Expert Mouse TB800 EQ

Kensington

かつて、トラックボールの代名詞的イメージはこのExpertMouseシリーズが担っていました。永き黄昏の時代を経て遂に登場した新ExpertMouseは新たな時代を照らす王者となるか。Kensington先生の新作にご期待ください!

なお、本レビューのための個体はKensington Japanさんからご提供頂いたものです。ありがたいことに近年こうしてぼちぼちメーカーさんからご提球いただく機会も出て来たのですが、どこのメーカーさんも情報解禁日に関する決まりはあれど、それ以外は「忌憚のないご意見を。自由にレビューしてください」なんです。ありがとうございます。ま、ぐずぐずしてる間に、自分で購入した分も届いちゃいましたけどね。

トラックボール民刮目。新たな王の登場

エキスパートマウスは、GUIまたはそれに類するインターフェースを制御するためのポインティングデバイスとして、一般向けGUI搭載型PCの黎明期に誕生したモデルの血を引いています。トラックボールという機構そのものはそれよりもだいぶ以前から存在しており、実はマウスより先というか兄貴のような父親のような、わかりやすく言うとキカイダーとハカイダーみたいなもんです。まぁその辺は話が長くなるので端折るとして。数多の周辺機器メーカーが産声を上げ、数多の製品が生まれ、ある機器は消滅しあるメーカーは吸収合併、倒産消滅などを経て現在に至っていますが、それらの過酷な競争から脱落することなく血脈を保っている稀有な存在です。多分にケンジントンセキュリティロックが稼いでくれているおかげだと思いますが、そういうことは言わなくてよい。

歴史も長く、そしてその節目節目で魅了されたユーザーの中から語り部や吟遊詩人が出現する。神話と伝説に彩られたデバイスでありながら、初代機以来の面影もきちんと残っている。故に私はこのシリーズをトラックボール界の「王」と呼ぶのです。覇権が他所へ移動し新たな覇者が誕生しようとも、覇者は次の覇者に取って代わられるまでの束の間の称号でしかなく、神話がなければ王家為り得ません。

先代エキスパートマウス、我々ファンは世代をつけて呼び分けますので、EM7(7世代目)と呼称していましたが、遂にその正統な後継として、エキスパートマウス TB800 EQが登場しました。こののちEM8と呼ばれることになるでしょうか、新たな王の即位となります。7代目の即位が21年ほど前ですので、この間にトラックボーラーになった民にとっては初の御代替わりでもあります。さぁて、例によってKensington機の話になると正気を失うことが約束されている幸塚の、どうかしているレビューを始めます。

TurboMouse Pro正面から撮影 EM7を正面から撮影 TB800EQを正面から撮影

黒く盛れ! 新エキスパート

TB800EQ、5方向からの写真

TB800EQは機能盛り沢山のモデルとなっています。メインの4ボタン、スクロールリング×1、サイドローラー×2。そして本体上部に4ボタン。いやぁ、盛りましたねぇ。単純にボタン数だけでなく、回転する入力装置も複数ありますから、そのせいと言うべきかわかりませんが、公式ユーティリティソフトウェアもKensington Konnectという名で刷新されました。私が知っている範囲では、マウスワークス→トラックボールワークス→ケンジントンワークスときてケンジントンコネクトへ。こちらも新世代へというKensington社の意気込みが伝わって来ます。

Kensingtonのトラックボールはシンプルが信条なのに、みたいな声も聴こえて来そうですが、ん〜。うん。私も今までそれっぽいこと言ってきたような記憶がありますが、ここで白状するとそんなことはなくて、Kensington社の、少なくともフラッグシップモデルは、前身のTurboMouse時代、Macintoshが基本1ボタンの時代に2ボタン、4ボタン積んでましたから、単に時代と環境が追い越して行っただけで立派に多機能多ボタンモデルだったんです。Kensington社はMac用のマウスでも多ボタンモデル発売してましたから、多機能モデルがあることもまたKensington社の顔でした。このあたりは我が心のOrbitの存在も、その後のシンプル路線的なイメージ醸成に強く影響している気はしますね。

ということで正調多機能モデルのTB800EQ。黒基調の引き締まったボディにシルバーボールとシルバーのリング。かっちょいいですね。偶然ですが話も出たOrbit Opticalさんとも微妙に繋がっている感覚があります。他にAmazon限定モデルとして赤球版もありますが、話がややこしくなるので本ページはシルバーモデル前提で話を進めます。

