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宇多田ヒカルという光

いつかnoteをやってみようとは思っていたけれど、昨日横浜アリーナで立ち会うことができた、宇多田ヒカルことHikkiのライブのことを、どうしても記憶が薄れぬ前に未編集的長文でどこかに残したくて、自己紹介なんかよりも先にここに書いている。noteは何文字以内の方が良いだとか分かりやすい伝わりやすい文章とは的な助言は全てガン無視する。批評家みたいなレビューも出来ないしする気もない。これからツアーも始まるからネタバレ的な内容にも触れない。ただ、昨日何度も私たちに向かって「待たせてごめん。来てくれてありがとう。」という言葉を繰り返して頭を下げた彼女に、私こそが本当にありがとうなんだ、ということを伝えたくてこれを書いている。このあいだの誕生日にいただいたワインをがぶがぶがぶがぶ飲みながら、超超超超個人的なことのみを書きます。私は音楽と恋愛と記憶が直結している・なんなら当時の音楽によって随時記憶もヘンゲする系の脳みそで(記憶をフックに音楽を聴いているんだけど、記憶そのもの自体の優先度は低いんだと思う。聴く音楽のためなら自分の体験記憶なんかはすぐに更新してしまう。自分の捉えている自分の記憶に全く自信がない。でも音楽で記憶を更新させることを優先させている、勘違いでも良い)そういうことなんです。すみません。

私は大阪で1986年(宇多田ヒカルの3つ年下にあたる)に生まれて、現在は東京でイベントやスペースの運営の仕事をしながら1人暮らしをしている女です。ヘッダーみたいなアナログのコラージュを作ります。下記読んでいただければ秒でバレると思いますが、青春時代はロキノン厨のキワキワの極みを極めに極めておりました。

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宇多田ヒカルのデビュー当時のあの雰囲気を記憶している人なら(というかあの時代に生きていたら意識の有無に関わらず目に触れざるを得なかったよね)きっとわかると思う。私はその時中学生で(今32歳だから今の半分も生きていないときだ、ヤバいヤバいヤバい)これが好きとかこれが得意とか今後こうしていきたいかもとか、所謂自我らしきものはまだマジ皆無、とにかく受動的でTVからナウオンセール!なんてダダ流れまくる浜崎あゆみラルクGLAY的なものが大好きだった(夜もヒッパレ最高あの番組のおかげで夜更かしを覚えたよ、あと日曜4ch9時枠のドラマxoxo永遠に愛してる今は亡きVHSに録画して何度見直したことか)のだけれど、Hikkiのまさにあの当時のどう考えても新しい雰囲気に圧倒されて、中坊クソガキの私は意味が分かる/分からない問わず、ファーストアルバム「First Love」を兎に角兎に角何度も聴いて、ほぼ家が隣みたいな幼馴染とも、笑う犬の生活のあのネタまじウケた爆笑みたいな話と同じくらい、Hikkiがいかに凄くてかっこいいか・新しいか、という話を何時間もしたのを覚えている。同世代あるあるだと思うんだけど「甘いワナ」という曲に合わせて、謎のhiphopみたいなノリの創作ダンスを踊ったこともあったな(私は表現運動部という新体操+創作ダンス的な部活に所属していた。みんなで「波」そのものになりきったり最高でした、ダミ声の中村先生大好き)。当時の恋愛悩みをHikki宛のファンレターにしたためて送ったこともあった、便箋何枚分も。

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私が高校生になって、モンパチでバンドサウンドにハマって、仮入部期間にBUMP OF CHICKENをコピーしている軽音部の先輩に一目惚れした時も(この一目惚れは超重要で今の今までこれ以降1度も一目惚れをしていない・この人だけである/この人がいなければ私は音楽というものにこんなに心酔することはなかった絶対に/ギターを弾いて歌を歌う金髪の八重歯の先輩の存在に頭ブン殴られた/結局2人で行った花火大会のあとに自信満々で校門前で告白するもフラれてしまったし彼はそのあと精神病を患って不登校になってしまった/私は自分の好意が人を不幸に病気にするのだというゴリゴリの凹みと思い込みと結局以降8年ほど対峙することになる)、美大を受験して、美大生になる4月の前に調布パルコの山野楽器で「椎名林檎参加!」の手書きPOPを見て(センター試験前に1番聴いていたのは椎名林檎の「現実を嗤う」)、 ZAZEN BOYSのセカンドを試聴して、ガッツーンと鈍器的衝撃を覚えたきっかけが「CRAZY DAYS CRAZY FEELING」(ナンバガのことは、高校の軽音部でコピーしている人が居て知っていた/ナンバガの解散は2002年/そこまで当時の私に自我は無かったorz)、それ以降、なんというかこのNUMBER GIRL・ZAZEN BOYSの向井秀徳さんは、以降の私の全ての軸になってゆくのだが、美大生時代は、初めて完全に自由と言える空気を望んで手に入れることが出来た、という実感と同時に、それまでの人生にはなかった自問自答を迫られる時期でもあって、混沌として不安で苦しかった、ZAZENのライブに行って入り待ちや出待ちしたり友人に勧めたり歌詞をブログに書いたり熱心にやっていたけれど(宗教らしき構造を多分疑似体験した)、今振り返るとART-SCHOOLにもお世話になったと思う。(これらの話も永遠に書けるので割愛)

