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小川たまかの伊藤詩織批判をどう読むか─性暴力をめぐる言論が踏まえるべき最低限の原則から─

伊藤詩織さんをめぐる現在の状況

12月12日、伊藤詩織さんが、自らの性暴力被害について調査・記録したドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』が、日本で初めて公開されました。

この映画は、チューリッヒ映画祭でドキュメンタリー賞と観客賞を受賞するなど海外では大きな注目を集めています。一方で日本国内では、公開初週時点で東京の映画館1館のみでの公開にとどまり、海外での評価との間に大きな落差が生じています。

同じ時期に、伊藤さん本人に対する批判や疑念を表明する声が、幅広い層へ急速に広がっています。右派・保守系の論者だけでなく、リベラル系や「表現の自由」を掲げる人々のあいだでも、伊藤さんを「冤罪を作った側」かのように見なす解釈が流通し始めています。

この流れを後押ししているものの一つが、小川たまかさん(Yahoo!ニュース)による記事です。性暴力を取材・執筆してきたと紹介される書き手が、「伊藤さんに不利な決定的証拠」を提示したかのように受け止められ、そのことが「女性支援やフェミニズムに近い側の人から見ても伊藤さんには問題があるらしい」という印象を強めているように見えます。

結果として、伊藤さんへの批判は、右派・保守に限らず、フェミニズム周辺、アンチフェミ、リベラル、表現の自由系など、複数のコミュニティにまたがって拡散しています。

もちろん、批判の中には検討に値する論点(たとえば映像許諾の問題)もあり得ます。しかし、本稿が扱うのは映画制作の是非ではありません。映画制作の問題と、伊藤さん自身が受けたとされる性暴力事件の評価は、切り分けて考える必要があります。

そして性暴力事件のレイヤーに限って言えば、小川さんの記事の中で「致命的に不利な証拠」とされる部分には、重要な前提の欠落があり、結論まで一気に飛躍してしまっている箇所があります。ここが、いま起きている誤解の連鎖を生んでいるように見えます。

本記事は何を目的としているのか

あらかじめ本記事での私の立場を明確にしておきます。

本記事の目的は、伊藤詩織さんの供述が真実であるかどうかを確定することではありませんし、その議論に加わるつもりも一切ありません。ただ現在、無神経に行われている批判に対して、警鐘を鳴らすことだけを目的としています。

言うまでもなく、性暴力被害者の供述の真実性は、そのまま鵜呑みにされるべきではなく、司法などで検討され丁寧に再構成される必要があります。

しかし一方で、性暴力という、本質的に私的であり、かつ繊細な取り扱いを要する領域の問題に踏み込むためには、最低限共有されるべき原則というものが存在します。

それゆえ、専門家を自称する小川たまかさんのYahoo記事を題材に、いま彼女に向けられている批判について検討することを通じて、この原則を皆さんにあらためて共有していただきたいというのが、本記事の目的なのです。

草津の冤罪事件と伊藤詩織さんの事件

本論に入る前に、前提となるいくつかの事実を、皆さんに思い出していただきたいと思います。

伊藤詩織さんに対する批判的風潮の背景にあるのは、草津の冤罪事件であるように思われます。つまり、性暴力を訴えた女性に対して、冤罪加害者の可能性がおのずと想像されてしまう状況の背景の一つに、草津の事件があるように見受けられるのです。

しかし、性暴力被害者が声を挙げられなくなる事態こそ、草津町の黒岩町長がもっとも危惧した出来事でした。黒岩町長は、事件発生当初からそのように表明していましたし、今年10月にも、あらためて次のように述べています。

黒岩町長は「心配するのは、この事件で本当に性被害に遭った女性が声を上げられなくなること。こういう事件もあることを改めて認識し、女性を守る活動を続けてほしい」と求めた。【強調は引用者】

読売新聞2025年10月16日 「町長室で性交渉」虚偽告白、草津町批判の団体元代表が謝罪…町長要望「女性守る活動続けて」

この発言は、性暴力被害者らで作る一般社団法人「Spring(スプリング)」の初代代表理事の山本潤さんが、草津町長に謝罪に行ったときの発言です。

小川たまかさんと草津冤罪事件

ところで、今回話題になっている記者である小川たまかさんは、(少なくとも18年から20年にかけて)Springのスタッフであることが確認できています(Schoo 小川たまか)。また、21年には週刊金曜日に「草津でフラワーデモ 町長からの性被害訴え 失職した新井祥子氏を支援」という記事を掲載。また、22年には、Twitterで以下のような発言をしています。

