「つり目」騒動の背景は フィンランド識者が語る「偽りの好印象」

聞き手・藤原学思

 北欧フィンランドで、国会議員らがアジア人差別とみなされる「つり目」のポーズをした写真を投稿し、大きな騒ぎになった。この背景にあるのは何か。ヘルシンキ大で日本学を教える研究者で、友好団体「フィンランド日本協会」の副会長も務めるラッセ・レヘトネンさんに話を聞いた。

つり目ポーズ、いかに人種差別的かをようやく理解

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 フィンランド人として、この騒動を深く恥じるとともに、東アジアの人びとに心からおわび申し上げる。

 残念ながら、多くのフィンランド人は最近になってようやく、「つり目」ポーズが東アジア人にとっていかに侮辱的で、人種差別的であるかを理解し始めた。

 問題となった投稿をした国会議員2人は、連立与党である「フィンランド人党」(フィン党)に所属している。彼らはミスフィンランドの女性を擁護しつつ、自分たちのコアな支持層に向けて「政府が定めた反人種差別指針には従わない」というメッセージを示したという見方ができる。

 フィンランドでは、フィン党の多くの政治家が人種差別的傾向を持つと広く認識されている。最新の世論調査では同党の支持率は14.2%にとどまる。

深刻な問題、変わったフィンランド人の映り方

 同党の政治家は過去数年間、人種差別的な行為に複数件関与してきた。支持基盤の相当部分は、厳格で排他的な移民政策に支えられている。だが、現政権の支持率が伸び悩むなか、権力を維持するために、他の連立与党もフィン党の行為を事実上容認している。

 与党議員が公然と人種差別的な行為に及んだことは、明らかに極めて深刻な問題だ。フィンランド国外の多くの人びとには、フィンランド人が東アジア人に対して人種差別的で、敵意を持っているように映ってしまう。

 政府の対応は迅速でも適切でもなく、驚くほど怠慢だ。即座に行われるべき措置は本来、政府レベルで謝罪し、適切に責任を取らせることだったが、フィン党単独の問題として位置づけた。「この問題は軽視されている」というメッセージになってしまった。

 フィンランドは、民主主義的な価値観や社会的な平等を推進する、平和で友好的な国として好印象を抱かれてきた。ただ、今回の件で多くの人々に「偽りの好印象だった」と思わせてしまった。

政府、政党は謝罪と解決策の提示を

 航空会社「フィンエアー」のSNSには多数の批判が寄せられ、来年予定されていた日本との芸術文化交流プロジェクトも中止になってしまうおそれがある。小国であるフィンランドは国際協力に大きく依存しており、今回の騒動はフィンランドにとって壊滅的な結果をもたらしかねない。

 時間の経過とともにこの傷が癒えることを願っているが、フィンランド社会における差別という核心的な問題に、まずは適切に対処しなければならない。

 政府、特にフィン党は過ちを公に認め、明確な、集団としての謝罪をするとともに、差別を真に解決する具体的な取り組みも提示するべきだ。フィン党が意味のある行動をとる可能性は低いが、メディアや企業、市民からの圧力によって変わる可能性もある。

 唯一前向きにとらえられるかもしれないことは、この騒動によって、国民の意識が大きく高まったことだ。この数日間、多くのフィンランド人が怒りや悲しみ、連帯感を表明している。こうした動きは遅く、完全な修復のためには不十分であることも理解しているが、友好関係の再構築に向けた希望の光になっていると、私は感じている。

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この記事を書いた人
藤原学思
ロンドン支局長
専門・関心分野
ウクライナ情勢、英国政治、偽情報、陰謀論