手痛い停滞って一体
声に出して読み上げたくなる激ウマギャグ(自画自賛)
「んー……んふふふ、まぁあの狸爺さまなら遅かれ早かれサンラク君単品に交渉しかけるとは思ってたけど、やっぱりこの機は逃さないよねぇ……」
「どうする?」
「ぶっちゃけライブラリを味方につけられるなら多少の出費は許容範囲だよ」
とても楽しげな笑みを浮かべるペンシルゴンではあったが、俺がチクった個人交渉に対して特に何かいうわけでもなく「特にヤバそうな情報以外は流してもいいんじゃない?」とだけ返された。
何やらオイカッツォや京ティメットを使いっ走りにして悪巧みしているようだが、生き生きしてんなぁこいつ……
「足を洗ったから大人しくしようと思ってたけど、周辺状況が私に動けと囁くんだから仕方ないよねぇ……んふふふふ、出来れば午後十時軍も引っ張り込みたかったけど贅沢は言えないか……」
「おーい、俺はソロプレイに戻るけどいいかー?」
「お好きにどうぞー、てか明日バックレないでねー」
流石にクラン全体でのイベントみたいなものだし、素知らぬ顔で蒸発するほど不義理な性格はしていない。
基本的に試合後は握手するタイプのルストモルドや、プレイヤーはみんな仲間! とか思ってそうな秋津茜はこういうギスギスドロドロした対人戦は好まないだろう。
実際チラと聞いてみたが興味も無さげだったので明日の談合には三人は参加しない。
一体ペンシルゴンが何をやらかすつもりなのかは当日になれば分かるだろうが……まぁ、今は俺がしたい事をしたいように遊ぶとしようかな。
万一の時は、しばらくシャンフロから離れることもあり得るわけだし。
と、言ったものの。
「え? ヴァッシュ……の兄貴いないの?」
「はいですわ、おとーちゃんはお友達に会いにいく、ってお出かけしたですわ!」
使い捨て魔術媒体でラビッツに帰還した俺は、ぶっちゃけユニークモンスターなのであろうヴァッシュにΔ装置を渡そうと思っていたのだが、どうやら素ですれ違ったらしい。
「そうか……」
出鼻を挫かれたな、こういう時間を任意で進めることができないゲームはこういう時不便だ。
シャンフロはリアルと時間がリンクしているからどう足掻いたところでヴァッシュが即帰ってくるわけでもないし……よし!
「寝る!」
「おやすみなさいですわ!」
まだ日も暮れていないんですがね!
なんだかやる事なす事すべき事がこんがらがってきてシャンフロをやる気分じゃないので、最近購入したアレを再開することに。
「……「龍宮院 富嶽全面協力! VR剣道教室・極」、ただの教材ソフトなのに単語パワーが強すぎる」
なんとなく調べてみたが、剣道の大家でクッソ強い爺さんが監修したのがこの一品だ。
そしてなんとなく察しているだろうが……岩巻さんの言っていた裏ボスとは龍宮院富嶽その人である。
今はもう亡くなられているらしいが、生前にUCEが全面協力してサイバー全盛期の現代に現れたリアル・ストロング・サムラーイの精巧なトレースAIの開発に成功したらしい。
トレースAI、という技術がある。
一時期にわか知識の現実主義者がクローンがー倫理がーと頓珍漢なデモをしたこともあるが、小難しい理論を全て端折って要約すると「元となった人物の思考を限りなく忠実にトレースしたAI」だ。
特殊なVRシステムを装着して、電脳空間内でなんらかのアクションをさせる。その際の行動パターンや思考を記録して反映させることで限りなく本人に近い思考パターンを持つAIが完成する。
あくまでも「この人だったらどう動くのか」を極限まで突き詰めたものでしかないので別に自我を獲得するわけでもないし当然人権もへったくれもない。
そうして完成したのが通称「裏ボス」と呼ばれるAI範士・極だ。
「通常プレイで出てくるのが範士で、極は特殊条件達成だったか……」
普通にプレイしていれば最後に戦うことになるのはAI範士であるが、五段以降から難易度が上がっていくごとにVRの剣道場内に掛けられく掛軸に書かれた文字を全部繋げてタイトル画面で唱えれば裏ボス出現、だったか。
「全部S評価、とかじゃなくてよかった」
半分ゲームのようなものだし、そこまで厳しいノルマは課されない。
惨憺たる評価ではあるが剣の道を全力で踏み外せば難易度段位でもそれなりに戦える。
難易度「AI教士」の腹に飛び蹴りを叩き込み、ぐらついたところをフルスイングでぶっ叩く。クリア、評価さんからは「E評価」と厳しめのお言葉を頂いた。
というかそもそも剣道着オンオフできる時点でこれ制作側もある程度邪道を前提で作ってないか。
「やっぱ……普通に武道の達人クラスになると、普通に強いな……」
ちょこちょことプレイして進めていたが、四段あたりから普通に苦戦するようになってきた。
段を過ぎて難易度がAI◯士になったらもうトライアンドエラーの繰り返しだ。
お前実はホバー移動してんじゃないかってくらい滑らかに動き回って後の先をデフォルトでかましてくるAIマネキン相手に既に数十は軽く超えるくらい床ペロさせられているが……というかもうなりふり構っていられないのでアメフトタックルやらプロレス技やら邪道全解禁してかろうじてG評価である。
「スキルでステータス盛れるアクションゲーって偉大だったんだな……」
このソフト内での俺のアバターのステータスを弄りたい、具体的にはAGIを1.5倍くらいにしてくれ。
あとついでに二段ジャンプできるとなお嬉しい。
「次が通常ラスボスか……」
張り倒す!
