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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜  作者: 硬梨菜
見上げた空、広がる海、深淵の都市を駆けて
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倶に天を戴いて 其の九

可愛い堕天司が欲しいのにガチャの結果は可愛くない堕天司でした

浮遊感、のち落下の衝撃。しかしそれはダメージと呼ぶほどのものでもなければ、エムルが潰れてしまうほどの重圧でもなかった。


「うべっ」


「ふぎゅうっ」


言うなれば腕立て伏せ中に腕から力が抜けて潰れるように倒れ込んだ時のような、反射的に「痛い」と言ってしまうがダメージ自体は全くない、そういう感じだ。


「ほ、他の人達も無事みたいですわ……うぅ、お顔痛いですわ……」


「エムル、泣き言は後で聞いてやるから……武器を構えろ」


成る程、今度こそボス直行であったらしいな。それにしても一々イベントを派手にぶちかます野郎だ……只今フィールド整地中ってか?


「お、お城が!」


今の今まで俺達が探索していたルルイアスの……いや、ルールイアの城が組み替えられている(・・・・・・・・・)

それはまるで、ブロックを組み合わせて作った城を一度分解してから、全く別のものに作り変える行程を早送りで再生しているかのような……現実では決して起こりえない超常の御業。そして、もう一つ分かった事がある。


「見ろよ、()だ」


上から下へと昇るマリンスノーが舞う海底の天蓋ではない、大気と星と月が輝く正真正銘の夜空。

瞬く間に分解されていく城の中で、(サンラク)とエムルは実に七日ぶりの空を見た。


「これ落ちてない!?」


「……エレベーター的な落下だし、大丈夫……多分」


「そこは根拠がなくても断言して欲しかったよルスト!」


こんな時にも漫才をするガッツは見習うべきかもしれないが、事実俺達は今円形に残された玉座の間の床の上に乗って、猛烈な勢いで下へと落ちていた。

もはや城そのものが竜巻にでもなってしまったかのように、城を構成していたあらゆるパーツが俺達を中心に外側へ広がっていくように拡散する。


柱が等間隔に並んだ、煉瓦が階段を形成した、燭台は照明となり、城と同質量の建材達が旋風の中でコロシアムを作り上げていく。


「えーと、アレみたいですね! イタリアの肝っ玉!」


「もしかして、イタリアの……コロッセオ(・・・・・)、ですか?」


「それです!」


すげぇな「ッ」以外掠りもしてないのにニュアンスは理解できるぞ。だがすり鉢状の円形闘技場は確かにコロッセオを彷彿とさせるものだ……その広さが野球ドームと同等かそれ以上という点を除けば、だが。


「全員無事か!」


「はいな!」


「心配ご無用に御座る!」


「こちらも大丈夫だぞ!」


「ぼ、僕だって!」


よしNPCは問題なさそうだ。プレイヤーは死んでもどこかしらでリスポーンするからな、命の価値が安い安い。

はてさて、こんな特設リングまで作った主催者殿は覆面でも被って登場するつもりか? 上等だこっちも覆面なんだから覆面剥ぎデスマッチでもしてやろうじゃねーか。


『示せ』


「む」


「ぴぃ!?」


ああNPCは問題しかなさそうだ。エムルが頭の上で震えているもんだから、俺の頭まで振動し始めてやがる。一応話しかけたり耳を引っ張ったりしてみたが完全に茫然自失してしまっている、元凶は明らかだが現況を把握しようか。

まず今俺の頭の中で加工しまくった声みたいな響き方をした……大量の錆びた釘に泥を混ぜて黒板に叩きつけたような……言ってしまえば非常に形容しがたい奥歯の裏をかき混ぜられたような声は、他のプレイヤー及びNPC達も聞いたものと考えていいだろう。


『継がれし遺志を』


「だぁーっ! ヘリウムガスでもいいからもう少しマシな声質で喋れや!」


ウェザエモンの声が美声に聞こえるレベルだぞ! クソ、奴が喋るだけでNPCが仮称「恐怖状態」になるだけじゃなくプレイヤーの集中力すら削ぐのか!? というかそもそもご本人(クターニッド)はどこなんだ、歯軋りしたくなる感情を押さえつけて周囲を見回す。


「サンラクさん……上、です!」


左右前後じゃなくて上だったか、どうりで全員上を見上げていたわけだ。


「なんだありゃ」


ラスボスの第一形態が妙な姿をしていることはそう珍しいことではない。一見すると中ボスの方が強そうに見えるラスボスが化け物に変貌する、なんてものはお約束とも言っていいだろう。


