敗北だけが負けじゃない
ハズレ
アタリ
アタリ
アタリ
今日の女神様は機嫌が良いらしい、ポーションガチャで差し引き大成功を達成した上にまさか死亡フラグを三連続くらいでへし折る事に成功するとは。
「左腕は……もう少しすれば使えるか?」
流石の「呪い」と言えどレジストされ続けた状態を永遠に繰り返す訳ではないようで、ここまでの逃走劇で左腕に付着した毒はそのほとんどが剥がれ落ちていた。まさか三分間服を着ることができる以外にこの忌々しい傷に感謝する日が来ようとは。
「とはいえ状況は最悪だな……」
エードワードの指示で一般的ヴォーパルバニー達が後方へと避難してはいるが、あの四体の龍蛇を食い止められるようなタンクはここにはいない。
「悪い、面倒くさい女に絡まれてな……蛇だけに」
「………………? あっ、蛇だから!」
やめろ秋津茜、時間差でギャグを理解されるのは結構つらい。
とはいえ龍蛇を一時的とはいえ封じることができたのは運が良かった、一匹を障害物にして動きを滞らせる程度を想定したプランBだったがまさか勝手に絡まるとは。
「ええと、普通にハンマーで叩いてしまったん、ですけど……」
「大丈夫大丈夫、その程度で死ぬなら俺が一人でカタをつけてた」
現に折れた首を自分で元に戻すとかいう最高に「人の形をした怪物的行動」をやってるし、下手すりゃ首を切り落としても胴体だけで暴れそうだ。
「エードワード! 出来れば兄貴を……ヴァイスアッシュを呼んでほしいんだけど、やっぱ無理!?」
「伝令は飛ばしたぁ! だがどっちにせよここで止めなきゃどうしようもねぇ!」
ごもっともで、折角戦線を押し上げたのにこいつのせいでさらに奥まで押し込まれたんじゃ笑い話にもならん。
「EXシナリオじゃないなら負けイベ濃厚では、あるが……」
何も負けイベとは一方的に殴られるだけではない、体力を一定ラインまで削った時点で戦闘終了するタイプも「勝てない」という意味では負けイベだしな。
「リュカオーンも前提シナリオがあったわけじゃねぇ、撃退なら行けるか……?」
希望的観測だ、俺は当然として秋津茜もレイ氏も消耗している……って言うか頑張って飲み込んだけど何故しれっとレイ氏ここにいるんだ、ルルイアスか? ルルイアスでヴォーパル魂稼いだのか? クッ、時間差でサプライズを仕掛けてくるとはやはり策士かレイ氏……っ!
なんとなくだが秋津茜が情報漏らした臭いな、エンチャント:ヴォーパルという武器要らずの魔法がある以上、シャンフロ廃人が有限のインベントリに無駄武器詰め込むとは考えにくいし……いや、流石に穿ち過ぎか。
「ウフフ……龍に、狼に、一番不愉快な気配……ウフフフフフ、みぃんナ壊して殺して消し去ってしまいましょウ。そうしましょウ」
「確認した限りじゃ毒を剣の形にして高速で飛ばしてくる、食らったら呪われるっぽいから警戒!」
「はい!」
「了解……です」
秋津茜ならまだいいが、レイ氏はつらいところだな……鈍重、ではないが俊敏というわけでもない。警戒の外だったから食らった、と言えば言い訳がましいが不意に撃たれたら避けるのが難しい攻撃であることは事実だ。
それに自称ゴルドゥニーネの攻撃を思い返す限り、「呪い」以外にも追加効果が付与されそうな気配がプンプン漂ってる。まぁ十中八九爆発はするだろうな……ホーミングはやめろ、繰り返すホーミングはやめろ。
「ひぇぇぇぇ……」
ふと視線を横に向ければ、何故か猪に乗ったヴォーパルバニーが猪共々ガタガタと震えている。言葉を喋っているということはヴァイスアッシュファミリーか、レイ氏付きの兎か?
「ヘイそこのバニー」
「ひょわっ! わ、わわっ! 鳥の人だ! スゲー、本物だぜウォットホッグ!」
「ブィイ!」
「あ、はいそうです鳥の人ことサンラクですどうも」
なんだろう、黒毛だしエムルとは全然似てないんだけど、魂的なアレにエムルみを感じる。
エムルよりも小柄だし妹っぽいが……あまり強そうには見えんな。
「ここは今から戦場になる、後ろに避難しときな」
一応悪足掻きではあるがMP回復に挑戦……おっ、当たり。
「えと、その、でも……」
「なぁぁぁぁぁぁぁ………」
ん?
