2ヶ月使い倒したPlay for Dream MRを実用目線でレビューする:世界初の実用的4KスタンドアロンVRヘッドセット
Note: English version is available here.
画質は、高ければ高いほど良い。
少なくともVRヘッドセットは2025年時点でそういう段階にある。初代Questにはじまり、Oculus Rift S、Quest2、Quest3と順当に所有し進化を追いかけてきた人間として、画質が上がる「感動」の大きさを知っていたので、片目4Kのヘッドセットには非常に興味があった。
問題はやはり価格、そして実用性。4Kヘッドセットは、使用するOLED(有機EL)パネルが非常に高価な関係上、現実的な価格は30万円越えになってしまう。Apple Vision Proにいたっては驚きの60万円。さすがにこの価格だと、役に立たないオモチャは買えない。
そして自分が欲しかったのはつまり「4K画質のQuest」だ。スタンドアロンでワイヤレスPC-VRができ、ちょっとした映像鑑賞やゲームも単体ででき、持ち運び可能で、なによりソフトウェアが実用レベルで安定していること。そしてそんな条件を満たす製品は存在しなかった。今までは。
要するに、Play for Dream MRとはそういう製品である。
◆概要
Play for Dream MR(以下PfD)は、上海のPlay for Dream社(旧YVR社)が開発したVRヘッドセット。
YVRは2020年から2機種のスタンドアロン(PC不要で動作する)VRヘッドセットを投入し、日本での知名度の低さと裏腹にインサイドアウト(ベースステーション不要の単体)トラッキングでは好評価を受けており、またQuest3やPico4と同じ最新のパンケーキレンズ採用の機種も開発している。
クラウドファンディングの「夢のVRヘッドセット」が出荷すらされない様子を見てきてなお自分が冒険できたのは、こういう実績がある会社が、しかも現に製品として出荷しており、さらに2025年1月のCESで「今回の目玉」とまでの高評価を受けていたからだ。
PfDのスペックは、一言で言えば「4K版Pico4 Ultra」あるいは「4K版Quest Pro」といって差し支えない。VRマニアが渇望しつつもキャンセルされてきたQuest Pro 2に近い。
片目3840x3554、両目8Kの高画質OLEDパネル
Snapdragon XR2+ Gen2(Quest3やPico4 Ultraが搭載するXR2のクロックアップ版)搭載でスタンドアロン動作
コントローラー付属。ハンドトラッキング、アイトラッキング操作可能
高画質&低遅延のカラーパススルー
バッテリーを後頭部に内蔵し、良好な前後バランス
Androidベースの独自OS搭載
スペックを羅列するとこの通りで、2025年時点の「夢のVRヘッドセット」と言える。ただこの手の製品はカタログスペックだけはいいが…という生煮えな製品も数多くあるので油断は禁物。
…とか正直懸念もあったけど、結局手が滑って買ってしまった(テヘ
My new gear… #mynewgear pic.twitter.com/7u3UoSY2ey
— ハルジオン (@fleabane_haru) May 21, 2025
というわけで今回、興味を持っている皆さんに向けてPfDを2ヶ月実用して使い倒した結果を、用途ごとに詳しくレビューしていく。具体的には「PC-VR」「映像視聴」「仮想ディスプレイ」「スタンドアロン(空間コンピューティング)」「VRカメラ」の5項目。実用しての評価を中心に、Discordコミュニティ発の情報なども織り交ぜた、世界一詳しいレビューだ。
できることが多い関係上、内容が長いのでまずは「全体的な機能」を読んだあと、自分の想定する用途の項目に絞って読むのをおすすめする。
なお断りがない限り、執筆時点での最新のOS3.5アップデート(2025/7/5配信)を前提にしている。
はたして30万円+を払うに足るデバイスなのか、ぜひその目で見定めてほしい。
◆全体的な機能
まず全用途に共通して関係する、主にハードウェア面のスペックについて触れる。はたしてPlay for Dream MRとはどのようなヘッドセットなのか?
画質面
本機の最大のウリは間違いなくここ。現在のVRヘッドセット最高クラスの解像度。Quest3:2064x2208、Pico4U:2160x2160、Bigscreen Beyond系:2560x2560に対して、PfDは3840x3552という隔絶した解像度を誇る。
実際これは被れば一発で分かるほどの差で、ホーム画面のアイコンすら美しく見える。実用面でどんな差がつくかは、各用途の項目に任せる。
さらに嬉しいのがパネルがOLED(有機EL)な点。OLEDは液晶と違って自発光素子なので、黒が白ボケせず、くっきり黒として描画され、コントラストが高い。なので暗闇の描画が美しく、色味も「生」っぽく見える。こちらはやや好みもあるが、解像度以外でも映像の表現力は高いといえるだろう。
装着感
装着感は、デフォルト状態でも問題なく使えるくらいには良くできている。バッテリーが後頭部にあり前後バランスが良いので、重量の割に首への負担が少ない。
またストラップが本体から若干斜め上に伸び、頭部をハの字型にホールドする作りなので、頭頂に回すストラップはないがフィット感がある。また接眼部の質感や遮蔽も割と良い。社外アクセサリが期待できない製品なので、ここはかなり助かるポイント。
あと、空間ビデオ撮影などで人前で装着することも多い関係上、装着した見た目が(当社比で)カッコイイのもありがたい。Apple Vision Proにも間違われやすいし
ただ650gという重さは少し重い。若干クッション性の足りない接眼部周りに圧迫感があり、長時間装着すると疲れてくる。もう一声軽くならんか、というのが正直な感想。HMDの長時間装着に慣れていない人は、1-2時間程度で疲労を感じて外したくなるだろう。
もっともこれは他のスタンドアロンヘッドセットと同程度。実際、Quest3もエリートストラップ込みだと重量はおよそ640g(カタログ値の515gは本体+ペラペラのストラップの重量)とほぼ同じで、Pico4 Ultraも580gと、PfDの650gとは僅差。高画質筆頭のPimax一族やVarjoに比べれば全然軽い。なのでこうした機種に慣れている人なら問題ないだろう。
ちなみに自分含めユーザー間では、左右に渡すストラップを追加したり、中には3Dプリンタで顔に合う接眼部を自作したりして、長時間装着を楽にする改造が多数見られる。こうした改造で疲労感は結構マシになる。
コントローラー
付属のコントローラーはPfD独自のものでType-Cでの充電式。かなり出来がよく、Quest3コンより軽量・コンパクトで手に馴染む形をしている。ネガは中指のスイッチ(Grab動作によく使う)がQuest系のようなトリガーではなく、ON/OFFのみのカチッと押すボタン式な点。まあ実用上はここの調整が必要なソフトでなければ問題はない。人差し指の方はちゃんとトリガー。
トラッキングは時々プルプルするものの、基本的に安定していてほぼ不自由はない。特定の姿勢で飛ぶバグや、カメラ範囲外に回った時の挙動の不安定さ(特にBeat Saberやゴルフゲームで顕著。Questはこれをうまくソフトで補完している)などもあるが、アプデで改善傾向にある。