Amazon限定モデルは価格が安く設定されています。確認出来ている限りだと違いは外装の簡略化ぐらいのようで、他社モデルだと低価格と引き換えに保証期間が短くなっていたりするんですが、TB800EQは今のところそんな感じでもないのが不思議

ボディは再生プラスチックも使用されており持続可能なうんたらかんたらで型番にもEQが入っています。EQは近年Kensington社が展開している持続可能な以下略製品につけられています。表面は非光沢。この塗装だかコーティングってきっと再生プラを良い具合に化粧出来るんでしょうね。ただしマット調とはいっても大陸ブランドさんがよく採用している古のピーチスキン処理っぽいあの感じとはちょっと違って、若干シボっぽいというかゆず肌っぽいというか。艶のない処理と全体の雰囲気が硯のようにも見えます。端渓?

そういや大陸の工場がある辺りは端渓にも近いよね実際。実用上は問題になりませんが、この外装の難点は触れたあとに手油が目立つことかな。最近はスマホの画面拭きなんかでいいのいっぱいありますから、気になる人はこまめにあの手のクロスで拭くと美しさも維持できるでしょう。

TB800EQ、操作球とリングとローラー、ロゴが入っている写真
アルミ合金製のスクロールリングとローラー。ボタン部も面が取られており、本体とわずかに段差がつけられています
TB800EQ、パームレスト部を横から
表面はマット調。本体上面の角も面が取られており、見た目だけでなく手が触れたときの感触もいいです

樹脂だけでなく金属部品も採用されています。スクロールリングと本体両サイドのローラーはアルミ合金製とのこと。これらもしっかり加工されていますね。質感の高さは手触りにも当然影響して来ますし、もちろん使用感にも影響します。ユーザーが長年、新しいエキスパートマウスはこうであってくれ! と願っていた姿のひとつが実現したんじゃないでしょうか。素晴らしい。

本体中央にでーんと搭載されているのは先代EM7由来の径55㎜大型ボール。かなり白っぽく見えるシルバーです。ボールは支持球で支えられている、俗に言うところの支持球型で、支持球はアルミナだかの白い球ですね。操作球の滑りも良好。試したわけではありませんが、支持球の交換も比較的容易に見えます。

TB800EQ、操作球ソケット真俯瞰、支持球とセンサーが見える
TB800EQ、操作球ソケットから突き出たストッパー

またTB800EQには操作球の12時と6時地点にそれぞれ脱落防止ストッパーが設けられました。これによってうっかり傾けてしまった際も操作球がゆるく引っかかって保持されるので、ボールが即時落下しなくなります。先代までの固定されていない、ただ載せられているだけの操作球は、例えば本体を移動させようとして持ち上げた際に球を落としてしまう、みたいな話も結構耳にしまして。それはチミKensington王国民としての所作が出来ていない証拠だよと口走りそうになるのをぐっと堪えて、そだねーおとしちゃうよねーみたいな反応に終始していましたが、今後はあまり心配しなくて良さそうです。

まぁね実際無線接続が当たり前の時代になりましたし、私自身、設置位置はちょこまかと移動させています。その流れでK王国民的基本所作を忘れて落とすことも実際あります。(所作が)粗だねー。見た目的にはない方が美しいだろうとは思いますけど、新規ユーザーに優しい機能だと思うので歓迎します。

ただし、なんぼストッパーがついたからって本体ごと振り回したら飛んでっちゃいますよ。あくまで緩く保持してくれる程度とご理解ください。

TB800EQ、左側面、電源スイッチと接続先切替スイッチ
左側面、電源スイッチと接続先切替スイッチ
TB800EQ、右側面、レポートレート切替とDPI切替スイッチ
右側面、レポートレート切替とDPI切替スイッチ

本体奥側の両側面には、電源スイッチ、接続先切替スイッチ、レポート(ポーリング)レート変更スイッチ、DPI変更スイッチが設けられています。中でも後者2種は公式ユーティリティソフトウェア、Kensington Konnect上でも設定、変更が可能となっています。

この両サイドに分かれているスイッチ類だけは左右でシンメトリーになっておらず、微妙に違い違いになっています。おいおい左右対称の美学はどこへ行ったんだと思っていましたが、実際に使用してみると、小さいスイッチを押すのに無意識に反対側を支えようとするんです。完全に左右対称に配置されていたら誤爆しまくると思うので、なるほどなと納得しました。

KensingtonKonnect、ポインター設定画面

ポーリングレートも遂に1000Hzに対応しました。有線接続と独自無線ドングル接続は250/500/750/1,000Hzの4段階でぬりゅぬりゅポインタが拝めます。Bluetoothだと133Hz固定かな。

