愛は連鎖して ver.P
プロセカGLでキスの日。最初からみのはる・しほなみ・しずあい・いちさき・杏こはの順番です。
地雷の方はすみません。地雷原だ……。
まふえむとみずえなを書く体力が残っていないのが悔やまれます。
ver.Bことバンドリでも去年やりました。→ novel/12995757
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「あ、おはようみのり。今日は随分と早いんだね」
「おはよう遥ちゃん!」
早朝。私が学校の屋上へ向かうと、すでに練習着に着替えたみのりが笑顔で出迎えてくれた。
私が所属するアイドルグループ『MORE MORE JUMP!』はほぼ毎朝、こうして部活動のように早朝の学校に集まって朝練をしている。他のメンバーである雫と愛莉も真面目なので集まりがいいのだけれど、今日はまだ来ていないようだ。
二人が来るまでは、しばらくはみのりと二人きり。
少しだけ、胸の奥がそわそわとする。
「みのり、なんだか今日は大荷物だね?」
「うん! 今日はね、動画配信の企画のネタになるといいなと思って、お家にある雑誌をいろいろ持ってきたんだ!」
そういってみのりは膨らんだトートバッグを掲げてみせた。中を覗いてみれば、アイドルや芸能関連の雑誌が十冊くらい入ってた。
「ふふ、ありがとうみのり。重かったんじゃない?」
「ううん全然! 練習で体力ついてきたし、みんなの為だもん! これくらい大丈夫だよ!」
「そっか。みのりは頼もしいね」
と私が褒めると、みのりは嬉しそうにニコーッと微笑んだ。お日様みたいに素敵な笑顔にきゅんと癒される。
「それにしても……なんていうか、私が表紙の雑誌があると不思議な気持ちになるね」
「あ、自分自身が載ってる雑誌って、やっぱり気まずいかな?」
「私はもう慣れたけど、最初の頃は家に献本が届いて、ちょっとむず痒かったかな」
「そうなんだぁ。愛莉ちゃんや雫ちゃんもそうだったのかな?」
「あとで聞いてみれば? それに、いつかみのりも表紙を飾るんだもん。気持ちの準備をしておかないとね」
「そんな、わたしなんてまだまだ……じゃ、なかった。そうだね、『MORE MORE JUMP!』のみんなで表紙に載れるようもっともっと頑張らないと!」
モモジャンのみんなで、っていう辺りがみのりらしいな。
微笑ましさを感じながら雑誌を手に取り、適当にめくっていく。ファッション特集、トレンドのカフェに行ってみました、読者投稿の動物の癒し写真ランキング……私が国民的アイドルだった頃と同世代向け、つまりは中学生向けなこともあってか何だか可愛らしい特集が並んでいる。
みのりもこういうのを見て育ったのかな――なんて思っていたら。
「えっ」
……思わず、柄にもなく奇声を上げてしまった。
「な、なになに? 企画になりそうな記事とかあった?」
不審に思ったみのりが寄ってくる。……そのページを隠すのも不自然かと思い、私はみのりにもそれを見せることにした。
「……『恋人とのキス特集』だって。こういうのも載ってるんだね」
「そうだねー、女子向け雑誌だとこういう彼氏とのお付き合いの仕方ってよく載ってるような気がす……る、よ………………あ、あわわわわ」
私の傍で雑誌を覗き込んだみのりが、自分の台詞を受けて顔を真っ赤にしていく。
……まあ、それもそのはず。
今、あなたの傍にいる人こそが、あなたの恋人なんだもんね。
「ち、違うよ遥ちゃん! 違うの遥ちゃん! これは偶然で、中身もよく気にしないで手当たり次第持ってきただけで――!」
何にともなく言い訳(?)を始めるみのり。
私は『恋人とのキス特集』に目線を落とし、