しかし、私が知るかぎりにおいて、小川さんは草津の件では、一度も謝罪していません。これは、所属している(いた)Springとは異なる態度です。

なお、初代代表理事の山本さんは、事件の反省として、「事実確認が不十分なまま発信した」ことをお詫びしています。

 この日、町長や同席した町議は、リコールに至った理由として元町議の発言に複数の矛盾点があったことなどを説明。山本氏はそのことを知らなかったとし、「報道や彼女の発言で、町唯一の女性議員が性被害を告発したことで排斥が起こったと見えた」と話した。「本来なら本人に何が起こったのか聞くことが大事だった」とも述べた。【強調は引用者】

この見解には私も同意します。この事件に加担した人間は、「草津の事件は当初は冤罪か判断できなかった」とか「私たちは騙された」と自己弁護していますが、それは明らかに事実に反するからです。

事件当初から、私は最低限の事実確認を行った結果として、冤罪の可能性が非常に高いことを指摘しました。それは、彼女の告発本『草津温泉漆黒の闇5』(現在は廃刊)を読めば、容易に理解できることだったのです。

新井さんの当初の告発内容は、反町長派の議員に近づくよう求められたあげく、町長室で合意のもとで性行為が行われたというものでした。以下が、その証拠です。

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草津町や町長のバッシングに加担してきた人たちは、そもそもこうした一次情報の確認を怠っていたのです。言い換えれば、彼女たちは「連帯する」と言いながら、「被害者」の訴えにすら耳を傾けていなかったのです。

以上の経緯と考察については、以下の記事で詳しく展開していますので、ぜひご参照ください。

小川たまか記事で「致命的証拠」とされているもの

上記の記事において、私は「被害者」を都合よく消費してきた活動家の振る舞いを「被害者性の焼畑農業」と名付けました。その観点からするならば、「性暴力被害者」への疑念という風潮を作り出した責任は、新井祥子さんよりも、フェミニストを名乗る活動家たちにあると言えるでしょう。

ですが、その「被害者は冤罪加害者かもしれない」というイメージづくりに加担した当人が、謝罪も反省もないまま、こんどは性暴力を訴える女性の被害に強い疑義を呈する記事を出しています。

もちろん、これは記事そのものに対する批判ではなく、単なる背景情報にすぎません。しかし、この基本的な構図を、私たちはまず押さえておく必要があります。

それでは、次に小川さんの記事の中で、決定的な箇所を分析してみましょう。この記事の中で、伊藤詩織さんの性暴力被害が疑わしいと読者に思わせるのは、以下の記述です。

実際には伊藤さんには致命的といってもいい不利な証拠があり、そのために元弁護団は頭を悩ませたが、映画ではこの証拠については一切触れられておらず、ホテルの防犯カメラ映像や、タクシー運転手・ドアマンの証言が裁判で重要な役目を果たしたかのように完全にミスリードされている。
(中略)
致命的に伊藤さんに不利な証拠となったのは、伊藤さんが事件後にアフターピルを処方してもらった産婦人科のカルテで、性行為の時間が「AM2:00〜3:00」と書いてあったことだ。伊藤さんは被害に遭ったのは早朝5時頃と証言し、被告である山口敬之氏側は目を覚ました伊藤さんと2時〜3時頃に同意の元で行為に至ったと答弁書に記していた。裁判所が産婦人科にカルテの開示を請求したところ、そこに記されていた時間は山口氏側の証言と一致していた。(強調は引用者)

伊藤さんは、被害に遭ったのは「早朝5時ごろ」だと説明してきました。
一方、アフターピルを処方した産婦人科のカルテには、性行為の時間が「午前2〜3時」と書かれていたと紹介されます。

山口敬之氏側は「2〜3時ごろ、意識のある伊藤さんと合意のもとで行為に至った」と主張していました。
そこで、小川氏は「裁判所が産婦人科にカルテの開示を求めたところ、その時刻は山口氏側の主張と一致していた」と書き、このカルテの記録を「伊藤さんにとって致命的に不利な証拠」と位置づけています。

この書き方を読むと、多くの人はこう受け取ってしまいがちです。「事件直後には『2〜3時に性行為した』と認めていたのに、あとから『5時ごろレイプされた』と言い出したのではないか。それなら信用できないのではないか。」

