(フォーラム)消防団を考える:1 存在価値

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 火災や災害の現場で活動する消防団で、高齢化やなり手不足が深刻化しています。地域防災の担い手としての重要性が再確認される一方で、負担の大きさなどの課題が指摘されています。災害が多発する時代に消防団はどうあるべきか、みなさんと一緒に考えます。

 ■地域を一番知っている、地元のために動く 「ハヤブサ消防団」著者・池井戸潤さん 消防団に入った小説家の主人公が連続放火事件を解き明かすミステリー小説「ハヤブサ消防団」。2023年にドラマ化され、今春から「小説すばる」で続編が連載されている。父親が消防団員だったという著者の池井戸潤さんに、消防団への思いについて聞いた。

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 ――消防団に持つイメージは?

 「岐阜県にある限界集落と言われるような田舎で生まれ育ちましたが、友達はみんな消防団に入っており、父も団員でした。幼い頃、消防服を着て集まりに出かけていたようなかすかな記憶があります。地元では消防団に入るのがほぼ当たり前みたいなところがあり、生活に根付いた存在です」

 ■事件発生時の初動

 ――なぜ消防団をミステリー小説の舞台にしたのですか。

 「誰がどこに住んでいるのかを地域で一番よく知っているのは消防団なんです。人のつながりがあるから、盆踊りがあれば案内係などを任される。水難事故で行方不明者が出たら、ゴムボートを抱えて捜索にも出る」

 「消防署は地元から車で40分くらい離れた場所にあったから、火災が起きたときに初期消火を担うのは地元の人たち、つまり消防団員でした。地域で事件が起きたとき、初動にあたるのは消防団なんです」

 ――どうして、この作品を書こうと思ったのですか。

 「地元の伝承を、私個人の記録として残しておきたいと思ったんです。小説という形で、ですが。小さい頃から地元に残る様々な言い伝えを聞いてきました。父はよく『鳥居の前には絶対に家を建てるな』と話していましたが、その話の裏には、半世紀ほどの間に鳥居の前の家が4~5軒燃えた、という実話があったんです」

 「ほかにも、地元の川に『リンネ淵』と呼ばれる場所があるんですが、昔リンネさんという方が身投げした話からきているようです。小説には、宗教団体が山を買う話や、山にソーラーパネルが設置される話も書きました。これらも地元の話に基づいています」

 「こういう話って、わざわざ書き留めておくほど大事な話ではないんです。でも、意識して残しておかないと地元でも忘れられてしまう。だから、作品の中に覚えておきたい記憶をちりばめました。記録文学というと言い過ぎだけど、私にとってハヤブサ消防団は『記憶文学』なんです」

 ――作品では消防団の活動が詳細に書かれていますが、どうやって調べたんですか。

 「地元で消防団に所属する同級生に話を聞きました。彼らは工場などで働く傍ら、火災などがあったら出動しなくてはいけない。とても大変なことがよくわかった」

 ■コミュニティー密

 ――実際に、消防団は各地で人手不足にあえいでいます。

 「要因の一つに、世代間ギャップがあると思います。消防団はコミュニティーが密で、『ノリ』が古い団も残っているでしょう。飲み会も多く、ついていけない若者も少なくないと想像します。ほかにも、消防団対抗でポンプなどの基本操作の技術を競い合う『操法大会』というイベントがあり、その大会に向けた練習がきついとも聞きました」

 「活動の報酬も少なすぎるのではないでしょうか。消防団は火の中に飛び込んで人を助けたり、消火活動にあたったりと、危険と隣り合わせの現場にいます。拘束時間も長いにもかかわらず、報酬はかなり少ないようです。活動内容と見返りにミスマッチがあるように思います」

 ――どうやって消防団の団員確保をしていくべきでしょうか。

 「これからは、消防団もタイムマネジメントの発想が必要です。昭和的な飲み会や、操法大会のための練習といった負担は見直す必要があると思います」

 ――小説はドラマ化もされるほどの人気作になりました。

 「実は、この小説を書いた理由の一つには、町おこしをしたい、という思いもあったんです。ただ、『作品ゆかりの地』という点を押し出して集客しようとしても、そもそも観光客のためのインフラが十分に整っていないので、絶対にうまくいかない。そうではない町おこしをしたかった」

 「この作品をきっかけに、町役場で『ハヤブサプロジェクト』が立ち上がりました。プロジェクトのロゴを作って、お酒などの商品に貼ったり、地元のサッカーチームのユニホームにつけたりしてもらっています。単純な観光ではなく、こういう形で産業振興に役立てたことはよかったと思います」

