間章:其は天穹を覇する黄金の失墜を望む者
MHWがプレイできない悲しみと怒りを濃縮してフラストレーションをエクスプロージョンして設定を詰め込みました
これはクターニッドが討伐された少し後の出来事。
鬱屈とした密林。彼らは歴戦の戦士であり、探求者であり、生還者である。
あまたの魔境を乗り越え、それに見合う強さを得た彼らをしても、この場所では油断することができない。
「……と、まぁ野良パだけどそこまで緊張せずまったりやっていきましょう」
幅の広い長剣を腰に佩き、装飾として見事な染色が為された布が使われた騎士装束を纏った男の名は「武Luck Shine」、名前から哀愁が漂う男ではあるがこの場に来ているというだけあってタンク寄りの中装備アタッカーたるその装備とステータスに妥協はない。
「まだ三時以降の深夜帯に出現するモンスターは判明しきってないし、緊張はしなくても警戒はしないとパックリいかれるぜ?」
一期一会の関係で不穏な後味を残さぬよう和を求める武Luck Shineとは異なり、辺りを注意深く警戒する漆黒の忍者装束に小太刀二刀の男は「ヴィジランス」、今までずっとソロプレイを貫いていたものの、新大陸の過酷なモンスター群に苦渋の選択で野良パーティへの参加を決めた経緯を持つ。
少なくともこの場にいる全員が相応の実力を持ち、いわゆる不相応な実力のまま高みへ登る寄生プレイヤーではないという点では初のパーティ戦としては上々であろう。そしてソロプレイ故に索敵に特化したスキル群はパーティプレイでもその性能を遺憾なく発揮する。
「そうですね……でもあのケルベロスティラノが出ないだけでも随分マシじゃないですかね? アレは本当に頭おかしいですから……」
そうしんみりと語る、このゲームでは珍しく声と性別が一致した女の名は「笑みリア」。特に目立つユニークを持っているわけではないのだが、新大陸組と呼ばれるプレイヤーの中でも拠点強化に貢献するプレイヤーとして一目置かれる副業に「大工」を持つクレリックである。
拠点強化に於いてはトンカチを、そして息抜きのハンティングの際はメイスを装備する姿は大多数のプレイヤーから「何かを殴るのが好きなのかな?」という疑惑を抱かれていることに本人は気づいていない。
かつて拠点に襲来した三つ首のティラノサウルスに蹂躙された過去を持つ笑みリアにとって、未だ誰も討伐できていないが故に誰も名を知らぬ彼のモンスターはある種のトラウマであり、出現が確認されていない深夜であってもその影に怯えている。
「でもあれ、「捕獲」判定自体はあるらしいからライダーの騎乗獣にできるんじゃないかって検証してる人達いるらしいっすよ」
そして臨時で組まれた野良パーティ最後の一人の名は「レイジ」。僅かに顔を合わせ声を交わしただけではあるが、ある人物と細い糸で繋がった魔法と直剣をバランス良く使い分ける魔法剣士である。
剣の道を突き詰めるのではなく魔法を取り入れ奇跡を宿す剣で戦う「魔法剣士」の本業に加え、ある理由から副業に「ライダー」を持つプレイヤーではあるが、「可愛くない騎乗獣は望ましくない」という理由から未だに一体の騎乗獣すらも持っていない。
「……とりあえず、周囲にモンスターの気配はなし。俺の索敵を上回る隠密性能持ちがいたとしてもさすがに許してくれ」
「了解、とりあえず目的の再確認だ。今回のターゲットは開拓船の「夜梟梟の鱗羽根」の納品……つまり「ドラクルス・ディノウル」の討伐です。一応全員ドラクルス・ディノウルと戦った経験はあるんですよね?」
ドラクルス・ディノウル。おそらく厳密には「ディノ」と「オウル」を組み合わせたのだろう名前と、「ドラクルス」の名前が組み合わさったそのモンスターはなかなかに奇妙な姿をしたモンスターだ。
「あの恐竜みたいな梟ですよね? 拠点に来たのをパーティ戦ですが倒したことはあります」
「……一応ソロ討伐経験ありだ、今までソロでやってたからな」
「俺も戦ったことはあります、あの時は別のモンスターに乱入されて倒してはないんスけど……」
新大陸に出現するモンスターの中でも恐竜的な特徴を持つモンスターは皆名前に「ディノ」もしくは「ドラクルス」の名を冠している。これらが同じ種族であるのか、それとも別の法則があるのかは考察を好むプレイヤー達の
