人は時間と金があれば大抵の出来事に対して有利を取れる
「ねぇ、彼明らかに不調って感じだけど大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、サンラク君はほどよく萎びてた方が良い動きするから」
「消える瞬間の蝋燭が激しく燃え上がる的な?」
「そうそう、こいつ二徹し始めた辺りから「こいつ命削って動いてないか?」みたいな挙動するけどエナドリに浸して日光浴びせればピンピンしてるからほっといて大丈夫だよ」
「誰が常時クライマックスだ、昨日は色々ユニークで忙しかったんだよ」
「あ、その件だけどこのゴタゴタ終わったら君の身柄はライブラリと聖女ちゃん親衛隊に引き渡されます」
「帰っていい?」
駄目でした。
エナドリの牛乳割りに、輪切りのウィンナーを混ぜた結果大量の目玉から血の涙を流すモンスターっぽくなったオムレツ。それが今の俺を動かす燃料な訳だが、正直ビタミンが足りてない気がする。
「牛って草食だし実質牛肉も牛乳も野菜なのでは?」
「ごめん京極ちゃん、やっぱダメかもしれない」
「ちょっと?」
「叩いて直そう」
フルスイングの頬狙い、首を傾けて回避しつつ目潰し敢行。チッ、避けられたか。
「………」
「………」
「戯れてないで一応作戦会議するよー」
「「うーい」」
京ティメットが首を傾げているがこれで通常運転だから気にしないで欲しい。
「まぁ中身が何であれガワはトップクラスのステータスな訳で、さらに言えば装備も充実してる」
「実際中身がアレだけど「黒狼」のメンバーなだけあって全員プレイヤースキルもあるよ。まぁ対人特化ってわけでもないけどね」
プレイ時間的にはノービスを卒業した程度である俺とオイカッツォへと歴戦PKer二人が説明する。というか中身をディスる前置きを置かないといけない縛りでもしてんのか。
「まぁ、裏でモモちゃんと繋がってるので五人中三人は対策できるんだけどさ」
「酷いヤラセを見た」
「戦う前から駆け引きは始まっているのだよカッツォ君。まぁそれはそれとしても問題はサイガ姉妹だよね」
レイ氏もといサイガ-0、そしてその姉であり黒狼のトップたるサイガ-100。中身が何であれそのアバターは強化と武装の限りを尽くした廃人スペックだ。
まっすぐ来る、と分かっていても人がリニアを避けることは難しい。事前に対処することができないならば尚更に、だ。
「僕としては嬉しい限りだけど、八百長とかはしないんだ?」
「流石に黒狼のリーダーがあっさり負けるのは認められないってさ」
ちら、と会場として指定された闘技場の逆サイドにいる黒狼のメンバーを見る。なんというか随分と余裕そうな顔をしている面々の中、一人だけ真剣な顔でステータスを確認するサイガ-100。
この状況自体、奴とペンシルゴンの結託の上で成り立っているらしいが果たして奴の真意とは一体。
「モモちゃんは「剣聖」ジョブ持ちな上に五重奏を使い熟す、とかいう完璧超人だからねぇ……」
「剣聖、か……」
アラミースも確かジョブは剣聖だったっけか。独奏とか五重奏とか、単純に火力の事じゃなさそうだよなぁ……まさか「本数」か?
