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江戸川乱歩『人間椅子』オチ考察

はじめに

最近、人間椅子というバンドにハマっている。
奇しくもBLANKEY JET CITY同様イカ天出身で、1990年にデビューした和風地獄系ヘビメタプログレバンドである。

バンド名の由来は江戸川乱歩の『人間椅子』で日本文学をテーマにした曲が多く存在する。
芥川龍之介の『杜子春』、『羅生門』、また落語の『品川心中』などなど……

そんな人間椅子関係文学作品を読んでみようという中でやはり最初に目についたのはバンド名になっている『人間椅子』だった。

まだ読んだことない人は以下のアドレスで無料で読めるので読んでいただきたい。
30分あれば読み終わる量である。

読み終わっただろうか?
以下ネタバレを含むので読んでない人は読んでから進んでいただきたい。

あらすじ

いや、読むの面倒くせぇよという人には以下の書き下ろしのあらすじを読んで欲しい。

主人公は洋館の豪邸に住み、官僚の夫が出かけると書斎で執筆にあたる婦人作家。彼女にファンから一通の長文が届いた。
そのファンレターには以下のようなことが書いてあった。

「私は醜い容姿であるために女性に見向きもされずに生きてきた、しがない椅子職人である。ある日受注した椅子を作ってる途中に椅子に自分が入り込むというアイデアが浮かんだ。早速、椅子を改造し、入り込んだ。
そのまま外国人向けのホテルに運ばれると、たくさんの人が自分が入った椅子に座っていった。実は目的は夜な夜な椅子から抜け出しての盗みであったが、その目的も人に座られるという奇妙な体験により上書きされていった。
ある日、素敵な外国人女性が座った時は恋するような感覚になったし、要人が座った時には椅子の中からその人をナイフで刺したらちっぽけな自分も世界に激震を与えられるかもしれないとも思った。
そんな中、ホテルの経営方針が日本人向けに変わるにあたって、西洋風の私の椅子はある豪邸の官僚に買われることになった。ある婦人がこの椅子に座ることになったが、その"座られ心地"は天にも昇るほどで前述した恋を超えた特別な感情があった。
さて、勘の良い奥さんならお気づきかもしれないが、この椅子というのはあなたが今座っているもののことである。私は醜い容姿なので恐縮だが、是非奥さんとお話がしたい。今は椅子から抜け出し、中庭にいるのでお会い頂けるのであれば窓からハンカチを振っていただけないだろうか。」

婦人作家は悲鳴を抑えて部屋から飛び出した。椅子を分解する?あの男の残したものが出てきたら恐ろしい!など考えながら走っていると女中にまた手紙を渡された。
恐る恐る開けてみるとこう書かれていた。

「私の小説、読んでいただけましたでしょうか。タイトルはそうですね。『人間椅子』とでもしましょうか。」

江戸川乱歩先生の名作を私めがあらすじにするのは恐縮でしたが、ざっくりこんな内容だ。

考察① ただのファンの小説だった説

これはそのまま。おそらく普通の解釈。
「なーんだ、ただの小説だったんだー」チャンチャン
というオチである。
調べたところ叙述トリックの草分けとされる作品らしいが、その最後にピースが繋がるところにカタルシスがある作品と思える解釈。
しかし、江戸川乱歩の作品でこんなに平和的(?)に終わっていいものなのだろうか。
江戸川乱歩の"気違い"じみた小説に倣って私も気が違った考察をしていきたい。

考察② やっぱり実話だった説

これが①に対して対になる解釈。
個人的にはこの解釈を本命にしている。
つまり、実話と見せかけた作り話と見せかけて実は裏側では気違いがほくそ笑んでいるというパターンである。

根拠は以下の通り
A. 椅子の買い手が官吏であること、豪邸の書斎で執筆、及びファンレター読みを行っていること(椅子が使われていること)が一致している。
B. 人間が入れるサイズの椅子なんてそうそうないのにも関わらず、奥さんが恐怖を感じたということはサイズが合致している。また、椅子が数ヶ月前に運び込まれたであろうことが合致している。
C. ハンカチを振らなかったということは人間椅子に対して拒絶を示しており、人間椅子は拒絶を認識して仕方なく女中に小説であることを知らせる手紙を渡したと思われる。(ハンカチを振ったら会えたかもしれないということ)

Aについては奥さんが売れっ子作家であることを考えるとインタビュー等で公開情報になっている可能性もある。
しかし、Bについては流石にわざわざインタビューに書かれることはないだろう。例えば今私が同じ境遇になったとて、どうあがいても人間の入れない椅子であること、いつ買った椅子かを考えればそれが作り話であることについてはわかってしまう。

Cが最もこの考察の肝になるところであり、実際にやってないからにはわからないという不気味さ、ドキドキを孕んでいる。女に相手にされない気違いというのは変なところで大胆であり、変な所で臆病なものなのである(自虐)
椅子に入り込むという大胆なことが出来ても、いざ拒絶されてしまうとはぐらかしてしまう気がするのである。

考察③ 女中の仕業説

これはもうネタというかあまりに突拍子のない考察であるが、女中が仕掛けたいたずらであるという説である。
なんかこの説が一番ミステリの犯人としてありそうじゃない?(笑)

根拠は以下の通り
D. 女中は②A,Bの情報を知っているので話を合わせられる。
E. ファンレターをすべて読むことを知っていた。
F. 最後に手紙を持ってくるタイミングがあまりにも良過ぎる。

D、Eについては当たり前だし、確固たる根拠にはならない。
しかし、やはりFが引っかかるのである。
いや、女中が手紙持ってくるタイミング完璧過ぎない?

それが日々退屈な奥さんへのささやかなサプライズなのか、奥さんを怖がらせて臆病にさせた上で近寄りたいのかは謎ですが、矛盾がないから誰にも否定はさせないというのがこの説の強引なところである。

さいごに

この手の最後に浮遊感のある終わり方をする物語というのは考察するのまで楽しんでどうぞと読者に判断を委ねるのがありがたいところであり、想いを馳せるきっかけになっている。

今まであまりミステリを読んでこなかった身ではあるが、トリックによるカタルシスだけではなく、こういった浮遊感こそが一番の魅力なのかもしれないと感じた。

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