我ら人の味方に非ざれど、防波の先陣に立つ
いつも「長編部分は其の十くらいに収めよう」と計画するのに毎回二十まで伸びるのは何故なのか、これが分からない
その「青色」を俺達は知っている。
この場所がルールイアと呼ばれていた頃、この島が海上にあった頃、ルールイアを滅ぼしかけた正体不明の何か。
クターニッドが滅ぼし、それでも汚染されたこの島を海の底へとひっくり返したそれは、ただの背景ストーリーのフレーバーだとばかり思っていた。
「エムル、頭に乗れ!」
「は、はいなぁっ!」
足は……大丈夫、恐らく非活性なら触れてもいいんだ。
「こ、これって!」
「モルドの思ってる通りだろうさ、間違っても触れるなよ!」
こいつはもう、倒す倒せないの話じゃない。これはフィールドギミックだ、ボスを倒した後ならお約束すぎるほどにお約束な「崩れるぞ! 脱出するんだ!」ってやつだ。
『忌々しい始源の亡霊め』
「───なんだって?」
今何か、壮絶に重要な設定をクターニッドが吐き出した気がするぞ。
だがそれを考える暇もなければ、クターニッドも懇切丁寧に説明するつもりはないらしい。
『人よ、この場は再び深淵へと沈む……危機は近い、ゆめ忘るることなかれ』
実際に物質としての指がそれを示したわけではない、だがこの場にいる全員が同じ方向を示されたかのように視線を向ける。
『行け、旅は続く……この世界に生きる人よ、バハムートを見つけ出せ』
「お前、それは……」
バハムート、またしてもその言葉を聞くことになるか。一体なんなんだ、ドラゴンなのか? 安易にドラゴンと考えていいのか?
『現在は継がれし「人」のものである、しからば抗い戦うのもまた現在を生きる者……』
「くそっ、よく分からんがロケート示されたなら従ってやるよ! 全員帰るまでが遠足だ! 走るぞ!!」
「……うぇえぇえぇ………」
「ルストもう少し頑張ろう! ね!」
「よーし! 走りますよーっ!!」
「秋津茜殿は、なんというか元気で御座るなぁ……」
「また走るのかぁ!? そろそろ限界だぞ!?」
「アラバ、ガンバる」
泣き言吐いてもいいが身体は動かしてもらう、ギャーギャーと叫びながらもここまで来てシナリオ失敗は泣くに泣けない。
崩壊した街並みで荒波の如く暴れ狂う「青色」の街並みの中、逆に不自然な程に保たれた道を駆け出す。
『───』
「……え? あ、えと、はい……」
だからこそ背後でレイ氏がクターニッドと何かを話していたことには気づいていても、墜落した青龍やら放り投げられた【双弦月】やらを回収することでそれどころではない俺は、その内容までは聞き取ることが出来なかった。
「あっぶ……!」
「ぴぃぃぃっ!?」
ぐばぁ、とスライムのような波のような霧のような……何かが悍しいほどに蓄積したという事だけは分かる「青色」をすんでのところでかいひし、エムルが悲鳴を上げる。
「……これ、イベント?」
「触れて死ぬならプレイ中だ!」
「……試す気も起きない」
青色一色ではあったとはいえ、確かに文化の残滓が感じられたルルイアス、だがもはやここは「青色」が暴れ狂う地獄の一丁目だ。
「というかこれどこに続いているんでしょうか!」
「ほぉお!?」
先頭を行く秋津茜が地面を這う「青色」を飛び越え、秋津茜の背にしがみついたシークルゥが奇声を上げる。
リードランナーの動きを真似て俺達も明らかに触れてはマズイと分かる青色を飛び越える。
「そりゃ、島の外……海だろ!」
「泳いで脱出ですか!? 私、トライアスロンは流石に専門外といいますか……」
「いざって時はアラバに全員しがみついて脱出だな」
「いや……っ! 流石に……無り、おわぁあ!?」
「チッ、ドベを狙うとは意地の悪い……!」
インベントリを素早く操作、今にも「青色」に呑まれそうになっていたアラバとネレイスを守るために守り人の大鎧を「青色」へ投げつける。
あの手記の描写が正しければこの「青色」は無機物に寄生し有機物を喰う、プロセスは違うが結果だけならどちらも「処理に手間取る」ってことだ。
「ま、また助けられたな友よ……!」
「感謝は後だ! 走れ走れ走れ!」
くそう、あれ結構高かったんだぞ……だがNPCと違って替えが利く、悪いが犠牲となってくれ!