光学系(レンズやソフト補正など)
実はヘッドセットの画質はパネルの解像度だけによらず、むしろ光学系の重要度のほうが高い。ここはスペックに現れない部分なので心配していたが、PfDは想像以上だった。
パンケーキレンズ光学系で問題になるレンズでの歪みや色収差は、以前は調整が甘かったのか、中心部は美麗の一言だったものの、エッジ近くでは粗がかなり気になった。だが、発売から4ヶ月、アプデにより大幅に改善。まだ若干エッジ部では色収差が気になり、Quest3やQuest Pro同等とはいかずとも、現行HMDでも上位のEdge-to-edge clarityと感じる(パンケーキレンズの機種だとPico・その他<PfD<Quest3・Proというのが一般的な評価)。
コントラストの強いOLEDだけにグレア(迷光によるにじみ)はやや目立ち、レビューでもよく指摘されているが、正直実用上は気にはならなかった。
特記事項として、PfDはインサートレンズ(要は内蔵メガネ)を純正で準備しており、アイトラッキングを邪魔しない上、レンズに合わせた歪み補正までOS設定に実装している。これは中々うれしい点(ただしレンズは現状、公式からの海外通販でしか買えずMakuakeにはラインナップされていないので注意)
解像度の設定
PfDは(SteamVRなどの描画解像度とは別に)ヘッドセット本体の解像度設定が変更できる。設定は以下の3つ。
フル3K:解像度を4K→3Kに落とし、バッテリー消費や発熱を抑える
4K Foveated Rendering:アイトラを使い視線方向のみを4Kで描画
フル4K:常時全画面を4K描画する最高画質設定(現在β版)
自分含めユーザー間ではフル4K運用が主流で、β版と言いつつ安定動作している。よって基本的にはフル4K前提でレビューを進める。
パススルー
高画質ばかりが注目されがちだが、PfDの地味にすごい点がパススルーの完成度。高性能チップを積んだAVPならいざしらず、Meta Quest3とほぼ同じSoCながら、PfDのパススルーは画質・低遅延・歪みの少なさ・遠近感・使い勝手といったあらゆる面でQuest3を遥かに上回る。
特に遅延は14msという知覚できるかギリギリの値で、72Hz(=14ms)駆動のディスプレイが(多分)ボトルネックなのは驚き。PfDを被ったままポルシェでスラローム走行するという、スゴイんだけどイマイチ伝わらないPVで公式もその出来をアピールしている。
で、具体的にどれくらい便利かと言うと、ヘッドセットを外さなくてもスマホの文字がある程度読める。被ったままちょっと飲み物を取りに行ける。つけたまま人混みを歩ける。自分の目で見ているのに比べてもほぼ違和感のない視界が得られるのだ。
さすがに細かい文字はぼやけるが、それでも問題なく読める
とにかくQuest3などで感じる気持ち悪い視界の歪みや遅延がない。明暗への反応もよく、なるほどこれは車も運転できると納得。
しかもパススルーの切り替えがハードウェアキーに設定できる。本体の右側ボタンをダブルクリックで切り替え。反応もよく、これが本当に便利。これはどの用途でも生きる。
あえて欠点を上げるなら、低遅延モードでは少し映像にノイズが残る点か。
これは高画質モードでは消えるが、遅延が40msと目に見えて悪化する。結局ここはトレードオフ。他、深度情報優先などのモードもあるが、使った感じこの低遅延&視覚体験優先モードが一番自然で良かったし、ノイズも正直さほど気にはならない。
ハンドトラッキング
PfDはQuestのように仮想画面をタッチするなど高度なハンドトラッキングはできず、手をコントローラー同様に使う設計思想。手を伏せた状態でポインティングし、親指と人差指のタップで決定。割り切っているが実用的で好感触。雰囲気は公式のこの動画を見てもらうと分かる。
ただ意図せず暴発する時があり、不要時はトラッキングされないように注意が必要なのは面倒な所。やはり使えるならコントローラーを使いたい。また没入型のアプリの一部はハンドトラッキング操作が不可な点も注意。
バッテリーと電費
どうしようもないハードウェア的な最大の難点が、バッテリー持ちの悪さ。内臓の5000mAhクラスのバッテリーを、PfDはものの1時間で使い切ってしまう。Quest系の半分以下だ。
そもそもVRヘッドセット自体がバッテリー持ちのいいデバイスではないとはいえ、10000mAhのモバイルバッテリーを繋いでも3時間で電池切れ。結構な燃費の悪さで、外部電源の有無が実用性を大きく左右する。
なおPfDの最大充電速度はおそらく12V・2.5Aでの30Wで、給電側の機器はおそらくUSB-PDのオプション規格12Vに対応してる必要がある。
よってモバイルバッテリーや付属品以外のUSBチャージャーを買う際は、12V給電&最低30W出力に対応している機器を買うのが望ましいだろう。さもなくば給電してるのに電池切れという悲しい自体に遭遇する。モバイルバッテリーなら容量も20000mAhくらいは欲しい。
20000mAhのバッテリーを携帯して稼働時間がやっとこ5時間。結構な大喰らいだが、30Wの高速充電のおかげで30分で満充電になるし、まあゲーミングノートPCよりはマシか…。
外部機器の接続性
実はPfDはいわば被るAndroidスマホで、スマホで使えるType-C接続のデバイスならほぼなんでも使える。Bluetooth機器ももちろんOK。有線LANやUSBメモリ、イヤホン、マイク、ヘッドセット、キーボード、おおよそなんでもつなぎ放題。この拡張性は他のヘッドセットにない魅力で、様々な用途で光る。ただし映像の入出力には非対応なのと、マウスはUIの都合上動作しない点は注意。
難点はポートが充電兼用の1つしかない点。
これはType-Cハブを挿せば解決するが、充電ができないと電池切れまっしぐらなので、パススルー充電可のものを選ぶこと。常にくくりつけておくには重いが、こういうハブを一個持っておくと役に立つ。
通信関係
PfDは最新のWi-Fi7に対応している。Wi-Fi7のウリのMLO(2.4, 5, 6GHzの各帯域を束ねて使う通信)も問題なく接続できており、通信速度は2882Mbps(リンクの規格上の上限速度)までいけることは確認。
ただしQuest3やPico4 Ultraと比べ実効通信速度が伸びない(Quest3やPico4 traは1300Mbpsとか1900Mbps出るのに、PfDは1000Mbpsも出ないらしい)という不具合があり、レイテンシも若干悪いらしい。これは現在開発側で原因調査中とのこと。まあ現状でも普通に使う分には問題ない。
どちらにせよ実用上、MLOより6GHz帯で繋いだほうが安定する(6GHz帯は対応デバイスが少ないために混雑していないのだ)し、ならそもそもWi-Fi 7でなくWi-Fi 6Eで十分では?という話もあり、Wi-Fi 7対応ルーターをあえて買う必要はない。
ソフトウェアのアップデート
個人的に高く評価しているのがソフトウェアのアップデートが爆速なこと。活発なDiscordコミュニティから意見を吸い上げ、月1の大規模アップデートを繰り返している。