バッテリー表示 有線接続サイン USB独自無線接続サイン BT1サイン BT2サイン

接続は3方式、有線、独自無線ドングル、そしてBluetooth接続に対応。Bluetoothも2チャンネルで、切り替え時などに本体上部操作球奥に設置されたステータスウインドウに表示されます。写真先頭はバッテリーインジケーターで、以降各接続方式。ポーリングレートやDPIを切り替えると、現在接続されている方式のアイコンが点滅してその回数で現在何段階目なのかをお知らせしてくれます。ちょこまかしてて可愛いですね。一定時間が経過すると自動的に消灯。普段は点灯していません。

そして、製品付属の有線接続ケーブル、本体内に収納可能な独自無線接続用ドングルともUSB Type-Cコネクタです。いざType-C端子型のドングルが登場すると、まだ2025年の私の環境では一寸困っちゃったりもしますが、戸惑うのも今だけで今後はこれが当たり前になっていくでしょう。

USB Type-Cポート搭載の無線ドングル
USB Type-Cコネクタの無線ドングル。これまで一般的だったドングルよりは少し大きいですが、これはType-C採用に由来するのでしょうか。ちっさいのって案外抜き差ししにくかったりしますもんね。
EM7 支持球とセンサー部
C to C有線ケーブル(ナイロン編み被覆)が付属。この被膜のケーブルはSlimBladeと共通していますね。
本体裏面 本体裏面、USB無線ドングル収納部屋を臨む
USBドングルは本体裏面に収納可能。ドングル収納部屋の左側は内蔵バッテリーがあるようで、分別廃棄用に取り出せるようになっている気がしますが、現時点ではそこいらの説明を見つけられませんでした
USB無線ドングルを取り出そうとしているところ

ドングルはゆるく固定されており、本体移動時もカチャついたりしません。ドングル収納場所には半分より下に急傾斜が設けてあり、コネクタと反対側を押し込むとコネクタ側が起き上がって取り出しやすくなります。芸細

本体上面、上部には拡張スイッチが4つ。中心のスイッチはスクロールリングのノッチあり/なしを切り替えるスイッチ。中央上部の小窓は現在の接続先などを表示するステータスランプです。このあたりの雰囲気から先々代のEM6を思い出した人も居られると思います。実際「隔世遺伝?」みたいな印象もありますが、こうやって時々、忘れ去られつつあった旧機種の面影がふっと浮かんでくる辺りも積み上げて来た歴史のなせる技です。ご先祖様、いかがお過ごしですか。ぼく幸塚、恐らく末代の子孫にあたると思います。

USB無線ドングルを取り出そうとしているところ USB無線ドングルを取り出そうとしているところ

江戸の仇を長崎で。新スクロールリングは最高の出来

色々と見どころの多いTB800EQ。その中でも新規古参を問わず耳目を集めそうなのがこちら。Kensington社ご自慢のスクロールリング。

先代EM7で初めてエキスパートマウスに導入されたスクロールリングでしたが、正直に申し上げて先代のリングは、当時のファンが期待していた品質からするとだいぶ庶民派というか、未完成品のまま無理やり市中にひきずり出されたような感じで、販売開始後、およそ20年の間に細かく何度も改修が入っています。しかしどこまで行っても改修なので、当初からすりゃだいぶマシにはなったけどさ以上には到達出来なかった。スクロールリングは前世代機が残していた最大の宿題であり仇だと私は思っています。

新リングはどうか。リング本体もアルミニウム合金製となり質感マシマシに仕上がっています。しっかりと金属の重量を感じる上質なリングで、回すと慣性が効いた手触りを残しつつ、すぅ……っと回転します。きもっちぇえええええええ。最初の一回転で彼岸から手を振る笑顔の亡父が見えましたよ。こいつはすげぇ。新であり真と言いたいぐらいの出来。

回転は慣性が効いて重みもあるんですが、回す動作そのものはかなり軽くで制御できるため、時計回しだけでなく反時計回しの戻しもとても具合良くやれます。リングの扱い方は人それぞれだと思いますが、私の場合は時計回しを薬指。戻しも薬指か、あるいは親指。