しかし、その結論には、重要な背景情報の欠落や、論理的飛躍が複数あります。

カルテの「午前2〜3時」は、客観的データではない

まず押さえておきたいのは、産婦人科のカルテに書かれた「性行為の時間:午前2〜3時」が、どういう種類の情報か、という点です。

一般にカルテは重要な医療記録であり、軽視すべきものではありません。ただし、そこに書かれる「時刻」や「経過」の一部は、本人の申告や推定を医療者が整理して記録した「おおよその情報」である場合があります。ホテルのカードキーの履歴や監視カメラのタイムスタンプのように、機械が自動で刻む客観的記録とは性質が異なります。

とくに性暴力が疑われる場面では、被害直後のショック、酩酊、体調不良、自責感などが重なり、本人が「正確な時刻」を把握できていないことは珍しくありません。強いストレス下の出来事では、「何が起きたか」という中心部分の記憶は強く残る一方で、「いつだったか」「順番はどうだったか」といった周辺情報が揺れやすいことは、実務的にも繰り返し指摘されています。

したがって、たとえば仮に

  • 診察時に「たぶん2〜3時ごろだった」と話し、カルテがそう記録した

  • 後になって「被害のピークは5時ごろだった」と語った

というズレがあったとしても、それだけで直ちに「虚偽」とは言えないのです。この場合のカルテは、アフターピルを処方しなければならない根拠を患者から聞き取り、それを記載するためのものでしかなく、ホテルのカードキーのログや監視カメラのタイムスタンプのような、「機械が自動で記録した客観的データ」ではないのです。

時間のズレは合意の有無とは無関係

さらに重要なのは、「何時だったか」と「同意があったかどうか」は、まったく別次元の問題だということです。

仮に性行為の開始が2〜3時だったとしても、その時点で伊藤さんが泥酔し、意識がほとんどない状態だったなら、それは不同意の性行為になり得ます。

にもかかわらず、小川記事では、「カルテの時刻が山口氏の主張と一致している=「伊藤さんにとって致命的に不利な証拠」という言い方になっており、時間の問題と同意の問題が短絡されているのです。ここには、小川さんの記事における「致命的」な論理ギャップが存在します。

裁判所は「カルテの時間」をどう見ていたか

では、実際に裁判所はどう判断したのでしょうか。

東京地裁・東京高裁はいずれも、山口氏による「不同意の性行為」があったと認定し、損害賠償の支払いを命じました。その判断は最高裁で確定しています。

以下は判決文の該当箇所です。

被控訴人【引用者注:伊藤詩織】は,記憶を取り戻した平成27年4月4日午前5時頃以降の事象について,ほぼ一貫して,控訴人から性的被害を受けたことを具体的に供述していること,控訴人と被控訴人との間には,従前,性的行為を行うことが想定されるような親密な関係は認められないこと,被控訴人が,本件行為の直後から,友人,医師及び警察に対して,性的被害を受けたことを繰り返し訴えていることについては,被控訴人の供述を前提にすると,事実の経緯として合理的かつ自然に説明することができる。

Open the Black Box 判決要旨

判決文では、カルテの記載を含め、さまざまな証拠が検討されていますが、裁判所が中心に据えたのは「時刻」ではなく、次のような事実関係でした。

  • 会食後、伊藤さんは強い酩酊状態にあり、自力歩行も困難だったこと

  • ホテルへ向かう時点で、まとまった意思表示ができる状態ではなかったこと

  • 行為後に嘔吐などの体調不良が生じていたこと

  • こうした事情から見て、山口氏は伊藤さんの同意がないことを認識し得たこと

こうした点から裁判所は、山口氏が「意識のはっきりしない伊藤さんに対し、同意なく性行為を始めた」と認定しています。

つまり、裁判所は「カルテに2〜3時と書いてあるから伊藤の証言は信用できない」とは言っていません。
むしろ、「時刻の食い違い」も含めて全体を検討した上で、それでもなお不同意の性行為があったと判断しているのです。

この点からも、小川記事が「致命的に不利な証拠」として前景化しているポイントは、司法判断の構造から見ると、すでに考慮に入れられた論点であり、決定打とは到底言い難いものなのです。

性暴力被害の「語りの揺れ」は、フェミニズムの常識である

性暴力の被害については、出来事の「中心(恐怖・抵抗不能・意識の混濁など)」が強烈に刻まれる一方で、「周辺(正確な時刻、前後関係、距離、細部の順序)」は揺れやすい、という知見が国際的にも繰り返し確認されてきました。

