にわかなこともあり、間違ったこと書いてたらすみません。
プロローグ
とある地方のとある村。
世間的にあまり名の知られていないこの場所で生まれ育った俺は、幼馴染のラズのことが好きだった。
そのラズが「ポケモンバトルの強い人がタイプ」だなんて言うもんだから、振り向いてもらうためにも俺はポケモンバトルにのめり込んだ。
タイプ相性はおろか、そもそもどのポケモンがどのタイプなのかなど、何もかもが0からのスタートだったが、必死に勉強して知識を頭に叩き込み、強そうな野生のポケモンとバトルをするなどの実戦も繰り返して、俺は少しずつポケモンバトルの腕を上げていった。
このまま行けばラズに認めてもらえるくらいに強くなれる……なんて、最初の頃は楽観的に考えていたのだが、そう上手くはいかなかった。
何故なら彼女が強すぎたからだ。
「私を倒せるくらいじゃないと恋人とは認められないわね!」とはラズの談だが、そのハードルが高すぎた。
どれだけ訓練しても、どれだけ作戦を練っても、彼女はいつも俺の上を行く。
別に歯が立たないわけではない。6対6のフルバトルで、お互い残り1体になることはザラだし、ギリギリのバトルになることは珍しくない。しかし、あと一歩何かが足りない……そんな感じがする。
それに、彼女だって努力していないわけではない。よくポケモンバトルの教本を読んでいるのを見かけるし、ポケモンとの時間だって大事にしている。
だが、それにしたって彼女は強すぎる。何度も追い詰めているというのに、何故か勝てるビジョンがまったく浮かばなかった。
そんな状況に俺が少し焦りを感じていた頃、彼女のとある発言が俺の焦りを加速させた。
「決めた! あと1年経ったら私、旅に出る!」
「……え?」
「言ったでしょ? 私はポケモンバトルの強い人がタイプなの! きっとこの世界のどこかには私よりも強い人がいるはず! だからジム巡りがてら強い人を探すことにするわ!」
「そ、そんな急に────」
「ダメ! 決定事項よ! もし旅に出てほしくないって言うなら私に勝つこと! いいわね!?」
急に取り付けられたタイムリミット。1年以内に彼女に勝てなければ、事実上俺の失恋が確定することになった。
そんなこともあって、残りの1年は今まで以上に特訓にのめり込んだ。家族の心配する声も聞かず、俺は近くの森や山で特訓し続けた。
睡眠時間を削り、ご飯を食べる回数を減らし、家に帰らない日も珍しくなくなった。……だが、そこまでしても彼女には届かない。
がむしゃらに挑み続けても勝てない日が続き、そしていよいよ迎えてしまった期日、俺はいつも以上に全力で戦った。だが──。
「今よエレキブル! かみなりパンチ!」
「っ! ムクホーク! 避けっ──!」
エレキブルのかみなりパンチが
鍛え上げられたラズのエレキブルから放たれるかみなりパンチが強力なことは言わずもがな、効果が抜群なことも相まって、ムクホークは耐えられるはずもなく戦闘不能となった。
「そん、な……」
「強かったわよ、今まで一番。……でも、あんたじゃ私に届かない」
エレキブルをボールに戻しながら、ラズは言葉を続ける。
「今まで諦めなかったことは評価してあげる。でも、私は強い人が好きなの。……だからごめんね、シバリ」
そう言い残して去っていたラズの背中を見て、俺ことシバリは自分の恋が終わったことを悟り、膝から崩れ落ちた。
──────────────────
あのあと自分がどうやって帰ったのか覚えていない。
気がついたら自分の部屋にいて、みっともなく泣き続けていた。
彼女に振り向いてもらうために頑張ったことが全部無駄なことだったかのように思えて、自分が惨めで仕方なかった。
「俺、何やってたんだろうな……」
何もかもどうでも良いような気持ちになり、無気力になっていった俺だったが、
「……ごめんな。俺、自分のことばっかりで、お前たちのことを何も考えてやれてなかった」
"戦闘不能になったポケモンをバトル後に回復する"なんて当たり前のことすら忘れていた俺は、トレーナー失格と言われても文句を言えない。
しかも、最後の1年に関してはこいつらにかなり無理をさせてしまった。今日のポケモンバトルだって、ベストコンディションで臨めたポケモンは一匹も居なかっただろう。
思えば俺はこいつらに何かしてあげたことがあっただろうか。ラズに振り向いてもらうために毎日特訓に明け暮れて、こいつらの好きなことを何一つしてやれなかった気がする。
「気づくのが遅れてごめんな。今治してやるから、ちょっと待──」
「ホーッ!!」
「あだっ!」
カバンからきずぐすりを取った手を、ムクホークに弾かれてしまった。
「む、ムクホーク……? なんで……」
「ホー!」
俺に治されることすら嫌になったのかと思ったが、ムクホークの目を見るにそういうことではないようだ。
だが、ポケモン達の何かを抗議するような姿勢は変わらない。なんだろうか、この、『馬鹿にするな』と言いたげなこの表情は……。
「……ご、ごめん。でもほんとにわからないんだ。お前らがどうして欲しいのか」
「……ホー……」
仕方ないなと言わんばかりにムクホークがため息を吐くと、俺の近くに寄ってきて、そのまま身を寄せてきた。
「え? ムクホーク? ちょ……っ!? お前らも!?」
ムクホークだけでなく、他のポケモンも近くに寄ってきた。な、なんだお前たち、どうしてこんなことを……?
