剣狼相対すは雷火の獣 其の四
「あっなんかだんだん腹立ってきた! 自分から削るとか舐めプかい!? 舐めプだよねぇ!」
片手で扱う刀がその本来の力を発揮できない事は京極自身が最も心得ている。京極のステータスは技量や器用さに比重が偏った技量剣士であり、両手用の刀を片手でブンブン振り回すのはそもそも京極のスタイルとはあまり噛み合わない。
だがそれでも、怒っている己自身が一番理不尽だと思っているような憤怒が片手のみでの戦闘を持ちこたえさせている。
「ひ、卑怯だぞ京極! 大体メロンだのなんだの……」
「ウチの大浴場で君と君の姉の完熟メロンで何人絶望に沈んだと思ってんの? なめてんの? ハリセンでぶっ叩いてスーパースローカメラで記録したげよっか?」
「おいあの馬鹿に何を吹き込まれた!? リアル方面から攻撃するのは卑怯だろう!」
感情によるパフォーマンスの上昇、それはサンラクやシルヴィア・ゴールドバーグのようなテンションファイターとしての資質に他ならないが、半ば暴走状態であるが故に京極がそれを自覚する事はない。
ちなみに秋津茜は「テンションでパフォーマンスを上げて学習応用反映する」というなんだかよく分からない本能と理詰めのハイブリッドである。侵略者系エイリアンとかでよく見る設定とは言ってはいけない。
現在の集中を切らしたサイガ-100では複雑な操作を行うことが出来ず、大雑把な軌道で飛んでくるオート操作であれば回避は可能だ。
魔剣ラス・ペガシアスは回避に徹し、それ以外は黒刀で弾きながら前へ前へと進む。
「くっ……悔しいが有効な撹乱だ……だが!」
「最近またブラ破壊したって聞いたけどマジなの?」
「くぅうっ!」
虚脱、従剣は空中で空転し始め、致命的な隙が、チャンスが京極の前に晒される。
黒刀「研竜剛角」、ドラクルス・ディノケラスなるトリケラトプスと馬を混ぜたようなモンスターの角から作成された刀に再びエフェクトが燃え盛る。
秘剣「獅子落し」、今度は外さないと鋒の狙う先は鎧の隙間に覗く首筋。
さらに認識速度高め、視覚映像をスローにする「瞬刻視界」を起動し、確実に命中させるべく軌道を修正する。
京極はこの意識だけが通常のまま認識する全てがスローになる感覚をあまり好まない。だが好みで勝てるならこの世に弱者は存在しない。
(行ける……確殺は無理だけど、体力の五割はもらった!)
だが、京極は肝心な事実を失念していた。
最上級職業「剣聖」、その習得条件はNPCが主催する剣闘大会での好成績。今でこそ三位以内で入賞で特殊クエストを発生させることが出来るようになったが、サイガ-100が剣聖を獲得した時期はナーフ修正前。
それが示す事実は至って単純。
剣聖とは対人スキルが高くなくては獲得できないジョブである。
「【迸る電律】!」
「くぁっ!?」
全身に走る痺れ、ダメージ処理によるものではない。これは「痺れ」という現象として設定されたダメージエフェクトだ。
鋒が揺れる、止まりそうになる身体に無理やり鞭を打ち、左腕を叩きつけるように添えて無理やり振り抜く。
「こ、なくそぉ!」
「ぐっ……」
浅い。
たしかに黒刀はサイガ-100の首筋を切り裂いた、だがその感触はあまりに軽く、体力を削ることは殆ど出来ていないだろう。
「くぅ……ふふ、便利な魔法だろう? 威力自体は魔法特化のステータスの者が使ってなんとかダメージが出る程度の微弱な魔法だが……発生の速さと対プレイヤーにおける不意打ちとしてはこれ以上なく優秀だ」
「随分……対人慣れしてるん、だね」
「当たり前だろう、私は「修正前剣聖」だ。天ぷら騎士団のリーダーを始めとする修正前組と八百長抜きでどれだけ戦ってきたと思っている」
互いにポーションを使用。体力こそ振り出しに戻ったが、状況は最悪としか言いようがない。