捜査・司法の現場でも、この点は「例外」ではなく「よくある反応」として扱われています。たとえば英国検察庁(CPS)は、レイプ神話(rape myths)の典型例として「供述の不一致」を挙げ、「Inconsistencies in accounts can happen …(供述の不一致は起こり得る)」と明記しています。 また、英国の警察監督機関IOPCも、「Trauma can affect memory… Victim-survivors can be honest and also give inconsistent accounts(トラウマは記憶に影響し、正直でも不一致を含む供述になり得る)」と述べ、記憶の揺れを「虚偽のサイン」へ短絡させないよう注意喚起しています。

また、法学的にも、性犯罪被害者の供述は、心因性の健忘などによって記憶が断片化し、日時や前後関係を特定できない場合があり得ること、そしてその特徴をもって直ちに虚偽へ短絡すべきではないことが論じられてきました(立命館大学 松本克実「PTSD被害と損害論・時効論」)。

つまり「時刻のズレ」それ自体は、同意の有無を決める論点ではありません。本来、性暴力を専門領域として語る書き手の役割は、細部の揺れを材料にして信用性を削ることではなく、なぜ揺れが起こり得るのか、そして揺れそれ自体が“同意”の判断を直結的に決めないことを、読者に手渡して誤解と二次被害を防ぐことにあります。

小川記事における、フェミニズムへの二重の裏切り

以上のことは、フェミニズムにおいては常識とされる見解です。実際Springの山本潤代表理事は、黒岩町長への謝罪後の記者会見で、次のように述べているのです。

山本氏は面会後、「被害者が時系列などの事実を誤認していることはよくある」としたうえで、「被害として受け止めつつ事実を確認するプロセスが重要」と今回の教訓を語った。

読売新聞2025年10月16日 「町長室で性交渉」虚偽告白、草津町批判の団体元代表が謝罪…町長要望「女性守る活動続けて」

そのSpringのスタッフである(あった)小川たまかさんによる今回の記事は、性暴力被害についてのフェミニズムのこれまでの蓄積を根本から否定するような記事だったのです。

もう一度いいますが、小川たまかさんは、公的プロフィール上「性暴力に関する問題を取材・執筆している」書き手として紹介されています。


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彼女がフェミニストを名乗って執筆活動をするならば、カルテに記載された時刻のような「周辺情報」を論点化する際には、
 ①被害直後の記憶がなぜ不正確になりうるのか、
 ②時刻のズレそれ自体は同意の有無を直接に決めないこと(同意能力・酩酊・抵抗不能など別の判断軸が要ること)
――この最低限の前提を、読者に手渡す責任があるはずです。

ところが今回の記事は、そうした前提をほとんど置かないまま「カルテの時間」を「致命的に不利な証拠」として強く押し出しました。その結果、読者の側では、「被害直後の説明と後の証言にズレがある=虚偽かもしれない」「だから冤罪かもしれない」といった短絡が生まれやすい構図になっています。

さらに、小川さんの「フェミニスト」という肩書が、その短絡に大きなお墨付きを与えています。被害を訴える女性の告発を無効化することをフェミニズムの名において正統化し、結果として膨大な数の二次加害の触媒となってしまっている。

つまり、小川記事においては、
①フェミニズムの常識が否定されており
フェミニストという肩書を通じて性暴力を訴える女性の告発が抑圧され、二次加害の触媒となっている。

という、フェミニズムへの二重の裏切りが生まれています。

これが今回の記事において、私が最も問題だと考える点です。

被害者と加害者の人権のために、踏まえるべき原則

大切なことなので、もう一度、確認しておきます。

これは「被害者の訴えは常に真実であり、事実関係を検討してはいけない」という話ではありません。被害者の訴えが捏造であった事例は現実に存在しますし、被害が実在した場合でも、強いストレスの中で思い込みや取り違えが起こることは当然にありえます。だから、被害者の自己申告だけを根拠に、即座に刑事罰や社会的制裁を「加害者」とされる人に科すことが人権侵害につながりうることは、草津の事件を通じて多くの人が理解したはずです。

しかしその一方で、被害者が語る内容に一定の齟齬や揺れが生じること自体は、PTSDや心理的回避、状況把握の困難など、強いストレス状況下ではごく自然なことです。とりわけ被害直後であれば、認知は断片的にもなりやすい。人間の認知とは、本来それほど脆く不確かなものです。

したがって、重大ではない齟齬だけを理由に「供述が虚偽である」と断定してしまうことも、また別の形の人権侵害に直結します。それは絶対に避けなければなりません。

付け加えますが、伊藤さんの事件については、すでに確定した民事裁判において、こうした齟齬の可能性を考慮したうえで性暴力被害が認定されています。こうした状況で、性暴力被害そのものを虚偽であるかのように断定したり強く示唆する言論には、相応のリーガルリスクが伴いかねないということは、最低限知っておいた方が良いかと思います。