画質や補正の強化、コントローラー/ハンド/アイトラッキングなど基本機能の改善を始め、障害物検知やトラベルモードなどの比較的大きな機能追加、またマイクの改善やナイトモードの追加など、かゆい所に手が届く更新も多い。特に周縁部の画質などは別物というくらい改善されている(デリバリー時のOS3.1⇒現在のOS3.5で不満がほぼ解消された)。
粗削りで出したと言えなくもないが、ユーザーの声を聞き優先度付けして発売後もソフトウェア開発を精力的に行っていること、その開発体制があることは、個人的に非常に高く評価している(し、Metaが他のHMDメーカーと一線を画しているのはまさにその点だと考えている 聞いてるかVive)。
◯ユーザーサポート
ここは製品としての弱点で、ユーザーマニュアルがないに等しい。本体内臓の電子マニュアルにはマジで基本的なことしか書いていない。情報は公式Discordや公式Youtubeチャンネルなどに分散しており、体系的に整理されていない。そもそもアプデで機能追加・変更が繰り返されている段階だし、このレビューで触れているアプリのサイドロードのようにアングラ的でマニュアルに書くわけにはいかない内容もそこそこある(今回のレビューはそうした情報を日本語でまとめておくという意味もある)。
まあ公式Discordをキーワード検索すれば大概の情報は拾えるし、公式・ユーザーともレスが早い。情報は全て英語というのは日本のユーザーにとって割とネガだと思う。ともあれ、色々な募集や改善要望のフィードバック、アプデ情報のちら見せなどは全てDiscord上なので、購入するなら必ず参加することを勧める。なおメールでのサポート窓口もレスポンスはよかった。
◇携帯性
サイズ感はほぼQuest系と同じで、Quest Pro/3用のケースが流用可能。コントローラーもちょうどいい感じに収まる。自分も使っているケースがこれで、多少の周辺機器も入るのでこれがあれば持ち出すのに不便はない。荷物が一個増えるのを我慢すれば、現実的に旅行に持ち出せる携帯性だろう。
◇小まとめ
と、以上のようにPfDはQuest Pro 2ですと言って出されても驚かないくらいの割と理想的なスペックに見える(バッテリー持ちを除けば)。が、既に片鱗が見えているようにスペックからは見えてこない、実際に使ってみないと見えてこない様々なメリット・デメリットも多々ある。
ここからは、以下の5つの用途について自分が実際に使って見た結果を踏まえ、良い点と悪い点に分けて項目別に詳しく解説していく。
PC-VR:SteamVRでのゲーム用途
映像視聴:映像作品などを視聴する用途
仮想ディスプレイ:PCと接続しての大画面での生産性用途
スタンドアロン(空間コンピューティング):単機でのアプリ利用用途
VRカメラ:VR180映像(空間ビデオ)の撮影用途
ではここからが長くなるが、いってみよう。
◆PC-VR用途
まずは中心となるであろう、ワイヤレスPC-VRストリーミング用途から。これはVRChatをはじめ、SkyrimVRやDCSといったSteamVRゲームをPfDに投影して遊ぶ用途。
公式が最も重視している使い道であり、Discordコミュニティを見る限りこのために買っているユーザーが一番多い(ただVRChatで使っている人はほぼ見ない:英語コミュニティだから?)。
◯世界最高の高画質
こんなマニアックなヘッドセットを買う理由は一も二もなくコレだろう。目玉の片目4K・3840x3554の超高画質。実際使ってみて、これはやはり一言「感動」という他ない。VRChatだとたとえばComplex 7の広場が、手前から遠景まで一切潰れずクリアなまま、一つの景色として見える。画素潰れによるノイズがないので本当に目の前にあるかのようにくっきりと見えて実在感がある。OLEDの優れた色表現もあって、映像表現は間違いなく最高クラス。遠景までくっきり描画される高負荷なゲームほど恩恵は大きいだろう。DCSをプレイしている公式の動画も参考に。
(※スクショ時に圧縮済みなので画質は元よりだいぶ悪い)
◯無線ストリーミング
同じく4K OLEDを採用するMeganeX SL 8KやPimax Dream Airに対して、PfDが明確に勝っているのがここ。無線化可能。この用途はPfD向けにVirtual Desktop(以下VD)がリリースされたことで完全に実用レベルになった。25ドル(4000円)追加で支払う必要はあるが、さすがVD、使い勝手も安定度も優秀。PfD自体が無名のHMDとは思えないほどOSが安定しているのもあり、Questとまったく同じ感覚で安心して使える。
なお無料で使える公式クライアントは、無線はもちろんVDが非対応のUSBでの有線接続にも対応している(※Discordで配布のドライバの導入が必要)。ただし安定性や画質、手軽さなど実用面はVDが勝る。基本的にはVDを使い、有線ないしALVRで細かい設定をしたい場合は公式クライアント、と使い分けるのがいいだろう。
なお、有線化しても画質は上がらない。どうやらボトルネックは無線通信ではなくSoCのSnapdragon XR2+ Gen2の性能らしく、有線化のメリットは電波環境に左右されない&WiFi環境なしでも使えるという点に限られる。
◯パススルーは便利
Quest3よりもさらに頭一つ抜けた高画質パススルーは、ゲームから一時離脱したりスマホを見たり、あるいはVDを活かして部分的にパススルーで手元を映したりといった様々な用途で効果を発揮する。遠近感や歪みに違和感がないのは本当に良い。
またパススルーの切り替え/復帰も本体右ボタンのWクリックで、復帰も早いので非常に実用的。Quest3に明確に勝っている点。
✕解像度が使い切れないことが多い
一方、実際は解像度を持て余すシーンが多い。VRChatでも比較的近くのオブジェクトでは、画面の解像度が良くてもテクスチャの解像度が足りず、解像度で1.7倍の差があるQuest3と比べても思ったほど違わないと感じるシーンがそこそこある。4Kモニターにスーファミを繋いでも画質は上がらないということだ。
これほどの高解像度を想定していないコンテンツがまだ多いというのは他の全ての用途で言える課題になる。別記事で解説しているが、当面普及価格帯のVRHMDは3K以下の解像度に止まるので、コンテンツ側の解像度不足の問題はまだしばらく続くだろう。
✕ハイエンドグラボが必須
さて、4K描画の大きな課題と誰もが予想するだろうグラボの描画性能。実際、相当に重い。
そもそもVRはDLSSやAFMFといったGPUのフレーム補間技術が使えない上、PfDの高解像度で両目2画面の描画が要る(つまり解像度7680x3554)ので、普通のゲームタイトルから比べると異常に重たい。
自分はRADEONのRX 7900 XTX(性能的にはRTX 4080クラス)を使っているが、3840x3554のフル4K描画(VDのMonsterモード)だと、VRChatのほぼ何もないワールドで40fps台。Complex 7のような重いワールドだと一人でも20fps台になる。latencyはfpsに応じて60-90msほど。
ある程度快適な30fps台を実用シーンで求めるなら、やはり4090クラスが必要だろう。
