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ホロライブとにじさんじは、どこでリスクを引き受けているのか ――成功と継続、その不確実性の置き場所

はじめに

なぜ今、この話を書くのか

本記事を書くに至った背景には、大きく二つの出来事がある。一つは、ホロライブにおいて卒業が相次いだこと。もう一つは、ANYCOLOR株式会社の業績発表を受けて、同社の成長性に疑問が生じ、株価が大きく反応したことだ。

これらは一見すると無関係な出来事に見えるが、どちらもVTuber事業がどのようなリスクを引き受けて成り立っているのかという共通の問いに行き着く。

本稿では、個別の是非や感情論から距離を取り、採用やデビュー、売り出し方といった事業設計の違いから、ホロライブを運営するカバー株式会社と、にじさんじを運営するANYCOLOR株式会社を比較していく。


採用と売り出し方の違い

成功の責任を、どこで引き受けるか

カバーとANYCOLORの違いは、デビュー後の展開だけでなく、採用の考え方そのものに表れている。

カバーはオーディションを通じて才能を選別し、そのうえで「全員を成功させる」ことを前提に全力のサポートを行う。成功しない人を出さないというより、成功させる覚悟を最初に引き受けるモデルだ。

一方、ANYCOLORはVTAを含め、意欲のある人材を比較的広く受け入れ、デビュー後の活動を通じて評価される構造を採っている。特色型オーディションなどの工夫はあるものの、基本的には市場の反応を見ながら、伸びる人を選抜していく設計である。

この違いは優劣ではない。どちらも合理的な選択であり、後に述べる成功の再現性や、タレントにかかる負担の形へとつながっていく。


再現性という決定的な差

「当たった成功」と「連れていく成功」

採用とデビュー思想の違いは、そのまま成功の再現性に表れる。
ANYCOLORはこれまで明確な成功例を生み出してきており、近年デビュー組の中にも大きなヒットと呼べるライバーは存在する。ただし重要なのは、それが「起きた成功」であって、「次も同じように起きる成功かどうか」は別問題だという点だ。

ANYCOLORの成功は、デビュー後の配信活動を通じて市場が評価し、拡散した結果として確定する。配信トレンドやタイミングといった、運営が完全には制御できない要素が結果に大きく影響する以上、成功は起こり得るが、保証はされない

壱百満天原サロメの成功は、この構造を象徴する外れ値である。可能性を示す一方で、同じ成功を再生産することが難しい点も同時に示している。
ただし、ANYCOLORが運任せであるわけではない。男性ライバー領域のように、当たりやすい分野を見極め、重点的にリソースを投下する戦略も取っており、VOLTACTIONや3SKMは「当てに行って実った成功」と言える。

つまりANYCOLORは、成功確率を高める設計ではあるが、結果を保証するモデルではない

一方でカバーは、個々の偶発的なヒットに賭けるのではなく、一定水準以上の成功に至る工程そのものをあらかじめ設計している
近年のデビューでは、ユニットとしてのつながりを強く打ち出し、初配信から3Dお披露目、ライブや楽曲展開に至るまでが一つのパッケージとして完成している。

カバーが目指しているのは必ず大ヒットを生むことではない。毎回、ヒットと呼べる水準まで連れていくことであり、その成功は偶然ではなく、ある程度予定された結果として現れる。
その一方で、この再現性の高さは、別の形の不確実性と表裏一体でもある。


不確実性の置き場所

成功と継続、どちらを賭けているのか

ここまで見てきた再現性の違いは、偶然の差ではない。両社がどの不確実性を引き受けるかという経営判断の結果として現れている。

ANYCOLORは、成功するかどうかを最後まで確定させず、市場の評価に委ねることで柔軟性と効率を確保している。言い換えれば、不確実性を入口に置くモデルだ。

一方、カバーは成功をできるだけ確実にする代わりに、成功した後にそれをどこまで続けられるかという不確実性を引き受けている。こちらは不確実性を出口に置くモデルと言える。

