重要そうで重要でない少し重要な事実
でかい方が強キャラ、むしろ小さい方が強キャラ。この命題はRPG黎明期より今に至るまで結論が出ていない、だが俺はこの瞬間答えを見た。
人間大とはいえただの兎相手に龍蛇達は恐れ慄き、後ずさる。
「おうおうエードワード、まぁた随分と痛めつけられてるじゃねぇかぁ」
「オ、オヤジ……」
「おう、こいつぁ返してもらうぜぇ」
立ち上がれない様子のエードワードの傍から長ドス……鍛龍を拾い上げたヴァッシュはすらりと鞘から刀を抜き、その峰を肩に乗せてゴルドゥニーネを見遣る。
「おめぇさんが出張りゃあ、俺等ぁが出張る……分かってんだろう? おう……」
「随分とこいつらにご執心なのネ?」
「見込みの芽を咲く前に摘むもんじゃねぇだろうがよう……なぁ?」
「いいエ、見込みなんてありはしないワ。今も、これから先モ……私が私である限リ、私は私でしかないのヨ」
ユニークモンスター同士にのみ通じる何かがあるのか、よく分からない会話を続ける二体のユニークモンスター。
私が私だから私は私でしかない……? 卵に卵を混ぜて卵をトッピングした料理、みたいな……マヨネーズを油代わりにしたプレーンオムレツにマヨネーズをトッピングした的な? そんなくだらないことを考えつつも、さて啖呵を切って立ち上がった今の俺はどうするべきかと考えていると、先に動いたのはヴァッシュであった。
「俺等ぁも、おめぇさんも……互いに身内同士を戦わせてのこの結果よう。だったらおめぇさん、そこにしゃしゃり出るのはお門違いってやつじゃあねぇのかい」
「………」
ゴルドゥニーネの底冷えするような眼差しにもヴァッシュは揺らがない。威圧しているわけでも、刀を振り回しているわけでもないと言うのに龍蛇達は怯え、先程までゴルドゥニーネが握っていたはずのこの場の支配権がヴァッシュへと移らんとしている。
さて、完全に手持ち無沙汰になってしまった俺はどうすればいいものか。
「……ふん、興が醒めたワ」
あァん? なに睨んでんだテメェ、ヴァッシュ見てるとビビるからってこっちにヘイト向けようってかいい度胸じゃねーか確かゴルドゥニーネの右上にいた奴だな顔覚えたぞゴラ。
「でも忘れないことネ……私は、必ずお前が匿っている奴を殺しに行ク。お前の眷属を鏖殺しながら……ネ」
ヒュンッ、と風が吹いた。はて、洞窟なら後ろから前に風が吹くだろうになぜ竜巻のような風が……
「ゴァァアォォァァアア!?」
「うおぉう」
さっきから「こいつならイケる」的なガンを俺へと付けてきていた龍蛇が悲鳴を上げる。レイ氏のアポカリプスにすら耐えてみせた頑丈な鱗が下の肉ごと切り刻まれ、ダメージエフェクトを撒き散らしているのがここからでも見える。
え、なに今の。ウェザエモンの断風の方がまだ分かりやすかったんだけど……え、魔法? まさかスキルじゃないよな?
「迂闊な言葉をよう……やったらめったらぁに、使うもんじゃあねぇぜぇ……?」
別に敵対する気がある訳ではないけどさぁ……うん、ゴルドゥニーネもヴァイスアッシュもどう勝てばいいんだ。ギミックボスだよな? これでリュカオーンやウェザエモンみたいなガチンコタイプだったら流石に死ねるぞ。
それはそれとしてやーい顔面ズタズタざまぁーっ! 龍蛇はどいつもこいつも同じような顔してるから見分けるのに丁度いいな。
「消えな、ここはもうおめぇさんの場所じゃあねぇよ」
「あの私が掘った穴に執着なんて無いワ、でも……いいワ、此度は私が引いてあげまショウ」
「ぷぇー…………うおおあっぶぁ! ぶねぇ!?」
なんとなく暇になったので変なポーズしながらゴルドゥニーネに煽り思念を送っていたら毒剣を連続で五本ぶち込まれた。ヴァッシュは助けてくれなかったが……あっはい茶化した俺が悪いですね、はい。
どうやら本当にこの場を引くようで、身を翻したゴルドゥニーネはしかしてチラリと振り返って俺を見つめる。
「お前、必ず殺すワ」
「ほざけ、無尽だか無賃だか知らないがな……俺達はいつか必ずお前の喉元に剣を突きつける、覚悟しとけ」
鼻で笑われた。
はははこやつめ、ぜったいゆるさねぇ……!