(※ただし、先ほどベンチマークで出したVRChatは非常に重いゲームなので、他のPCVRタイトルなら必要スペックはもう1、2段下がる。一般的には3080~4080もあれば十分だろう)
とはいえfpsを多少我慢すれば使えるし、また画質を一つ落としてGodlike(解像度3264x3024:それでもQuest3の1.5倍)にすれば7900XTXや4080でもVRChatでは十分実用範囲。実はこれでも十分すぎるぐらい高画質。自分はVRChatではこの2つを使い分けている。
たださらにワンランク下の4070はGodlikeでもそろそろ辛そうで、グラボをアップデートしなければ買うのは少しもったいない。Quest3やBigscreen beyond系の方がベターだろう。
念のためこれはVRChatの話で、もっと軽いVRタイトルなら4070でも多分いけるだろう。ともかくVRChatならグラボに最低15万円、軽いタイトルでも10万円は払う覚悟が必要になる。
✕良好な通信環境が必要
また、もう一つの課題が通信環境。フル4Kを無線運用するには、高効率なAV1コーデックでも200Mbpsが必要。現状最高画質の設定を狙う場合にいたっては、H.264でなんと600Mbpsの通信速度が安定して必要になる。
これにはそれなりにちゃんとした通信環境が必要で、
PC-無線ルーター間は当然、有線LAN接続
PfDと通信する無線ルーターはWi-Fi 6EまたはWi-Fi7対応
無線ルーターは同じ室内に置かれていること(壁一枚隔てても多分ダメ)
まあWi-Fi 6EルーターとLANケーブル20mは買っても2万円しないので(こんなモンスターマシン買う人なら)余裕だろうが、住居環境の制約は人によっては対処が難しいのでご注意。
一応Type-Cポート経由で有線LAN通信も可能だし、USB接続という手もあるが、安定性・実用性・画質いずれの面からも無線化を優先して検討することを勧める。
✕やっぱり長時間装着は疲れる
全体的な機能でも触れた通り、装着感はよく調整されているものの、それでも不慣れな人には長時間装着は辛い。一般人なら1時間ごとに休憩したくなるだろう。一応ベルトの追加などで割とよくはなる。
逆に言えば、500g級のヘッドセットを被り慣れているなら心配無用。毎日Questを何時間も被っているようなVRChatterならへっちゃらのはず。
✕マイクの音質がイマイチ
PfDの内蔵マイクはやたらピックアップが良く、後述の空間ビデオ用途では周囲の音までしっかり拾ってくれる。…のだが、これに合わせて調整したためか、肝心の話し声の音質が今ひとつ良くない。これも一応アプデで改善されつつはある。
ただゲインは相変わらず大きいので、VDの設定から音量を10-20%くらいまで下げよう。さもなくば音がめっちゃ歪む。
ただエコーキャンセル機能がないのはキツく、さすがに内蔵スピーカーの音がガンガンループしてマイクに乗るのは参った。Virtual DesktopでVRChatなどをプレイするなら、Noise Cancellingをオンにする必要がある。
やや面倒だが、音質にこだわるなら外部マイクをType-C接続するのがよい。その場合USB-Cのパススルー充電分岐ケーブルをセットで買おう(どっちも買って動作確認済み)。
✕VRChatを意識したHMDではない
どうも公式Discordの雰囲気を見るに、PicoやMeganeXのようにVRChat用途を意識して開発されてはいなさそう。
例えば搭載されているアイトラッキングは、空間コンピューティングでの入力やFoveated Renderingが目的。一応Virtual Desktop経由でアイトラはできるが、アバターの入力として使うには検出が不安定で、一応動くけど…というレベル。将来的にアプデで改善の可能性はあるが、Quest Pro並のクオリティになる日は来ないだろう。
顔トラ(カメラを使った口元の動きのトラッキング)も対応計画はないと公式が発言している。現時点でアバターの表現力を上げる方向での機能追加はないと思ったほうがいい。VRChat用途では無線と高画質がウリのヘッドセット以上でも以下でもない。
◇まとめ
グラボや通信環境に求められるハードル(と予算)は相応に高いのは間違いなく、コンテンツ側がネックで自慢の高解像度を活かしきれない事もある。またマイクやスピーカーの音質など細かい部分もアラがある。
ただ画質の美麗さは筆舌に尽くし難く、それは細かいネガを全部ひっくり返すくらいのパワーが有る。そしてPCや周辺機器も応現実的に用意できる範疇だ。
VDのおかげもあり使用感はほぼQuest並に安定しており、パススルーの実用性も非常に高い。唯一無二の高画質・ワイヤレスに魅力を感じるならぜひ検討してみてほしい。
◆映像視聴用途
次にBigscreen beyond(以下BsB)などでも重視されている「大画面独り占めのパーソナル映画館」としての用途。定番機Questに対し、OLED&高画質という大きなアドバンテージを持つのはBsBと同じだが、PfDならではの特色として、現状世界最高の8K画質に加えてスタンドアロンのため動画を見るのにPCが不要という点がある。
◯PC不要で動画鑑賞可能なオールインワン機
まず映像データを直接再生する場合。高画質を楽しむなら基本これ。
手持ちの動画を内蔵ストレージに転送して視聴するのが基本的な使い方になる。内蔵ストレージは512GBと映画も数十本は保存できるので、出先へ持ち出すにも安心(いざという時はType-Cポートから外部ストレージを接続する手もある)。
また動画再生アプリも、独自開発のアプリDream Cinemaがプリインストールされている。安心なことに出来もそこそこよく、アプデも計画中。なお宅内にNASやDLNAサーバーがある場合は、そこから直接再生も可能。
(※スクショの明るさとコントラストはみやすさのため調整している)
そしてストリーミング再生だが、実はこいつ、なんとスマホ用のAndroidアプリがインストールできる。QuestのようにVRに最適化されたアプリではなく、現時点ではスマホ同様の2Dアプリだが、ここは面白い点。NetflixもHuluもTVerも、(多少ハードルは上がるが)Youtubeも、Androidで見れるやつならなんでもいける。実際に自分はこいつでPrime Videoで映画を見たり、Youtubeを見たりしている。Questなんかより遥かにやりたい放題である。
ただし詳しくは後述するが、Google Playストア非対応・Googleサービス非対応という一般人には少しキツい仕様であり、またWidevine L1に非対応というネガがあるため、アプリからは高画質が活きるフルFDや4K映像を見ることはできない。
まあVirtual DesktopでPCからストリーミングすれば高画質で見られるのだが、スタンドアロンという重要な個性が…。
◯優れた画質(HMDとしては)
最大のウリだけあって画質面は実に良好。OLEDの色調とコントラストの高さが、フェイスガードによる遮光下で一層魅力的に映える。色鮮やかさと精細さは息を呑むほどで、まさにプライベートシネマ。黒が美しいOLEDをこの大画面で楽しめるという一点だけでも、人によっては十分30万円以上払う価値がある(実際OLEDのテレビは55インチで10万円~30万円、65インチで20-40万するが、PfDはそれより遥かにデカくて、しかも持ち運べるのだ)。
