幼馴染にフラれたので旅に出ることにした   作:イグアナ

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2話

「あ、またアイツ脱走してるわ」

 

 気づいたらモンスターボールの中がひとつ空っぽになっていた。確認するまでもなくムクホークだ。

 

 無茶振りとか厳しい特訓をしすぎたせいか、ムクホークはたまに脱走するようになってしまった。

 

 今はもうそんなことしないので、脱走する必要はないはずなんだが……。

 

「……ああ、シンオウ地方(ここ)だからか」

 

 一般的に、ムクホークの生息地はシンオウ地方だと聞いている。

 

 あいつを捕まえたのは地元の森だけど、ムクホークの遺伝子にはシンオウの空が刻まれていて、居ても立っても居られなくなった……とか、ちょっとロマンチックな理由を考えてみた。

 

「……ま、行き先は伝えてあったし、変な方には飛んで行ってないだろ! ……多分」

 

 まあ仮に変なところに飛んでいったとしても、あいつなら俺の匂いとか辿って戻ってくるだろうし、実のところあんまり心配はしてない。

 

「さーて、ミオシティで時間潰しすぎちゃったし、今日はコトブキシティに着いたら宿取るかなぁ」

 

 宿と言ってもポケモンセンターだが、ポケモントレーナーであれば無料で飲食&寝泊まり可能で、基本24時間受付してくれているというのはとてもありがたい。

 

 早ければ10歳で旅に出る人も居るらしいが、それもポケモンセンターの存在が大きく関与しているのは間違いないだろう。

 

「ホーッ!」

 

 お、脱走してたやつが帰ってきた。コトブキシティの方から来たみたいだけど、もしかして先にコトブキの街並みとか見てたりするんだろうか。

 

「おかえりムクホーク。シンオウの空はどうだった?」

「ムホー」

 

 ほう、満更でもない様子だ。どうやら中々楽しい空旅だったらしい。

 

「うし、じゃあボールに戻──」

「すみませーーーーーん!!!!」

「──え?」

 

 声のした方を見ると、白いニット帽を被った女の子がこちらに向かって走ってきていた。

 

 よく見ると、さらにその後ろから金髪の女性も走ってきている。多分あの白いニット帽の子を追いかけてるんだろうな。

 

「……ムクホーク。ないとは思うけど、あの子になんかしたか?」

「ホホ?」

 

 『何言ってんだお前?』みたいな顔された。なるほど、つまりムクホークに何かされて追いかけてきたわけではないってことだな。

 

 一応周りを見渡すが、俺とムクホーク以外には誰もいない。つまり十中八九、あの子は俺に声をかけてきたということだ。

 

「はぁっ……はぁっ……! や、やっと追いついた……!」

「ヒ、ヒカリちゃん……! 突然、走り出さないでほしいわ……!」

「ご、ごめんな、さい……! でも、これで、ようやく……!」

 

 二人とも俺の前まで来ると、肩で息をするほど疲れていた。

 

 ムクホークが理由じゃないなら他に何か理由があって走ってたことになるけど、なんでそんなになるまで走ってたんだ……?

 

「はぁ、はぁ、……ふぅ。あの、そのムクホークなんですけど、あなたのポケモンですか?」

「へ? そうですけど……。あの、ムクホークが何か?」

「そうですか。なら……」

 

 白いニット帽の女の子はモンスターボールを取り出すと、それを俺の方に向けて口を開いた。

 

「私とポケモンバトルしてください!」

「え゛っ……!?」

 

 ポケモンバトルから離れてゆっくりするための旅だったのに、まさか急にポケモンバトルを挑まれるとは思わなかった。

 

 ポケモンバトルかぁ……。うーん、別にやりたくないわけではないけど、そもそもこの人たちが誰かもわからないしなぁ……。

 

 なんて考えていると、あまり乗り気でないことが伝わってしまったのか、女の子は不安げにこちらを見つめてきた。

 

「その……ダメ、ですか……?」

「あ、いや、ダメってことはないんですけど……。その、いきなり知らない人にポケモンバトルを挑まれてびっくりしてしまって……」

「え? ……あ、すみませんっ! 私、ヒカリっていいます!」

「ヒ、ヒカリさん?」

「それでそのっ、こっちはシロナさんです!」

「シ、シロナよ……。よろしく、お願いするわ……」

「……えと、シバリです。こ、こちらこそよろしくお願いします……?」

 

 シロナさんという人はどうやらまだ息が整っていないようで、少し返事がおぼつかなかった。

 

 走ったのはヒカリさんと同じ距離だと思うのだが……。なるほど、これがオトナになるってことなのか。歳は取りたくないなぁ……。

 

「何か言ったかしら?」

「いいえ」

 

 年齢のことを考えた瞬間、シロナさんが急に低い声で問いかけてきた。

 

 なんだか命が危ない気がする。このことについて考えるのはやめておこう。

 

「ということで身元の紹介も出来たことですし、どうですか!? ポケモンバトル!」

「えっ? な、名前だけで身元の紹介になります……?」

「「え?」」

「え?」

 

 ん? なんで不思議そうな顔をされるんだ?

