Pokémon LEGENDS Z-Aをプレイして資本主義にキレる日
『Pokémon LEGENDS Z-A』をクリアした。とりあえずストーリーだけだが、クリアまで発売から1か月もかかるとは思っていなかった。大人になるとゲームをプレイする時間を捻出するのも一苦労だ。ちなみに、サムネになっている写真は今回の旅パだ。こいつら協調性がなさすぎる。
ゲーム全体の感想としては、面白くはあるものの不満点も多く残る作品だったと思う。中途半端なアクション性によるコントロール不能な感覚や変わり映えしないわりに移動がしにくいフィールド、碌な設定がないためにポケモンの説得力を毀損しながら不必要な頑丈さでゲームプレイも阻害する「オヤブン」の存在などが筆頭だ。
とはいえ、実は私がこのゲームをプレイするにあたって一番不満を感じた出来事はゲームの開発陣に一切責任がないところで発生していた。そして、そのような出来事は資本主義の限界を象徴するものだったと、大げさではなく考えている。
クレカ決済不能、だが誰も解決しようとすらしない
カスのチャットボットにイラつかさせる
その問題は、『Pokémon LEGENDS Z-A』を購入しようとしたまさにそのタイミングで起こった。
ニンテンドーswitchにはカタログチケットという商品がある。これは特定の商品群のゲームを2本約1万円で購入できるお得な商品であり、『Pokémon LEGENDS Z-A』もその中に含まれているので、パッケージ版が欲しい場合を除けばまず購入しない選択肢はないというものだ。
カタログチケットを購入するにはswitchオンラインへの加入が必要であり、私は以前のタイミングで抜けていたので改めて加入した。その際、年会費を支払うためにクレジットカードを登録し、無事支払うことができた。
問題はここからだ。
いざカタログチケットを購入しようとしたが、なぜかクレジットカードを受け付けずエラーが出てしまう。当然だが、番号やセキュリティコードの間違いではない。直前の支払いのために登録したカード情報をそのまま使っているだけなので、もしそれが間違っていたらそもそも直前の支払いが成立しないはずだ。
まず考えたのはカード側の問題だ。私は普段からあまり大きな買い物をしないため、カードも1万円近い額をいきなり決済する経験が少ない。昨今のクレカは決済の履歴から逸脱した買い物を不審だと見なしてブロックすることがあるらしく、それが機能した可能性があった。実際、国際学会の参加費の支払いを阻害された経験もある。オンラインでの決済だと国内の企業相手に見えても決済先が国外になっている場合もあり、であれば大きな額を国外に支払うという稀な挙動がカード側の誤認を引き越したことも考えられる。
そういうわけで、まずカード会社のサイトに飛んで問い合わせを試みた。だが、実際に問い合わせるまでに1時間近くを要する羽目になった。問題解決まで1時間ではなく、問い合わせをするまでに1時間だ。
なぜか。カスみたいなFAQとチャットボットに阻まれたせいだ。
クレカ会社に限らないが、昨今の大企業のほとんどは顧客を問い合わせフォームに辿り着かせない。問い合わせを調べるとまず何で困っているかを聞かれ、彼らが適切だと考えているだけの通信の無駄でしかないFAQページに案内する。
ここで、私が利用している某クレカ会社のFAQページを見てみよう。カードが利用できないというカテゴリは以下の構成になっており、ほとんどが的外れな項目になっている。
・不正検知システムで利用を停止している
→アプリで確認したが該当せず
・カードの有効期限が過ぎている
・再発行したが昔のカードを使っている
・カードの利用枠を超えている
・番号等が間違っている
・引き落としができていない
→舐めてんのか
繰り返すようだが、太字にした部分の項目が該当するならそもそもswitchオンラインへの加入が成立しないのでこれはあり得ない。唯一あり得たのが不正検知システムだったが、アプリで該当しないことが確認できた。このため、FAQは完全に無用の長物となった。
このレベルの初歩で躓く人間が大多数だというのは理解できる。そのレベルの人間向けにFAQを用意するのは当然の対応だろう。だが、そうではない場合の窓口も用意すべきだ。でなければこのページには何の意味もない。
FAQが役に立たないと知ると、企業は「AIチャットボット」なるものを勧めてくる。だが、これは法律違反でないのが不思議なほどに誇大広告な代物だ。チャットボットはAIなど使用しておらず、単にこちらが入力した文言の単語に反応して情報を提示するだけだ。しかも、その情報のレベルは先のFAQと同一で、つまりここでも繰り返し的外れなアドバイスばかり並べられる。自分が理性的なつもりで的外れな助言ばかりする男みたいな振る舞いだ。
埒が明かないので電話で問い合わせようと試みる。だが、AIチャットボットは知能が終わっているくせに問い合わせ先の電話番号だけは頑なに出そうとしない。問い合わせ窓口を聞くとリンクを示してきて、それを踏むとさっきのFAQに戻されるという人を煽っているとしか思えない行為までしてくる始末だ。
結局、検索で調べて管轄外な気もする番号を見つけて電話をかけるほかなかった。しかし、問題は解決しなかった。担当者はこちらの情報を調べたものの、ロックがかかっていないのでこっちでできることはないと言われて終わった。