「ぁぁぁぁああにやっとるですわぁぁぁーっ!!」
「ふげぅ!?」
おぉ、見事な空中殺法……いやお前魔法職だろエムル。
「いきなり走り去っていったと思ったらこんな最前線ど真ん中で突っ立ってるんじゃないですわーっ!」
「ご、ごめんようエムル姉!」
ガミガミとこんな状況で妹……妹だよな? 妹を叱るエムルであるが、まぁ少し落ち着け。俺は回復に勤しんでるから参加できてないけど今レイ氏、秋津茜、エードワードが必死にゴルドゥニーネ相手に耐えてるんだからな? うん、時と場所を考えろってことよ。
「まぁとりあえずエムル、お前に任務を言い渡そう」
「は、はいなっ!」
「割と切実にヴァッシュの兄貴を連れてきてくれ……いやマジで」
現状戦闘終了できそうな可能性がマジでヴァッシュしかいねぇ、プレイヤー陣は死んでも生き返るが流石にエードワードが死んだらヤバい未来しか見えない。
「頼んだぞエムル、これは最重要ミッションだ」
「は……はいなっ!」
「じゃ、じゃあな鳥の人! あとで武勇伝聞かせてくれよなっ! ハイヤーウォットホッグ! 風になるぜぇーっ!」
「ブルルルォォッ!」
名前を聞きそびれた兎on猪が走り去っていったのを眺めつつグビリとポーションを一気飲み、実際に胃に溜まるわけじゃないがそろそろつらい。
「ぐふぅ……良し行けエムルゴーゴーゴー!」
「はいなぁ!」
………さて、と。あとはエードワードを避難させりゃ心置き無く死ねる訳だが、流石にそこまで甘くはないか。
「しゃあねぇ、腹括るか!」
思えばリュカオーンと戦ったあの時と同じメンバーだが、やれるところまでやってやろうじゃねぇか!!
左手が完全回復するまでは下手に武器を握っても役に立たない、右手にのみ海喰の剣を握りながら俺は立ち上がる。
全力時と比べれば40%と言ったところだが、やってやれないことはない!
「おっしゃそのツラ泣かせてくれるわーっ!」
あわよくばEXシナリオ発生ーっ!
「あー……生きてる?」
「なんとか……」
「ゲームだと分かってるんですけど、やっぱりちょっとつらいです……」
まぁ、今回は龍蛇四匹とかいう鬼編成もオマケで付いてきた訳で、五分持ち堪えただけ善戦したと言えるのではないだろうか。
とはいえ俺は右腕を食い千切られ、秋津茜は左足、レイ氏は鎧にヒビが入る程の衝撃を腹に受けている。
エードワードが瀕死とはいえ五体満足なのはある種の奇跡だな……グッジョブだぜ乱数の女神様。
「おういエードワード、お前だけ走って逃げろ」
「ぐ……」
「まぁ特攻かませばお前が逃げる時間くらいは稼げるさ」
強化装甲と戦術機獣を使えばもう少しなんとかなったかもしれないが、あれは今リアクターが手元に無いので使えない。
無いものをねだったところで虚しいだけだが、さてどう時間を稼いだものか……やっぱりここは煽り攻撃でヘイトを集めるか? いや、でもそれやると顔か腰に呪い食らいそうなんだよなぁ……半裸が全裸になるのは色々とつらい。性能的な意味でも見た目的な意味でも。
「よっしゃあクソ蛇がぁ! もっかいデコピンしてやっからデコ出せコラァ!」
システム的に死なない限り、俺は首だけになっても動くぜぇ……超動くぜぇ……! 実際俺を本気にさせたら片目以外の五感を全て封じる超絶クソバグだって乗り越えられる。唸れ俺の左手、今こそ封印されていた奥義「デコピン桜吹雪(今思いついた)」を解放する時が……!
「おうサンラクよう、おめぇさん達はそうかもしれねぇがよう、命は粗末にするもんじゃあねぇ……」
「んえぁ」
変な声出た、いやそんなことよりヴァイスアッシュの兄貴ィ!
実際ゴルドゥニーネはギミックボスなので負けイベではあるもののヴァッシュが来る、来ないでルート分岐する模様