やり込み要素は狂気の沙汰ほど面白い
ユニークシナリオ「兎の国ツアー」では、ヴォーパルバニーの依頼で「兎食の大蛇」というモンスターを撃破するという。
そもそもヴォーパルバニー以外ではユニークによって訪れたプレイヤーしかいないはずの国に、なんで「兎食」なんて物騒な名前のモンスターが出現するのか……その答えこそが七体目のユニークモンスターにあった。
「敬語を使うべきかな?」
「別に構いませんよ、妹からしてアレですから」
あぁ……まぁいいや。俺は執務室にある来客用の椅子に座りつつ、この国の実質的な国王であるエードワードとの会話を続ける。
「ゴルドゥニーネは己が住処から物理的にラビッツまでトンネルを作り、己の「分け身」と眷属を差し向けているのです」
「それは聞いた、文字どおり無尽蔵に湧き出続けるから戦線の押し上げはできても押し込みができない、ってのもな」
「ええ……かつて大規模な戦闘があり、かろうじてトンネルの半分まで押し込むことには成功しましたが……まぁ、その先は言うまでもないでしょう」
無尽のゴルドゥニーネ、名前からして不吉な予感を感じられずにはいられない「蛇」のユニークモンスター。
ツアーで訪れたプレイヤー達が倒すのはあくまでも眷属、それもヴォーパルバニー達が死守する防衛線から漏れたおこぼれに過ぎず……その真なる脅威は眷属という点に目を瞑っても象すら呑み込んでしまえそうな大蛇を率いる「分け身」の方だ。
「父から話は聞いているのでしょう? 防衛線を死守する同胞達は生還を考慮していない死兵であることは」
「ゴルドゥニーネの分け身がバラまく「毒」……俺が用があるのもそれなんだよ」
流石にゴルドゥニーネ本体と戦うようなことはなかったが、それでもヴァッシュ曰く「ゴルドゥニーネの特性上」分け身からでも「毒」を受け取ることは可能であるらしい。
生物学的なものではない、概念的な呪いは防衛として命を張るヴォーパルバニー達から帰還の可能性を摘み取る。ユニークモンスターが付与する「呪い」はそのユニークモンスターが倒されない限り解除されることはない。
そして「分け身」が倒されない限りゴルドゥニーネの呪いはヴォーパルバニー達を蝕み、防衛線の前か後ろか……どちらにせよ薄暗いトンネルの中で朽ち果てていく。
何より厄介な点は分け身側の制御下にある毒は伝染する、防衛に就くヴォーパルバニー達がラビッツへと戻れば、未曾有の災害が起きるというわけだ。
「なるほど……確かに貴方であればあの忌々しい毒に対抗することも可能でしょう、夜の帝王……リュカオーンの傷を持つ貴方であれば」
「というか、だな……むしろ俺は積極的に毒を喰らいに行くっつーか……あーうん、手っ取り早く言うと俺はその「分け身」ってやつに喧嘩を売りに行くつもりだ」
AIがそうなるように仕向けたのか、そもそもシナリオの既定路線として設計されているのかは分からない。だが新たな能力を獲得した兎月……現状産廃である【冥輝】君ではなくまだ期待のホープである【金照】の能力にある「結晶化効果」が今回の鍵を握っている。
「……ふむ、トンネルの制圧はラビッツにとって重要事項です。はて、地図をどこに置いたか……これか」
筒状に巻いた羊皮紙がエードワードの手によって転がされ、内側に書かれた情報を顕にする。
トンネルというからてっきり一本道なのかと思ったが、どうにも事態はもっとややこしいようだ。まっすぐラビッツと反対側をつなぐ太い一直線のトンネル、ラビッツ側の側壁面から根っこのように細いトンネルがいくつも伸びており、それが逆側のどこに繋がっているかは書かれていないものの蛇と兎の押し合いへし合いがどういう状況なのかをなんとなく察することができた。
