狼争合意・大体予定通り
かつて結ばれた四クランによる同盟は「三クランが様々な便宜を図る」「一クランがユニークモンスターの情報を渡す」というものであった。
だが今回の六クランによる同盟は根本から以前のそれとは異なっている。
なにせ「一クランが主導権を持ち」「他クランはある程度の条件付きとはいえそれを承諾した」という形なのだから。
「6クラン、同盟……!?」
絶句するリベジタリアン、なにせ新たに加わる予定の2クランはそのどちらもが一線級のプレイヤー達によって構成されている。
「ははは……どうも、カローシスUQです。一応クラン「午後十時軍」のリーダーを務めています」
「キョージュ、まぁご存知の通りだろうが「ライブラリ」のクランリーダーだ」
「あー、ウチのリーダーが今ちょっと……ええと、武者修行の旅的な事してるので代理で来ました「SF-Zoo」のサブリーダー、ヴェットです」
「あー……まぁロールプレイはいらないか、「聖盾輝士団」で団長やってます、ジョゼットです。本日はそこの元PKさんに誘われて参上しました」
他プレイヤーの情報には疎い世捨て人なので具体的に彼らがどれくらい凄いのか、というのはいまいちピンとこないが少なくともトップクランであるという事だけは知っている。
午後十時以降にメインで活動する社会人を中心として結成され、大体のメンバーが死んだような目をしているものの社会の歯車らしい際立った組織力を持つ「午後十時軍」
攻略よりも考察を優先し、様々なクランや情報屋との繋がりからシャンフロで屈指の情報量を蓄積しているだろう「ライブラリ」
個人的所感としては民度はあまり宜しくはない印象であるが、クランメンバー全員の意思とプレイスタイルが統一されているため型にハマればリュカオーンすら封じ込める「SF-Zoo」
クランメンバー全員が同一規格の装備に身を包み、プレイヤークランの中でも特に異端な「所属メンバー全員がロールプレイガチ勢」という「聖女ちゃん親衛隊」……別名「聖盾輝士団」
「んふふふふ……私達は「旅狼」を盟主とした新しい同盟を作らんとしている、同盟の条件としては色々考えた結果こんな感じでね」
何やら他クランも巻き込んで悪巧みしているなぁ、とは感づいていたが要約すると新同盟の条件はこのような感じらしい。
・「旅狼」の持つ情報は「ライブラリ」を通して他クランに伝えられる、その後に広く公開される
・「旅狼」を盟主とする同盟に加わったクランは盟主を可能な限り支援する
・「旅狼」の鉄砲玉が獲得したユニークモンスターの情報はオークション形式で先んじて購入が可能
・「旅狼」がユニークモンスターの情報をある程度秘匿する事を認める
・「旅狼」がユニークシナリオEXをクラン内メンバーのみで攻略する可能性を認める
文章だけ見ると酷いなこれ。
「な、なん……こんな……!?」
「ちなみに彼らは皆、これらの条件を快ぉーく呑んでくれたよ?」
「はぁ!?」
リベベリベの驚きは理解できる、なにせあまりにも「旅狼」に有利なことしか書かれていない。
これでは実質ユニークモンスターに挑む盟主を支援するだけで「旅狼」以外のクランに旨味は殆ど無いに等しいのだから。
だがここでペンシルゴンの外道の業が光る。
この同盟内容、実はよくよく読んでみると殆ど意味がないのだ。
まず最初に「ライブラリ」を介した情報伝達だが、よくよく考えてみればそもそも間に手間を一つ挟んだだけで「旅狼」が情報を出し渋ればどちらにせよ参加クランに情報は届かない。ライブラリは基本的に非確定情報以外は隠さずに公開するし。
次に盟主への支援、これは「可能な限り」という言葉がある通り義務ではなく自由意志だ。この同盟条件には「支援しなかった場合」のペナルティには一切言及していない……つまり、言ってしまえば「支援しなくても問題ない」のだ。
非常に不本意だが鉄砲玉……つまり俺が得た情報は金を積めば他クランよりも先んじて得る事ができる。これは最初の条件を打ち消しており、言い換えれば「秘匿している情報も金を積めば売る」という意味だ。
そして四つ目、五つ目の条件……いや、ネタバラシと行こうか。
この二つの条件は……というか今挙げた条件全てが「黒狼」を、厳密にはリリリベベを騙すためだけに設定されたブラフだ、他クランには一切のダメージがない。
何故なら、この同盟はユニークモンスターとはほぼ無関係な理由で結成されたものなのだから。
「私は去る者追わず精神だからね、この新しい同盟に入りたくない、って事なら無理は言わないけど……?」
ニンマリと笑うペンシルゴンに、歯軋りで応えるリベベベリ。そもそも隣にトップがいるのにさも自分の判断がクランの総意みたいな態度するのはどうなんだ?