まあ画面の光量は最大でも必要十分ちょうどだが、遮光下なので問題ないだろう。真っ暗な没入環境で映像に集中するもよし、見慣れた部屋と手元の飲み物をパススルーで見ながら視聴するもよし。この自由度はARグラスにはないパススルー付VRヘッドセットの良さだ。
ただ複雑な光学系を通す関係上、モニターやスクリーンで見る時に比べてどうしても視界の端では精細さが失われる。理論上は1000インチの大画面にできるとはいえ、あまり欲張って引き伸ばすと忙しなく視線や首を巡らせることになり、かえって視聴体験を損なう。ここは期待しすぎず、程よいサイズでのんびり視聴するのがいい。
◯トラベルモードがある
さて、ARグラスなどが盛んに宣伝している出先での映像視聴にもPfDは対応している。
IMUとカメラを併用し位置をトラッキングするヘッドセットは、車や電車、飛行機などでの移動中はトラッキングが乱れる。これでは操作はおろか、映像視聴すらもおぼつかない。これを安定化するのが「トラベルモード」。QuestやApple Vision Proでは既に実装されているが、PicoやViveなどには実装されていない貴重な機能だ。
これがOS3.5アップデートの目玉としてPfDに実装。実際に新幹線や車の中でテストしてみると、通常モードではちょっとした振動や加減速でトラッキングが外れてしまうのだが…
コントローラーのホームボタンから飛行機マークのボタンを押してトラベルモードを起動すると、トラッキングが目に見えて安定した。
車の中でも新幹線の中でも映像視聴はもちろん、操作も含めてちゃんと十分実用レベルにあった。素晴らしい。
◯実用的なハンドトラッキングとパススルー
OS3.5での精度向上を経て、PfDのハンドトラッキングはコントローラなしでも一通りの操作が実用的にできる。たまに暴発するのはご愛嬌だが、コントローラーをいちいち気にしなくてもよく、これは便利。
またちょっとした手元の作業や、席を外す際には優秀なパススルーが活躍する。ハードウェアキーで瞬時に切り替えられるので、ストレスなく使える。
トラベルモードの実装と合わせて、携帯性(と周囲の目線)に目をつむれば、電車や飛行機など外に持ち出して十分使える機能性を備えているといえるだろう。
✕バッテリー持ちが悪い
一方でこの用途での最大の難点が、すでに触れたバッテリー持ちの悪さ。
フル4Kでぶん回せばものの1時間でバッテリー切れ。よって映画一本見るにも10000mAh以上のモバイルバッテリーか、あるいは外部電源供給が必要になる。出先で使うには中々つらい。
新幹線なら壁際の席、飛行機なら100V供給がある席を確保しよう。まあ飛行機には35000mAh=7時間相当までのバッテリーは持ち込めるので、コンセントがなくてもインド、シンガポール、ハワイくらいまでならぎりぎり持つが…(2kg近いバッテリーの重量には目をつぶりつつ)。
✕画質に見合ったコンテンツが不足 & Winevine L1非対応
PCVRの項でも触れたが、高画質すぎてそれに見合うコンテンツがない、あるいはあっても準備が大変な点は意外と厄介。4K映像なんて大半の人は手元にない(というか今日日、映像データが手元にある人は少数派だろう)。わざわざAIでアップコンバートして映画を見るコアなユーザーもコミュニティにはいるが、手間を考えたら普通に無理。
となると常識的にはストリーミングサービスで4K配信を見るわけだが、ここで足を引っ張るのがPfDはWidevine L1非対応という点。Widevineとは映像のコピーガードシステムで、多くのスマホやPCのブラウザ、そしてPfDは低レベルなWidevine L3のみの対応で、L1非対応。で、高画質なフルHDや4Kで視聴するにはこのL1対応が必須でして…(詳しくは以下の記事で)
要するにストリーミングサービスも高画質では見れない。まあこれはPfDだけでなくスマホとかも同じなのだが、高画質なOLEDがウリなHMDだけにここは中々辛い。コミュニティでもなんとかWidevine L1対応を!って声はあるものの、コスト的に絶対無理!というのが公式の回答である。
残る手はPCで高画質再生し、それをVirtual Desktopで配信するという方法になる。スタンドアロンという長所はブン投げるしかないが、現状高画質でストリーミングを見る手段はこれ一択になる。なおVirtual Desktopを使う場合も、グラフィックアクセラレーションをオフにしておかないとキャプチャが出来ないので注意。
ちなみにそういう制限のないYoutubeは、PfDではGoogle系サービスが軒並み使えないためmicroGを導入した上でapkにパッチを当てないと動かず、これも一般人には若干ハードルが高い。まあ逸般人ならそう難しくないので、こちらの動画を参照しながらトライしてほしい。
✕内蔵スピーカーがイマイチ
また内蔵スピーカーの音質や、音量の不安定さも気になる点。ちょうどよい音量に調整したはずが時々やたら耳に刺さる音がするなど、音響面に課題があり、ここは明確にQuest系に劣っている。一応ここはアプデで改善予定とアナウンスされているが、そもそも音質もイマイチなので観賞用にはBluetoothイヤホンを使うほうがベターだろう(どうせ内蔵スピーカーは遮音性皆無で外では使えないし)。
自分が使っているのはこのパススルー給電可能な低遅延ドングル付きのワイヤレスイヤホン(ドングルなしでもBluetoothでも普通に使える)。
なお本体備え付けのボタンで音量調整が可能だが、デフォルト設定から変更が必要なので注意。
✕バッテリー張り出しが邪魔
最後に細かい点だが、背もたれが高い椅子だと後頭部のバッテリー張り出しが邪魔でくつろげないのは地味になんとかしたい。
長距離フライトに持ち出すなら、ネックピロー持参を勧める。自宅で使うにも邪魔なので、自分はこのネックピローを首に挟んで使っている。おすすめ。
◇まとめ
外部電源供給 or デカいモバイルバッテリーがあり、高画質の動画コンテンツが準備でき、Bluetoothイヤホンを持っていて、ついでにネックピローがあれば超高画質OLEDディスプレイのPC不要ポータブル映画館を、自宅はもちろん電車や飛行機まで持ち出すことができ、快適なパススルーもあいまって最高のパフォーマンスを発揮できるヘッドセットといえる。
…が、こうした条件が揃わないと、内蔵バッテリーでは映画1本見る前にガス欠、内蔵スピーカーは耳に痛く、ストリーミングに高画質コンテンツを求めようにもWidevine L1非対応で結局PCが必要。と、割とネガがあり、かなり尖った映像視聴デバイスというのが率直な評価になる。
ただAndroidアプリが使える点は非常に面白く、SDやHD解像度が許容できるなら、スマホで見られる映像をそのまま視聴できる。ガチの映像視聴というよりも、Xなりブラウザなりスマホアプリをいっぱい並べて(なんと最大6窓できる)、その中のウインドウの一つでTVerとかPrime Videoを流し見する、みたいな用途だと、高画質も生きるし画質の悪さも気にならない…かも。PCのマルチモニタ環境でやってるようなことを、新幹線の中でもできると思うと案外悪くなさそうな気もするが、さて…?