これが先代の場合、回転時にはカサカサした摩擦感があったので、どちらの指で制御する場合でもあと一歩感があり、回転も指の動き的に自然な時計回り方向はまだいいとしても、反時計回りはリングが初動で引っかかったりしてガタガタガタ、うーむ。で結果としてトラックスクロールに逃げるムーブが多発していましたが、新リングでは反時計回りもまったく気になりません。金属の重みは感じるけど初動は軽く、回転も適度に重いのに軽いんです。口にしたそばから直前の単語を否定している状態でコイツさては気が触れつつあるなと思われそうですが、大筋で間違ってはいません。こまけーこたいいから触ってみんさい。これは電源が投入されていない状態でも味わえるから、店頭にデモ機を見つけたら試回転は必須です。

更にはリング上部に設置された物理スイッチで、ノッチのあるなしも選べます。ありにすればカリカリカリという手応えが発生しますし、なしにすれば無音ですぃ〜っと回転します。そうよ。この感じよ。ユーザーがEM7の後継に想像したスクロールリングは、これよ。これなのよ。

TB800EQ、操作球とリングとローラー、ロゴが入っている写真
ノッチON/OFFスイッチは機械式。凸でノッチあり
TB800EQ、パームレスト部を横から
凹んでいるとノッチなし

ノッチ有効にしても、リング自体が重いおかげかある程度は慣性で回ってもくれますが、止めるのも容易。ノッチ無効状態で回転にブレーキかけると慣性で少し指が引っ張られるぐらいですが、これらはいずれも触覚フィードバックとしてとても優秀だと感じています。具合の良さは甲乙つけ難いので、あとは自分が求める実動作、画面上に反映された動作との相性で選ぶよろし。とても出来が良いので、このリングがあればトラックスクロールの出番が激減します。これ、TB800EQ製造コスト、開発時間の大部分ここに注ぎ込まれてそうですねぇ。

旧リングでは継続使用で樹脂が削れてつるつるになるほど愛用されたユーザーも居られました。新リングはアルミ合金製ですから、それでもあまりに回転具合が良いので手遊び代わりに回しては止めを繰り返しそうで、多少は削れるだろうとは思いますが角が落ちるぐらいでしょうし、新リングは付着した皮脂汚れが落ちなくてメンテしようにも往生する、なんてことは恐らく起きないと思います。このリングの具合の良さは、正直ボールベアリング支持時代の操球感に匹敵するかもと思うほど。

EM7の治世下「正直、リングの出来はOrbitのがいいよね」なんて嘯いてた連中は、真スクロールリングの圧倒的実力に震えなさい。そしてシャッポを脱ぎほっかむりして逃げ出す準備をしたまえ。かあさん。うち、ほっかむりの買い置きあったっけ。

ん〜。いやしかし、ケンちゃんやったね。あと10年はやく出してくれていればとは思うけど。

スイッチは有音

スイッチ類、ユーザー側でユーティリティなどを用いてカスタマイズが可能な数は8。メインの4ボタンに、本体上部の4つとなっています。

メインの4スイッチはマイクロスイッチでしょう、音がするタイプです。近年の静音トレンドからは外れていますが、北米方面では静音トレンドもそこまで強くなさそうなのも影響してでしょうかね。ただ、本体がみっちり詰まっているであろうおかげか、残響が響くようなことはなく「カッ↓チッ↑」という音と感触。「静音じゃなきゃダメ」という人は、残念でございました。

TB800EQ スイッチの音の図

ボタン部品はきちんと独立していますので、どこを押してもちゃんと反応してくれます。EM7まで残っていた「はーいここがスイッチですよ〜目視してなくてもわかりますよね〜」の折れ線はなくなってしまいまして、横から握り込む形でのクリックもあの引っかかりがなくなったせいでちょっとしにくくなった気はします。ちょっと残念ではありますが、まぁ、本体形状との兼ね合いもあるしでやむを得ないのでしょう。その代わりと言ってはなんですが、ボタン部品は本体上面のシェルと高さが一体になっておらず、微妙に持ち上げられて段差があるので、目視せずともだいたいは判ります。

一方で本体上部の拡張スイッチ類4つは静音スイッチです。工場出荷状態で左から戻る、再生/一時停止、音量下げ、音量上げが設定されています。そのまま使用するもよし。KensingtonKonnectを使用して任意の機能を振るもよし。使い方はユーザーの数だけあります。

期待の新顔サイドローラーズ

TB800EQ 右ローラー

そしてこちらも「どんな具合なんだろう」と興味を惹かれる両サイドに設けられたツインローラー。こちらはノッチのない、少し重めの回し心地。スクロールリングのように慣性で回り続けるのではなく、きちんと指をかけて必要なだけ回す印象です。本体側面に結構深めに埋めてあるので誤爆の心配もほぼないと思います。

