令和7年2月21日宣告
裁判所書記官 井戸 祥
令和6年(う)第1927号
判 決
本籍 宮崎県延岡市桜小路333番地2
住居 東京都板橋区前野町1丁目43番6号メゾンときわ台203号室
無職
前田記宏
昭和58年10月4日生
上記の者に対する窃盗被告事件について、令和6年11月13日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官小出幹出席の上審理し、次のとおり判決する。
主 文
1 原判決を破棄する。
2 本件を東京地方裁判所に差し戻す。
3 当審における訴訟費用は被告人に負担させない。
理 由
第1 本件控訴の趣意及び原判決の概要
本件控訴の趣意は、弁護人三島慶太郎作成の控訴趣意書、被告人作成の令和6年11月28日付け「簡単な控訴理由書」、同年12月5日付け「控訴趣意書つづき」、同月16日付け「窃盗被告事件に対する控訴趣旨書」、令和7年2月7日付け「控訴趣意書」及び同月14日付け「控訴趣意書の追加書面」と題する各書面記載のとおりであり、論旨は、訴訟手続の法令違反、事実誤認及び量刑不当を主張するものである。
原判決が認定した罪となるべき事実は、被告人が、交番から警察署長管理のパネル1枚(時価約3500円相当)を窃取したというものであり、これにつき懲役1年、4年間執行猶予の判決が言い渡された。
第2 訴訟手続の法令違反について
原審記録によれば、第1回公判期日において、被告人及び弁護人は公訴事実を認め、検察官請求証拠は同意の上で取り調べられ、即日結審・即日判決が言い渡されている。
しかしながら、被告人は、原審係属中及び判決前後を通じ、複数回にわたり、訴因及び罰条の変更、刑訴法338条4号該当性、公訴提起の適法性、取調べ状況等について具体的かつ詳細な書面を提出しており、これらは被告人の防御権行使として看過できない内容を含んでいた。
にもかかわらず、原審判決は、これらの主張について実質的な検討を行った形跡を示しておらず、判決理由中にも判断が示されていない。
この点に照らすと、原審の審理は、形式的には迅速であったものの、被告人の主張内容に即した十分な審理が尽くされたとは言い難く、防御権保障の観点から審理不尽の違法があるといわざるを得ない。
第3 事実認定及び責任能力判断について
原判決は、被告人に不法領得の意思があったことを前提として窃盗罪の成立を認めている。
しかし、原審記録及び当審に顕れた資料によれば、被告人には、広汎性発達障害、アスペルガー障害、統合失調症の診断歴があり、これらが本件当時の行動選択及び結果認識に影響を与えていた可能性が否定できない。
特に、被告人が本件行為を行った場所、態様、行為後の行動に照らすと、通常の窃盗事案における合理的な利得目的行動とは異なる側面が認められ、不法領得の意思及び行為時責任能力について、慎重な検討を要する余地がある。
原審は、これらの点につき、専門的知見を踏まえた検討や証拠調べを行うことなく、被告人の簡潔な供述をもって直ちに完全責任能力を前提とした判断をしており、この点でも判断過程に疑問が残る。
第4 結論
以上によれば、原判決には、訴訟手続の適正及び事実認定の重要部分について看過し難い問題があり、これを維持することは相当でない。
よって、刑訴法397条1項により原判決を破棄し、同法400条ただし書により、本件を原裁判所に差し戻すこととする。