1年の目標はなぜ達成しにくいのか 「目標の立て方」にある落とし穴

中島美鈴
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 あけましておめでとうございます。新しい年が始まりました。「今年こそは早起きがんばるぞ」とか「貯金するぞ」とか「資格取得するぞ」とか、今年の目標を立てられた方もいらっしゃることでしょう。

 新しい手帳を買って、新たな気持ちでがんばられていることでしょう。

 しかしADHDの主婦リョウさんは、一年の初めに目標を立てることを嫌がっています。毎年のように「今年は痩せるぞ」と言い続けていますが、達成できたためしがないからです。

 リョウ「どうせ目標なんて立てても、無駄だ。自分のできなさを見せつけられるだけだ」

 と、しみじみ感じているのです。

 みなさんは目標達成がお得意な方ですか? それともリョウさんに共感できますか?

 今回は、リョウさんのような1年の目標を達成できない方、もしくはそんな方の周りの人のためのコラムです。「なぜ1年の目標は達成しにくいのか」について、認知行動療法の視点からお伝えします。

達成できない目標には特徴がある

 私はきづけば22年、カウンセリングを続けています。

 認知行動療法というのはカウンセリングの技法のひとつなのですが、特徴的なのは、相談にみえた方の行動上の目標達成を支援するのもひとつの役割、という点です。たとえば、「家を片付けたい」「夜ふかしをやめたい」「遅刻しないようになりたい」などがそうです。

 こうした行動の目標を達成するお手伝いの中で気づいたことがあります。

 目標の立て方、計画の時点で、達成できるかどうかがわかるのです。

 それは次の五つの特徴がある場合です。

【1年間の目標が達成できない理由】

1 目標が高すぎた

2 手段に無理があった

3 数値があいまいだった

4 中継地点がなかった

5 別に達成しなくても死ななかった

 それぞれ解説しましょう。

 ここではADHDの女性リョウさん(40代、架空の人物)の「今年は痩せたい」という目標を例に展開していきます。

1 目標が高すぎた

 おそらく「目標」という言葉が悪いのです。この言葉を聞くと、わたしたちは反射的に「まじめにしないと!」と肩に力が入ります。このときに、私たちは寒い冬の朝布団でごろごろ二度寝している自分のことなどすっかりわすれて、できもしない高い目標を掲げます。

 リョウさんも同じです。なぜか「目標」といわれると、眉間(みけん)にシワを寄せて、「私の身長でいくと標準体重はこのぐらいで……今より10キロ減ね。でもほんとはこれよりあと5キロぐらい痩せてるといいのよね。じゃあ、理想の体までは15キロ減か。」と夢みたいなことを目標に掲げてしまうのです。

 でもこうして何年も挫折を味わい続けているので、リョウさんはもはや目標という言葉が嫌いです。

2 手段に無理があった

 では仮に、目標が「年間3キロ痩せること」など実現可能そうなものになったとしましょう。それでもリョウさんは「そうかー」とせいぜいスケジュール帳のどこかに書き留めて、すぐに忘れてしまうでしょう。

 ADHDの特徴のひとつに「見えないものはなかったものになる」といわれるほどの記憶力の弱さがあります。目標を立てたら、そこまでどう到達するのかの手段をセットにして考えましょう。

 手段を考えるときにも真面目な自分ではなく、昨年1年を振り返って等身大の自分をみつめて、できそうな手段にするのです。運動嫌いで忙しいリョウさんにとって「ジムに登録して週に3回運動する」はあまりにつらい手段。でも、布団でスマホをいじりながら「やせるレシピ」を検索して保存するぐらいならできそうです。

3 数値があいまいだった

 何キロ痩せるか、何月までに痩せるか、何個捨てるか、何分できるようになるか、のように、数値で表すことのできる目標の方が、達成確率は上がります。

 リョウさんは長年数値を設定しようとしませんでした。だって、そんなことをしたら逃げ道がなくなるじゃないですか。

 でも、数値を定めることは、ゴールのイメージも具体的になるし、それに応じた手段も模索できるわけなので、やっぱりおすすめです。どうしても数字が嫌な人は「夏の同窓会までにこの服が入るようになるぞ」というのもいかがでしょうか? この上なく具体的でいいですよね。

4 中継地点がなかった

 1年というのは長いですね。私たちは先週の同じ曜日の晩ごはんすら覚えていません。年の初めにあれほど決意したものの、記憶は薄れていきます。

 学生時代に、「日々の宿題ならできたけど、夏休みの宿題は苦手だった」という人もいませんか? あれって、毎日毎日チェックしてもらえるから張り合いがあったのです。でも1カ月以上も自己管理して努力を続けることは難しいのです。年間目標にも、せめて1週間に1回、できれば毎日チェックしてもらえる機能があれば、達成率は飛躍的に上がります。

 リョウさんの「痩せる」目標に関しては、特に誰も体重をチェックしてくれるわけではありませんでした。周囲も「あれ、リョウさん太ったな」と思っても口にはしませんでした(できませんよね)。

5 別に達成しなくても死ななかった

 最後に、この理由は最強です。リョウさんは痩せたいと願いながらも、特に健康を害しているわけでもなく、あえていうなら手持ちの服がちょっときついぐらいでした。もちろん自分の見た目には不満足でしたが、それで死ぬわけではありませんでした。

 リョウさんは、小学生の娘とおいしいスイーツを目の前にするたびに「ねえねえ、ママってこのまま痩せなくてもいいよね。ママのこと今のままでも好きよね」と娘に確認しました。娘も一緒に食べて欲しいのでニコニコして「うん」といってくれました。

 正直なところ、リョウさんにはこの幸せな時間を上回るほどの痩せたい願望がなかったのかもしれません。でも、ふとしたときにリョウさんはこう思うのです。

 リョウ「ああ、食べてるときは幸せなんだけど、もう自分のこの体形、嫌でしょうがない。こんなに好きじゃない体では、どんな素敵な服も無駄。誰かと並んで写真なんて撮りたくない。鏡を見たくもない」

 なかなかリョウさん、落ち込んでいますね。自己嫌悪はつらい感情です。

 次回はこのリョウさんが年間目標を達成するための計画を立てます。

    ◇

 もっと目標達成について知りたい方は「脱ダラダラ習慣! 1日3分やめるノート」(すばる舎)も参考になさってください。

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中島美鈴
中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。