「もしかしてみのり、私との付き合い方でこういうのを参考にしてるの?」
「えっとえっと」
「いつも一生懸命で可愛いなとは思ってたけど……ごめんみのり。私ももっと、みのりと恋人らしくなれるよう勉強するべきだった」
「っ! そんなことないよ! 遥ちゃんはいつも格好良くわたしをリードしてくれるし、デートの時もエスコートしてくれるし……いつも最高の遥ちゃんで……!」
「ふふ、ありがとうみのり」
「あうぅ」
どんどん顔を赤くして空回りするみのり……私の恋人が今日も可愛くて、愛おしさに胸の奥がいっぱいになっていく。国民的アイドルの大ファンであり、私をステージに引っ張り上げてくれたアイドルであり、桐谷遥の恋人でもある女の子。
そんな彼女が逃げないよう、そっと手に手を重ねながら。
「見てみのり、キスの部位に意味があるんだね。『額なら友情』とか」
「へ、へぇ、そうなんだ」
「うわ、『足の甲なら隷属』とか『腿なら支配』とかもある……そんな部位にキスしちゃうんだね?」
「……あのぅ、遥ちゃん?」
小首をかしげるみのりの右手をギュッと握り、私は笑顔を作る。
「ねぇみのり」
「は、はいっ」
「みのりなら、私のどこにキスをする?」
――思い切って聞いてみた。
すると私の恋人は今度こそ耳まで真っ赤になりながら目を回し、「え、えええええ!?」と大声を上げた。ああ、これは流石に朝から踏み込み過ぎたかな。みのりは「えっと、えっとね!」とこんな質問にも一生懸命答えようとしてくれて、そういうところが大好きだなぁ、と思いながら雑誌を閉じる。
「ごめんねみのり。冗談はこのくらいにして――」
「遥ちゃん、目を瞑ってもらっても、いいですか」
――そろそろストレッチを始めようか。
私が続けるつもりだった台詞は、喉の奥で押し留められていた。
みのりが私の肩に右手を置き、そして頬に左手を這わせてきて。
予想外の行為に面食らう私をOKだと認識したのか、みのりが向けた真っ直ぐな視線が私の視線と噛み合ってしまった。……私への好意が否応なしに理解できてしまう、口ほどに語るみのりの瞳。いやまぁ、みのりは口でも好意全開だけど。
そんな彼女の要望に従い、目を瞑る。
すると、肩にほんの少しだけみのりの体重を感じて。
――ふにっ、と。
私の瞼に、柔らかな感触が触れた。
「……わたしなら、やっぱりここにキスする、よ」
おそるおそる瞼を開いた私の目の前には、まるで想いを告げた日の誰かのように、あるいはファーストキスを交わした日の誰かのように恋に落ちている女の子がいた。私は雑誌の記憶を反芻させる。瞼は……そっか。みのりはずっとそうだもんね。
ああ、もう。
「は、遥ちゃん!?」
「好き……」
「~~~~っ!」
私がぎゅっと抱き寄せると、みのりはきゅーっと身震いした。今鳴り響いている心音は果たして私自身のものなのか、あるいは重なった胸を通じて伝わってくるみのりのものなのか。まあ、両方なのかもしれなかった。
「私も、お返ししないとね」
「う、うんっ」
私はみのりの頬をひと撫でして――キスを待つようにぎゅっと瞳を閉じたみのりの唇の、その少し下へ顔を近づける。そうして、白く綺麗な喉へと自分の唇を押し付けた。
「は、るかちゃ――――ぁっ」
みのりが息を止めるのがわかった。唇越しに動脈の激しい鼓動が伝わる不思議な感覚に、私の頬が一気に熱を帯びる。彼女の爽やかな制汗剤の香りに鼻孔がくすぐられる。
みのりと付き合い始めてから、自分が少し欲張りになった気がするよ。
この子からどれだけの愛情を貰っても、心の奥で悪魔が囁く。
もっともっと。
もっと貴女を愛してあげるから、もっともっと、私を愛してほしいって。
【愛は連鎖して
憧憬/欲求】
っぱこの人うまいわ。