◆仮想ディスプレイ用途
お次は、Immersed VisorやARグラスがターゲットにしている、PCに接続して仮想ディスプレイとして使ったり、リモートデスクトップをしたりという用途になる。PCデスクに縛られず、自宅のあちこち、さらには出先にまで大画面を持ち出せるというのがこの用途のキモとなる。
結論からいうと、PfDの高解像度は実用上かなり良い。無敵といっても言い過ぎではない。が、一方で実用上のネガがもそこそこある。
◯圧倒的な解像度の高さ
細かい文字の可読性は解像度(PPD)が物を言う。一目で見られる情報量はFOVが物を言う。Quest3はもちろん、永遠に出荷されないImmersed Visor、そしてARグラスに対しても、片目4KのPfDはこの点で圧勝している。以前は不満のあったエッジ部の色収差や歪みもアプデで改善しており、画質面ではほぼ弱点無し。
最新のARグラスXreal One Proの片目解像度1920x1080、FOV57°に対し、PfDは解像度3840x3554、FOV103°と遥かに上回る。PPD(角解像度)比でも12%勝っている上にFOV(視野角)が倍近いため、多画面を一度に視界に入れることができる。↓はフルHDモニターを2枚並べた状態。どの文字も克明に読める。
またQuest3では、解像度不足で細かい文字の可読性が足りないため視界いっぱいに1画面を広げる使い方をこちらの記事で提案したが、PfDではそうした小細工は必要ない。というのも角解像度が25PPDのQuest3に対して、PfDは実に1.8倍の45PPDと完全にモノが違う。実際この数字は400mmの距離で置いた27インチフルHD液晶モニター(37PPD)を上回っている。なるほど常識的なサイズで十分なわけだ。
つまり、PfDを被れば誇張抜きで、どこにでも27インチフルHDモニターを複数台召喚できるの。これはすごい。
◯優れたパススルーと作業の相性の良さ
仮想モニターとして使用する際、面倒なのがちょっとしたPC外の作業。スマホを見たりお茶を注いだりするためにも、いちいちヘッドセットを外さなければならない。また物理キーボードが見えないのもストレス。これを解消するのがカメラの映像をディスプレイに投影するパススルー。
すでに触れたようにPfDのパススルーは現行機としてトップクラスの完成度なので、現実世界にディスプレイが浮かんでいるかのよう。当然めちゃくちゃ便利。
また集中したい時は没入環境(VRモード)に入り、必要な時はさっとパススルーに切り替えて用を済ます。そんないいとこ取りができるのもARグラスに対するアドバンテージだろう。
✕装着性が良くてもHMDの長時間装着はしんどい
ただしいくら装着感を頑張っても、600gを超えるPfDでは、100gを切る軽量なARグラスに対して快適さでは勝負にならない。慣れてない人では1-2時間で限界だろう。ここはこの用途最大の難点で、頭頂ストラップの追加などでいかに負荷を減らすかが焦点。
なお自分はトップストラップを追加したことで負荷は大きく軽減し、3時間程度なら苦も無く装着できるようになった。MODについては末尾のオマケを参照。
また公式も後頭部の大型パッドや、別形状(欧米人向け)の接眼部などのアクセサリを準備中だという。
✕デフォルトアプリでPC画面ミラーリングができない
開発側の重心がPC-VRと映像に寄っているためか、純正でPCとモニター接続するアプリがない。まあVirtual Desktopというド定番のソフトがあるのだが、別途25ドル(4000円)を払う必要がある上、VDは有線接続ができないので、出先でのプロダクティビティ用途にはちょっと使いづらい。
以下のように、代替手段はいくつかあるがどれも痛し痒し。Immersedが使えれば…。
LAN to Type-CアダプタでPCと接続して有線LAN接続でVDを使う:割と現実的だが、ハブを繋いだりIPいじったり設定が面倒くさい
USBでのADB接続を使い、Androidアプリで有線リモートデスクトップ:多分できるが、まだ試せていない。ニッチ用途なので使いやすいアプリがあるか…?
公式ストリーミングクライアント+SteamVR:SteamVRのリモートデスクトップはオマケ程度の機能で仮想モニターも使えない。無料で簡単に使えるのはメリット。有料だがXSOverlayを併用するとより使い勝手もアップ。ただしPCの負荷は結構大きそう
オプション品のDreamBoxを買う(PC⇒(HDMI)⇒DreamBox⇒(無線)⇒PfDへモニター出力が可能になる):DreamBoxはお値段4.5万円もする。いくら高画質っても、それなら最初からARグラス買えば…。
✕ハンドトラッキングがVDで使えない
没入型アプリは、ハンドトラッキングでの操作は不可となっている。よってリモートデスクトップ・仮想モニタ用途筆頭のVDではコントローラーが必要となる。使えればモニターを軽く動かす程度は全然できそうなのだが。
◇まとめ
高解像度と優れたパススルーという長所は、この用途を想定しているARグラスはもちろん、他のVRヘッドセットに対しても大きく水を開けている。解像度は27インチフルHD液晶モニターより上で、そのモニターおよそ1.5枚分を一度に視界に収められる。仮想ディスプレイ用途では最強だろう。
一方で、そもそも重量差のため長時間装着には不利であり、ある程度VRヘッドセットの長時間使用に慣れていないと、じっくり作業をするのは少し辛いかもしれない。またこの用途のソフトが公式に準備されていない、VDを買えば実用できるが有線接続が不可で出先で使えない、ハンドトラッキングがVDに対応していないなど、まだ周辺環境が整っていないのもちょっとつらい。
こういうネガがあってなお、この高解像度と広いFOVは魅力的。ある程度ヘッドセットの長時間装着に慣れている人や、実用的な解像度の仮想モニターを必要としている人なら十分検討の余地があると思う。
◆スタンドアロン用途(空間コンピューティング)
さて、ここはいまだフロンティアといえる領域。Apple Vision Proが先鞭をつけた、パススルーで見える現実世界にウインドウを並べてディスプレイにし、アイトラッキングやジェスチャーで操作する。被って使う、これが次世代のPCだ!という空間コンピューティング用途。最近はMeta Questなどもこれを意識している。
ここにではPfDは強烈なアドバンテージをを持っている。一言でいえばこいつは被るAndroidスマホなのだ。しかしまた背負っている弱点もデカい。
◯Androidアプリがそのまま動く
なんといってもデカいのはここ。Androidスマホという巨大市場が蓄えてきたソフト資産が丸ごと使える。XもKindleもDiscordも、あなたが愛用しているアプリもそのまま使える。もちろん2D表示にはなるが、ここは現状世界で唯一無二のポイントだろう。
(今年末に登場するAndroidXR搭載のSamsung Project Moohanもおそらく同様の機能は備えているのでは?と思われる)
ただし注意点として、Googleサービス非対応のため、GmailやGoogle DriveなどGoogle系サービスとは非常に相性が悪く、自分も動作させられずにいる。YoutubeとYoutube musicだけはなんとかいけたが(動かす手順は以下の動画をどうぞ)。
ただしGoogle Service Frameworkを必要とするアプリは動かない場合もあるので注意。