張り倒した(一勝二分四十三敗)
決め手はジャーマンスープレックスだったが……疲れた……とても疲れた……
「シャンフロの息抜きで息も絶え絶えになってちゃ世話ないな……さて」
とりあえず裏ボスに突撃してからシャンフロに戻るか。タイトル画面に戻って、と……
「えーと……「若き芽よ 西へ東へ 研ぎ鑽りて 枯葉踏み越え 咲かせ大輪」?」
短歌か、意味はちょっと分かりかねるが……いやいや現役高校生の古文力ナメんなよ?
えーと……これはつまり……うん、季語は枯葉かな?
このVR剣道教室のタイトル画面は道場の扉を開くことで始まる。そして特殊コマンドを入れたことで裏ボスが解放された道場内に入れば……
『モード選択で二刀流が解放されました!』
『オンライン対戦モード・改が解放されました!』
『隠し難易度、AI範士・極が解放されました!』
ほら来た。前二つは通常ボスを倒すことで解放されるモードだろう。
それはそれとして迷うことなく難易度を選択し、虚空に出力された竹刀を持って現れたそれと対峙する。
「二刀流か……」
俺は龍宮院 富嶽なる人物を触り程度にしか調べていない。
だから現れた今は亡き剣道家のスタイルが二刀流だという事も初めて知ったし…………
「おぐぇ!?」
俺ですらたった五秒で脳天に一撃を叩き込まれるほど強いという事も今初めて知った。
ウェザエモンのような理不尽な速さではない、ただただ普通に速い。そして最短を最適な動きでこちらが対応するよりも先に一発叩き込まれた。
……これは苦戦しそうだ、壮絶に。
「起きた!」
「おはようございますですわ!」
もう日が暮れてるけどな!
「帰って来てるですわ!」
「よっしゃ行くぞエムル!」
今の俺はVR龍宮院 富嶽の攻略の糸口が掴めなくてムシャクシャしている、ユニークシナリオEXを進展させて憂さ晴らしだ。
兎御殿の廊下を歩きつつ、俺はこれまでのユニークの状況を思い返す。
現状時点で他のユニークは参考にならない、敵を殴り倒すだけのウェザエモンや突き詰めれば単なるギミック付きのダンジョン攻略であるクターニッドと異なりこのEXシナリオは手順が多過ぎる。
他のユニークシナリオEXのクリアを条件として状況が進み、お使いクエストの他にもまだまだやることは多い気配がする。
最終的にヴァッシュと戦うことになるのか、それとも他の達成条件があるのか……そう考えるとそもそもユニークモンスターとは本当に倒せるのか?
逆の発想だ、むしろ倒せたウェザエモンが例外なのであって、本来ユニークモンスターとは撃破しても消滅しない……つまり再戦可能なモンスターなのではないか?
よくよく考えてみればユニーク「シナリオ」だ、ユニークモンスターにまつわる物語をクリアすることが目的であって、別にユニークモンスター自身が必ずしも打倒されるボスを務めるわけではない?
可能性としては低くはないな、例えばの話もしも「遠き日のセツナ」がユニークモンスターであったなら、そのシナリオ内におけるボスがウェザエモン、でもシナリオ的に破綻はしない。
クターニッドだって見方を変えれば奴が作った箱庭にピクニックに行ってデカいタコと遊んで来ただけ、とも言えるしな。
「そもそもユニークモンスターは何を以ってしてユニークとして成立しているんだ……? ストーリー的な立ち位置、神代、世界観における引き継ぎ要素的な……」
「サンラクサン! まーた上の空ですわっ! もう扉の前ですわーっ!」
ぐえっ、マントを引っ張るなマントを。
「っし、じゃあお使いの達成を報告しに行くとするか」
はてさて、何が起きるやら……
まぁ結論から言うと先にログインしていた秋津茜の「兎の国からの招待」でコロシアムに行ったらしく、エムルを抱えて全力疾走でコロシアムに走った。
Q.この富嶽って爺さんどれくらい強いの?
A.カテゴリ的にVRモノ小説でありながらバガボンド世界の住人だろテメーってレベル
まぁぶっちゃけるとユニークモンスターに限っては天才さんの猛烈な抗議により「ストーリー性>>ゲーム性」になってます、なお天才さんの意見をもし全て通していたらストーリー性とゲーム性の間にある不等号の数が十倍位になってました。天地と木兎夜枝がめっちゃ頑張った。