間で熱心に討論されいてるが、そこまで考察に興味のないプレイヤー達にとっては「ディノ」も「ドラクルス」も厄介な性質を持つモンスター群という認識の他に意味はない。
「ドラクルス・ディノウルは無音攻撃が非常に厄介なので、ヴィジランスさんは攻撃よりも奴の補足をメインでお願いできますか?」
「了解、補足メインなら色々道具を使ってもいいか?」
「ああ、忍者だと色々使えますからね……了解です、ただ「大癇癪」は使わないようお願いします」
「流石にアレは使わねーよ……ある程度開けた場所でも他のモンスターがウヨウヨ寄ってくるし」
全身の羽毛が「鱗」に置き換わっているにもかかわらず、ドラクルス・ディノウルはモチーフである梟と同様に極めて無音に近い羽ばたきでプレイヤーに襲いかかる。
「ディノ」モンスターに共通する堅牢な鱗の鎧により暗殺者のごとき奇襲と重騎士のごときタフネスを両立するドラクルス・ディノウルは一度その姿を見失うと戦闘時間が割とシャレにならないレベルで延びる。それ故にある程度の索敵とAGIを持つプレイヤーが重宝される。
「一番頑丈なの俺っぽいんで、俺がヘイトを受け持ちます。笑みリアさんは遠慮なくぶん殴ってください」
「はいっ!大工で鍛えたメイス捌き、見せちゃいますよ!」
なお、「大工」の特性によりハンマーを振るほど打撃系スキルに経験値が入るのであながち間違いではない。
「んでレイジさん、あんまり派手なエフェクトの魔法は使わないようお願いします」
「ウッス」
「あと念のため、全員大技はなるべく温存してください。深夜帯は乱入確率が結構高いらしいんでもしもの時はタイミングを合わせて大技を叩き込んで一気に決着を狙います」
主に午後十時くらいからしかログインできない社会人メインで構成されたクラン「午後十時軍」に所属する武Luck Shineはある程度の指揮官経験がある。それ故に的確な指示に異を唱える者はおらず、獣道すら存在しない植物の海を進んで行く。
「あ、すいませんアイテム拾います」
「えーと……ああ、ワイルドジュラハーブ。「大味な回復薬」の材料になるんですっけ?」
「あはは……拠点防衛だとアイテム消費が激しくて。貧乏性ですかね?」
「そもそもアイテム購入すら安定しないし、現地調達は重要だろう」
「知り合いに調合系の称号持ってる奴いないとぼったくられますよね。調合に五千マーニとか引っかかる奴いるんすかね、ははは」
薄暗いとはいえ暗闇の中、索敵と隠密に特化してるが故に調合は他人任せなヴィジランスがレイジの台詞に「え、マジで?」と目を見開いたことには幸か不幸か誰も気づかなかった。
四人は進む。面倒な大型モンスターは事前にヴィジランスの索敵で回避し、ある程度短時間で狩れるモンスターは素材集めも兼ねて手早く処理する。NPCが雑魚モンスターの素材も割と高値で買い取ってくれるため、素材として求めているわけでなくとも雑魚モンスターの素材を集めるプレイヤーは多い。
「レイジさん、ライダーって確か前段階にレンジャーを挟む派生経路もありましたよね?」
「あ、俺レンジャー派生なんで「痕跡追跡」使えますよ」
「おっラッキー、じゃあお願いします。確かディノウルは「枝が折れた大樹」がポイントだったっけな……」
「武Luck Shineさん詳しいですね……」
「いやぁ、仕事柄色々覚えなきゃならないんですけどやっぱりゲームだとモチベーションが違いますよね」
レンジャーが習得できるスキル「痕跡追跡」は特定のオブジェクトに対して発動することでそれに対応するモンスターの位置を感知する索敵スキルである。ヴィジランスのそれより精度こそ低いものの、大まかな座標であれば数百メートルまでなら範囲に収められる。
「結構近いです、多分まだ気づいてないけど……確かディノウルって索敵鬼性能してましたよね」
「ですね、索敵ぎりぎりから狙撃特化で攻撃すれば先制できるらしいけど基本的に向こうに気づかせてから戦うことになりますね」
「狙撃……できるんです?」
「ウチのクラン……午後十字軍に一人だけね、ちょっと怖いくらい強い奴がいるんだ。対人戦も割と強いけど新大陸みたいな「やたら強いモンスターがウヨウヨしている」サバイバル系? の環境で妙に強いんだよね……」