最も大切なのは、人権です。「被害者」の人権と、「加害者」とされる側の人権、その両方を守るために、第三者である私たちが踏まえなければならない前提知識と原則が存在するという事実を、ここであらためて確認しておきます。

さいごに─いまだ果たされることのないフェミニズムの使命

全体の流れを、もう一度整理します。これは、誰かを断罪するためではなく、現在何が起きているのかの見取り図です。

  1. 草津町の件では、フェミニストを名乗る活動家たちが、新井町議の告発内容について十分な事実確認をしないまま発信・連帯したことで、黒岩町長に対する冤罪的な非難を拡大させた。

  2. 黒岩町長の冤罪が確定したこともあって、「性暴力を訴える女性は冤罪加害者ではないか」という疑いがもたれやすくなった。

  3. この流れに加担しながら、いまだ公に十分な説明や反省を示していない人物が、2の被害者への不信感に乗る形で、今度は性暴力被害を訴える伊藤詩織さんの証言の信用性に強い疑義を投げかける記事を書いた

  4. その結果、性暴力やフェミニズムの議論に慣れていない人たちが、「フェミニストのお墨付きがある」と受け止めて勢いづき、伊藤詩織さんを冤罪加害者であるかのように扱う言説が拡散している。

  5. 結果として伊藤詩織さんは、フェミ界隈、右派、アンチフェミ、リベラル、表現の自由など、ほぼ全方位からバッシングを受ける状況になっている。

これが、草津町の件から伊藤詩織さんをめぐる現在の状況へとつながる、大まかな流れです。

なぜ、上述の1(草津冤罪事件)から3(伊藤詩織の信憑性疑義)まで、180度反転したのか、そこに疑問に持つ人もいるかもしれません。この記事では、それに対する私なりの考えを示す紙幅はありません。

ただ、もともと、草津の事件でも新井祥子さんの告発すら確認しないほど被害者に興味がない人が、性暴力被害告発をした別の女性の信用を貶めることは、さほど不自然ではないように、私には感じられます。

私が心から危惧しているのは、全方位からバッシングを受けている伊藤詩織さんに、手を差し伸べ擁護しようとする人間が、ほとんど見当たらないことです。

論述の微細なブレを「被害捏造」の証拠であるかのように針小棒大にとらえる性暴力への無理解を前に、被害者に手を差し伸べ、連帯を表明し、全世界を敵に回しても擁護する。それが、本来はフェミニズムが果たすべき使命だったのではないでしょうか。

このことが、私にとって何より哀しくてならないのです。

あとがき

長い記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、事案の緊急性にもとづき、原則として無料で公開します。

なおSNS上では、フェミニスト側から伊藤詩織さんへの批判が展開されたことを、いぶかしむ声がいくつか見受けられます。本稿はその全体像を説明するものではありません。背景に関しては、別稿で一次情報に基づき、整理して示す機会があるかもしれません。ただし、それは本稿の主題(短絡の連鎖を止めるための最低限の確認)とは切り分けて扱うつもりです。

最後に、私のフェミニズム関連の記事をいくつか紹介します。ご興味がある方は、ぜひご一読ください。


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コメント

3
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モノリス2001

もう日本の現代フェミニズムは終わりだと思います。論理破綻、矛盾、冤罪、内輪揉め、、、自分の人生が惨めである事を社会問題にすり替えて人の邪魔をしたり嫌がらせをするのはダメです。 無神経に行われている批判ではなく、冤罪の可能性(ポリコレ美人局)を皆が気にしているという事です。刑事罰…

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Schagerl

馬氏の、強い喫緊を感じさせる文章を拝読しました、ありがとうございます。 もう一度、小川たまか氏の文章を読んでみたいと思いますが、既にあの方がこの話題についてかなり迷走しておられる可能性が窺われていささか怖くもあります。 性暴力被害経験者やその支援者の方々に、(恐らくは恐怖や防衛…

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Artanejp

ありがとうございます。なんというか、件の「伊藤詩織の主張は虚言」論にも、今回の小川氏の記事にせよ、色々懐疑的というか、今回記事に至っては余りにきな臭すぎて事態を静観するしかない。 ただし、伊藤氏の映画に関しては、扱う題材の割に対象当事者の意向を無視しすぎていて、被害云々とは別次元…

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