「私個人としては参加するべきだと思う」
「っはぁ!? 何言ってるんですかリーダー! こんな条件、ウチに全く利が無いじゃないですか!」
そうだね、ユニークモンスターに関する努力を全部「旅狼」に一任すればそうなるね。そもそも別に「旅狼」は協力体制を拒否するとは言ってないね。
というか条件の内容を読んだ上でもう一段下まで読み解け、って辺りペンシルゴンの悪質さが見えるな。現国のテストか何かかよ、作者の気持ちを考えろって問題あるけどあれって国語じゃなくて心理学の領域じゃないっすかね?
暫く黙して何も語らずリベリベリを見ていたサイガ-100であったが、望ましい答えが出ないと結論付けたのかため息を一つついて遂に……いやむしろ意外な事に他クランの代表がいるこの場で第三の議題を口にした。
「…………はぁ。同盟の件への返答は暫く待ってもらって構わないか?」
「構わないよ」
「では最後に……愚妹、もといサイガ-0が「旅狼」に移籍を希望している件についてだ」
「………」
「………」
この場にいるプレイヤーの多くが黙り込み、じっと当事者たるレイ氏に注目する。
実の所、俺はペンシルゴンがレイ氏を受け入れるのか否か、その真意を知らない。
黒狼を嵌める、という事は知っていたがレイ氏の処遇に関しては奴は言葉を濁し続けていたからな。今思えば裏でサイガ-100とそこらへんも話していたのかもしれないが、結論は俺もこの場で初めて聞く事になる。
「……そだね、友人の友人とかぶっちゃけ他人だしぃ? まぁそれなら私をムショにぶち込んだプレイヤーなら他人よりは一段上だよねぇ」
「そうか……では「黒狼」としてはサイガ-0にはこれまで彼女の育成にクランがかけた金額+消費した使い捨て魔術媒体分の代金を支払った時点でクランの脱退を認める」
至極あっさりと、いや所詮ゲーム内のグループから抜けるにしては大袈裟かもしれないが、思っていたよりも数段あっさりとペンシルゴンはレイ氏の受け入れを承認し、サイガ-100はレイ氏の離脱を承認した。
何やら非常に物申したそうな顔をするリリックスだが、例えクランリーダーだろうとプレイヤーの行動を縛り付ける権利はない故に何も言えない……と言ったところか。
「これ「トントン拍子」の実例としてこの映像を辞書に保存すべきじゃない?」
「むしろ「茶番」の実例じゃね?」
ぽつりと京ティメットが呟いた言葉に返事をしつつも、自分でも形容できない感情を帯びた視線をリペイントへと向ける。
なにせ嘲笑を通り越してもはや気の毒になるくらい外道に踊らされてるからなぁ……もう無理に強キャラムーブ維持しようとせずに、シンプルにキレた方が精神衛生的に健康じゃないか?
「黒狼」のサブリーダーは煽り耐性が絶無、とはあらかじめ聞いていたが流石にこれは耐性なさ過ぎじゃなかろうか。
実はこれが全て俺たちを欺く仮の姿、とかだったら拍手喝采で賞賛したっていいくらいのおがくずメンタルだ……よく燃えるという意味で。
「さて……」
ちらり、とオイカッツォを見る。
今の今まで黙り続けていたユニーク自発できないマンの出番がそろそろやってきそうだ、俺達によって速攻炎上するおがくずに大量のガソリンがぶち込まれた。
あとはそれを最大規模で起爆するだけだ。
もうすこしリベリオス君を賢くしてやりたいけどこういう手合いはオンラインゲーだと稀によく見かけるのでこのままでもいいかな……と悩み中