 ■土地に根付く風土

 ――現在は続編も連載中です。

 「続編を読みたいという声に押されて、書くことにしました。期待はうれしいんですが、続編はまた少し違うテイストになりそうです。でも、地元の皆さんは『町おこしになる』といって喜んでくれているようです」

 「消防団は、その土地に根付く風土の一つだと思います。どんな都市にも消防団はありますが、田舎では特に地域のために活動するという存在価値は大きい。この作品を通して、田舎の雰囲気や限界集落の課題を知って、消防団についても理解を深めてほしいと思います」(聞き手・玉那覇長輝)

 ■「防災の要」10年で13万人減 高齢化・「上納」問題…

 消防団は市町村が設ける地域防災を担う機関で、専従の消防職員とは違い、非常勤特別職の地方公務員として団員の多くが仕事のかたわら活動に参加する。

 火災の初期消火や災害時の避難誘導などを担う「地域防災の要」とも言われる一方で、団員の高齢化や仕事との両立の難しさから、なり手不足といった課題も多く抱えている。総務省消防庁によると、全国の消防団員数は10年前と比べて約13万人減少している。

 また、自治体から団員に支払われる報酬について、一部の消防団での不正な取り扱いも指摘されている。朝日新聞は今年7月、団員が受け取るはずの報酬を団側が強制的に「上納」させるなどの不正が各地の消防団で行われている実態を、団員の証言をもとに報じた。(奈良美里)

 ■共助は必要不可欠/現役の声拾って

 アンケートでは、「自分が消防団員として働いている」という人の回答が半数近くに上りました。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/233/で読むことができます。

 ●効率的な訓練を 消防職員です。田舎であればあるほど公助が行き届かないので、共助の側面も持つ消防団は必要不可欠です。操法ではない効率的な訓練を採り入れるべきだと思います。(福井、男性、30代)

 ●現役世代に合わせて 必要不可欠な消防団ではあるが、出初め式、操法大会など、時代に合わないものが多すぎる。現役世代の声を拾い上げ、その地域に合った消防団であることを期待します。(兵庫、男性、40代)

 ●地域ごとに変えて 活動している地域では消火活動にあたることがほぼ無いので、防災活動に力を入れて学ぶのも良いと思います。地域により差があるので、活動内容を変える方が貢献できるのでは。(大阪、男性、40代)

 ●退団できない 横のつながりができて面白そうだと思いましたが、操法大会や鐘を鳴らす活動など、現代において必要ではないと思えるようなことが多く、活動しなくなりました。新しい団員が入るまで退団できないとのことで幽霊団員になっています。(長野、男性、30代)

 ●報酬を勝手に使われ ボランティアと言われて入団しましたが、個人報酬があることを知らされず勝手に飲み会などで使われていた。(千葉、男性、40代)

 ■《取材後記》古い体質、意欲低下招く

 「火災の現場に出て、やりがいは感じた。それでも早く団を辞めたい」。関東に住む現役消防団員の30代男性が打ち明けてくれた切実な思いが印象に残っている。

 男性は2年前に入団し、死者が出るほどの大規模な火災にも出動した経験がある。消防団の存在意義を感じつつ、それでも退団したい理由となっているのが報酬の上納だ。入団当初から年に数万円を徴収されたという。操法大会に向けての活動も負担となっている。

 消防団の報酬を巡る記事の掲載後、こうした団員の声が多く寄せられた。古い組織体質が、団員のモチベーション低下につながってはいないか。災害対策はまったなしの課題だからこそ、消防団の在り方も見直すべきだと思う。(玉那覇長輝)

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 たまなは・ひさき 2023年沖縄タイムス入社。今年4月から人事交流で朝日新聞ネットワーク報道本部に出向中。

 ■《取材後記》故郷守りたい思いあるのに

 入社して岩手県に赴任し、東日本大震災で捜索活動にあたった消防団の話を聞いた。沿岸部の地区で守り伝えてきた伝統芸能のお面が津波で流され、それを捜し出したのが地元の消防団員だった。「生まれ育った地域を見守りたい」と入団し、顔見知りの高齢男性の人命救助に関わった団員を取材したこともある。

 地域を思う気持ちが消防団を支えている。一部でいまだ行われているずさんな報酬の取り扱いは、その思いを踏みにじるものだと感じる。強制的に通帳を預かる。幹部の飲み会に使う。話を聞かせてくれた団員は「これでは若い世代に入ってもらえない」と嘆いた。時代に合わせた消防団のあり方を考える時だ。(奈良美里)

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 なら・みさと ネットワーク報道本部。昨年は、過疎に悩む村で頼りにされる外国人消防団員の取材をした。

 ◇アンケート「どう防ぐ クマ被害」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施しています。

 ◇次回12月21日は「消防団を考える:2」を掲載します。

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