胸鎧を、兜を、腰鎧を、脚甲を犠牲に時間と距離を稼ぎ、俺たちは遂に海岸線へと出る。
「ゴールッ!」
「ここからどうするの!?」
「……知らん」
「海に、飛び込みます……か?」
どうする、なにか行動しないと駄目か? プレイヤーとNPCの命の価値は等価値では無い、いざって時はエムルやシークルゥをアラバに積んで海に流せば俺達はリスポーンできる。
アラバにエムル達NPCを託すかどうかを本気で視野に入れながら迫る「青色」の津波を見ていたその時、
「お前らっ!」
「んお?」
この世の中希望に満ち溢れていてそれを当たり前のように自分が享受できると思っているような甘ったれた、だが七日間のサバイバルの中で少しだけ成長したようなガキっぽい声色は───!
「クソガキか!」
振り向いた先、そこには巨大な漆黒の触手にむんずと掴まれ、こちらへと近づく妙に真新しい巨大な帆船。そしてその船首にはカトラスを振り回してこちらへと手を振るスチューデの姿が。
「いやナチュラルに流してるけどどうなってんだそれ!?」
「僕がわかるわけないだろ! いいから早く!」
ええい、行くしかねーか。船から投げ下された縄梯子、俺はエムルを秋津茜の頭に乗せると、さっさと登るように身振り手振りで示す。
「アラバもさっさと行け! お前すっとろいんだから先に登れ!」
「お前はどうするんだ!」
「俺はとっっっっっっても強いからな、殿を務めてやるのさ」
「………友よ、死ぬんじゃないぞ!」
「バーカ、死んでも生きて帰るんだよ」
レイ氏に目配せを送り、俺は迫る青すぎるほどに青い「青色」と対峙する。
「物量戦ならこっちも少し自信がある、凌ぎ切ってやるから俺に注目しやがれ」
フィールドギミックとしての「現象」であったなら、俺のやっていることは無駄になるわけだが……恐らく、この「青色」はモンスターだ。単一のモンスターなのか複数のモンスターの集合体なのかはこの際どうでもいい、重要なのはこいつにヘイトの概念があるかどうかってことだ。
というわけで手っ取り早く検証する。
・その1、適当にアイテムをぶん投げる。
・その2、致命秘奥【ウツロウミカガミ】起動。
もし奴にヘイト概念があれば……
「ひっかかった!」
先ほどまで俺がいた場所に降り注ぎ群がる「青色」の姿は、奴にもヘイトを理解するだけの設定が搭載されていることを示している。だがそんなことはそもそも無意味であったと数秒後に俺は悟る。
なにせ物量という言葉すら少なく感じるような質量の暴力、四方八方を瞬く間に「青色」が包囲し、砂浜が青色に染まっていく。こいつはやべぇ、こんなものを放っておいたら世界がダイレクトにヤバいぞ。やだよ俺滅んだ後の世界でMMOするとか、これではポストアポカリプスどころか惑星規模でリセットだ。
「そろそろヤバいが……」
「サンラク!」
「おーっし、順番きたからあばよクソブルー!」
物理的に倒す手段が無い以上、脳筋ビルドの俺に出来ることは何も無い。鈍臭いアラバや全体的にスペックが落ちているレイ氏が上りきったならこちらのもの、さっさとおさらばするに限るぜ。
「よっ、ほっ、俺を捕まえようなんざ……百億年早いわ出直してこい!」
砂浜に押し寄せる波が足を絡めんとする、カフェインが切れた脳がもう休ませてくれと悲鳴をあげる。それらすべてを踏みつけて走る。「青色」が天を覆い、俺を食らうかのように襲い来る。
これは詰んだかと力んだ足が弛緩しそうになる、電脳の世界で力みが緩むとはどういう原理なのかは疑問だが、要するに気の持ちようだ。気が滅入るから身体がそれに引っ張られるのだ。
「うおおお! ここまで来て一人だけ死ねるかぁあぁぁ!」
つーかこの場合死んだらリスポン地点ってルルイアスになるんじゃねーの? やだよたまに来るくらいならいいけどこんな場所に住みたくねぇ!!
あと三メートル、ぞわりと海水に何かが通ったような感触。あと二メートル、今の今までただ足にまとわりつくだけだった海水が明確に俺の足を掴むような圧力を感じる。あと一メートル、あぁこれやっぱり間に合わな………
くすり、と誰かに笑われたような。
次の瞬間、凄まじい水飛沫と共に俺のすぐ後ろの海面が爆ぜる。いやこれは爆ぜたのではなく、何かが凄まじいエネルギーを伴って海面を叩いた、のか……?
振り向けば、そこには「青色」の侵食をストレートな物理で叩き潰す、半透明な触手……いいやあれは触手じゃない、あれは!
「何故生きているバッカルコーン!」
触角で逆さ吊りにされた挙句思いっきり投げ飛ばされた。
「………ぉぉぉぉぉおおおおおおお!!?」
空中一回転! からの……足裏、膝、片拳によるヒーロー着地!