「かつてゴルドゥニーネ本体が掘り起こした中央トンネル、我々が安全を確保したのはトンネルの三割……ここから先は未確認、もしくは封鎖できていない「横穴」がある可能性があり、さらにその先が最前線となっている」
「これ新しく横穴を作られて奇襲される可能性は?」
「既存の横穴を使用された場合ならともかく、新規で横穴を掘っていれば音で気づけます。と言っても人間の聴力でもそれが可能なのかは私には分かりかねますが……えぇ」
無理に決まってるだろうが、人間の耳と兎の耳じゃ性能が違いすぎる。少なくともプレイヤーがこれに参加する場合はノーモーション奇襲を警戒しないといけないみたいだな。
「ゴルドゥニーネの分け身……抜け殻がいるのはトンネルのここ、もし仮に貴方が分け身に挑むというのなら……」
至極あっさりと、シンプルなマップであるからこそ俺がすべきことも単純であるが故に、エードワードはあっさりと俺がやるべき無茶難題を口にした。
「安全に出発できるここからだとしても、おおよそここからここまで……ゴルドゥニーネの眷属をくぐり抜けながら駆け抜ける必要がありますが、貴方にそれができるので?」
だからこそ俺も、同じようにあっさりと答えてやる。
「できなくてもやる、できるまでやる、いつかできる……それが俺たち開拓者ってやつさ」
モンスターだらけのダンジョンをノーエンカウントで突破する? レベリングサボったプレイヤーのお約束じゃないか、縛りプレイならやって当然のこと、RTAならなおさらだ。
最適で動いて、最短を最速で駆け抜ける……多少のロスは目を瞑れ。そもそも雑魚エンカを回避するのは作業以外なら慣れたものよ。それが例え爬虫類オンリーモンスターハウスでもな。
「成る程、これもまた父さんの思惑通りか……手銭をきるたぁ豪勢な」
「ん?」
思惑?
「こちらの話です。ちょうど一週間後の夜、ラビッツでは大規模な防衛作戦が実施されるんですよ」
「ほう」
これまたタイミングの良い。
「目的は戦線の押し上げと第三区画から第四区画までの未だ未処理の横穴を塞ぐこと……もしも貴方がゴルドゥニーネの分け身を倒せると言うのであるなら、我々もその手助けをいたしましょう」
「上等、最低でも戦術的勝利は約束しよう」
「貴方の働き次第では例の件、考慮しましょう」
流石にプレイヤー一人で戦略的な勝利までは保証できない…………
例の件?
思えば新しい兎月に秋津茜チャレンジ、一週間後の防衛戦参加……一気にシャンフロでの予定が増えてしまった。
幸い来週の土日も特に予定はないので遠慮なくエナドリをキメることができるが、それよりも目下重要事項は明日……いや、もう今日か。今日の昼過ぎから始まる「旅狼」と「黒狼」のたのしいたのしいお話タイムだ。
要約すると黒狼の「ナマ言ってねぇでさっさと情報吐けや」という脅迫に対しウチの魔王が「うっせぇダボ、てめーらは黙って貢いでればいいんだよ」と言い返す……くっそしょーもない話し合いだ。しかもウチの魔王は外道二名と新規外道一名をパシリにして盛大な花火を仕込んでいると来た。
常日頃から外道モデルと外道プロゲーマーに挟まれた哀れな羊としてのゲーマー生活をしている俺だが、こんな楽しそうな花火大会現地で見なくてどこで見る。
「録画とかしてもいいかな……」
はてさて、一体どうなることやら。まぁ仮眠のつもりが大爆睡したせいで遅刻ギリギリなんだけど。
ゴルドゥニーネさんは脱ぎ癖がひどいししょっちゅう変態的行動をとるし殺意込みで粘着質という面倒臭さの役満
あまりに面倒くさすぎて脱ぎ捨てたものが自律行動し始めるくらい面倒臭いし、時間経過で中身が補填されて繁殖活動を開始し生態系が出来上がるというゴジラ・アースみたいな面倒臭いやつ