だからこそ、あのでかいタコの姿こそが第一形態だと最初は思っていた。だとすればアレ(・・)が第二形態か? それとも……


「チッ、少なくとも何か行動しない限りNPCが産廃になるか……」


「サンラク、どうする?」


「とりあえずNPC連中を脇にどけておかないとサンドバッグだ」


「僕が誘導しておくよ」


「サンキューモルド」


完全に呆けてしまっている、アラバやシークルゥすらもだ。こいつは明らかにNPCをメタってきてるな、とはいえ流石に戦闘終了までNPCが使い物にならないとは考えづらい。


「あ、あ、あぁ……」


「はいちょっと傍に寄ってろなエムル……さて、誰かあそこまで届く飛び道具持ちはいるか?」


俺は未だ沈黙を解かないそれ……上空に展開された八芒星(オクタグラム)の魔法陣から目玉と触手が生えている何か、としか形容できない奇天烈な姿をしたクターニッドを指差して動ける面子プレイヤーに問いかけた。


「……上方向だと、多分剛弓でも届かない」


「恐らく、魔法全般が距離減衰、で届かない……かと」


となればこれはもう俺が動くしかないかと考えていると、レイ氏はですが、と前置きを入れてからある人物へと顔を向けた。


「恐らくこの中で、最も長射程の魔法は……秋津茜、さんの【竜息吹】です。もしもジークヴルムの、ブレスをそのまま模倣した、ものであるなら……多分、届きます」


「私の出番ですか!?」


「……秋津茜、ステイ」


遂にルストにすら犬扱いされ始めた秋津茜だが、ある種の切り札足りうる秋津茜の謝罪砲は使い所を吟味すべきという点で待て(ステイ)には同意だ。


「そもそも攻撃を当てれば事態が進むと確定したわけでもないんだ、もう少し検証を……」


「でも攻撃きてますよ?」


「散開!」


シャンフロ廃人一名、ネフホロ廃人二名、どうも素のスペック自体が優れていそうな一名は俺の声に即座に反応し、全員がバラバラの方向へと飛び退く。

次の瞬間、天から降り注ぐ大量のタコ足が俺たちのいた場所に突き刺さった。


「オイオイ……大元の一本がさらに枝分かれしてんのかこれ……!?」


複雑な紋様の八芒星(オクタグラム)と化した化け蛸(オクトパス)。その八つの「角」から一本ずつ、合計八本の触手を蠢かせていたが、そのうちの一本がさらに十数本の細い触手に枝分かれして槍の如く地面に突き立てられていた。

仮に一本の触手を十本に枝分かれできるとして、それが8セット……最大八十本の中触手が雨のように降り注いでくる?


「どうしろってんだ……」


『揺るがぬ心で進め、届かぬ高みはなく』


「やかましいわ!」


いや待て、ただの煽り台詞と片付けるのは早計だ。単純な力比べ以外で攻略するタイプの戦闘は戦闘中に何らかのヒントを提示する場合が多い、だとすれば今の台詞がヒントということか?


「チッ……予想はしてたが微ホーミングか……!」


かつてラビッツで戦った妄執の樹魔(ルーザーズ・ウッズ)の攻撃程の過密さはなく、ウェザエモンの雷鐘ほどの発生の早さもない。だが双方の脅威を程よく内包する触手槍は一度の攻撃に十度のダメージ判定を携え標的を追い詰めるかのように地面を抉っていく。


「フェーズ移行の条件は何だ……? それっぽいギミックオブジェクトは見当たらないし、攻撃しようにも遠いし……」


いや、違うぞ。ターン制バトルならともかくリアルタイム進行の乱戦であるなら攻撃と防御の関係性を律儀に守る必要はない。何も攻撃と攻撃でかち合ったとしてもそれはあいこ(・・・)ではなく、より有効打を叩き込んだ方が勝利するだけだ。


「えいっ!」


そして、秋津茜が自身を狙い、そして外れて地面に突き立った分裂触手の一本に短刀による攻撃を叩き込んだ瞬間、攻撃を受けた分裂触手の一本が巻尺を一気に巻き戻すように凄まじい速度で上空の魔法陣に吸われて行ったのを視認した瞬間……実践に値する仮説が俺の中で完成する。


「触手だ! 地面に突き刺さった触手に攻撃するんだ!」


今できうる行動はそれくらいだ、片っ端からあの気色悪い魔法陣の中へと叩き返す!!

クターニッド「諦めんなよ! やればできる!(要約)」

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― 新着の感想 ―
 クターニッドさんNPCも行動制限出来るんですね 狂気が・・・
水神なのに太陽神になってやがる。焼きたこになっちゃうよ(?)
[気になる点] サンラクの言葉を聞いてイメージ出来るのは「三ツ矢雄二」「関智一」「緒方賢一」等辺り? [一言] ウェザエモン(CV:速水奨)だからなぁ・・・。
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