狼争真意・生け贄の山羊は誰だ
頭脳戦をやる作品を読んで自分も賢くなった気分で書けばモチベーションを保てる大発見
今更ながらやっぱりコイツ馬鹿なんじゃないかなと俺は思う。
まぁ実際目にして「あぁ、そういう層が多いんだな」と察したりもしたがやはり大規模なクランを運営する以上幹部クラスは優秀……というかこの手の運営に慣れたゲーマーが多い。
つまりなんだかんだ茶々を出されても操舵は狂わず、まともな判断が出来る「黒狼」相手にこの馬鹿野郎は正面切って拒否権を叩きつけやがったのだ。
今度は眉毛が動くだけではなく、明らかに顔を顰めたサイガ-100がゆっくりと口を開く。
「ふぅ………うん、一応聞こうか……何故?」
「私ら、別に「黒狼」のパシリってわけじゃないからね? タダで情報を寄越せと言われてへぇ畏まりましたとは行かないよねぇ……?」
「色々便宜を図ってやってるだろうが!」
ふふふ、馬鹿め。お前達のクランのリーダーが「できれば口を出さないでほしい」って顔をしてるのに気づかないのか。
お前達が出しゃばるたびにその足元に地雷が埋め込まれてるんだぜ? そしてその地雷は人を陥れる事に楽しさを感じる外道謹製だ。
「便宜? あの程度で? 冗談キツイねぇ……ライブラリやSF-Zooくらい情報アドバンテージがあるならともかく、ただ金があるだけのクランなら他にもごまんとあるんだよ? わかりゅ? りゅりゅりゅ?」
「あ、僕のパクられた」
「ウザさは完全上位互換だけどな」
「殴られても文句言えないでしょあれ」
俺からペンシルゴンにバトンタッチした時点で会話の主導権は奴が握っている。
「ライブラリは考察以外にも情報屋のギルド的な側面もある、なるほど確かにユニークを渡してでも仲良くなる価値があるねぇ」
「………」
「SF-Zooも最近ちょおーっとおイタしちゃったけど、動物型のモンスターに対するノウハウは一線を画してる。実際マーキング捕捉してリュカオーンの出現パターンを特定した、なんて聞いた時は流石の私も驚いたよ」
実際あそこ、色々問題を抱えているとはいえ普通に優秀……というかリアルでそういう職業とかの人がいる疑惑あるらしいからな。
ペットの病気を相談したらガチ知識で返答してくれた、とか聞いたことあるし。
「別にユニークモンスターの情報を渡さないってわけじゃないよ? 現にライブラリは私たちが提供した墓守のウェザエモンに関する情報は全て開示してるしね」
「それにリュカオーンの行動パターンとか割と提供したよな俺?」
チクチクと正当性の針でつついていく。言い返したいが下手な発言はペンシルゴンに掻っ攫われる。
それが分かっている奴はただ言われるがままに黙り込み、分かっていない奴は出しゃばりたがる。
「リーダー、ここは僕に任せてもらえませんか?」
き、
((((来たーっ!!))))
断言してもいい、今この瞬間旅狼側の四人は表情に出す出さないの違いこそあれ、全員が同じ感情を共有したと。
「あぁ、一応自己紹介を。僕はリベリオス、クラン「黒狼」のサブリーダーです」
「ほ、ほーん……ヨロシク」
笑い出しそうになるのを必死に押さえ込みながら返答。
表面上一切の変化が無いペンシルゴンは流石というべきか。
同じく顔に感情を出していない京ティメットも……いや、耳がめっちゃ揺れてるわ。
オイカッツォてめーはもう少しポーカーフェイスを覚えろや無理に表情を固めてるせいで梅干し口に含みながらアヘ顔してるみたいになってるぞ。
そんな俺の様子を見つめるサイガ-100は一つだけため息をつき、なぜかドヤ顔で出しゃばってきたリベリオス何某に無言で頷いた。
この場を任されたと判断しますますドヤ顔が深まっていくリベ何某の顔を鮭面越しに見つめつつ、心の中で同情の言葉を送ってやる。
かわいそうにリ何某、今回のスケープゴートは君だ。
時間は「黒狼」との談合開始よりもさらに前に巻き戻る。
「……えーと、つまり?」
「私とモモちゃんは裏で手を組んでる」
「聞いたか京ティメット、明日の談合が九割茶番になったぞ」
「詳しい説明を求む、って感じだね」
なんというか壮絶に酷過ぎるネタバレを食らった。
とはいえ事情聴取してから最終判断を下すべきだろう、場合によっては重石を括り付けて海に……いやなんでもない。
「モモちゃんはすぐ暴走するけどすぐ冷静になるところが欠点であり美点だからねぇ、それに根本的には穏健派だし」
「じゃあなんでわざわざ談合なんてやるんだよ」
「そりゃあこっちは少数で意識統一できてるけど向こうはそうじゃないし? 向こうはメンバーに明確な結果を理解させなきゃいけないもの」