どちらもリスクを避けているわけではない。リスクをゼロにするのではなく、置き場所を選んでいるに過ぎないのである。


代替不能性が生む負担

「その人でしかできない仕事」が増えるということ

タレントにかかる負担の本質は、単純な仕事量の多さではない。本質は、そのタレントでなければ成立しない役割が増えていくことにある。

カバーのモデルでは、全員を主役として扱う以上、タレントは早い段階からIPの一部として機能する。
ライブや楽曲、周年イベントといった活動は特定の人物を前提に設計され、成功すればするほど、代替不能性は高まっていく。これは運営の失敗ではなく、全員を成功させる設計が生む必然的な帰結だ。

一方、ANYCOLORでは、すべてのライバーが同じ重さを背負うわけではない。代替不能性は主力層に集中する形で現れる。
葛葉や月ノ美兎が担っている役割は、単なる人気配信者を超え、箱の象徴性や物語性そのものに近い。この点において、彼らが背負っている重さは、ホロライブの主要タレントと本質的に変わらない。

「重要」という言葉の意味

ここで注意すべきなのは、「重要かどうか」という言葉の意味である。本稿で扱っているのは、個々のライバーの価値や人気の高低ではない。

あくまで、箱全体の構造において、どれだけ重心を担っていたかという話だ。

これまでのにじさんじの卒業者の多くは、ファンにとって重要な存在であり、それぞれに固有の役割や物語を持っていた。
ただし、箱全体の象徴性や物語性を一手に引き受ける立場ではなかったため、卒業という出来事が構造全体を大きく揺るがす段階には至らなかった。

過去に顕在化した例

代替不能性が顕在化した例は、ANYCOLORだけに限られるものではない。
むしろカバーでは、その現象がより分かりやすい形で表に出ている。

にじさんじにおける例としては、黛灰の卒業が挙げられる。
ここで論じたいのは、卒業の是非や理由ではない。
彼が担っていたのは、配信活動に加えて企画性や語り口を含む独自の役割であり、それは容易に代替できるものではなかった。
このような存在が抜けた際に生じた喪失感は、にじさんじにおいても、代替不能性が確かに存在していたことを示している。

一方、ホロライブでは、より箱の中核に近い存在の卒業がすでに起きている。
湊あくあや、海外展開の象徴的存在であったがうる・ぐらの卒業は、
個人の人気や実績を超えて、ホロライブという箱そのものの構造に強い影響を与えた事例と言える。

これらの違いは、価値の大小や運営の良し悪しを示すものではない。
ANYCOLORでは代替不能性が主力層の一部に、時間差を伴って顕在化してきたのに対し、
カバーでは全員を成功させる設計のもとで、代替不能性がより早く、より明確な形で表に出ている。

ここから見えてくるのは、
ANYCOLORが「軽い構造」であるということではなく、
代替不能性が集中し、遅れて現れる構造を持っているという点であり、
カバーが「重い構造」であるというより、
代替不能性が分散し、早期に顕在化する構造を持っているという点である。


おわりに

どの不確実性を、誰が引き受けているのか

ここまで見てきた違いは、最終的に一つの対比に集約される。
ANYCOLORは成功することが不確実なモデルであり、カバーは続けることが不確実なモデルである。

これは優劣の問題ではない。どのリスクを、どの段階で引き受けるかという、事業上の賭け方の違いだ。

VTuber事業は、成功を確実にすることが難しいのか、
それとも、成功を続けることが難しいのか。

ANYCOLORとカバーは、正反対のリスク選択をしている。

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コメント

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なるとなる

引き込まれる考察でした。 ホロライブのような「重心が分散」というのは初期の動画勢Vtuberからの伝統的なかたちなのかなと思います。 そう考えるとエニーカラーが特異な運営であり、管理や資金も含めてマネできるようなところは少ないのだろうと。 また、にじさんじの登録者数1位が葛葉、そして…

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ロッキュー

とても興味深い記事でした。 個人的には、えにからは安定株、カバーは博打株というイメージです。 えにからはここから大きくファン層を拡大させることはなかなか難しそうなものの、既存の強固な女性ファン層などがそう簡単に崩れるとは考えにくく、ずっと安定した業績を上げられそう。 カバーは一視…

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