剣狼相対すは雷火の獣 其の二
本当は「異世界転生ゲーム化してもただのデバッグモードじゃねーか!」的な小話をインベントリアに投下しようかと画策してましたが激烈に体調不良だったので「午後六時だと思った? 午後六時でした!」でエイプリルフールはご勘弁いただきたい……!
体調不良は飯食って寝たら治りました、あれこれただの空腹……?
よくよく考えればこの構図は勇者対勇者でもあるのだと、黄金の剣と槍が相対した時にふと気づいた。
「なぁレイ氏、あの聖剣? の能力ってなんなの?」
「聖剣エクスカリバーは……勇者武器共通の、復活効果と……修復効果、それともう一つが……」
「逆境覚醒、だっけ?」
「そうです……えと、き、京極……さん?」
「京極だよサイガさん?」
何故かレイ氏と京ティメットの間にピリッと火花が散ったようにも思えたが、プレイヤーキラー特有の挑発か何かだろうか。
ちなみに「幕末」では刀に手を掛けた時点で喧嘩を売った、と認識されて天誅される。それを利用した挑発→袋叩きの誘発天誅なんてのもあるが。
「字面から大体予想がつくけど逆境覚醒ってのは要するに……」
「ピンチになるとHPとMP以外の全ステータスが大幅に強化される、しかも確率発動の食いしばり効果もオマケでね」
「……あの性能で?」
なにやら明らかに搦め手っぽいアイテムを多用しながら飛び交う四剣を凌ぐペンシルゴンに視線を向けつつ、あれを追い詰めると強化される、というボスキャラじみた事実に思わず呟いてしまう。
「サイガ-0さんと秋津茜の三人でリュカオーン倒したって聞いたけど、逆に言えば黒狼は少人数で倒せる相手を何故今まで倒せないのさ……」
「姉さんは……その、リュカオーンとはそれなりの回数、遭遇してるんですが……パーティメンバーが足りなかったり、職種が偏ってたりで……」
無情すぎるログイン乱数の悲劇という事か。それに「黒狼」はつい最近までリュカオーンの透明分身も把握していなかったらしい。
俺たちの場合は朱雀というハイスペック扇風機……もとい理想的フィールドを維持する条件が整っていたのもあるが、朱雀のような手段をそう簡単に用意できるはずもなし。
つまり雲一つない夜間に、理想的パーティのメンバーが全員ログインかつ団体行動して、なおかつランダムエンカを引き当てる、と。俺でも心が折れそうな乱数ジャックポットだな。
「夜間にログインするような、プレイヤーは……その、大体午後十時軍に、流れますから……」
「あー」
まぁ確かにトップクラスだがリベリオス的なのが多い「黒狼」と、自分と同じ時間帯にログインして社会人が多い「午後十時軍」なら……うん、後者を選ぶかもしれない。
「なので、姉個人としては……その、言い方は悪いですけど……意識統一の為に、リベリオスさん達を、飛ばすつもりではないかと……」
「だったら適当に苦戦してから負ければ……いや、あんだけの実力あってあっさり負けたらそれこそバレるのか」
強すぎるが故に手加減がバレてしまう、と。あれ? それってつまりそこの魚類が即落ちして、ペンシルゴンが負け前提で出張ってるわけだから……
「うわっ、すごいなぁペンシルゴン。見なよ、なんの躊躇いなく呪殺しようとしてるよ」
「京ティメットか俺が勝たないと駄目なのか……」
レイ氏は向こうから引き抜いた代償にこちらも使用することができない。一瞬「ババ抜き」が頭をよぎったが悪質さで言えば今戦ってるペンシルゴンの方がよっぽどジョーカーなのでアホな考えは振り払う。
「あいつあんな強かったっけ?」
「ウェザエモン戦で色々用意してたみたいだし腕も上げたんじゃない?」
「成る程……」
野球かゴルフのように、槍で五寸釘を滅多刺しにされた赤い藁人形を打ちこむペンシルゴン。サイガ-100の様子からして食らったら不味いものなのか、珍しい事に攻撃に回していた四剣を防御に用いてクリムゾン藁人形を弾いている。
防御に固まった瞬間を狙った一突きが放たれるが、盾として並んだ剣の後ろでは既に回避行動を取るサイガ-100の姿が。
「カレドヴルッフって装甲無視効果あるから、ステータスVIT低い相手には天敵レベルで刺さるんだよね」
「槍だけに?」
「被告人オイカッツォ、クソみたいなギャグをかました罪で死刑」
「恩赦! 恩赦プリーズ!」
実は俺も同じこと考えてた、ってのは墓の下まで持って行こう。
というかサイガ-100はVITが低いのか、の割に速度があるわけでもないし防御面は剣に一任しているのか?