 そういう風に私が歳を重ねていった間、Hikkiは曲を発表し続けていた。もちろん聴いていた。その時々の友人と、話題にしていた。

そんなHikkiが2010年に「人間活動」として、音楽活動を休止する。きっとまた戻ってくる的な余韻はあったように記憶しているが、それはすぐ先の未来ではないんだろう、というトーンのものだった。

それから8年が経った、それが今年、2018年である。

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今年出たアルバム「初恋」を皆さんは聴かれましたか。これは本当に本当に本当に、素晴らしい、というか凄まじい作品です。是非、聴いていただきたい。(私は「First Love」と「初恋」のジャケを見比べるだけでむちゃくちゃ泣けてしまう、こんなに達観した表情がある?こんなに見据えながら、現実を耐え&肌で感じながら、それでも信じる、それでも祈る、願う、ずっと。という強さ切なさを感じる表情があるでしょうか・・・・・・・)

Hikkiが休んでいる間、私は働くって何それ美味しいのプギャー美大生から、2年ほどのニート期間(お父さんお母さんごめんなさい/でもこの期間で演劇の世界に関わることができて、大事なものがひとつ増えた)とレイ・ハラカミの死去(実家の窓際に座り風ではらゆぐカーテンを見ながら彼の楽曲を聴きながら泣いた、母親に心配された)と311を経て(311によって暫くロキノン歌詞が聴けなくなった・全ての表現がぺらぺらに感じられるようになってしまい、余震やら計画停電の期間はロウソクを灯した布団の中でずっとInner Scienceを聴いていた・それまで大好きで依存していたロキノン歌詞が邪魔で仕方なくなった)、流石によく分からないけど仕事というものをしないとこのままではヤバいと思い、応募してとりあえずやってみれば認定をいただいたのが、某都内ライブハウスでイベントを組むブッキングという仕事だった。面接では、何の経験もないので、好きなミュージシャン、バンド名をずっと列挙していた記憶がある。そして感覚的にはそのまま今に至っている。

働き出してからは、仕事以外にも色んなことがあって、自分の人生で一番、舵の切り方を間違ったというか、くだり坂というか、完全に馬鹿だったというか、所謂やらかした時期でもあった。大事な人との関係もブッタ斬って、分かりやすく荒んだ、自傷的、自虐的だった。でも、それを浮上させる出会いがあって。自傷を振り返らなくて済むほど、素晴らしい恋愛だった。私は彼に治癒されて違う人間になった。いろんな季節の中で一緒に散歩する時間が尊かった。お肉屋さんでハムカツを買って川原で食べたり。でもそれも喧嘩が増えていって、終了に向かっていくのを感じていた。思いやりの仕方がお互い下手だった。相手を傷つけて、叫んでぶつけることしか出来なくなっていた。相手のためではなく自分のために叫ぶようになっていた。それでも関係を終了させる踏ん切りもなかなかつかなくて、泥沼化していった。終わらなくてはいけないということだけは感じていた。

思えば、Hikkiは「Automatic」の時から「こんなに自分は望んでいるのに、なぜ叶わないの?」「でももしそれが夢で叶うとしたら(叶わないことへの自覚はある、それでもそれを願いたい)」「(もう叶わないと分かっていても)まだ来世で会えるよね?」といった、身が引き裂かれるようなどうようもない現実とどう対峙するか、どう願うか、祈るか、といった世界観を提示してくれていたと思う。現生で「あなた」が生きているかどうかは関係ないような境地。そこで初めての自分に出会う、向き合う、その瞬間のこと。