「サンラク! 大丈夫か!?」
「お前、これが、大丈夫に、見えんのか……膝が、指が……っ!」
ズダァン! と看板を震わせつつも着地した俺に視線が集まる。体力がちょっとシャレにならない感じに減少したのでそれどころではないのだが、痺れが走る身体に鞭打って俺を投げ飛ばしたそいつ……俺とアラバで引導を渡したはずのクリオネ女、確かクリーオー・クティーラとかいう名前の封将を見つめる。
ぐぱぁと開いた触角が閉じられ、明らかに人ではない比喩抜きで透き通った美貌を持つクリーオー・クティーラが俺を、俺達を見上げる。
そしてヒラヒラと手を振ると奴を喰らわんとする「青色」を謎エネルギー波で吹き飛ばし、島の内側へと押し込めて行く。
「……壮大なイベントシーン、だった?」
「ムービー銃とかムービーナイフは即死効果あるから勘弁して欲しいんだがな……」
マグマに落ちようがダメージを受けるだけのキャラクターもイベントシーン中にナイフで刺されるだけでぽっくり死ぬ、それがムービーウェポンというものだ。
とはいえ、クターニッドの力をもってすれば倒した封将が復活することくらい不思議ではないか。
イベントだから、と言われればそれまでだが何らかの力を用いてクリーオー・クティーラは「青色」をルルイアスの内側へと押し込み、そして都市の……いいや、島の四方にある塔の一つへと跳躍し、その頂点へと立つ。
「……他の封将もいる」
遠くて詳しくそれを見ることはできないが、ルストの言う通り他の塔にも何かが立っているのが見えるしそのうちの一つには二体立っている塔もある。
封将……何を封印していたのか、果たしてそれは「青色」を封印していたのか、クターニッドが戯れに己を封印するために作ったのか。
真理書案件ではあるが、今は考えないようにしよう。
「ねぇみんな、あんまり考えないようにしてたんだけどさ」
「……何、モルド」
「この船……もしかして、ぶん投げられる寸前なんじゃ?」
帆船はクターニッドの巨大触手に掴まれている、そしてその触手は明らかに力を込めてますと言わんばかりにみちみちと膨張し、気づけば船は斜め上を向くように傾いて……
ふと視線を向けると、クリーオー・クティーラがこちらを向いてあっかんべーをしていた。
「全員船にしがみつけぇーっ!!」
強烈な慣性が叩きつけられ、海を進む筈の船が宙を飛ぶ。
猛烈な勢いで遠ざかって行く光景の中最後に見たルルイアスは、躍り狂う「青色」によって瓦礫と青の合挽肉のような状態で……されど島に輝く四つの塔は、破滅を齎す大群青の波濤を塞ぐ防波堤として威風堂々と聳え立つ。
四つの塔と、その頂点で輝く光。そしてそれを覆い尽くすように広がるあまりに巨大な触手によって島そのものが海の底へと引きずりこまれて行く姿……「青色」と共にルルイアスは再び深淵へと消えた。盟主の君臨は揺らがず。
『深淵のクターニッドは再び倶なる天より別たれた』
『狂える大群青は再び封じられた』
『ユニークシナリオEX「人よ深淵を見仰げ、世界は反転る」をクリアしました』
『小さな海賊は、明日を恐れぬ勇気を得た』
『ユニークシナリオ「深淵の使徒を穿て」をクリアしました』
『称号【深淵からの生還者】を獲得しました』
『称号【トゥルー・シーカー】を獲得しました』
『称号【フライング・インスマンズ・クルー】を獲得しました』
『称号【継承の証明】を獲得しました』
『称号【道は違えど心は同じ】を獲得しました』
『称号【一目置かれたアウトロー】を獲得しました』
『称号【一攫億金】を獲得しました』
『アイテム【青色の聖杯】を獲得しました』
『アイテム【藍色の聖杯】を獲得しました』
『アクセサリ【深淵の警鐘】を獲得しました』
『アイテム【世界の真理書「深淵編」】を獲得しました』
『ワールドクエスト「シャングリラ・フロンティア」が進行しました』
エピローグまで書いたらしばらくお休みをもらいます。
いやマジで番外編やら真理書という名の設定吐き出しドヤ顔マンしたいので二週間くらい無理っす、ウィッス
・称号【深淵からの生還者】
ルルイアスから生きて脱出した時点で獲得できる
・称号【トゥルー・シーカー】
クターニッド想像態を倒した場合に獲得できる
・称号【フライング・インスマンズ・クルー】
シナリオ最終盤でのルート分岐で船による脱出ルートの場合獲得できる
・称号【継承の証明】
クターニッド(妄想態、想像態問わず)を倒した場合獲得できる
・称号【道は違えど心は同じ】
NPCとクターニッドを倒した場合獲得できる
・称号【一目置かれたアウトロー】
アウトロー系の特定NPCのユニークシナリオクリアにより獲得できる
・称号【一攫億金】
一定期間内に特定金額以上のマーニを得た時に獲得できる
下位称号は【一攫万金】、上位称号は【一攫兆金】
この中に一人、四次元ポケット悪用して大量の財宝を根こそぎガメた奴がいるらしいっすよ?