いつか来る決戦の日にどんな煽り言葉を叩き込んでやろうか考えながら睨む先、純白の少女が暗闇に消え、それに続くように四匹の龍蛇が消える。
そして静寂。キン、とヴァッシュが長ドスを鞘に収めた音がやけに大きく響く。改めて見渡せばやはりひどい状況だ、紙装甲たる俺や秋津茜が欠損レベルのダメージを受けるのは分かるが、レイ氏の双貌の鎧が砕けかける程とは……
「兄貴ィ、ありがとうございやす」
「おう……もう少しすりゃあ後ろに下げた奴らが来るだろうがぁ……ん、手間だな」
「はい?」
おっと兄貴、何故刀を抜くんですかね? というか鍛龍に今まで見たことないタイプのエフェクトが発生してるんですが、ちょっ……待っ!
「痛みはねぇからよう……【安楽】」
サクッと首チョンパされる俺、心臓を一突きされる秋津茜、首筋の脈を斬られるレイ氏……不意打ちすぎて全く対応できなかった。え、兄貴ご乱心?
「おめぇさん達ぁ、目覚めりゃなんもかんも治っちまうからなぁ……先にラビッツにぃ帰ってな」
痛みはなく、強いて言うなら頭が地面に落ちた感触すら感じられて…………
『ユニークシナリオ「兎の国防衛戦」をクリアしました』
『称号「兎の国の防人」を入手しました』
『ユニークシナリオEX「致命兎叙事詩」が進行しました』
「いやちょっと待て!」
グシャグシャになった思考が纏まるよりも先に指が動く。
デスペナルティが無い、信じがたいがあのスキルか魔法か、どちらにせよなんらかのシステム処理を伴う「安楽」でデスしたプレイヤーはペナルティがつかないのか。
いやそれよりも、死ぬ瞬間に聞いたヴァッシュのあの言葉……嘘だろ、今までずっと感じてきていた違和感が全部繋がっちまった。
「目覚めれば全回復……そりゃそうさ、リスポーンなんだからな」
ああそうとも、基本的にゲームというものは現実と違ってやり直しが利く。その最たるものこそ「セーブ」と「リスポーン」だ。
俺達は間に十年間のラグを挟んでもセーブした場所から物語を再開できる、肉片すら残らない爆発に巻き込まれて消し飛んでも万全の状態で再発生する。
だがそれはゲームの話だ。
「第四の壁? いいやニュアンスが違う、元々そういうものとしての認識だ、どれだけ爆睡していてもエムルはそういうものだと認識していた……ああくそっ、二号計画ってそういうことかよ!」
ベッドの柔らかさを利用して跳ね上がってからの宙返り、宝くじの一等に当選したのと同時に家の鍵を閉め忘れたことを地球の裏側で気づいた気分だ。
「ああもうっ! 今からライブラリの拠点に殴り込みかけて全部ぶちまけてェーっ!!」
これは一人で抱え込んでいい案件じゃないでしょぉぉ! でも話せないんだなこれがぁーっ!
あまりにも当然過ぎてスルーしていた事実に、衝動のままに宙返りを繰り返す。
NPCとプレイヤーは同じシステム下で動いていたとしても別物だ、だがこのゲームの場合……いや、このゲームの世界観での場合、もっと根本的に別物なんだ。
つまり
「開拓者と一般人はそもそも別種族……?」
「えっ」
世界の真理に踏み込んでしまった衝撃に震えていると、部屋に入ってきたエムルがポツリと言葉を漏らす。
だがそれは衝撃の事実に対する驚愕のそれではなく……「えっ、今更?」とでも言いたげな若干の呆れを含んだ……んん?
「え、なにその顔」
「え、だってサンラクサン……死んだら最後に寝た場所に復活するとか神代の加護がある開拓者サン以外に出来るわけないですわ……?」
……………。
「え、何、つまりお前最初から知ってたの?」
「サンラクサン、一般常識ですわ?」
……………。
むんず
「ふゃっ?」
ぐにぐにぐにぐにぐにぃーっ!
「ふぉふひゃぁあぁあぁあぁあぁあ!!?」
「そういう事はちゃんとイベント起こした上で言及するもんなんだよエムルァーッ!」
エムルの頬を高速でぐにぐにしながら吼える。叙述トリックじゃねーんだからちゃんと説明しろやオラーッ!!
まぁ午後十時以降から明け方までしか活動せず、宿屋から出ていったはずなのに何故かチェックアウトしたはずの部屋から現れる人間とか冷静に考えて怖過ぎという
ぶっちゃけ種族:プレイヤーよりもゴルドゥニーネの
「私が私である限り、私は私でしかない」
の方が二百倍くらい重要です。この一言がゴルドゥニーネの六割を物語っています
残り四割はやけにあっさり退散した理由