 

 まるで名前を言ったんだから身元がわかるはず(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)と言いたげな──。

 

「……も、もしかして有名な方でしたか……? すみません、俺この地方に来たばっかりでそういうの詳しくなくて……」

……シロナさん。この人もしかして……

ええ、多分私たちのことを──

 

 二人して小声で何か話し始めた。急に仲間外れにされたみたいで少し悲しい。

 

 ちょっと待っていると話がまとまったようで、ヒカリさんが声をかけてきた。

 

「ごめんなさい! 名前だけじゃわかりませんよね! 私はただのポケモントレーナー(・・・・・・・・・・・・)のヒカリです!」

「同じく、ただの考古学者(・・・・・・・)のシロナよ」

 

 う、うさんくせぇ……! 絶対嘘だろこれ。強調しすぎて逆に怪しいわ。

 

 あれ? そういやコトブキシティに新旧チャンピオンの二人が来るって話を聞いたけど、もしかしてこの2人がそうだったり……?

 

 ……な、わけないか。そんな凄い人が俺みたいなやつに突然ポケモンバトルを挑んでくるはずはない。

 

 ともかく、シンオウ地方の人なら名前を言えばわかるくらいには有名な人なんだろう。とりあえずこの2人の認識はそれでOKだ。

 

 そして名前を言えば身元が証明出来るということは、少なくとも良い意味で有名な人だということだ。てことは、俺に対して悪いことをしようとしているわけではなさそうだ。

 

 ……となると、よくわからんけどただポケモンバトルをしたくて俺に話しかけてきたというのが一番有力になってしまう。マジで意味わからんけど、そういうことなんだろう。

 

 ふと、横のムクホークに視線を向ける。もしこいつがポケモンバトルに乗り気で無ければ断ろうと思ったが、『別にやってもええで』みたいな顔をしている。やっていいのかよ。

 

 ……思えば、今までは勝たなければ意味のないポケモンバトルしかしてこなかったが、これからのポケモンバトルはそんなことを気にしなくても良いのか。

 

 ムクホーク達もきっと、一度くらいはしがらみのない楽しいポケモンバトルがしてみたいのかもしれない。

 

「ってことなんだが……やるか? お前ら?」

「ホーー!!!」

 

 ムクホークだけでなく、他のやつらもモンスターボールを揺らして応えてくれた。なら、決まりだ。

 

「──わかりました。そのポケモンバトル、受けます」

「ほんとですか!? やったぁ!!」

 

 心から嬉しそうにはしゃぐヒカリさんを見ていると、シロナさんがこそっと話しかけてきた。

 

「受けてくれてありがとう。突然話しかけたのに悪いわね」

「いえ。むしろ機会をくれてありがとうございます」

「?」

 

 あの時のポケモンバトルと、今からやるポケモンバトル。きっと違う景色が見えるはずだ。

 

 やるからにはめいっぱい楽しもう。もう俺達には何のしがらみもないのだから。

 

「よし、それじゃあ早速──」

「そうと決まれば場所を変えましょうか。ここじゃ目立つわ」

「え?」

「そうですね! 人が通ったら大変ですし!」

「え?」

 

 ゑ?????????????

 

 

 

 

──────────────────────

 

「ここなら大丈夫ですね!」

「ええ、思う存分やっちゃいなさい」

「えぇ……」

 

 なんか歩いて10分くらいのところの施設に連れてこられた。

 

 テレビで見るようなポケモンスタジアムに比べればこぢんまりとはしているが、それでも1対1でバトルするには十分な広さだ。

 

 ちなみに入り口が明らかに関係者以外立ち入り禁止みたいな感じだったのでちょっと怖い。

 

 あの、マジでこの2人何者なんです?

