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"アジア人の真似"釣り目ポーズ:悪気なくやる人と、悪意ある差別と

フィンランドの事件

2025年12月、フィンランドのミス・フィンランドであるSarah Dzafceが、Instagramでアジア人を侮辱する「釣り目」ジェスチャーを行った写真を自ら投稿し、大きな批判を浴びた。Dzafceは"kiinalaisenkaa syömäs"("中国人との食事")とのキャプションとともに、釣り目ジェスチャーをしている写真を投稿していた。この行為は人種差別的だとされ、ミス・フィンランドのタイトルは剥奪された。主催者側は差別行為を一切容認しないと声明を発表し、Dzafceは謝罪した。

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Miss Finland stripped of crown following apparent racist gesture. Yle News. 11.12.2025

フィンランドからの擁護する声

このフィンランドの「釣り目」ジェスチャー事件に対しては、擁護する声も一定数出てきた。特に右派フィン人党(Finns Party)の複数の議員が、ミス・フィンランドのサラ・ザフチェへの連帯を示す形で同様の「釣り目」ジェスチャーをSNSに投稿した。彼らはこの行為を「バカにする意図ではなかった」と釈明している。左派野党はこれを批判したが、連立交渉のある与党はこれについてコメントを控えている状態と報じられている。

過去の類例

このような釣り目ジェスチャーについて、フィン人党のような極右による露悪的なものだろう、という意見も良く見る。しかし、この釣り目ポーズに関してはそんなことはなく、非常に広く見られるのが実情である。

スポーツチーム

ラピノーのツイート:2021年6月、アメリカの女子サッカー選手ミーガン・ラピノーが自身のツイッターで「You look Asian with those closed eyes(その閉じた目でアジア人みたいに見える)」と発言し、人種差別的だとして批判を浴びた。彼女は後に謝罪し、差別の意図はなかったと釈明した。ラピノーは女性差別反対・LGBTQ+擁護の反差別的な立場を取る代表的なセレブリティとして知られていたが、一方でアジア人の目の形を揶揄する「釣り目」ジェスチャーをやってしまったことには大きな批判が集まった。

セルビア女子バレーボールチーム:同月2021年6月、イタリアで行われた女子バレーボールのセルビア対タイの試合で、セルビアの選手が釣り目ポーズでタイの選手を挑発し、即座に謝罪に追い込まれた。なお日本でもやっていたらしい

ユヴェントス女子チーム:2021年8月、イタリアのサッカークラブ、ユヴェントス女子チームがSNSにてアジア人を揶揄する「釣り目」ジェスチャーをした写真を投稿し、これが人種差別的だとして大きな批判を受けた。チームはすぐに謝罪文を発表し、投稿を削除した。

中国での広告

メルセデス広告事件:2021年、自動車メーカーのメルセデスが中国で展開した広告で、釣り目風を強調したアイライナーをモデルに使ったことが批判された

Swatch広告事件:2025年、スイスの時計ブランドSwatchがアジア人モデルが「釣り目」ジェスチャーをする広告を中国で展開し、人種差別的だとして大きな批判を受け、謝罪と広告撤回を行った。

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スウォッチ、「つり目」広告めぐり謝罪 中国での批判の高まり受け BBC 2025年8月18日

悪気もなくやっている人々、悪意満々の人々

ここで注目すべきは、差別だと分かっていたらやらないであろう人たちがやっている例が少なくない、ということである。ミーガン・ラピノーは反差別の活動家として広く知られている人であった。メルセデスやSwatchに至っては中国内での広告展開で釣り目ポーズをやっている。このあたりの例は、これが差別として批判されると知っていたらやらなかっただろう。無知が原因である。

一方で明らかに悪意があってやっている人たちもいる。セルビア女子バレーボールチームは対戦相手に対して見せつけるようにやっており、ここには明瞭な悪意が感じられる。ただしこの人たちも(あるいは冒頭のフィンランド党にしても)同じ場面で黒人差別をしたらアウトだという認識を持っていることが多く、悪意があるうえにさほど問題と思っていないという厄介なスタンスを取っている。