もはやセクハラ妨害は通用しないだろう、安定した制御下に置かれた刃が五本宙に浮遊し……
「五本、だって?」
従剣劇は必ず手に一本、「指揮剣」を持たねばならない。であれば宙に五本浮いているなど有り得るはずがない。
「剣聖の【従剣劇】はスキルレベルなどと同じく使い続けることで独奏、二重奏、三重奏と扱える数が増える……あぁ、そうだとも」
現状明らかとなっている剣劇は従剣四本に指揮剣一本の五重奏、だがもしそれが限界でないとすれば。
京極の悪寒を肯定するかのように、「七本目」が剣の列へと並ぶ。
「七重奏……!?」
「対人相手に見せるのは初めてなんだが、堪能して欲しい……【従剣劇・七重奏!」
妨害は間に合わない。
半分のパーツが欠けた六芒星のような組み合わさりを形成した六の従剣、そして七本目の指揮剣が指揮者の意に従い鉄槌を下す。
「七つの罪錘】!!」
「ぷぐっ」
まるで真上から見えない手に圧し潰されるかのような、人の足掻きではどうにもならない巨大な力による圧縮。肺の中の空気を無理やり押し出されたような声が漏れ、視界が急激に下に落ちる。刀を手放さなかったのは京極の剣士としてのプライド故か。
強制的に地面へ伏せった京極は腕すら持ち上がらない重圧の中、システム的な処理として作用しているその原理に気づく。
「まさか……重力?」
「御名答、これならリュカオーンにも通用するとは思わないか?」
尤も、魔力消費が悪すぎるのが欠点なのだが……とぼやきながらも剣聖が剣豪へと聖剣の刃を突きつける。
「私の勝ちだ」
やっぱりボスキャラじゃねーか、とか逆3タテ食らって一気にピンチじゃねーか、とか色々思うところはあるが……サクッと倒された京ティメットが戻ってきたところを俺と外道二人で囲む。
「あはは、ごめん負けちゃっ」
「いやまさか公衆の面前でセクハラかますとは思わなかったよ京極ちゃーん」
「マナーなんて糞食らえ、PKerの鑑だね……恐れ入ったよ」
「いや我々一同、京ティメット……いや、京ティメットさんのこと見くびってましたわぁ! 想像を絶するセクハラ大魔王じゃないっスかぁ!」
「くっ……! 予想はしてたけど人を小馬鹿にすることにほんと躊躇いないなこの人ら……!」
それはそれ、これはこれ。敗北者は煽る、部外者と勝者の特権ですよこれは。
とはいえ京ティメットのお陰で分かったことも多い。サイガ-100がさらに二つモードを隠していたこととか、あの対人以外で使い道あんのかって魔法とか……
「これ初見で勝てるかぁ……?」
「負けたら旅狼は黒狼のパシリになっちゃうんだから頑張ってもらわないと困るんだけどサンラク君」
「いや、完全にボスキャラじゃんアレ。正直実は八重奏も隠してたんだ! とかされたら泣くぜ?」
だが愚痴を言ったところでサイガ-100が弱体化するわけもなく、旅狼の大トリとしてやるだけの事はやるしかあるまい。
「俺が勝ったら向こう半年はこれをネタに煽るから覚悟しとけよ負け犬共」
「言うねぇ、負けたら向こう三年はこのネタで煽ってあげるよ」
向こう三年はキツイって。
「あの、サンラク……さん」
「ん?」
「その……頑張って、下さい」
己の姉へと立ち向かう俺へとレイ氏からのエール。いいね、なんだかゲームのワンシーンみたいじゃないか。
「任せろって、手数の多さならこっちも自信がある」
それに京ティメットとサイガ-100との戦いで何やら気になるワードも出ていたしな。
ご覧に入れよう、この俺の「役割模倣:龍宮院富嶽」を!
実際のところ、使いこなしているように見せかけているがサイガ-100が完全に制御できるのは五重奏まで、七重奏は二本オート操作にしないと操作できない
ついでに余裕そうに見せかけているが「七つの罪錘」でMP空になってます
流石に戦闘しながら思考七分割は難しい、それ抜きにしても現在いる「剣聖」の中では間違いなくトップクラスの従剣制御ですが