そうして誕生したのが、「赤メガネ食堂」のプロジェクトです。今年5月頃から工事を始めたんですが、「一日でも早く完成させたい」と、大工さんになった小学校の卒業生や地域の方がボランティアで夜通し作業してくれたり、冷蔵庫を譲ってくれる人がいたり、地元の農家の方が毎月何千個と卵をくれたり。やさしい連鎖も生まれました。
──著名人が社会活動をすると、「売名」「偽善者」などの声があがるが、山里さんにもそうした声があったという。
「偽善」という言葉は、やっぱりブレーキにはなりやすいですけど、だからといって前に進まなかったら、結局何も生まれない。現に、今回、僕が動いたことでフィリピンでは100人の子どもが給食を食べられているんです。
まず日本の子どもを助けるべきだという声も聞きましたが、人の縁や恩は、海や陸地や人種で区切られるものじゃないですよね。ひょっとしたら、僕がかかわった子どもが何十年後かにとんでもない発見をして、ものすごい数の人を救うかもしれない。誰かのために何かをすることは、すぐ目の前の結果を求めるものではないということを、フィリピンにいくたびに教わってる感じです。
とにかく継続が大事だと思っています。支援をするようになってから、ますます仕事も頑張らなきゃなと思うようになりました。フィリピンの子どもたちのおかげで頑張る原動力が増えた感じですね。
「赤メガネ食堂」のスタートからまだ3カ月ですけど、子どもたちの体が少しずつ大きくなっていて、やっぱり嬉しいです。
喜べる幅が倍になった
僕は芸人としてライブで目の前のお客さんに笑ってもらうことを喜びとしてきました。でも、いまは目の前にはいない子どもたちの笑顔も、同じくらい嬉しいと思うようになりました。喜べる幅が倍になったんです。自分の厚みが増したとは思わないですけど、行動しなければ会えなかった人もたくさんいますし、人生が豊かになったなと思います。
──情報番組DayDay.でMCを務めるなど、社会課題と向き合うことも多い。
政治や世の中で起きていることって、意外と対岸の火事になりがちですよね。でも自分たちの生活に密接にかかわっていることなので、僕は社会の側の岸と視聴者側の岸をつなぐ橋になってニュースを伝えられたらいいなと思っています。この間は別の番組でヤングケアラーとおしゃべりしましたが、大変な状況だと知りました。今、ヤングケアラーの人たちに何かできないか、模索しているところです。
僕は異様なまでに縁と運でやってきているんです。ここまで来れたのは、僕を受け入れてくれたやさしさのおかげです。自分も誰かに返さなくちゃいけないと思っているし、次につなげたいと思います。
(構成/編集部・大川恵実)
※AERA 2025年12月15日号
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