最速を冠する少女
風邪引いたのでレッドブルキメながら安静してたのに悪化した、何故だ……(止まらない頭痛と鼻水)
おっと三分経ちそうだ、装備変更。
何やらバイオリンとギターの合いの子のような弦楽器によるジャズっぽい旋律がバックグラウンドで奏でられている。
窓も扉もない不思議な場所を見回しつつ、俺はドレスの女性の後ろを追いかけていくが……
カフェ「蛇の林檎」にいるクローン疑惑のある店主をそのまま歳を経たようなマスターが立つカウンター、その隅の方でなにやら妙に露出度の高いビキニアーマーを着た幼女がもっしゃもっしゃと肉を齧っているがもしかしなくてもあれがティーアスなる賞金狩人では?
「ここは仇討人のギルドのようなもの……と言っても、そこまで所属者は多くないのだけれど、ネ?」
隠し職業「仇討人」、俺へと提示されたその職業は要するに「難易度の高い案件のみを受ける専門職」という事らしい。
「この世には、成し遂げられない願いがある。例えばそう、その難易度の高さ故に王国の騎士団すら黙殺せざるを得ない獣の討伐依頼であったり。採取の困難さ故に非常に高価な薬草を求める貧しい少女の願いであったり」
「思想は立派だが……慈善事業って奴か?」
聞く限りでは世のため人のために奔走するボランティアのようにしか思えないが、俺がそう問いかけると「頭領」と名乗った女性は扇子を揺らしながら首を振る。
「それは理由の半分、もう半分は貴方達のような方々に戦う場を与える事……」
「……成る程」
暴力的手段の合法化、潜在的な危険因子に手綱をつける……戦闘狂などの命知らずを集め、表社会では持て余すような、もしくは見向きもされないような難題をクリアする者達。
となると「賞金狩人」システムは仇討人のターゲットを絞ったNPC限定職ってところか、まぁ流石にPKerが相手とはいえプレイヤーにその処断を任せるのはな。街中でPKするよりヘイトを集めかねない。
「で? 招待されたら即採用なのか?」
「そうねぇ……実力の保証はされているからそれで良いのだけど、何か自慢話でもしてもらおうかしら?」
自慢話、自己アピールか? 俺はこれだけの力を持っているという……そうだな、この後用事もある訳だし。
インベントリから取り出したのは素材余りとして使っていなかった水晶群蠍の針、あとついでに掘り当てたはいいが「中身無し」だったようでゲーム的価値は低いと言わざるを得ないハズレのローエンアンヴァ琥珀晶。
「水晶巣崖にはよく行くよ、良ければそっちの琥珀晶はプレゼントするが?」
「あらあらまぁまぁ……これは思った以上の奇貨かしら、噂もあながち間違ってないのかもね」
噂……噂、ねぇ……おっと三分。
「前々から気になっていたんだけど、その噂ってのは具体的にどのようなもので……?」
「そうねぇ、一番の噂は「夜の帝王をも退けた夜駆けの怪人」かしら」
「カイジン……」
死ぬと派手に爆発でもするのか俺は。つーか誰だそんな噂広めたやつ、NPCか? NPC由来か? ちくしょうリュカオーン許さねぇ。
「ある時は鳥を模した覆面、ある時は魚を模した覆面……身体をすっぽり覆う白い布で闊歩してた、なんて噂もあったけど、まさか性別すら自在とは思わなかったワ。「怪人」というのもあながち間違いではないかも知れないわね……?」
「甚だ不本意だけど事実が基になってるから否定できない悲しみ……」
日頃の行い、というやつか……リュカオーンのせいだな許さねぇカウンターが回る回る。
いちいち着替えるのも面倒なのでサクッと灼骨砕身、先程からコロコロ装備を変えたりいきなり自刃し始めているにも関わらず、眉一つ動かさない頭領はなかなかに豪胆な設定のNPCなのだな……
と感心していたのだが、仕事帰りなのかのっしのっしと歩いてきたメイド服 (ミニスカではなくロング)姿のゴツイおっさんと一見普通のスーツに見えるがよく見るとキャリアウーマン用のスーツ姿の優男が通り過ぎていったのを見て、単純に奇抜なものを見慣れているだけ説が浮上した。
というかあれ全部プレイヤーによるオーダーメイドか? 着せ替え隊悪ノリしすぎだろ……畜生、楽しそうだなぁ。
「そうねぇ、今日は軽い紹介という事で詳しくは後日という事でどうかしら?」
「……分かった、じゃあ今日は帰らせてもらうかな」
というわけで魔法陣が刻まれた床の上に立つと「蛇の林檎」へと戻り、個室を出たら店主からアップルパイ(割と空腹度が回復できるようなのでダース単位で欲しい)を包んでもらい、帰って寝ました
……な訳ねーだろうが騙されねーぞ!!
(招待されただけで採用? システムが思いっきり否定してんじゃねーか)
俺のステータスに表記されたメイン職業は「傭兵」のまま、というかそもそもジョブクエストを達成すらしていない。
つまりは、だ。絶対に何かある、抜き打ちのテストか何かは知らないが、クエストが存在する以上はなにかしらのイベントがな……!