ちなみに、ニンテンドーストア側にもフォームで問い合わせたがカード側の問題だろうという回答しかしなかった。ここまでくるともはや疲れ呆れ果てていたので深追いする気力もなく、大人しくプリペイドカードをコンビニで買った。
あと、先日DLCを購入したらそっちは普通に決済できた。舐めてんのかマジで。
経済的合理性が顧客を置き去りにする
なぜ、クレカ会社もニンテンドーも問題を解決しようとしなかったのか。それどころか、クレカ会社は問題解決を阻害するようなFAQや自称AIのチャットボットを用意したのか。その答えのひとつは、彼らが経済合理性を追求したためだと考えられる。
合理性を追求した結果、顧客に不便なシステムが出来上がるのはおかしいと感じるかもしれない。通常、企業はサービスをより良くすることで顧客に利益を感じさせ、それを他社に対するアドバンテージとして顧客を自社製品に誘導する。であれば、顧客に不便なシステムを構築するのは本来合理的でないはずだ。
だが、この考え方には落とし穴がある。それは、企業が追及しているのはあくまで利潤であって、顧客に便利なサービスはそれを得る手段に過ぎないという点の見落としだ。もし顧客の利便性を毀損することで利潤が得られるなら、企業は喜んでそうする。
合理性という言葉には、全人類が共有する単一で絶対的な「合理的」という目標があるかのように錯覚を起こす魔力がある。しかし、合理性というのは単に、目標に対して理に適っているかどうかを評価するものでしかなく、その目標の妥当性とか素晴らしさについて何かを言っているわけではない。ナチスの幹部がユダヤ人を虐殺するための施設を作り上げたのは、邪悪な目標に対する合理的な行動である。
今回、私が見舞われたトラブルはまさに、企業が利潤を追求する合理性を発揮したために利便性が損なわれた一例だろう。企業からすれば、人件費は少なければ少ないほどコストが下がり、その分利潤は増す。顧客が抱えるトラブルの大半はクレカ番号の間違いなど些細なものであり、私のように複雑で判然としないトラブルを抱えるものは稀だ。全体の1割もいないくらいだろう。ならば、その1割未満に備えてコストをかけるのは合理的ではない。
さらに悪いことに、この1割未満の問題のうち、さらに何割かはクレカ会社が動かなくても解決される。私が自分でプリペイドカードを買ってきたようにだ。場合によっては、決済相手の小売店などに問題解決を押し付けている事例もあるだろう。あるいは、うやむやにしているか……極めて不誠実な態度だが、仮にそういう目に遭った顧客が会社を切り捨てても数が少ないので全体の利潤にはさほど影響しない。その問題に対処しないことで生じる損失が100だったとして、対応するコストが101なら切り捨てを選ぶのが企業の合理性になる。
経済的合理性が切り捨てるもの
今回はクレカの決済程度の話だったので大した問題ではないように見える。ゲームが買えなくて困ることはないし、購入手段も複数存在する。だから、この問題で私が苛立っているのも大げさに見えるかもしれない。
しかし、今回の問題自体はたまたま些末だったかもしれないが、その背景にある考え方――利潤を全てにおいて優先することは重大な問題を引き起こすものだ。
この手の問題はとりわけ、医療や福祉分野で生じるだろう。というか、すでに生じているだろう。例えば、政府の方針により薬価は極限にまで下げられているため、製薬会社は様々な薬品の製造を諦めざるを得ない。これは製薬会社が利潤を追求したためという以前に食っていけなくなっているだけだが、経済的合理性で考えれば病人に必要だが売値を自分で決められない薬品よりも言い値で売れるハゲ治療薬の製造に邁進したほうがいいということになりかねない。資本主義のもとでは、難病患者はハゲ治療薬に埋もれて死ぬことになる。
日本政府が薬価を縛り付けたように企業を苦しめるのも問題だが、自由にさせ過ぎるのも問題が起こる。アメリカでは保険会社の悪辣さが有名で、彼らは様々な理屈をつけて保険金を支払わない。支払わない方が儲かるからだ。日本の保険会社も同じようなことはするが、その邪悪さではアメリカの後塵を拝している。
私が特に驚愕した例が、マイケル・ムーア監督作品『シッコ』に登場する。本作はアメリカの医療・保険体制のお粗末さを監督特有のユーモアを交えたドキュメンタリーの傑作だ。作中、ムーアは病気で耳が聞こえなくなった子供を持つ家族に出会う。家族は保険に加入していたが、保険会社は子供の手術費用を片耳分しか出さないと言い出したのだ。片耳さえ聞こえれば生活できるだろうということだ。私は、利潤を追求した企業のこれ以上悪辣な振る舞いを知らない。
ちなみに、その家族も大したもので、保険会社に「マイケル・ムーアに垂れ込むぞ」と手紙を書き無事に両耳分の治療費を得ている。どのみち映画に出ているのだが……。権利を最大限に行使する重要性もユーモラスに教えてくれる事例だった。
承認欲求が金になる世界
なにがなんでもネタバレをねじ込む化け物たち
資本主義における合理性が問題を起こすのは医療や福祉分野だけではない。コンテンツの消費形態もまた、資本主義的合理性が影響を与えている。現に、私の『Pokémon LEGENDS Z-A』のプレイ体験は、やはりゲーム開発陣に一切責任がない場所で毀損された。
この記事は『九段新報+α』の連載記事です。メンバーシップに加入すると月300円で連載が全て読めます。
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