吹っ飛び方で宙を舞って……なんだありゃ、足の生えたイソギンチャク?
「……最速で終わらせる、倒して」
「せめて解説お願いできませんかぁ!?」
まるでスキップ不可能のムービーが挟まったかのような億劫さを隠そうともせず、ティーアス……いや幼女先生はため息をつく。
「……アレは人喰い、それも人間の腕だけを貪る」
「アレ全部人の腕かぁ……」
そっかぁ……下手すりゃルルイアスにいてもおかしくない見た目だな。ていうかあんな感じの奴いたような……いや、アレは半魚人にイソギンチャクが大量に付着してただけかあっはっは大差ねぇよ。
「奴につけられた名は「アイガイオ」……奴は暴れすぎた、だから私達に願いが届いた」
「一応聞くけど手助けとかは……」
「………私はとても眠い、五分」
「タイムアタックかぁ……!」
上等じゃねーかイソギンチャク野郎、丸ハゲにしてやるよ!!
(中略)
もうね、馬鹿じゃないかと。仮に百本腕があるとして百回連続で掴み判定あるとかね、近距離職に厳しすぎるだろと。
まぁ「オペレーション"痒いところに手が届かない"」で奴の脛をズタズタにしてやったがな! 女体化の影響で小柄になっているのも幸いした、ニーソックスを履くたびに激痛が走る身体にしてやったぜェ……
「き、記録は……」
「五分十八秒、良判定?」
良判定(鼻で笑われた)かぁ……じゃあお前はどうなんだよ、と言いたいところだが名前的に一分切りで倒しそうな雰囲気があるので口には出さないでおく。
「仇討人の仕事はとてもきびしい。一度でも失敗すれば報酬は九割減する」
90%減はキツそう、まぁこのゲーム極論モンスター掻っ捌いて素材売るだけでなんとかなるんだが……いや素材売却+クエスト報酬の方が普通に実入りいいに決まってるわ。
「それに仕事も不定期、いつ呼び出されるかもわからない」
不定期ってのはつらいなぁ、ログイン中のランダムなタイミングであるなら問題はないんだけど。
「そしてこの界隈でたべていくなら、大事なことがある」
「……大事なこと」
ティーアスは説く、原則として仇討人には上下関係というものが存在しないのだと。いや頭領という元締めこそ存在するが狩人間に上司部下という関係性は存在せず、あくまでも身分としては平坦であるのだ、と。
とはいえ人間とは……いや、人間に限らず生き物というものはある程度の上下関係がなければそれはそれで不安になるものだ。
つまりは、だ。ふんす、と踏ん反り返ったティーアスは初めての後輩に対して台風の如き先輩風を吹かせたいらしい。
「……私のことは「先生」と呼ぶように」
「ついていきます幼女先生ェーーーっ!」
兎を兄貴と慕い、幼女を先生と慕う。大概意味分からない状態になって来たなこのキャラ……まぁそれはそれとして話は変わるがゲーマーというものはある意味差別主義者とは真逆に位置する存在と言えるだろう。
何せフィクションという大義名分を盾に制作側の性癖が詰め込まれたキャラと触れ合うわけだからな。肌の色? 性別? 人種? パラメータが優れているならナメクジだってパーティに迎え入れる、それがゲーマーだ。
それに幼女を師と仰ぐ経験とか腐る程あるわ、ロリババアってファンタジー系のゲームじゃ結構な頻度で見かけるしな。
一切のみくびりも侮りもない全力の平身低頭を幼女先生はお気に召したらしい。ふんすふんすと鼻息高らかなティーアスは裏カフェ「彷徨う剣」を案内してくれた上にりんごパフェを奢ってくれた。
極めて珍しいことに多少の安っぽさはあるものの味覚制限はほぼ解除されてると言っていいお味であった。このゲーム食べ物系は味覚制限されているものとばかり思っていたが……仇討人関係は解除されてる? いや、流石にそんな意味不明な優遇を隠しとはいえ単なる職業に実装するとは思えない、というかそれなら料理人(モンスターの素材で回復・バフアイテムを作成できる職業)の方が適任だろう。何か別の条件があるのか……? まぁいい、こういうのは考察厨達の仕事だ。
あとついでに「ドヤ顔ティーアス先生」「私服だとか撥水性だとか言いくるめてティーアスにスク水着せて俺(女)とのツーショット」のスクショがあるんだが……これ高値で売れたりするんかな?