「……もしかして、俺に寄り添うために……?」
傷ついた俺の心が癒えるまで、コイツらもあのバトルで負った傷を治さず、俺と一緒に傷ついていてくれると、そういうことなのか?
「「「「「「……」」」」」」
ポケモン達は答えない。だが、特に訂正する様子もなく近くに居てくれるコイツらの姿勢が、俺の考えが正解なのだということ語っていた。
「……お、お前ら……ほんとに、あ"り"か"と"う"……!!」
多分このときが生まれて一番泣いたと断言できる。ポケモン達が俺をこんなに大事に想ってくれていたのに、どうしてそのことに気づけなかったのだろうか。
ラズに振られたからって世界が終わるわけじゃない。俺にはこいつらが居る。そう思うと、不思議と重い気持ちが軽くなった。
そして、数日が経つ頃には──。
「ふっっっきれたーーー!!!!!!!」
「ホーッ!!!!!!!」
見事俺のメンタルは完全復活を成し遂げていた。
あと流石にポケモンはあのあとすぐに回復させた。痕とか残っちゃったらアレだし。
めちゃくちゃ微妙そうな顔でポケモン達に見られたけど、俺のせいで傷が残ったら一生罪悪感を引きずってしまうという旨を伝えたら『しょうがねぇなぁ』って感じで黙って回復されてくれたし、その後も一緒にいてくれた。
親にも心配をかけてしまったようだが、見違えるように元気になった俺を見て安心したのか、笑顔でご飯をたくさん作ってくれた。
え、うっっっま。なんこれ、めちゃくちゃうめぇんだけど。
母さんの料理ってこんな美味かったのか? ……そういや、今までは食事中もポケモンバトルのことばっかり考えてて、味なんて全然気にしてなかったな。小さい頃は唐揚げとかオムライスとかが好きだったような気もするけど、最近は腹に入れば全部一緒とか思ってたっけ。
「……ん?」
あれ? これ食べ物に限った話じゃないよな?
好きな遊びとか、好きな物語とか、趣味とか。そういうの、今の俺には何一つないような気がする。
でも、この世界には俺の知らないことがまだまだたくさんあるはずだ。今は知らないだけで、もしかするとポケモンバトル以上にのめり込んでしまうようなものだってあるかもしれない。
そして、それは俺のポケモン達も同じことだろう。今までずっと俺と一緒に特訓尽くしだったわけだし、楽しいことや美味しいものを知らないはずだ。
……それはなんだか、とても勿体ないことのような気がする。
「……なあ、俺達も旅に出てみないか?」
「ホー???」
「いや違う違う。ラズを追いかけるわけじゃない。まだ諦めてなかったのかテメェみたいな顔するのやめろ」
「ホーゥ?」
「別にジム巡りするわけじゃない。ただゆっくり色々見て回ろうと思ってるだけだ」
「ホホウ?」
「違うから。そういう口実でラズのこと追いかけるとかそういうんじゃないから。インファイトの構えすんのやめろ」
「ホホウホウ」
「ブレバなら良いわけじゃねぇよ」
なんでブレバなら良いと思ったんだお前。なんならタイプ一致だからインファイトよりヤバイだろ。
「……ほら、今までバトルばっかで全然他のことしてこなかったろ? だからさ、もっと色んなことを経験したり……その、お前らとの思い出とか、作りたいと思ったんだよ」
俺がそう言うと、ムクホークはゆっくりと翼をこちらに伸ばしてきて、優しく俺の頭に触れた。
「……ホ、ホウ?」
「別に頭打ったりとかしてねぇよ! ガチで心配してくるのやめろ! 今そういう雰囲気じゃなかったろ!!」
「ホウ」
「おい待てなんで『なんでもなおし』持ってきたんだお前」
頭か? 頭に使えってことか?