当人は昔取った杵柄とは言うものの、その杵柄がなんなのかはいつもはぐらかしている。そんなプレイヤーではあるが新大陸で獅子奮迅の活躍をしているが故に、現在クラン「午後十字軍」はトップクラン「黒狼」よりも先を行っているのだ。尤も、黒狼の主力がまだ新大陸に来ていないからこその三日天下でもあるのだが。
「……みんな、反応が近い」
「というかこっちに来てるな……食いついたぞ!」
「よし……笑みリアさんは一旦離れて、俺が一発叩き込むんで!」
新大陸にいる、ということは即ちシャングリラ・フロンティアをやり込んでいるということである。レベル99に到達していないプレイヤーも多いが、少なくともフィフティシアまでは到達することが最低条件であるが故に少なくともユザーパードラゴン程度なら戦えるプレイヤースキルを持っている。
ホストとしてメンバーを募集したパーティリーダーの武Luck Shineの号令に他三人は淀みのない動きで散開する。
無音。互いに獲物に照準を合わせているにもかかわらず片や静寂をまとった翼で飛来し、片や長剣を構えて不動の立ち姿。
襲撃者……ドラクルス・ディノウルは獲物がすでにこちらに感づいていることを理解したのか、全身の羽毛から生え変わった緑色の鱗羽を逆立て「奇襲」から「戦闘」へと切り替わる。
その嘴には明らかに鳥類のそれには見られない牙が覗き、嘴であるならばありえない動き……咬合を確かめるように空を咀嚼する姿は「ディノ」の名の通り竜化した姿。それはこの新大陸で起きている「何か」を想像させるには十分であった。
「明らかに「顎」が出来てるんだけど、カテゴリ的に鳥類なんだろうか……よし!」
鳥系の「ディノ」の鱗は見た目の割にはそこまで硬くはない、だがその代わりに鱗の一枚一枚がナイフと言っても良く不用意に触れる、もしくは攻撃を受ければ鮫肌のようにダメージを受ける。
であれば瞬間的な火力、鱗を潰すほどの一撃もしくは鱗の間を通すような一撃こそが有効打となる。
「ふぅうっ!!」
振り下ろされた直剣が鉤爪を突きつけ飛びかかるドラクルス・ディノウルの右翼を叩き据え、互いに前方へと進んでいたが故にエネルギーの衝突が武Luck ShineのSTR以上の激突力を叩きだす。
「グギョアア!?」
明らかに鳥類のものとはかけ離れた悲鳴を上げ、ドラクルス・ディノウルが地面を滑るようにして墜ちる。
「……っ!」
バッと手を挙げ、散開した三人へと合図を飛ばす。次の瞬間、暗闇と木の陰を利用してドラクルス・ディノウルの正面へと回り込んでいた笑みリアが月下へと飛び出す。
「よい……っしょ!!」
打撃系スキル「スカルシェイカー」。地味なエフェクトと頭部に命中させることで高確率で相手を怯ませる追加効果を持つ一撃が叩き込まれ、動きが止まったドラクルス・ディノウルへとアタッカーたるレイジと武Luck Shineが飛びかかる。
互いに直剣を主武装とするがその性質は全く異なる二人の剣士が共に斬撃スキル「斫断斬」を放つ。ある程度の「硬度」を持つ敵に対して高い効果を発揮する上位の斬撃がドラクルス・ディノウルへと叩きつけら『黙れ、きぃきぃと蠢めくな……人間』
「おぶぐぉ……っ!?」
次の瞬間、ドラクルス・ディノウルに肉薄していた三人の認識外から飛来した砲弾がドラクルス・ディノウルへと叩きつけられた。だが砲弾の耐久力が低かったのか、ドラクルス・ディノウルが致命傷を受けることはなく砲弾が……………否、砲弾ではない。
「ヴィジランス……さん!?」
辺りを警戒しつつも攻撃に参加しようとしていた「筈の」ヴィジランスは、全身から赤色のエフェクト……マイルドに薄められた血のポリゴンを撒き散らし爆ぜた。
『ふん……大して面白みもない爆ぜ模様だ』
「何……!?」
「なんだ、敵か!?」
『フン、「緑」の眷属か。彼奴め、所詮は地を這うだけの小物か』
「どこから……!?」
ぐしゃり、と。ドラクルス・ディノウルの身体がひしゃげて潰れる。ドロップアイテムすらをも破砕する強大な圧力、それを為した相応のサイズの「手」に武Luck Shine達は乱入者がどこにいるのかを理解する。
「武Luckさん! 上だ!!」