このあたりは"Ching Chong"という言葉の使い方でも見られ、中国語版John Smith程度の意図で使っている例もあれば、明瞭に侮辱・差別の意図をもって使われている例もある。東アジア人が南米に行けば子供が指さしてチーノチーノと言ってくる……というのは定番の話だが、これも悪意があるのかないのかについて議論しているReddit記事が見つかる。

やってるほうは悪意がない、しかし悪意がないからこそ困るという問題は、漫画「アオアシ」でも触れられていたようである。実際、上の例に挙げたようにサッカー界ではカジュアルに行われ深刻である。


日本における類例:"西洋人"を示す付け鼻

日本には、江戸の浮世絵の時代から西洋人(雑で広い概念)を金髪/赤毛・碧眼・高い鼻で描写するというステレオタイプが日本に存在する。昭和の時代にはテレビのコントなどでウィッグと付け鼻を使った変装が頻繁に使われていたが、特に付け鼻について、日本在住の欧米出身者から嫌悪感が示され、21世紀に入ると人種差別的な表現として使われないようになっていった。

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2014年には、ANAのテレビコマーシャルで金髪に高い鼻を強調した表現が用いられ、外国人から人種差別的だとして苦情が寄せられて炎上騒動となったが、これが主要メディアで行われた最後の「付け鼻」ではないかと思う。

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金髪&付け鼻のANAの新CM、外国人から「人種差別だ」と苦情で中止。2014年01月21日

昔からWokeの世に至るまで白人は「強い側」として位置づけられており、この手の付け鼻カリカチュアライズも、やってる側は見下してるわけじゃないからOKという理屈で正当化が試みられていた。しかし、やられた側は嫌がっているのは事実であり、人種差別であるとしてこの表現は消えることになった。

釣り目ジェスチャーについても、「悪気もなくやっている人々」については感覚的にはこれが近いのだと思う。これは繰り返し言っていれば直るタイプのものだろう。ただ、それでも人権意識のアップデートが遅すぎるとは言わざるを得ないところではある。

植民地への贖罪意識、それがない東アジア

欧州はアフリカ、中東、南アジア、南米などの諸国には、戦争や植民地支配における贖罪意識を背負っていることが多い。このため、これらの国に対する差別発言は倫理的に悪として認識されることが多い。

一方で東アジアについては、植民地支配はないか限定的で、贖罪意識がないか薄い。また東アジアは経済的に発展しており、「見下す」相手でもないと認識されている。

その結果として、特に日本について、エキゾチシズム、魅力を認めつつもどこか異常な野蛮人扱いする視線、オリエンタリズムの最後のはけ口のような扱いを受けている。旧植民地相手にはオリエンタリズムは差し控えられるようになっている一方で、日本に対しては公共放送のBBCですら露骨なオリエンタリズムが多々見られるという批判記事がThe guardian紙に掲載されているし、この記事に挙げられていない例も多々見てきた。

また東アジアが人種的偏見として見下されていないかといえばそれもまた異なる。例えば、大谷翔平の活躍で《東アジア人は非力》といった偏見が払拭されたとする記事が英語(例1例2)や日本語(例1例2)のどちらでも見られるが、言い換えれば非力だと見下されるのが当たり前だったということでもある(特に男にとっては)。


周辺情報を合わせれば、日本における付け鼻表現のように「どっちもどっち」という部分もある。一方で植民地支配がなかったことや経済の強さ、肉体の弱さに絡んで、「見下すのが完全に憚られるわけでもない、心のブレーキがかからず気持ちよく見下せるちょうどいい存在」みたいな扱いを受けているという側面も否定できないのが正直なところである。

私個人としては、吹きあがって暴れまわるのもいかがなものかと思うが、ただ総合的に見て「騒がず大人の対応」なんて態度も実相から遊離していて良くない、という感想を持っている。




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