「実際サイガ姉妹は厄介極まりないんだよね、双方ともに対エネミー寄りのビルドだけど火力が高すぎて対人でも普通に通じるっていう……」
「ていうか、さ。そろそろ聞いてもいいかい?」
しみじみとサイガ姉妹の厄介さを語るペンシルゴンの話を折るようにして京ティメットが割り込む。
その頭から生えた人類のものとはカテゴリが違う耳を揺らし、獣人の剣士は俺たち四人を見回す。
「……あと一人は?」
「そうそれ! サンラク君が「最後の一人については俺に任せろ」とか言うから面白そうだし一任したけどさぁ」
「性別変換して「俺が二人分だ」とか言い出すに一票」
「TSネタのイラストが定期的にスレに流れるの凄いよなお前」
すん……と目が死んだオイカッツォはさておき、それに関しちゃ抜かりはない。
「さて問題だ、この代表戦のルールは?」
「……? 互いのクランから五人選出して戦う、でしょ?」
「京ティメット正解、オイカッツォは廊下に立ってろ」
「流れ弾理不尽過ぎない?」
ジョークだ、笑って受け流せ。
そう、この代表戦のルールは互いのクランに所属するメンバー五人による対人戦、他クランからの助っ人は原則認められておらず、それ故に京ティメットは「旅狼」に加入したわけで。
「じゃあ第二問……退職っていつ成立するんだろうな?」
ここで地頭の良さが出たな。今だに首をかしげるオイカッツォや京ティメットに対し、ペンシルゴンだけは何かに気づいたのかとても……そうとても愉快そうな笑みを浮かべて俺を見る。
「え、マジで?」
「おうよ、マジマジ」
「どういうことさ」
ちら、と俺を見るペンシルゴン。別に俺は何かを説明してドヤ顔する事に愉悦を覚える性癖は持ち合わせていないので解説を譲ってやる事にする。
「んー、まぁ凄いシンプルな話だよね。五対四の不利を手っ取り早く覆す方法ってなんだと思う?」
コロシアムの対面、オブジェクト化されたマーニがレイ氏からサイガ-100へと手渡される。
リ……リ? えーと、レベリングみたいな名前のサブリーダーが口をあんぐりと開けて呆けている中、晴れてソロプレイヤーとなったレイ氏がこちらへとやってくる。
「ええと、その……アーサー・ペンシルゴン、さん」
「はいはい何かなー?」
「えと……クラン「旅狼」への、加入を……希望、します」
「オッケーイ! ウェルカムウェルカム! 歓迎するとも!」
五対四の不利をひっくり返す一番簡単な方法? 決まってる、相手から一人引っこ抜けば四対五でこっちが有利になるのさ。
俺はしっかりと覚えてるぜ黒狼サンよ。あんたらのリーダーは確かに「これまでレイ氏の育成にクランがかけた金額+消費した使い捨て魔術媒体分の代金を支払った時点でクランの脱退を認める」
って言ったのをな。
数千万、いや下手をすれば数億ものマーニを短期間に稼ぎ出す事は難しいだろう……普通なら、な。
だが俺は公式が認めた一攫億金、その総資産は十億すら越える。
レイ氏はこの作戦を「身請け」と例えたがあながち間違いでもないな、レイ氏を縛る契約ごと旅狼に移行させる。俺としてはまだまだ懐に超余裕があるので構わないのだがレイ氏は律儀なので立て替えた分を俺に支払うとのことだが、少なくとも今この瞬間レイ氏の所属は「旅狼」となり、メンバーが足りないのは「黒狼」側となったのだ。
「ちなみにサンラク君、今所持金どれくらいあんの?」
「貴様の借金はビタ一文建て替えんぞ」
「その言い方相当蓄えてるなーっ!? ゼロちゃんの借金とその態度的に……まさか所持金、億……?」
今のやりとりだけで大まかな懐内容把握してくるのほんと怖いわこいつ。
色々と悪どい交渉で借金を返済しているペンシルゴンだが、かつての前科はそれでもなお多量の借金を残している。身近な所に大量の金を抱えた金庫がいると判明した事でハッスルし始めたが俺の意向は変わらない。
「君ってやつは頼れるおねーさんを助けようって気概は無いのかぁっ!」
「オイカッツォ、お前が仮に数十億持ってたとしてペンシルゴンの借金建て替えるか?」
「するわけないじゃん、借金苦にもがく姿でご飯が進むってのに」
「くっそ……私がそっちの立場なら同じ事言ってるだろうから何も言い返せないなぁ……!」
ぼくたちはとってもなかよしなので、ともだちのくるしんでるすがたをみるとたのしくなるんだ。
これを友情と言うなら人類は一度リセットされるべきじゃねぇかなぁ……
「ゴホン、まぁマネー的な交渉については後々じっくりやるとして……さて、まさかのゼロちゃん奪取のファインプレーをしてくれたわけだけど」
「おう」
「悪いけど五体四でも五対五になるのを待つのも無し、四対四でやる事にしよっか」
曰くこれ以上虐めると向こうが爆発しかねないとのこと、さすがは生かさず殺さずのペンシルゴンだ。
まだ何か企んでるっぽいが、今は聞かないでおいてやろう。
「さて、そろそろ向こうさんもこっちをボコりたくて仕方ないようだから作戦を説明します」
ニッコリと、ペンシルゴンはモデルに相応しい自信に満ち溢れた笑みを浮かべてただ一言。
「カッツォ君、戦術機獣使って3タテして来て」
「よっしゃ」
「黒狼」の死刑を宣告した。
情報を隠しているのは主人公だけじゃない
ユザパったけどサンラクがどうやって財宝の山を現金化したのか、その内書きます。次の展開に繋げたいので。