「な…………空を、覆うほど……!?」
夜空が黒い。星すらない深い漆黒は空の黒ではない。木々の上に在りて武Luck Shine達が見上げた空を覆い隠してしまうほどに巨大な身体と……翼。
『時は来た、光栄に思うがいい蟲共よ。我が眷属として使い潰される栄誉をくれてやる』
「モンスター……か……!?」
「これ、ドラゴ──」
その存在がやったことを形容するならば、デコピンだろう。だがそこに込められた破壊力はデコピンなどという可愛らしい響きに収まるような生易しいものではなく、ただの一撃で幾度とない新大陸拠点の防衛を為した笑みリアが粉砕される。
「武Luckさん!」
「ごめんレイジ君、予定変更だ」
勝つ、逃げるなどという「不可能な目論見」ではなく、情報を集めるというトッププレイヤーとしての目論見を武Luck Shineの目から読み取ったレイジは武器をインベントリにしまいこみつつ一瞬で三つの命を潰してのけたそれへと視線を向け『蟲が賢しげな目をするな、不愉快だ』
「がっ!?」
吹き飛ばされる武Luck Shine、それでも一撃でHPが全損しなかったのは彼自身が幾たびもの激戦をくぐり抜けて作り上げた堅牢な防具と激戦を経て鍛え上げられた当人のステータスの『死に損ないが』
「……………………」
あまりにも残酷な………いいや、あえて不遜を承知で言うならばあまりにもねちっこい追撃で立ち上がることすら許さず武Luck Shineが砕け散る。
槍よりなお鋭く大鎚より尚圧迫する爪の先端で武Luck Shineを地面へ押しつぶし、グリグリと砕け散った武Luck Shineをすり潰すかのように指を動かす暗闇よりなお黒いドラゴン。その目に浮かぶ感情は侮蔑に似ている、嘲笑に似ている、だがもっと無機質なものだ。
そうそれは、まるでただ暇だったから蟻を踏み潰しましたとでも言わんばかりの……生命を生命としてすら認識していない「無慈悲」の目。
「喋るドラゴン……もしかしてユニークモンスター? いや、ははっ………」
勝てないことはわかっている、逃げられないこともわかっている。話をしようにも第一声を上げる前に武Luck Shineは地面のシミになった。
だからレイジにできることは遺言として僅かに喋ることだけ。ドラゴンがレイジに視線を向けるまでの僅かな空白を、ただポツリと呟くことだけ。
そして幸か不幸か、それとも喋るドラゴンという共通点故か。強大な力を人へと振るうという点では合致すれど、彼の黄金の竜王が持つ人間への敬意、期待、戦う者としての礼儀……それらが著しく欠けた漆黒のドラゴンへと言い放つ。
レイジはこの場においての不正解、プレイヤー全体にとっての大正解を口にしたのだ。
「偽ジークヴルムかよ」
『その名を口にするな!!!!』
最早レイジがそれを認識するよりも速く、地面ごと消滅した樹海の只中にて目を黒く血走らせた竜が吠える。愚かな蟲の間違いを正すように、まるで自分に言い聞かせるように。
『我が名はノワルリンド!! 我こそが唯一にして絶対の、真なる竜王である!!!』
武Luck Shine、ヴィジランス、笑みリア、レイジの遭遇によってプレイヤー達の間に「漆黒のドラゴン」の情報が広がる。彼らはそれを正確に理解しているわけではない。だが彼らはワールドクエストの進行によって始まった「竜」達の戦争に飛び込むことになる。
世界は進んだ。
墓守が眠り、「最も新しき神代」が動いた。
深淵が沈み、「黄金を越えんとする漆黒」が動いた。
世界は進む、その過程でその身の上で息づく生命に激震を走らせながら。
ワールドクエスト三段階目「黄金を墜とす大戦」が始まる。
なお当の「黄金」さんは竜王とかそういうのクソどうでもいい模様、そんなことより強い人間探そうぜ!!
ちなみに「青(狂える大群青ではない)」さんはアトランティクス・レプノルカやスレーギヴン・アングラーにフルボッコにされて既にお亡くなりになっています。海マジパネーション
・ドラクルスとディノ
厳密に言えばディノが一段階目、ドラクルスが二段階目。ある理由から「竜化」したモンスターは「ディノ」となり、さらに症状が進行しきると「ドラクルス」になる。
ドラクルス・ディノウルはつまり末期症状です、同族だって平気で襲っちゃう。