ネイキッド・マーダー
すり鉢状のフィールド、口から腕が伸びるツチノコ、薄暗い視界……文字にして並べてみれば苦戦しそうなラインナップだが、実際にやってみればそう難しいものでもない。
登り坂と下り坂のフィールド的弊害はそのまま向こうの枷にもなる、伸ばされる腕は備えていれば回避はなんとかできる、薄暗さを利用した攻撃は無い様子。
だからこそ不安になる、あまりにもヌルすぎるからこそ警戒はより深まる。
仮にもユニークモンスターに関連するモンスターがここまで簡単に攻略できるはずがない、妙にタフネスなところはボスモンスターらしさがあるが、それにしたって対応が簡単過ぎる。
「掴み、薙ぎ払い、叩きつけ、飛び道具は無し……なんかヌメッてるし接触は回避の方向で行こう」
十中八九、複数形態ボスだろう。それもいい、問題はそれがどの程度の強さなのか、という事だ。
ユニークモンスターの分身、ユニークモンスターが作り出した眷属、という点で参考にするべきはランダムエンカする影リュカオーンもしくはルルイアスの封将だ。
後者ならまだいい、だが前者の場合単独撃破の難易度は一気に跳ね上がる。というか無理ゲーに近くなる。
「撃破を約束しちまったからなぁ……少なくとも逃走は選べ、ないっ!」
振り抜いた金照が黒ツチノコの鱗を奴の皮膚から弾き飛ばす、快音快撃、良い手応えだ。砕け散った鱗は薄暗闇の中に飛び散り……結晶化する。
シャンフロではアイテムを「持つ、もしくは握る」ことをトリガーに入手判定が発生する。現状では傑剣への憧刃以下の性能な冥輝を放り投げて左手でキャッチ。
「えーと? 「成分結晶:ゴルドゥニーネ・レプティカ3」……こいつの名前か?」
なんつーか、生物って言うより機械の名前みたいだな。おっとごめんよ冥輝、無事これをクリアしたらお前の効果も産廃じゃなくなるから今は耐えろ。
回復アイテムは大量に買い込んでいるが、ここに来るまでの封雷の撃鉄・災によるデメリット回復で結構使ってしまった。
ノーダメ……は流石に侮り過ぎだがそれでも被弾は最小限にしなければならない。
「隙ありぃ!」
壊刀乱魔、戦極武頼、剣舞【紡刃】、パーシスタンドから繋げて縷々閃舞。
スタミナ消費を抑えた多段ヒットがエフェクトの花を咲かせる。悶える黒ツチノコと口から伸びた腕、だが触手型ではなく骨と関節を持つ人体型であることが仇になったな。
この位置だと地味に腕を回すのが難しいだろうからなぁ!
「第二形態だろうが第三形態だろうがとっとと移行させてぶっ潰す!」
どうしたどうしたぁ! レスポンスが悪いんじゃないか? ラグか? ゴミ回線使ってんじゃねーぞ対応が二手遅いんだよ!
とはいえ意気込んだはいいがやはりタフネス、曲がりなりにもボスエネミーか。というかツチノコ部分に攻撃が通っている気がしない、となると……
「えいっ」
ザンッ(腕に攻撃)
ブシュッ(飛び散る粘液)
じゅわわ……(金照の表面が溶ける)
「ほぁぁあ!?」
マジかよ武器の耐久削り!? くそッ、傑剣への憧刃のクリティカル効果でも多分防げないだろう。安全策を取るなら傑剣への憧刃でツチノコ部分を殴れば良いが……
びたんびたんとのたうつ腕を見る限り、分かりやすいほどに弱点なんだよなぁ……つまり武器を使い潰して腕を殴り続けるか、ダメージの通りは悪いが通常の消耗具合でツチノコを殴るかってことだ。
だが残念だったな、この金照には使用者の体力を喰らって耐久を回復する効果がある!
「リソースの削り合いだ、どん底に沈むまで殴り合おうぜ……!」
冥輝君は……うん、そのぉ……ご縁が無かった! そう、この敵とはご縁が無かったんだ!