 

「じゃあ私が審判やるから、2人は立ち位置についてくれるかしら?」

「シロナさんが審判!? 滅多に見れないですね!」

「ふふ、基本戦う側だものね」

 

 基本戦う側? ……いや、よそう。今考えても答えは出ない。今はヒカリさんとの勝負に集中しないと。

 

「ルールは6対6。アイテムの使用はなし。トレーナーへの直接攻撃、及び危険と判断される行為は禁止とします。……こんなところかしら?」

「バッチリです!」

「はい。問題ないです」

「よろしい。では、両者1体目のポケモンを出してください」

 

 1体目のポケモンか。それなら……お前だな。

 

「いくわよ、トゲキッス!!」

「やるぞ、ジュカイン!!」

 

 む、ヒカリさんの1体目はトゲキッスか。こりゃ初っ端から相性悪い組み合わせだな。

 

 でも俺のジュカインは相性不利くらいじゃ揺るがない。むしろ相性不利なくらいが丁度良い(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「準備はいいわね? それでは……試合、始め!」

 

 

────────────────────────

 

「ジュカイン! エナジーボール!!」

 

 試合開始と同時、シバリが先に仕掛けた。

 

 相性不利の草技を使ってきたことをヒカリは不思議に思ったが、草技なら被弾したとしてもこちらも当てればお釣りが来ると考え、瞬時にトゲキッスに指示を飛ばす。

 

「トゲキッス! 距離を詰めて確実にエアスラッシュを当てて!」

「トゲッ!!」

 

 ヒカリの指示通り、トゲキッスはジュカインとの距離を詰めた。

 

 このエアスラッシュは大きなアドバンテージになる。そう思っていたヒカリだが、すんでのところで彼女の目は捉えた。

 

 ジュカインが放つ直前のエナジーボールに、とんでもない量のエネルギーが凝縮されていることを。

 

「──ダメ! トゲキッス! 避けて!」

「トゲッ!?」

 

 流石現チャンピオンのポケモンと言うべきか、急な指示にも関わらず、トゲキッスはすんでのところでエナジーボールを回避した。

 

 そして、トゲキッスの横を掠める形でエナジーボールは発射され、放たれたエナジーボールは誰もいないところで大爆発を起こした。

 

「……なに、あれ……?」

 

 『草技なら受けてもお釣りが来る』? 冗談じゃない。

 

 少なくとも、あのエナジーボールは効果がいまひとつだからといって受けていい技ではなかった。

 

(シバリさんのジュカインのどこにあんな凄いエネルギーが……? とても鍛えられているとは思うけど、それだけじゃ理由にならない。しんりょくが発動しているときならまだしも──)

 

 ここまで考えたところで、ヒカリはあることに気がついた。

 

 シバリのジュカインが、わずかに身体を震えさせていたのだ。

 

「……もしかして、そう(・・)、なの?」 

 

 半ば確信を持ったヒカリの呟きに、シバリは驚いた表情を向ける。

 

「……マジすか、もうバレました?」

 

 まいったなと言いたげに頬を掻きながら、シバリは白状した。

 

「ヒカリさんの思ってる通りです。俺のジュカインって臆病な性格なんですけど、臆病すぎるんですよ。すぐに自分がピンチだと錯覚するんです。……相性不利の相手と対面してるときなんかは、特に」

 

 ここまで言われれば、ヒカリも確信した。

 

 つまりシバリのジュカインは、自分のことをピンチだと錯覚しているため、傷一つ負っていないにも関わらず(・・・・・・・・・・・・・・・)しんりょくを発動させている(・・・・・・・・・・・・・)

 

 ただでさえヒカリが見たことのないレベルまで鍛えられているというのに、それに加えて常に草技の威力が1.5倍。草技以外の威力は上がらないという欠点はあれど、それを補ってなお余るパワーが引き出されている。

 

「……ありえない。ずるいじゃないですか。そんなジュカイン、強いに決まってます」

 

 言いながらも、ヒカリは口元の笑みを隠せない。

 

 このシバリというトレーナーが、今まで戦ったどんなトレーナーよりも手強いということを確信したからだ。

 

 しかもこれで1匹目(・・・・・・)。つまり、ムクホーク含めあと5体もあんなデタラメなポケモンが居るということになる。

 

「でも私も負けません! 行くよ、トゲキッス!」

「こっちこそ! いくぞジュカイン! 仕切り直しだ!」

 

 そうして、フィールドで2匹のポケモンが激突した。

 




・ジュカイン
常にしんりょくのヤベー奴。
『プラシーボしんりょく』とシバリは呼んでいる

・ムクホーク
ジュカインよりもヤベー奴

・ラズのエレキブル
ムクホークよりもヤベー奴

・残りの手持ち
長年のトンデモ特訓のせいでまともなやつは居ない

・ヒカリ
主人公なので観察眼がやばい。
楽しいバトルが出来そうでワクワクしてる。

・シロナ
プラシーボしんりょくのジュカインを見て宇宙猫になった。

・歩いて10分くらいの施設
バトルするのに良さげなところがなかったので勝手に設置。
ご都合主義だからね、仕方ないね。
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