◯実用的なマルチウインドウシステム
アプリ使うならスマホでいいじゃんと思われるだろうが、ここが空間コンピューティングのポイントで、パススルーで投影された現実空間に、アプリの画面をびっしり並べて作業ができる。なんと6窓まで可能。感覚的には空中にスマホが6個中に浮かんでいる感じで、頭がバグる。
このためブラウザを見ながらテキストを打つ、Discordを開きながらYoutubeを見る、みたいなPCでできる多窓作業がスマホアプリでできる。
なおVDなど没入型のなアプリと併用はできないが、切り替えて使うことはできる。ただしその場合、ウインドウ数は6個⇒1個まで減る。
◯大抵のデバイスが接続できる
すでに触れた通り、スマホで使えるデバイスは何でも使える。Bluetoothキーボードを繋げばオフィスワークもできるし、有線LANを繋いでもいい。USBメモリやSDカードを繋いでデータの視聴に使ってもいい。ただし充電兼用の1つしかないType-Cポートが取り合いになるので、ハブが欲しくなる。あとはマウスが使えれば完璧なのだが。
◯空間設定の自由さ
OS3.5アップデートにて、ホーム画面の没入環境に好きなSKYBOXが設定できるようになった。自分の好きな環境で没入して作業や動画視聴に集中したい人にとって、これは嬉しい機能。もちろんパススルーで作業することもできる。
◯ハンドトラッキングがちゃんと実用的
PfDの出来がいいハンドトラッキングは、Androidアプリのマルチウインドウシステムと実に相性がいい。スクロール、タップ、画面の拡縮や移動なら自在だ。文字入力となるとコントローラーなしでは無理だが、bluetoothキーボードを繋いでしまえば解決する。
✕Google Playが使えず、サイドロード前提
他方、最大のネガがこれだろう。一般人にしてみれば、Google Playは使えないので別のアプリストアをサイドロードして使ってくださいとか言われても、なんじゃそらって感じだろう(こんなHMDを買う人の中に一般人がいるかはさておいて)。
まあAurora Storeなどのアプリストアを入れれば、あとは検索してポチポチするだけで普通にアプリが入れられる。カスタムROMを焼いたり、Kindle Fireを買ってPlay Storeを入れたりした経験のある逸般人なら余裕だろう。
問題はGoogle系サービスが軒並み動かないこと。Youtubeを見るにもRevanceでパッチを当てないといけないという…。
公式も「サイドロード上等、いいぞもっとやれ」って感じでこれを応援してるくらいなので、Google Play Store対応する気はなさそう。まあ、Android端末を弄り倒せる人にとっては天国かもしれない。少なくともやりたいことがブロックされてることはほぼ皆無なので。DiscordではQuest向けのアプリをapk引っこ抜いてPfD向けに変換して使うノウハウまで共有されている。開発もコミュニティもオープンすぎる。
なお正式なPlay for Dream向けアプリのストアは一応あり、Virtual Desktopはここで購入できる。が、ラインナップは実にお寒い限りで、中国語の50点弱のVRゲームがあるくらい。ツール系アプリはほぼ皆無。この用途で使うには、現実的にアプリストアのサイドロードは現状必須。
✕日本語入力に未対応
わりと致命的な欠点その2。2025/7現在、日本語を入力可能な手段がない。PfDに用意されているVR対応キーボードは中国語と英語のみ。Androidアプリ(SimejiやGboard)のインストールも試したが、そもそもキーボードの切り替え自体を許可しない仕様ときた。
まあMakuakeで日本向けクラファンをやったくらいだから、日本での正式発売の2025/10にはアプデで日本語キーボードが導入されると思いたい。実際、UIはアプデで日本語対応したし。頼むよ?
✕バッテリー持ちの悪さ
ここでもバッテリーの持ちの悪さは足を引っ張る。10000mAhのモバイルバッテリーを足しても3時間というライフは心もとなく、出先での作業に不安がつきまとう。
✕アイトラッキングはまだ使いにくい
アイトラッキングは一応機能しており、プルプルするがちゃんと視線に追従しているし、手を使わず視線と見つめる動作だけで操作できるのは中々未来的な体験。ただ実用的かというと、不要な入力が頻繁に入ってしまい誤爆が多いので、現状では正直デモ以上に使おうとは思わない。今後のアプデ次第だろう。
◇まとめ
若干(?)難があるものの、Androidアプリをパススルー空間で6窓できるという点はかなり強烈な個性で、ハンドトラッキングでの操作性も相まって、ハマる使い方を見つければ面白いデバイスなのは間違いない。
ただ、バッテリーの持ちではスマホに劣り、生産性ではノートPCの汎用性と完成度に叶わない。Bluetoothキーボードを繋げばChromebookとはいい勝負ができそうだが、バッテリー持ちとGoogleサービス不可という点は完敗。というかそもそも現状日本語入力ができないので…。
また身も蓋もないことをいえば、PfDを含め空間コンピューター全般について、ノートPCを捨ててまでこちらを使う理由がまだあんまりない。単なる仮想モニター用途ならともかく、空間コンピューティングとしての利便性が出てくるのはここから操作系やアプリなどにいくつかブレイクスルーが起きてからだろう。現状では「面白い」以上ではない。
現時点だと、スペースが限られていてPCだと微妙に邪魔、かつ電源供給はある環境…つまり車や新幹線、飛行機などでの使用が実は活路になるかもしれない。トラベルモードもあるし。コレを被り颯爽とBluetoothキーボードで仕事する日は来るのだろうか。
◆VRカメラ用途
最後に、ここは購入当初まったく重視していなかったが、買ってみて、これは!と驚いた用途。パススルー用のカメラを使い、周囲の空間をImmersiveなVRビデオとして録画できる。
まあApple Vision Proの「空間ビデオ」の二番煎じではあるのだが。これが想像以上にすごかった。
◯見たものがそのまま録画される感動
この機能をわかりやすく言うと、パススルーで見えた視界が全部VR動画になる。見たもの、聞いたもの、そして着用した人の視線や動きまで全てが記録されるわけで、これは体験を丸ごと記録できると言っても過言ではない。
ギャラリーのこれは一見してただの動画だが…
実はこれは、PfDを被ったまま自分が実際に見て聞いて体験した映像。これがVR動画として残り、いつでも見れる。この感動は実際にやってみないと分からない。画質も十分で、マイクも周囲の音までよく拾うので、周りの人の会話や環境音まで含めて収録できるのもよい。
VR180動画なので、実際の動画データはこんな感じで保存されている。
8K解像度をフル活用した映像の品質も非常にきれいで、再生すると撮影時の体験が鮮やかに蘇る。これはこのヘッドセットならではだろう。
〇高度なパススルーとの相性がいい
PfDのパススルーの完成度が傑出していることは「全体的な機能」で説明した通り。特に装着状態で動き回ってもまったく問題ない低遅延と遠近感、歪みのなさがすごいが、これが空間ビデオの撮影と相性がいい。
「さあ撮るぞ」と構えなくても、被ってパススルーでのんびり歩き回るだけで空間ビデオになってしまう。なるほどこれなら、デモでやったようにかぶったまま運転してビデオ撮影なんてのもできそうな気がする。土日の浅草で人混みを歩いたりもしたが、全然苦労はなかった。