まぁそれだけじゃないんだけどね、とぺろんと舌を出しながらペンシルゴンは続ける。
「そもそも黒狼が「ゲーマー」と「シャンフロのみガチ勢」で割れてるって話はしたよね?」
「そうだな」
「それ正解だけど間違いでもある、クラン「黒狼」はもっとシンプルに割れてるんだよ……「サイガ-100派」と「リベリオス派」にね」
そもそもガチ勢が求めるものとは何か、火力やステータス、誰よりも先に誰よりも高みにいるという事実……まぁ動機はなんでもいいが、要するに「他のやつより有利でありたい」という感情が根本原理だ。
だがここで疑問が出てくる、それこそがクラン「黒狼」が抱える最大の爆弾だ。
「穏健派、強硬派ってのも正しいけど間違い。正確には「リュカオーンを倒すことを目的とする派」と「トップクランであり続けることを目的とする派」なのさ」
そう、そもそもクラン「黒狼」……語呂が悪いという理由で「黒狼」と呼ばれるクランが作られたそもそもの理由はユニークモンスター「夜襲のリュカオーン」を倒す事だ。
ガチ装備に身を包み、トップクランとして君臨することは手段や過程であって目的ではない。
その点から言えばそもそも本来の「黒狼」はガチ勢クランではなく、ライブラリやSF-Zooのような「特定の目的」に特化したクランであったはずなのだ。
「あー……待て、なんか背景が見えてきたぞ……」
「奇遇だねサンラク、俺も嫌な予感がしてきた……」
「んっふっふ……そういう事、そもそも今回は「黒狼」と「旅狼」の衝突なんかじゃないんだよ」
「旅狼」+「黒狼」の穏健派と「黒狼」の強硬派の衝突。異なる二つのクラン同士のぶつかり合いではなく、そう見えるだけで実際は一つのクランの内ゲバに別クランが首を突っ込んだという構図。
「私とモモちゃんはマブダチだからねぇ、結構早い段階で色々と打診は貰ってたわけよ」
クラン「黒狼」……厳密にはリュカオーンを倒したいがために所属する者達はリュカオーンさえ倒せればいい。
なるほど確かにウェザエモンやクターニッドの情報は気になる、欲を言えば欲しい。だがそれは最優先事項を後回しにするだけの理由にはならない。
「ぶっちゃけモモちゃん達が欲しいのはサンラク君達が持つリュカオーンを倒したノウハウだけ、というかむしろ「旅狼」なんかよりも「SF-Zoo」との交渉に本腰を入れたいんじゃないかな」
SF-Zooに口止めさせている張本人がどの口でほざく、とは思うが言ったところで何か変わるわけでもないのでスルー。
「でもリベリオスを筆頭に「プレイヤーの中で一番」でありたいプレイヤー達はそうはいかない」
人間の欲望なんてものは結局のところ底なしなのだ、ナンバーワンにもなりたいしオンリーワンにもなりたい。
そんな奴らにとってユニークモンスターを次々と攻略していく弱小クランなんてものは、目の上のたんこぶ……いや、どれだけベストなスコアを出せても追い越せない音ゲーの一番上の名前みたいなもんだ。
邪魔で邪魔で仕方ないが、その情報は欲しい。
「リベリオス派の目的は「旅狼」からの搾取……もしくは吸収ってとこかな」
強者が弱者に強いることなんて大体その辺りだろう。理由なんていくらでも作ることが出来るし、トップクランに加入できるというのは一般的には「朗報」に部類される条件だ。
だが別に俺達は廃人に混ざりたくて遊んでいるわけじゃない。そもそも最初の「旅狼」は身内クランだ、正直ペンシルゴンが本格的に魔王プレイを開始した事で何か拗らせ始めている感は否めないが、少なくとも大手クランに吸収されてわーいやったぁ、とは喜べない。
「今回の段取りもおおよそ私とモモちゃんで仕組んでる。露骨な盤面、不甲斐ないクランリーダー、んふふふふ……」
にまぁ、と今この瞬間自分こそがシャンフロを最高に楽しんでいるとでも言いたげな笑顔を浮かべてペンシルゴンは宣言する。
「クラン「黒狼」を内部分裂させる、嗚呼なんて最高に楽しいんでしょう! ギスギスの不協和音が聞こえてくるようだね!」
「なぁオイカッツォ、そろそろ「俺たちは魔王にリアルで脅されてました」的な根回しした方がよくね?」
「んー、魔王が持ってるバズーカの弾頭が何言っても信じてくれないんじゃない?」
ハハハ、よっしゃその喧嘩買った。
前哨戦だ、ぶっ飛ばしてやるよユニーク自発できないマンがよぉーっ!!
船頭多くして船山に登るとは少し違いますが船で向かう先が大事な奴と向かうための船の豪華さが大事な奴の違い、って感じですね