アルバム「初恋」では、ほぼ怨念的なもの超えた圧倒的な先の境地、でも決して恨み節ではなく、ただただ、本当に超えて達観したからこその穏やかな美しい視点から囁かれる曲ばかりで、私は本当に何度聴いても何度でも泣いてしまう。それらの凄まじい境地を「初恋」としていること、改めて「初めて」だったんだ、と自分を振り返るとき、きっとそれは生き直しの始まりなんだろうと。そういう瞬間にふわっと肌をかすめる風みたいな、でも力強い気持ちが同居しているような、そんな楽曲たちばかりだと思う。明らかに温度が変わったものへ、その実感と実直に対峙しているような姿勢を、どの曲からも感じる。
聴いていただけたら分かると思うのだけど、単純にPOPとされる曲ばかりではないと思う。曲の表面だけを舐めることができないほど、詞がとにかく重すぎる。でも、それにちゃんと対峙したら、Hikkiの境地を踏まえたら、自分の状況もどうにか意識転換しないといけないと思えた。私は1人でカラオケに余裕で行く勢なのですが、宇多田ヒカル縛りで歌い続けたとき「あなた」を歌いPVを見ながら、嗚呼、Hikkiは神様に向けて歌を歌ってて、その神様というものが愛=「あなた」と同意なんだと稲妻に打たれたように気づいた瞬間、私そのものの感覚が更新され、ガーガーガーガー泣いてしまった。
私にとってアルバム「初恋」は、自分に力がない時、自分の明確な望みがあると分かっているのに、それを手放すことだけが未来に見えるような状況、その状況に精神として屈していきたいと思うも身体がNOと言って言うことが聞かないような状況で、強力な手助けになった。しっかり影があるから、こんなに繊細な光を提示できるのだと思った。簡単にドン底というか、以前体験したように荒むことができるような状況の中、それでも前向きになろうと今年意識できたのは、ほぼ「初恋」のおかげだと思っている。自分ひとりでは処理できない範囲の感情の整理をすることが出来た。

そういった土台を持ってして、そういった人生を抱き抱えて、私にとっては、初めての宇多田ヒカルのライブ、だった。

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座席は丁度ステージの正面位置だった。

ライブ当日の朝から色々聴き直しては泣いていたし、始まる前のロビーでもビールを飲みながら泣いていた。どうしてここまで深刻な状況なのに、確実に「経て」しまっている境地なのに、醜いどころか、圧倒的に飛び越えて美しいんだろう。
ライブも泣きっ放しになるかと思いきや、笑える演出もあって、まさにラフターインザダーク。
どうにもならなさに正面から向き合いながら、気を抜くところは抜きながら、どうにか光を提示しようとする強さが切なくて切なくて、本当に尊い。儚いし、美しい。祈りを体現している。

去年、BATIKというコンテンポラリーダンスカンパニーの主宰をしている黒田育世さんのワークショップに参加させていただいた時にも近い感覚だった。
育世さんが「ダンスは祈りの実践なんだ」と話していたこと。身体を極限まで酷使してでも祈る、身体を超える、そういう体験を素人の私でも感じることが出来た(脚がアザだらけになったけど、頭や意識だけが飛び越えて澄んだ場所にあった)。

ライブではこれまでの様々な楽曲が歌い上げられ、改めてHikkiと同じ時代を生きられていることを嬉しいと思った。身が引き裂かれるような境地の景色を美しく優しく提示してくれたことが何より尊かった。今年の私を引き上げる重要なフックになったHikki。また作品を産み出してくれて、ありがとう。
でもそんなことにHikkiは責任など1mmも一切感じなくていい。辞めたくなったらまたいつ辞めてもいいから、Hikkiもどうかどうか、健やかでいてほしい。あんな切ない強さを見せてもらってしまったら、私も地に足をつけて、自分がやるべきことをやろうという気持ちになった。いつだってライブは、自分:アーティストの1:1という気持ちで見てしまうんだけど、昨日はそれがより、強かった。会場が広い横浜アリーナだろうと関係なかった。Hikkiの歌声は、私の、誰にも話していない・話せない領域にまで、すーっと浸透してきて、私を癒したし、満たした。浸されたという表現が近いかもしれない。

会場でも泣きながら「ヒッキー!!」と叫んだんだけれど、兎に角、こんなにも力を使って、こんな果ての美しい世界を提示してくれてありがとうと何度でも伝えたい。辛い時も生きていることの原点に気付かさせるような、喪失から意味が転換する瞬間の儚さ・強さ・芽吹きみたいなもの、生き直す、みたいなことを感じ取って、自分にどうか生かそうと誓った。こんな強烈な作品だけでなく、ライブまでしてくれて、本当にありがとう。

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宇多田ヒカルという光|桜木 彩佳
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