晴れた午後の公園。

走り回っていた子どもが、
大人にぶつかった。

「ごめんなさい」も言わずに、
そのまま走り去っていったけれど、
ぶつかられた大人は、
「元気があっていいですね」
と笑っていた。

少し離れた、ブランコの近く。
今度は大人が、大人に怒られている。

「ごめんなさいも言えないのか！」

……同じ「できない」なのに、
ずいぶん扱いが違うな、と思った。

やさし差。

子どもが何かできなくても、
人はあまり怒らない。

まだできないだけ。
これから覚えればいい。
そう思えるからだ。

できないことは、
どこか、かわいい。

一生懸命で、
少し的外れで、
失敗だらけでも、
なぜか応援したくなる。

やさしさ。

でも、大人になると、
空気が変わる。

社会に出た途端、
僕らは「完成品」のフリを
しなくてはいけなくなる。

本当は
たとえ60歳になっても人は未完成で
できないことだらけだということを
なんとなく、知っているのに。

それでも、
「もうできている前提」で
扱われる。

だから、できないと、
怒られる。

数学には、
評価関数という考え方がある。

これは、
「何を＂良い＂と評価するか」を
あらかじめ決めておくためのものだ。

同じ行動でも、
評価の基準が違えば、
正解にも、不正解にもなる。

子どもに向けられる評価関数は、
「成長」や「これから」だ。

大人に向けられる評価関数は、
「今できるか」や
「役に立つか」になる。

同じ「できなかった」でも、
見ているものさしが違えば、
返ってくる言葉が変わる。

…相手の立場で、変わるもの。
それは、やさしさ、なのだろうか。

公園で叱る大人を見て、僕は思った。

「もっと、やさしくすればいいのに…」

でも、昨日の自分を思い出した。
後輩のケアレスミス。
声には出さず、言っていた。

「そんなこともできないの？」

自分も、相手も、
まだまだ「できない」。

子どもと大人を隔てる線なんて、
本当はどこにもない。
法律が、勝手に引いただけだ。

もし、誰に対しても
同じ評価関数で向き合えたら。

もし、子どもを見守るように
「できない」と向き合えたら。

怒ったり、自分を責める回数が
少しずつ減るかもしれない。



できないときは、微笑みかける。
そんな、差のない、やさしさを。