剣は己の意思で立つ
その身砕けて消え去る剣聖。まるで加速しきった車が長い距離を経て減速するように張り詰めた上でガソリン浸して着火した集中の糸をゆっくりと《ほぐ》していく。
「……………ほふぅー」
分かったことがある、とりあえず封雷の撃鉄・災を使っての対人戦は尋常ではなく疲れるって事だ。
なんだろうな、ベルトコンベアの上を走っていた後動かない床の上に踏み込んだような、自分だけが他よりも重く押し付けられているかのようなあのなんとも言えない重圧感というかなんというか。
戦闘終了と同時に炎が剥がれ、トントンと拳で胸を叩いて雷を散らす。体を蝕んでいた亀裂も塞がり、一般的な半裸に戻った俺はコキコキと首を鳴らしながら旅狼陣営の観客席側へと歩み寄り……
「約束通り半年は煽るから覚悟しとけよ負け犬共」
「いや流石にあそこまで動かれちゃこっちも文句言えないかなぁ……」
「なんかサンラクだけ倍速処理されてるみたいで段々笑えてきたよね」
「あれ結構つらいんだからな? 具体的に言うと集中切れた瞬間顔面から壁に激突するか顔面バウンドorスライディングしかねないし……おいなんだその「再現どうぞ」みたいな顔は」
やらないよ? ていうかすげー疲れたんでログアウトして寝たい、もしくは心を無にして三時間くらい日光浴したい。
「まぁそれはそれとしてお疲れのようだしこういう事を言うのは非常に申し訳ないんだけどさ」
「うん?」
「サンラク君、この後にいろいろスケジュールが詰まってるって覚えてる?」
………。
「戦術的撤退!」
「戦略的確保ーっ!!」
「ちょっ、どこから湧いて……グワーッ!?」
一体どこに潜んでいたのか、突然迫ってきた見知らぬプレイヤーに取り押さえられる俺。くっ、脱走した動物を捕獲するみたいに人をお前……っ!
「ゴメンねサンラク君、君この手のばっくれ前科多すぎだからさ……どうしてもって「ライブラリ」と「聖盾輝士団」の御二方がね……」
よよよ、とわざとらしい泣き真似をするペンシルゴンを殴らんとビチビチもがくが流石に六人くらいに押し付けられては脱出は不可能だ。
「ちなみに本音を言うと?」
「勝ったからってドヤ顔かまされたらムカつくから私から持ちかけました」
「うおおあの野郎を殴ったとしても正義は俺だろこれーっ!!」
ビチビチと暴れていると「魚市場……」と抑えている誰かが呟いた。クソがっ! 誰が水揚げされたばかりの鮮魚だコラァ!
つーかそこの生まれながらの魔王! テメー今「あ、この状況人質解放すると約束しといて肝心な時に反故にする系の悪役っぽい」とか思ってんだろ!
「だってサンラク君、適当ブッこいてログアウトする気満々だったでしょ?」
「そんな訳ないじゃないか」
「人の目をまっすぐ見れば信じてもらえると思ったら大間違いだよ」
性善説全否定の素晴らしいお言葉だ、覚えとけよ総受けヤロー。まぁ事実適当ブッこいてログアウトする気満々だったけどさ……
「……分かった分かった、もう逃げないからとりあえず取り押さえるのは勘弁してくれ」
ここで逃げたら本格的に指名手配されそうなので流石に控えてやるか。
くそう、クランの威信をかけて廃人と渡り合った奴に対する扱いじゃないだろこれ……
「ま、「黒狼」とのアレコレは私がやるからさ」
むしろそっちが本番であると言わんばかりのペンシルゴンにため息で応じつつ、俺はちらりとオイカッツォへと視線を向ける。
「………(くいっ)」
「………(ふるふる、すっ)」
「成る程」
「えっ、何が成る程なの?」
「翻訳すると「煽る?」「逆ギレしそうだからまだやめとこう」「成る程」ってどころじゃない? リベ君メンタルがおが屑だからすぐ燃えそうだし」
「嫌な以心伝心だ……」
うん、常識人のフリしてるそこの京ティメットさんよう。
「何故俺をガン見して刀をチャキチャキ言わせてるのか言い分を聞こうか?」
天誅か? お? 天誅をお望みか? 疲労しているとはいえ俺の天誅に陰りはないぞ?
「んー、なんというか結構ドロッとした感情を押し込めた結果とりあえず君と対人戦やりたいなーって」
「ハハハ、セクハラに頼らず勝てるようになってから言えよ」
ピキッ、と何かにヒビが入るような音が聞こえた気がする。おかしいな、灼骨砕身はもう使ってないんだけどなぁ???