工場出荷状態では左ローラーに左右(水平)スクロールが設定されています。左右スクロールほど使用者によって要不要が別れる機能も珍しいと思います。私個人的にはほとんど使用しないので、どうやって有効活用したものか悩んだりもしますが、当然「ある」と「ない」では天と地ほども違いますから、用途が思い浮かぶ人にとってはこの上なく良いローラーでしょう。少し距離が遠いなと感じることもありますが、親指小指とも、まぁ届く範囲です。私の手は決して大きくはありません。日本人男性の平均〜気持ち小さめぐらいです。

感じ方は人それぞれだと思うので断定はできませんが、私の場合実は左ローラーより右ローラーの方が回しやすく感じたりします。見た目のイメージ的には左(親指側)を使いそうなんですけど、右(フィンガー側)は手のひらの伸縮が使えるので、思ったよりも横に伸びるんです。

その右ローラーは工場出荷状態でズームイン/アウトが振られています。うっかり回すとあられもない場所がとんでもなく小さく表示されちゃったりするので、OSの基本機能などに詳しくない人は不用意に回すのはやめておきましょう。

そもそも不要であるという人には、左右のローラーと、それからスクロールリングそれぞれ本体裏側に物理的なオンオフスイッチが設けられており、完全に機能させなくすることも可能になっています。スクロールリングがあまりに気持ち良いので、物理的にオフにして、常に指を載せて前後させていたい誘惑に駆られる。薬指で回して親指でブレーキかけて……またこのリング表面に施されたナーリングが親指面をぞりぞりぞりっと引っ掛けてくる感触がきもっちぇえんだわ……

TB800EQ 裏面の機能オンオフスイッチ
本体裏面に設けられたスクロールリングと両サイドローラーのオンオフスイッチ

閑輪休題。紹介だけでもつまらんので実演として、右ローラーにデスクトップ切替を振ってみました。うん。画面上の動きとの相性もかなりいい。デスクトップ切替を頻繁に使用する方にはいいかも知れません。

で次に思いついたのが、戻る/進むをローラーに振ってみること。ただのボタンと違いローラーなので回転させる方向ごとに設定が可能で、時計回しで進む(Macの場合で cmd + →)反時計回しで戻る(Macの場合でcmd + ←)に設定してみました。おお。これ悪くないですね。戻る進むがローラーに集約できれば空いたボタンを別の機能に振れるので、これは結構いい気がします。ただし、戻れたり進めたりする件数が多いと調整が難しいです。

KensingtonKonnectにて右ローラーに戻る進むを割り当てた例

あとは、単純に矢印移動を振ってみました。これも悪くない感じでしたが、ポインティングの存在意義が問われる気もする。

ローラー周りはユーザーがこれから開拓して行く機能だと思いますが、結構いい運用方法ありそうな気配がします。近年、ロータリーエンコーダーを搭載しているキーボードなんかも存在しています。どんな機能を割り当てて使われているかも参考になるかも知れませんね。現時点ではまだ機能設定は見当たりませんでしたが、任意のスイッチを押下しながら回すことでゼスチャ的な使い方も考えられるかも知れません。Kensingtonさん頑張ってね。特にこの方面。

ユーザーを選ぶポインタ挙動

さて、これまで色々と盛りだくさんでお届けして参りました本記事。基本的には絶賛の嵐だったんですが、この項では別種の嵐が訪れます。BGMはピンクフロイドのOne Of These Daysでお願いします。邦題吹けよ風呼べよ嵐。ブッチャーの入場テーマでお馴染みのあれです。本当は全編甘い言葉で埋め尽くしてやりたいところなんですが、というかこっちがそうする気満々のときに限ってドタキャン食らって以降連絡不通みたいなこと、ありますよね。え。私だけですか。

TB800EQを箱から出してPCに繋いで2、3回転させた最初も最初、ほぼファーストタッチの時点で「ぉん?」みたいな感覚があったんです。違和感と言うべきでしょうね。なんか妙に長距離ポインタが飛ぶときもあれば、思っていたよりも全然移動しない時もある。なんだこりゃみたいな感じで、経験上、加速度設定をしくじった時のような。もちろん繋いだばかりの状態ですから、そのような設定は一切弄っていないタイミングです。もしかして妙な加速度設定をハードウェア側に持たせたりしてないだろうなと疑いましたが、それも違うようです。ん〜。までも別に動かせるか、いややっぱ妙だなとやっていて、はたと思い当たるんですね。そう。無駄に球歴を重ねていると一度や二度は経験しているあれ。センサー位置の問題です。