「ホウ。ホホホウ」
「ん? 最初はどこに行くつもりかって? そうだなぁ……とりあえずこっから一番近いシンオウ地方かな。今居る地方で旅したらラズと偶然出くわすかもしれないしさ」
もう諦めたとはいえ、やはり振られた相手に会ってしまうのは気まずいからな。それなら別の地方を旅するのが安心ってことだ。
「そうと決まれば早速準備だ! 母さん! 俺ちょっと明日から旅に出てくるわ!」
「急すぎるからダメ。せめて1週間後にしなさい」
「アッハイ」
そりゃそうだ。流石にいきなり明日から旅に出ますはちょっと無理があったわ。
でも1週間後もそれなりに急なのでは……と思ったが、野暮なことを言うのはやめておいた。
────────────────────
ラズはどこかつまらなさそうな表情で街のベンチに座っていた。
ちらりと視線を下に向け、手に握ったジムバッジを視界に入れると、ラズは溜め息をついた。
「ジムバッジ、か……」
ラズは先程初めてのジム戦に挑んでみたのだが、結果としては余裕そのものだった。
バッジ0個のトレーナーに対してはジムリーダーもそこまで強いポケモンは使ってこないということはラズも理解していた。
しかし、それを加味しても彼女からすると先程のポケモンバトルは退屈そのものだった。
「なんだかまったく達成感がないわね……。もう少しバッジを集めればジムリーダーも手応えのある相手になるのかしら?」
『先が思いやられるわね』なんて呟きながら、ラズは地図を開いて次の行き先を確認し始めた。
実のところ、強くなりすぎた彼女にバトルでついて行けるのはシバリ以外に居ないため、彼との関係はラズにとって得難いものではあったのだが、それに彼女が気づくのはもう少し先のお話。
さらに言えば────
「あら。シンオウ地方には『もりのヨウカン』って名物があるらしいわよ。お土産に送ってくれない?」
「母さんそれオカルト雑誌だよな? 絶対厄ネタだよなそれ?」
「ホーッ!!」
「おいバカやめろムクホーク! 任せろじゃないんだよお前!」
その唯一自分についてこれる幼馴染が旅に出ようと盛り上がっていることなど、彼女は知る由もなかった。
・シバリ:主人公
ラズに振り向いてもらおうとめちゃくちゃ頑張った結果、とんでもなく上澄みの実力者になった。
でも今までラズとしかポケモンバトルをしたことないし、一回も勝ったことがないので、自分のことを凡人だと思っている。
振られたときは人生の終わりレベルで落ち込んだが、ポケモン達のおかげで吹っ切れた。今はゆったりいろんな地方を観光したいと思っている。
・ムクホーク:シバリの相棒
シバリのエースポケモン。まだムックルのときにゲットした。
なつき度MAXではあるものの、特訓尽くしの日々やシバリからお願いされた無茶振りを根に持っているので、シバリへの当たりがちょっと強め。
・他の手持ちポケモン
多分そのうち出る
・ラズ:幼馴染
ゲームの主人公クラスのやべーやつ。
その才能と成長速度はとんでもなく、シバリがどれだけ頑張っても勝てなかった。
自分より強い人を見つける旅に出たが、ジム巡りは余裕で終わるだろうし、チャンピオンになるのも多分余裕。
目当ての強い人は多分見つからないし、いつか後悔する日が来るだろうけど、今はそのときではない。
・エレキブル:ラズの相棒
ラズのエースポケモン。ヤベー奴。シバリがムクホークに無茶振りを要求する理由になったポケモンでもある。