やはり攻防含めてやり取りされる数値がインフレーションしている時が一番楽しい。鱗の一枚もないぬめりとした腕は既に幾多もの傷が刻まれ、半分溶けかけた金照に意識を集中させれば使い手の命を糧に刃は蘇る。
しかし厄介なツチノコだ、金照の方は合体ゲージが溜まりきっているが硬い蛇部分を攻撃せざるを得ない冥輝のゲージ溜まりが悪い。
まぁ意図して設計されたものではないだろうが、互いに性能が異なる対刃剣にこんな弱点があったとはな。
エフェクトを帯びた冥輝が黒ツチノコの喉を穿った瞬間、同じ場所を攻撃した事で一念岩穿のダメージボーナスが爆ぜる。
それにより何らかの効果が発動してはいるのだろうが、この戦いが始まってからずっと胴体から腕までを這う刺青の如き傷によってそれは霧散してしまう。
「くそ、分かっちゃいるが勿体無い気分だ」
ポーションガチャ……おっ、当たりだ。
死にかけから死にそう、くらいにまでは回復した体力で勇魚兎月を構えつつ黒ツチノコ……ゴルドゥニーネ・レプティカ3とやらを見据える。
「第二形態、か……」
時間経過か、それとも何のひねりもなくダメージか。トリガーが何なのかは検証しなければ分からないが、とりあえず分かっていることがある。
俺はどうやらあのモンスターを少々勘違いしていたらしい。即ち、蛇の中に何かがいるのではなく……
何かが蛇の皮を被っている。
「つまりは脱皮ってことかよ」
ガワはあくまでもガワだ、通りでダメージが入らないわけだ。鎧騎士相手に鎧だけ狙っているようなものだ。
そしてあの黒ツチノコの中にいる何かは目覚め……いや、皮を脱ぎ捨てようとしている。
何のために? メタ的に言えば第二形態、ロールプレイを気取って言うのなら……本気で俺を潰す為。
まるで風船の中でスーパーボールが跳ね回っているような、ただでさえ蛇としては奇妙な形を内側からの衝撃でさらに歪なものに変えていく黒ツチノコ。
見た限り黒ツチノコを内側から攻撃する「打点」は四つ。さっき引っ込んだ腕といい、これもしかしなくても、二腕二足的なモンスターじゃあ……
その時、黒ツチノコの身体が内側から「腕」に突き破られた。
先程までの形状として骨を肉と皮で包み、関節と指、爪を持つからこそ「腕」と呼称していたもどきとは違う。
よく女性の手や指を褒め称える時に「白魚のような」なんて言葉を使うが、まさしくその言葉が該当するような女性の手が、色を明確に判断することはできないが恐らく紫であろう黒ツチノコの体液に塗れて妖艶にしなる。
「オイオイ……前哨戦だぜ?」
ゴルドゥニーネのEXシナリオを発生させてすらいないのに、ここで人型ボスとか大盤振る舞いかよ……
「ハァァァァァア………」
「年齢制限的な要所要所は鱗で隠れてるが……完全な人型だな」
人型ではある、サイズが三メートルくらいあるって点に目を瞑れば人間にしか見えないだろう。大きなお山を二つお持ちだが普通に質量兵器だな、揺れるアレに当たったら死ぬな。
俯いているから顔は見えない、底冷えするような女? in黒ツチノコの吐息だけがやけに響く。こういう時BGMとか……無い、あっはいそうですか。
その時、ふと魔が差した。
「おい蛇女」
「………」
リュカオーンにはこちらの言葉を理解するだけの知能があった、ウェザエモンは人間、クターニッドはよく分からんがテレパシー的なものを、そしてヴァイスアッシュはなんでもないかのように人の言葉を使う。
じゃあもしかしたらゴルドゥニーネもそうなのでは?
そんな些細な疑問から、俺は三メートル程ある人型の女へと会話を試みた。
「服着ろよ、常識だぞ」
「…………ひ、ト」
空耳か? いや違う、呼吸で「と」の音は出ないだろう。
「自己紹介でもするか? 俺は……」
「わ、タシ、ハ………ゴるド、う、にぃネ」
自称ゴルドゥニーネが顔を上げる。
目が二つ、鼻があり耳があり……耳の根元まで引き裂けた口から伸びる先が二股に割れた長い舌、目は哺乳類のものとはかけ離れた爬虫類の眼、紛れもない蛇相はそれが人ではないことを明確に示していた。
「ゆエに……殺す」
「上等じゃねーか素材の足しにしてやるよ蛇女が!」
口裂け女を撃退する言葉ってなんだっけ、えーと……あ、そうだ思い出した。
「ナパームナパームってかぁ!?」
口裂け女一人を撃退するのに焼夷弾って、物騒な都市伝説だなぁ。
半裸の鳥頭「脱いでないで服着ろよ常識だぞ」
全裸の蛇女「お前に言われたかねーよ殺すぞ」
争いは、同じ変態の者同士でしか発生しない!!(AA略)
ゴルドゥニーネちゃんが非常に面倒くさい理由を書き連ねたいけど割と核心的なネタバレになるので話せないジレンマ
どれくらい面倒臭いかというと妖怪人間ベムにヤンデレとツンデレと暴力属性付与した上で優しさ皆無のけものフレンズスレイヤー=サンみたいな事になってます
にしてもなんで人型になったんでしょうね、不思議ですね(すっとぼけ)