仇討人、名称と頭領による説明からして単なる労働戦力とは考えづらい。
少なくとも同様に隠し職業と思しき「古匠」や「神匠」を見るになんらかのイベントがあって然りな訳だが、生産職の「古匠」ですら戦闘イベントがあるわけで、果たしてガチガチの戦闘職業のイベントとは。
「き……むぐぐっ!」
「はい来たァ!」
夜更けも近いエイドルトの空気を切り裂くような悲鳴……を無理やり押さえ込んだようなくぐもった声、まばらとはいえ何人かいたプレイヤー達が何故か気づいていない。
だが確かにそこには如何にも「追われて逃げていたけど捕まりました」とでも言いたげな様子の光景が。
非力ながらも必死にもがく女性と、それを押さえつけて路地裏に引きずり込もうとするガサツそうな男性……成る程? 俺の正義感を試そうって訳か、オーケーいいだろう。
「囚われの女性とか百科事典作れるくらい救って来たっつーの……!」
大丈夫、服着てるから「変質者追加入りましたぁー!」とはならないはず、そう今の俺はレディの危機に颯爽と駆けつける謎の美少女戦士!
「いざ参じょ……」
「た、たすけて……!」
駆け出そうとする寸前、俺の手を掴む小さな感触につんのめりそうになるのを堪えて振り向けばそこには今にも溢れそうなほどの涙を浮かべた幼子が俺を見上げていた。
「おとうとが、わたしのおとうとがもんすたーに、おそわれて……!」
「んぐっ……」
ここに来ての選択肢に御座るかぁ!? クソッ、並のゲームならどう考えてもルート分岐……っ! バカでも分かる取捨選択……っ!
どっちだ、どっちが正解だ……!? というか両方ともイベントか? それとも無関係のフラグ踏み抜いた!?
悩んでいる時間はない、どちらが正解でどちらが間違いなのか。この選択に俺の就職がかかっている………ならば!
「五秒」
カフェインが足りないだぁ? そろそろ体内でカフェインを自己生成できるようになってもおかしくはないから行け!
封雷の撃鉄・災起動、最短最速でルートを導き出し薄れ始めたとはいえ月光を浴びたことで月狼の誇りが解放された今の俺は、おそらく昼よりも速い。
「最!」
座標乱数、良し。裏路地へ消えんとする二人と俺は直線で結ばれている。
「速!」
スタートダッシュ、まぁまぁ。幼女の手を振りほどくのに一瞬の躊躇があったがまぁ良しとしよう。
「解!」
鎮圧手順、非常に良し。こちとら伊達にふと思いついたようにちょっとかじっただけの格闘技を実践レベルで戦法に絡めてくる総受け魚類のサンドバッグやってねぇんだよ!
路地裏、つまり建物と建物の隙間故に左右を壁で挟む形ということだ。
「決!」
まさか本当に出来るとは思わなかった。
上位互換のグラビティゼロを持っているとはいえ、あれはあれで便利だったために手動再現したリコシェットステップもどきで加速した飛び蹴りが不埒者の顎を撃ち抜く。
そして現実の物理運動ならばあり得ない、空中での着地……いや、着空ついでに力の抜けたNPCを蹴り飛ばしつつ空中を舞い……着地と同時に封雷の撃鉄・災を解除。デメリットたる体力減少のリミットすら凌駕した最速の動きに我ながら惚れ惚れする。
あとついでに三分経過したらしく服が弾け飛んだ、灼骨砕身は常に煙って鬱陶しいしそれに加えて懐炉を貼り付けているような感覚が鬱陶しいので常時発動は考えものだしなぁ。
「多分これが一番速いと思う……!」
あまりに理想的、チンピラ蹴り飛ばしTAがあったら世界を獲れるムーブだった。
だが、俺の記録に異を唱える思いもよらない者が思いもよらない場所に現れた。
「───四秒と少し、動きに無駄が多いから改善の余地あり」
「は、速い……っ!?」
座標転移? 違う、幼女がいた足元に僅かだが砂塵が舞っている。瞬間移動でそこにあった質量が消えたなら砂埃は地面から上に舞う、だが目の前のそれは若干左側へ流れている。
つまり物理演算に基づいた超高速の移動だ。
いや待て、封雷の撃鉄・災を発動した状態時の速度とルティアの「超速」にそこまでの差はない。そして過剰伝達状態の速さはまだギリギリグラフィック描写される速さだ。
つまり今の速度はルティアよりも……
「───これは「適性」の試験、ルティアが用事で外してるから私があなたの担当……」
それ即ち、
「幼女先生……!」
振り向けば、そこには先程までの力なき幼子の姿を衣服ごと脱ぎ去ったビキニアーマーの幼女が、ガラス玉のような静かな目で俺を見つめていた。
着せ替え隊の業が深すぎる。
爆裂全裸「速過ぎる」
違法全裸「遅過ぎる」
視覚的危険地帯
天才二人が嬉々として協力し完成したPKを確実にボコる為の「賞金狩人システム」ですが
「ちゃんと設定練らなきゃ」
「設定練りすぎ」
「あ?」
「お?」
結局水と油は溶け合わなかった模様
何せティーアスやルティアは外伝書けるくらい設定が詰め込まれている模様