検察が「不起訴の理由」公表へ舵、名誉回復どころか逆効果?元検事が「法的リスク」と「憶測の拡大」指摘
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●不起訴理由の開示は「検察の裁量」
──不起訴理由を公表する法的な根拠はあるのでしょうか。 法律上、不起訴理由をどのような場合に開示することができるかを明確に定めた規定はありません。 開示する法的根拠として参考になるものの一つとして、刑事訴訟法47条のただし書があげられます。 「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合は、この限りでない」 この条文は、あくまで「訴訟に関する書類」について規定したものですが、例外的に開示する必要性、相当性があるかどうかは、検察庁の裁量に委ねられており、個別の事案に応じて判断されます。 不起訴理由の開示についても、検察庁の裁量に委ねられているとみることができるでしょう。
●実務で「嫌疑なし」はほとんど使われない
──不起訴理由が公表されることで、どのようなメリットやデメリットが生じますか。 たしかに、不起訴の理由が「嫌疑なし」「嫌疑不十分」であれば、公表してもらうことで、世の中からの本人の疑いが晴れ、名誉回復につながるといえ、メリットはあるのかもしれません。 しかし、実務上「嫌疑なし」が使われることはほとんどありません。「嫌疑不十分」だとしても、見方によっては「証拠が足りなかった」ということを意味するだけであり、必ずしも名誉回復につながらない可能性もあります。 さらに検察からすれば、「嫌疑不十分」というのは、「立証に足りる証拠を集めることができなかった」と、ある意味「敗北宣言」をするようなもので、あまり公表したくない内容というのも事実です。 一方で、公表した結果、かえって世の中から「真相は闇の中になってしまった」と受け止められ、不安感や憶測を招くおそれもあり、デメリットもあるといえます。
●起訴猶予は「使い勝手が良い」が・・・
──他にはどんな影響が出てくるでしょうか。 不起訴理由の多くは「起訴猶予」です。 中には、検察官が「証拠がないわけではないが、裁判に耐えられるか自信がない。逆に嫌疑不十分とも言い切れない」と考えたときに、「嫌疑不十分」寄りの「起訴猶予」とすることもあります。 このように「起訴猶予」は検察官にとって使い勝手がいいこともあり、その割合が多いわけです。 こうした「起訴猶予」は、一般的には、検察官が「被疑事実が証拠上認められる」と判断したことを前提にするものです。そのため、「起訴猶予」であることを公表することは、むしろ、本人の名誉を毀損するリスクもあります。 この点について、近年、不起訴理由が「起訴猶予」であることを他の機関に通知したことを違法とした裁判例(令和6年5月30日名古屋高裁判決)があります。 この判決は、「不起訴処分の理由が、『起訴猶予』であるということが検察庁の外部に明らかにされることは、検察官が『被疑事実が明白』であると判断したことが明らかにされるということであり、 これは被疑者の名誉、信用を毀損し、その名誉感情を大きく害するものであ」り、 「検察官の判断が誤っている可能性があるのに、被疑者にとってこれを争う手段がないものであるから、・・・・被疑者の承諾なしに、これを検察庁の外部に明らかにしてはならない性質のものというべきであ」るから、 これを他の機関に通知することは「行政機関個人情報保護法8条2項ただし書の本人の『権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるとき』に該当」し、 また、「刑事訴訟法47条に違反するものといわざるを得ない」と判示しました。 このように「起訴猶予」であることを公表することは、かえって本人の権利を侵害することになるリスクもあるわけです。 また、被害者がいる事案では、被害者と示談が成立し、「起訴猶予」になるケースも多いですが、示談に応じたことを知られたくない被害者もいるでしょうから、その意思に反して公表すれば、被害者との関係でも権利侵害につながるリスクがあります。
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