TB800EQは、光学式センサーひとつで操作球の回転を読んでいます。光学式になって以後のトラックボールではこの、操作球表面の1点を読むセンサーが一般的なんですが、センサーの設置位置次第では、移動方向の横軸と縦軸の読み取りに齟齬が発生します。これは実際に手をどう載せているか、指のどこの部分で球を操作しているかなどでも変化して万人条件同じではないのがまた厄介なのですが、TB800EQはセンサーがボールソケットの北側に設置されており、私の手の置き方とは恐らくかなり相性が悪いのです。

TB800EQ、操作球ソケット真俯瞰、支持球とセンサーが見える
既出画像ですがTB800EQのセンサー位置。既出の時点で察した人も居られるかもですね。余談ですが支持球の配置、Orbit Eliteさんみたい。あっちはゴム巻きシャフトだったけど、ちょうどセンサー口を2つ開けるスペースが出来てるよね。色々察しちゃう

TB800EQの場合、センサーから見て最も綺麗に回転が読めるポイント、ここではスイートスポットと呼称します。恐らくは手前側のボールストッパー上、10㎜付近にスイートスポットがある。

私は操作球を人、中、薬三本指の先端で触りますので、手そのものは決して大きくないのですが、指が触れる場所は比較的ボールの奥側に行きます。奥へ行けば行っただけ、スイートスポットから離れて行く。十中八九これが原因じゃないかなぁ。操作球奥側のボールストッパー付近だと、ポインタの左右方向がまったく思うように動きません。それでいて縦軸はセンサー位置のズレがそもそもないので、普通に読んで普通に動く。結果としてポインタ縦移動は大きく反応しているように感じ、横移動は脳内で描いている軌道からすると反応が鈍く、違和感が発生する。違和感が仕事したりしなかったりするのは、球を制御している場所がちょいちょい変化するからで、スイートスポットから遠く離れた場所、操作球の奥まで指を回してグリっと「の」の字を描いたときなんかが最も顕著に現れるが、常にその操球をしているわけではないので、違和感なく扱えている時間もある。

一方でスイートスポット、前述しましたが手前側のボールストッパーうえ10㎜付近を動かすと挙動は素直です。可視化させるためスイートスポットにマスキングテープの切れ端を貼って、それから奥側のボールストッパー付近で円を描いてみると、スイートスポットに貼り付けたマスキングテープの切れ端と画面上のポインタの動きが一致します。うん。まぁまずこれで間違いないでしょうね。

これらの事情がわかってしまえば、ある程度動かせるようになります。解像度も一番遅い400dpiにすると、遅いなりの特徴は当然出ますがポインタはだいぶ制御できるようになる。とはいえこれは結構ユーザーを選ぶんじゃなかろうか。もちろん相手は大球機ですから、人中薬の3本指は操作球を覆うように載せて、指の第二関節付近で制御している人も居ると思います。なによりKensington社自身が、しっかり指を操作球に沿わせるスタイルを基準で考えている節も感じられるので、そのスタイルで操球する人を基準とするならこの位置で良いと考えたのでしょうか。

USB無線ドングルを取り出そうとしているところ

私は写真のように立てた指先を操作球に当てて球を動かしており、ナックルボール型と呼んでいます。指先は操作球奥側のストッパーに近い点で触れることになり、TB800EQのセンサーの向きとは最も喧嘩する型のように思います

USB無線ドングルを取り出そうとしているところ

こちらは指の第一関節を当てて動かす型。ちょっと見にくいですが、操作球頂点よりも少し奥側で操作球と中指第一関節が接しています。これだとナックルボール型よりはマシだと思いますが、TB800EQは操作球頂点付近でも左右方向は結構怪しいので、まだきついかも知れません

USB無線ドングルを取り出そうとしているところ

私が配信などで聞き取りした限り、第二関節を当てて動かしているこの型の人が多そうでした。他の型よりも深く手が乗ることになりますが、第二関節が球に当たっているポイントは案外手前側、スイートスポット付近にあります。K社さんはこれを想定したんでしょうかね