ネックは下方向の視界が狭く、足元が見えづらいことくらいだろうか。
◯めっちゃ手軽に撮れる
カメラ立ち上げ・撮影開始/終了が本体のボタンだけでできるので、コントローラー不要でどこでも即撮影ができる。びっくりするくらいお手軽。使用感のイメージは以下の動画を参照。
✕動画容量がバカでかい
8K(7680x3554)というバカみたいな高画質からも想像がつくように、とにかくビデオが容量を食う。1分あたり1GBってところで、ストレージがどんどん減る。
まあ内蔵ストレージ512GBをフル活用すればで5時間くらいは撮れるし、そもそもそんなにバッテリーが持たないと考えると十分だが、撮影後の保管はやや困るかもしれない。
✕長時間撮影はバッテリーとの戦い
画面もプロセッサもフル稼働なので、まあバッテリーはよく減る。本体だけでは1時間持たないので、出先で使うならモバイルバッテリーが必須だろう。
✕鼻息がうるさい
周りの音をよく拾うマイク+頭に装着するヘッドセット=一番はっきり録れるのは鼻息の音。動き回るともう…。ちょっとここはいただけなかった。
綺麗に収録するならType-Cに外部マイクを接続して使うべきだろう。自分が使っているマイクはこれ。内蔵マイク・外部マイクは設定から切り替え可。
◇まとめ
空間ビデオを撮影するVR180カメラとしては、現状最強クラスではなかろうか。同クラスの純粋なVRカメラは半値の1000ドルくらいで買えるが、その場で再生が、しかも8Kネイティブ解像度のOLEDで可能な点で明確に差別化されている。また同じことができるApple Vision Proが倍の60万という価格であるのを考えると、コスパも決して悪くない。
思い出や空間の残し方として非常に面白い用途なので、より多くの人に広まってほしいし、買った方はぜひ一度試してみてほしい。
◆レビュー全体のまとめ
こうして見ていくとPlay for Dream MRは、やはりとんでもない機能性と可能性を持っているデバイスだろう。やや荒削りなところもあるが、機能一つ一つは丁寧に作られていて、謎の新ヘッドセットとは思えないほど安定している上、どれも一定のレベルまで仕上げられている。アプデも継続して行われているし、製品として非常に面白いデバイスだと自信を持って言える。
一方で、PC-VRのような確立された用途を除けば、バッテリー持ちの悪さやスタンドアロンヘッドセットゆえの重さと装着の疲れ、なにより時代を先取りしているがゆえのアプリ・用途・コンテンツ・エコシステムの不足がモロに逆風になっており、決して誰にでも勧められるデバイスとはいえない。価格的にも普通の人は手が出ないだろうし。
よって基本的には「高画質PC-VRヘッドセット」+「高画質動画視聴用デバイス」+「他の色んな面白機能」に30万円の価値を見いだせる人なら買いというのが自分の考えだ(なお空間ビデオは機能としてほぼ完成しており、人によっては10万円くらいの価値はあると思う)
ともかく価格が高く、荒削りな部分も多々あるので、ある程度用途にイメージ持ってから買うのを勧める。逸般人なら「なんかオモロそう」「変なAndroidデバイスktkr」という理由で買ってもいいけど。
今回のレビューを読んで「こいつはきっと使える!」と使い方を想像できた人は、ぜひ手に入れてその可能性を確かめてみてほしい。なんなら自分も検証に協力する。実際アイデア次第でPC-VRと映像視聴以外のキラーアプリや用途が出てくる可能性は全然あると思っているので、遠慮なく相談して欲しい。
今回用途別に詳細なレビューを書いたのはそういう理由である。
え、自分?自分は、このデバイスをガンガン使っているかといえば、正直YESとはいえない。普段使うVRヘッドセットは相変わらずQuest3だし、Youtubeはタブレットで見ているし、調べ物やDiscordはスマホでやっている。仮想ディスプレイ用途はスゴイが、使う機会が限られる。
だが、何かと理由をつけて使いたくなるデバイスではある。VRChatのワールドを高画質で観光しに行こう、高画質で好きな映画を見てみよう、ハンドトラッキング+パススルーで夕飯を作りながらアプリを操作してみよう、新幹線の中で被って周りをビビらせよう、空間ビデオを撮ってみよう…。
せっかく高い金を出して買ったから、みたいな負の動機ではなく、なんとなく楽しくて、夢を見て使ってしまうデバイス。それがPlay for Dream MRだ。少なくとも自分は30万円以上払った価値があったと満足している。
これは自分的には結構高い評価なのかもしれない。実は。
◆補足:購入について(割引クーポンあり)
自分はMakuakeでの国内発売が10月と聞いて、そんなん待ってられるかいとPlay for Dreamの海外通販サイトから直接購入(国外での発売は3月)。
5/9に注文して5/19に香港から発送。5/21に到着した。海外通販だが特段トラブルもなく到着。Aliexpress辺りで買うのと変わらない。
またインサートレンズはオーダーメイドのため少し時間がかかり、5/9に注文してから5/23に発送。EMSで別送がデフォらしく、やきもきしたが6/2に無事到着した(なお関税は自己負担と聞いていたので追加で数万円の支払いは覚悟していたが、なぜかスルーされた)。
想像以上にすんなり買えるし、特に面倒もないので早く入手したい人、あとインサートレンズが欲しい人(Makuakeにはラインナップされていない)は本家通販サイトで買ってしまうのも手だ。
以下のリンクから購入、またはクーポンコード「fleabane30」を入力してもらうと30ドル(5000円)安くなり、自分にも紹介料が入る。このレビューが参考になったなら、よければ検討してほしい。
聞いてみたい点があれば、遠慮なくXなりVRChatなりでどうぞ。新たな同志をお待ちしてます。
◆オマケ:各種情報メモ(随時更新)
◇ハルジオン機 現在のMOD状況
・後頭部の純正パッドを取り外し⇒Quest用ラバーパッドをマジックテープで装着
・頭頂部に回すベルトストラップを追加
今使ってる頭頂ベルトは何かの付属品。多分このサイズじゃないか…という類似品のリンク↑を張っておきます。参考程度に。
◇Virtual Desktop モード別 解像度一覧(Play For Dream版)
Potato: 1560x1440
Low: 1848x1704
Medium: 2160x1992
High: 2640x2448
Ultra: 2856x2640
Godlike: 3264x3024
Monster: 3840x3552
==============================================
🔽記事のシェアはこちらから🔽
2ヶ月使い倒したPlay for Dream MRを実用目線でレビューする:世界初の実用的4KスタンドアロンVRヘッドセットhttps://t.co/LRczaO65Cq
— ハルジオン (@fleabane_haru) July 25, 2025
片目4Kの超高画質VRヘッドセット、#PlayForDream MRを世界一詳しくレビューしました。
どんなHMDなのか?各用途で使ってどうなのか?が丸わかりの記事なのでぜひ。
==============================================
X(Twitter)
https://twitter.com/fleabane_haru