『隠し職業クエスト「か細き願いを叶える者」をクリアしました』
『ジョブチェンジ! メイン職業が「仇討人」に変更されました』
『職業「傭兵」をサブ職業に変更しますか? はい・いいえ』
『称号【美食舌】を獲得しました』
謎の称号【美食舌】を獲得してわかった事がある。多分このゲーム「食材の高級度」と「味覚制限」がリンクしてるんだ、つまり金さえ積めば美味しいものが食べられる。
つまり俺たちが今まで食っていたものは…………資本主義の残酷な真実に世の無常さを感じつつも現在俺はフィフティシアに来ていた。
「なんだろう、一日すら経過してないのに男の身体がひどく懐かしく感じる……」
女体化中に怒涛の勢いでイベントが起きたからかな、とりあえず可憐な少女の姿でも蠍達は容赦しないらしい。彼等は男女差別の色眼鏡をかけていない、訪問者は誰であろうと全力で歓迎してくれるのさ……とりあえずアムルシディアン・クォーツを結構回収できたので良しとする。
今日の予定はレイ氏と新大陸移動前に色々と用意を整えるための狩りに出かけるつもりだ。ハイテンションだったかペンションだったか忘れたが、角がポーションの材料になるモンスターは現在プレイヤーによって大乱獲が行われているらしいので、相対的にプレイヤーの数が少ないエリアに行くとのことらしい。
まぁ俺はほぼ一直線にフィフティシアまで走ったから他ルートのエリアについては疎い、せいぜい死火口湖の底にフレイムブロッコリーバタフライがいるって事と鐵遺跡に釣りスポットがあるって事を知っているくらいだ。
「さて……そろそろ待ち合わせの時間か」
俺はちょっとばかし目立ちすぎたからな、さっさと通り過ぎるならともかく待ち合わせ場所で仁王立ちするのはリスクが高い。
そんなわけで待ち合わせ三分前くらいまでは路地裏で息を潜め、機を見て表舞台に躍り出る作戦を決行したのだが……
「あの、サッ、サササ、サンラララクささささ、ここここれれれれれれ、なんんなんなんなんなんんんんんんん」
「ひぇっ」
目の前に全身がノイズで崩れかけた暗黒騎士が現れたら誰だってビビるだろう。
周囲が騒然とする中……いや、何人かはその原因が分かるのか同情的な視線を向ける中、本格的にバグったレイ氏が人としての輪郭がブレた手をこちらに伸ばして……ぶつんっ、とその場から消失した。
「参ったな」
なんて事はない、俺達が無事でレイ氏だけピンポイントでバグったというなら理由は一つ……本体トラブルだ。
ユザパを超えるユザパ、スキップユザパ……TASだからね、スキップは当然だね。
なおユザパの究極は設定のみの登場で描写すらカットされた深海三強のヤドカリさん
ちなみにですが「アイガイオ」とは種族名ではなく個体名です。フレッシュミートゴーレムの変種、と言ったところでしょうか。
喰纏種と似たような特性を持っていますが、あくまでも人の腕のみを偏食しているだけなので喰纏種ではありません。というか落とすアイテムは変種ではない通常種と同じです、レアエネミーではなくあくまでも「異常な(行動的)特性を持ったために二つ名を与えられた通常種」なので。
仇討人が受注できるクエストはこう言った変種モンスターや極悪人NPCだったりします。
余談裏設定
ティーアスちゃんは栄養失調と発育不良がデフォルトな最底辺の孤児だった境遇からルティアさんに拾われた背景設定があるので見た目と年齢が割と釣り合ってない、具体的に言うと見た目はかろうじて小学四年生くらいだが実年齢は十四歳くらい。
天才二人が「PK絶対殺すマン」として最後に設計した賞金狩人であり、専用スキル「──速」はティーアス単体の処理だけで鯖落ちする可能性すら孕んだ規格外のスキル
カロリーが高ければなんでも好き、生まれ育った背景から「着れればなんでもいいじゃん」というナチュラルボーン・コスプレイヤーなのでスク水も着てくれた。
多分サバイバアルならスクショ画像に五億マーニまでなら出せる。