「ヘイ、オイカッツォ。なんでもドヤ顔で参戦した割に普通にボコられたPKerがいるらしいぜ?」
「なんだってサンラク、それは本当かい? ピーナッツヌガーを塗りたくっても笑えないジョークじゃないか」
「くぅっ………!」
3タテしたオイカッツォでさえ下手を踏めば煽り倒される危険性があると言うのに、普通に負けた京ティメットがターゲッティングされるのは自明の理なんだよなぁ……
「ていうかサンラク、色々名状しがたい姿になってたけどあれどういう事なの?」
「んー? まぁとりあえず雷纏ってたのはこいつの効果で、身体にヒビ入ってたのはこいつの効果で、全身炎はこれの効果だな」
「ふむ、続けて?」
当たり前のような顔で会話に混ざってきたエセ魔法少女に非常に曖昧な感情を込めた顔を向けるが無視された、面の皮古生代まで積み重なってんじゃねーのか。
とはいえなんというか「え? この流れなら説明するよね?」みたいな雰囲気がこの場にいるほぼ全員から漂っているせいで日本人的空気圧に屈さざるを得ない。
「こいつは、まぁ……うん、戦ってる最中に言った通り……その「無尽のゴルドゥニーネ」に喧嘩売って……まぁ色々とやって入手しました、うん」
「この続きの情報が欲しかったら旅狼経理担当アーサー・ペンシルゴンにご連絡宜しくねー」
「こっちは……ははは、んー……「宝石匠」ってジョブの奴にお願いして作った感じで? うん多分ユニークではない、ユニークでは……ないけどガチャ的な?」
「あーうん、これに関しても続きは私に連絡入れてからで宜しく」
「これ? あー……言わなきゃダメ? あ、はい。まぁなんというか甦機装って言うんだけど、遺機装の新規建造版と言うか「古匠」と関係してくると言うか」
「ちょっと待ってサンラク君一回ちょっと情報共有させてもらえる?」
再び拘束される俺、真顔で詰め寄るペンシルゴン、チャキチャキ刀を鳴らし続ける京ティメット、こちらにユニークいいないいなオーラを向けるオイカッツォ……くそっ、誰か味方は! 味方はいないのか!?
「あの、すいません……」
レイ氏ィ!!(喜びの眼差し)
死んだ魚眼を輝かせながら救世主を見つめると、そこにはどこか申し訳なさげに肩を縮こませるレイ氏と、どこか晴れやかな様子のサイガ-100、そして「納得してないけどルール的な正しさは向こうにあるわけで自分達が主導権を握れない事に対して喚き散らしたいけどそれはそれでプライドが邪魔するので精一杯「自分は大人だから結果を受け入れますよ」的なオーラ出すけど傍目から見たら普通に泣く寸前の子供だよね」という様子のリベリ……ふふ、もう覚えたんだよなぁ……リベリウスが立っていた。
「まぁまずは敗北者として勝利を讃えさせてもらおう」
「讃える気が絶無な顔した奴がいるけど?」
「まぁ若さ故の反骨心という奴だ、見逃してやってくれ」
リベリオスをボコったオイカッツォがとてもいい顔で握手をしに行ったのでそこんところは奴に任せておこう。
「いい試合だった、リュカオーンを打倒した実力に偽りはなかったと確信したとも」
「あぁうん、こちらこそグッドゲームと言わせてくれ」
バカにしてる訳じゃないが、サンドバッグにしたって全力を出すにはそれなりの質が必要になる。その点で言えばサイガ-100は百点満点と言っていいだろう。
「それに……フフ、ウチの愚妹も面白い殿方と知り合ったものだ」
「ぼふっ!?」
サイガ-100の背後でレイ氏が内側から爆ぜるように震えたが、レイ氏は挙動がしょっちゅうバグるので気にしないことにした。
それよりも背後でプルプル震えるリベリアスをニマニマと見つめるオイカッツォが何をしたのか非常に気になるところだ。
「さて……ここからはクラン「黒狼」としての言葉と受け取ってくれて構わない」
ごほん、と咳払いをして喉を整えたサイガ-100は、この相対の原因となった案件を至極あっさりと告げる。
「我々クラン「黒狼」改めクラン「黒剣」はクラン「旅狼」の提示した連盟への参加を希望する」
かつて剣を咥えた狼のエンブレムを掲げていたクラン。だが今そのエンブレムは、狼と剣へ別れんとしていた。
昨日はコナンコラボやりつつ水晶群蠍の新種考えながら気持ち悪い笑い声出したり新大陸のモンスター考えて気持ち悪い笑い声出したりしてました(本編そっちのけ)
エピローグまでに詰め込みたい描写があるのでもう数話続きます