「いや、違うな覚醒でステータス上げられるなら必要なのはHPとMPか」
「正解。剣聖は下手をすれば特化魔法職並にMP消費が激しいからね、特に「五重奏」主体だとそれこそ魔法職並のMPが必要になるんだよ」
俺とは別方向ではあるがコンセプトが似ているな。俺の場合はメリットの為に瀕死を許容するが、奴の場合は瀕死であることがメリットになるわけだ。
「逆境覚醒」とやらの詳細次第だが、サイガ-100は俺と同じピンチを前提としたプレイヤーの可能性が高い。この手のプレイヤーはピンチに慣れている、すなわち終盤の粘りが厄介極まりないという事だ。
「高燃費って話だけど、二戦ぶっ通しで保つくらいには燃費が良いの?」
「姉は、アクセサリーでMP回復を、補ってるので……」
当たり前っちゃ当たり前か。なんでもインベントリアの超劣化版みたいなミニインベントリに有りっ丈の回復アイテムを詰め込んで、別のアクセサリーで回復モーションを省略して使っているらしい。
……俺が瑠璃天の星外套やインベントリアでやっている事をユニーク抜きでやってる辺り、つくづく共通点が多いな。それはそれとして回復モーションカットのアクセサリーめちゃくちゃ欲しいんだけど後でどこで入手するか聞けないかな。
「つまりあれだけ暴れて持続力もあると……あれやっぱりボスじゃないの?」
「こればっかりは俺もオイカッツォと同意見だな……プレイヤー的な隙を潰しすぎてボス化してやがる」
装甲無視ということはつまり、防具による防御力を無視して肉体の耐久で攻撃を受けさせることができるということだ。
頑丈な外殻を持つモンスターにも有効だが明らかに対人戦が主眼に置かれていそうな聖槍で果敢に攻めるペンシルゴンではあるが、射程的なアドバンテージを奪取できていない時点で結末は半ば決まったようなものだ。
「実際二回目以降ならお前どうするよ?」
「最初は理不尽性能かと思ったけど多分あれ任意でマニュアル操作できる半オートだよね? だったら……うん、多分三回くらい試せば対応できると思う」
確かに、いくらリアリティが凄いからって一から十まで完全マニュアルの剣を四本操るのは無理だ。恐らくある程度の動作はオートで設定されている、自分の背後に浮かばせる、とか相手めがけて真っ直ぐ飛ぶ、とかはな。
逆に言えばオート操作を任意でズラせるという訳だが、あれとて完全に敵無し、という訳じゃないな。
「そう、剣聖とて無敵じゃない。MPを使い切ればただの剣士レベルまで性能が落ちるし、それを抜きにしても四本同時操作しながら動けば必ず隙が生まれる。そして僕ならその隙を穿つことができる」
成る程確かに、人間の脳は誰も彼もがマルチタスクできる訳じゃない。出来るとしてもキャパシティというものがある、でなけりゃこの世にコンピュータというものは存在しない。
「それに加えて僕はレベルキャップを解放したプレイヤーキラー……任せなよ、旅狼に加わった僕の役割、しっかと果たして見せよう」
ふふん、と獣の耳を揺らす京ティメットに対し、俺とオイカッツォは無言で視線を合わせる。あっ、多分同じこと考えてるな。
「これ、噛ませにされる強キャラの典型……」
「いや、その判断は早計だよサンラク。昨今じゃ噛ませみたいなネタキャラがジャイアントキリングするのも珍しくないし」
「レベル的にはこっちがジャイアントじゃねーか、しかもあっちは勇者だぞ勇者」
「実際どうだろう、アレってリュカオーン特化なんでしょ? 対人カスタムの方が有利っちゃ有利なんじゃない?」
こればっかりは俺しか知らないことだからしゃーないが、あの斎賀さんの姉って事は絶対リアルで戦闘力高いタイプなんだよなぁ……
何故だか猛烈な不安を感じ始めた俺達であったが、それはともあれペンシルゴンが時代劇の悪役みたいにバッサリ一刀両断されたので次だ。
「さぁ……狼狩りだ」
「京極ちゃんそれ噛ませっぽいよ?」
ペンシルゴン! しっ! ステイ!
言語化すると余計フラグが立つだろうが!
ちなみにペンシルゴンが投げつけまくっていたクリムゾン藁人形はいつぞやのアニマリアの呪術を無効化した藁人形とは真逆で「攻撃を当てたやつにカウンター+時間差即死呪術を付与する」という危険物。
解呪持ち相手にはあまり効果はないが累積するので下手に食らえない厄介なアイテムです