写真はありませんが、第二関節よりももっと深く、第三関節付近で動かしている人も居るんじゃないかと想像します。神話の時代の8bitパソコンで使用されていたトラックボールやゲームセンターにあったトラックボールは、第三関節、あるいはもっと下、手のひらで転がしてました。その時代を知っているいないに関係なく、自然と身体がそう判断した人も居ても不思議ではないですし、実際第三関節ぐらいまで握り込めば、操球はスイートスポット周りでだいたいカバー出来る上に、操球だけでなくメインの4ボタン、奥側の拡張ボタンまで余裕で指が届くようになります。TurboMouseが2ボタンだった時代はともかく、4ボタンになった時点からKensington社はこういう形を想定していたのではないかと、偶然なのですが最近考えていて、これは配信でも言及したことがあります。TB800EQは、このような古式操球術であれば、恐らくセンサー位置による向き不向きをあまり感じずに動かせるでしょうし、他の機能へも、最小限の手指の移動でアクセス可能だと思います。

また、TB800EQで初めてトラックボールを触りました、という人が相手なら「え、こんなもんじゃないの?」みたいに感じるケースもあるんじゃないかなぁ。そういう人なら、ポインタの扱いに習熟して行く中で自然とスイートスポットに多く触れるようになる、つまり第二関節かもっと握り込むかの形に誘導されるだろうと思いますし。このへんは実に難しい話ですが、トラックボールは「これこれ、こう手を置くのが絶対の正解」はない世界ですからね。回帰するんでしょうか。てのひら操作へ。

Kensington社がこれらの事情を解った上で敢えてそうしたのであれば「球の奥側を転がすなんて邪道だよ。王国民の風上にも置けないね。王国民権を剥奪してあげよう」的に三行半を突きつけられたようなもんですし、解っていなくてこれを出してきたのであればそれはそれで大問題。どっちに転んでも地獄じゃないですか。やだー。

一般的にフィンガー型の場合、センサーはボール中心点の真下が最も安泰な場所で、しかしそこだとセンサー部品を置くための厚みが必要となり、その分、操作球の頂点が高くなるデメリットが発生します。そこで現実的には、ソケットの手前(南)側、6時ラインのどこかに置かれていることが多いんですが、Kensington社がそれを解っていないとも思えないので、というか思いたくないので、敢えてこうしたのかなぁと。本体薄くしないといけないしスクロールリングもあるしでセンサー真下とか手前に置きにくくて、あ。ここなら入るじゃーんって奥に置いたって、そんなあなた。昨日今日出てきたブランドじゃないんですよ。しかもフラッグシップモデルですよ。そんなわけない。なにか深慮遠謀があるはずです。この項では私なりに必死に辻褄を合わせてみようと頑張りました。Kensington社のためでなく、そうしないと私自身の心の均衡が保てなくなるから。すみません。私はか弱い王国民なのです。しかし現実には解決の糸口すら掴めず、謎は深まるばかりです。

などと自分に言い聞かせてみるも不安で仕方がない王国民、Kensington米国本家さんへ問い合わせは行っています。そんな色良い返事はこないだろうとは思いますけども。うーんしかし難しいなぁ。私の使い方だとアウト寄りのアウトなんですけど、私の想像ですが上に写真で紹介した手指のスタイル3種で考えても2/3ぐらいのユーザーは弾かれてしまうんじゃなかろうか。その一方で1/3のユーザーは大丈夫だと仮定するなら、大丈夫な人も居るのに安易にグレーテスト・ストリーム・クラブ入りさせて良いのだろうか。うーむ。

何もかも上手く行かないときは遠くを見ているような瞳の少女を探せってローリングストーンズが歌ってましたけど、彼女はいま、私とは違う方向の遠くを見ているんでしょうね。ま。意中の子がこっちを見てくれない、なんてこと日常茶飯事過ぎて改めて宣言するほどのこともありませんけどねあたしゃ。はは。

Expert "Ring" TB800 EQ

締めに入ります。実にふた昔前以来の新型ということで期待されていたTB800EQ。前世代機からは考えられないほど薄くなり、品質、使用感ともに劇的向上したスクロールリングを搭載したTB800EQは、このスクロールリングの眼を見張る完成度がこの機種のすべてと表現しても過言ではないかも知れません。それぐらい使いやすくまた、具合がいい。本当に使って気持ちの良い機能になっています。なんと申しましょうか。ケンジントン、エキスパートリング TB800 EQにした方が良くない? と思うほど。いやまぁ、マウスってつけとかないと一般層に理解されないでしょうからそこは仕方ありませんが。

現状考えうる接続方式をすべてカバーし、前世代機ユーザーが抱えていた不満と「こうなっていればいいのに」という要求欲求を叶えたスクロールリング、そして発展の可能性を秘めたサイドローラーと、単に以前からの課題を潰しただけではないプラスアルファも加えて、新エキスパートの船出をまずはお祝い申し上げます。お世辞などではなく、本当に素晴らしいデバイスに仕上がっていますよ。ただ、ポインティングの難易度が高く、現状では、ユーザーがTB800EQを選ぶのではなく、TB800EQに選ばれた人でないとユーザーになれない。そんな印象を抱かせられたモデルです。いいなぁ。私なんか歯牙にも掛けてもらえませんでね。皮肉ではなく、TB800EQに選ばれたユーザーさんが本当に羨ましい。新スクロールリングは極上の使用感ですもん。

一方市場では、かつてKensington社の十八番だったベアリング支持式のトラックボールも再発見されており、今後確実に支持者を増やすであろう気配も色濃く漂っています。同様に、プログラマブル(オンボード)機能も、日が経つにつれユーザーからの要望は大きくなるでしょう。TB800EQではこれらの機能は、果たして検討されていたのかどうかも不明ですが搭載されていませんから、それを残念に思う人も居るでしょう。特にベアリング支持についてはトラックボールの根幹部分なので、改めて王の帰還を期待するところではあります。ただ、支持球型でも十二分以上にスムーズな操球感を持っていて、そこはさすがですねとも思いました。

しかしなぁ。TB800EQから選ばれなかったユーザーの愚痴ですが、やっぱあのセンサー設置位置には疑問が残りますて。もし私と同様にこれではまずいんじゃないかと感じるオーナーが多いようであれば、なんてったって高額商品ですし、購入前に入国審査があるわけでもないので、ただでは済みませんよ。令和の球騒動として王国史に刻まれたらどうしよう。いや、刻む王国史そのものが残れば御の字か。

皮肉なことに、センサーの問題さえなければそれ以外は本当に優秀で、王国史上の名君になる資格は有しているはずなんです。難しかったであろうEM7からの世代交代を成し遂げる目前。王国民の支持が割れ、外野は面白がり囃し立てる。その混乱に乗じて外戚(SlimBlade一派)がアップを開始する。なりませぬ。お家騒動に発展させては。

見た目に先々代のTurboMouse Pro(EM6)の雰囲気があるとよく言われてきたTB800EQ。先々代も意欲的な機種でしたが、PC界変化の潮流に飲まれて短命に終わった印象です。短命でも次以降が続いてくれるのならそれはそれで構わないのですが、TB800EQは幼君だからでしょうか。得手不得手がハッキリしていて不安も残るけど、素晴らしい素質も間違いなく感じられますから、不行き届きな点があったのなら認識を新たにして、今後も必要な修正改良やソフトウェア面のサポートなどを継続していくことでユーザーに受け入れられ、広く長く愛される王になって欲しい。いち王国民としてそう願って止みませんが、そのためには幼君を支える体制をしっかり整えないと。

というか。センサー周りの話は今からでも遅くないどころか一分一秒でも早い方がいいと思うので、一度持ち帰って検討しなおしたほうが良くないですかね、Kensingtonさん。現状でも問題ないという王国民も居るだろうとは思いますよ。でも、長らく人口減に苦しんだ世界がようやく少し上向きかけているところに、こんなに厳し目の入国審査を設けたら、来るものも来なくなってしまいます。

そも、エキスパートマウスはプロフェッショナルだけのものではなく、身体的制約のある方々も使用する、使用できる、その日々の生活を支援をすることが出来る、反復性運動障害を患ってしまった無辜の民にも寄り添える、多くの民に優しくあれかしと願うエキスパートたちが造ったトラックボールでもあるべきです。それをこんなに使用者を選ぶデバイスにして本当に良いのですか。価格が安くないのはこの際良いんです。その分でより多くの民と共にあってくれるのなら。しかし現状はどうでしょう。どうか、どうかもう一度、本当にこれで良いのかを検討して頂きたい。せっかくご提供いただいたのにこんなこと言うのもどうかとは思うんですが、正直私のこの記事が販促になるとは思えませんで。自由に書いてくださいとのことでしたから、自由に、そして精一杯書きはしましたけども。

製品サイクル的にももうあと何回見られるかわからない、新王誕生で沸き立つ王国の様子を記憶に刻みたいと待ち構えていました幸塚。現実には賛否で王国を分断するかも知れない幼君の奔放な振る舞いに不安を覚えるのみならず、このまま混乱が続けば王国の未来も、そして次世代Orbitの芽も潰えるかもと咽び泣く。

最後に簡単な二択問題。正解なら次へ。不正解ならギロチンと共和制が待っています。あっ。まさかそっち選ばないよね。そっちは血の匂いがするよ。

左奥TurboMouse Pro・右手前TB800EQ

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