炭治郎 in 地獄の轟家 作:俺はお兄ちゃんだぞ!!
本作とは関係ありませんが、もう一つのヒロアカ長男物語は更新できませんでした。
読まれている人はこれで伝わると思いますが、申し訳ありません。
二つ同時連載は確保できる時間的に難しく、毎週どちらかの作品を一話更新するのが限界だと感じました。
なので今週はこちらの長男と更新し、来週は向こうの長男を更新します。
ただ、本作を読みたい人が脹相の方よりも多そうだと感じたら、こっちを優先するかもです。
おそらく半分くらいの読者の方が何のことだって感じだと思いますが、匿名でやっているのでここに書かせてもらいます。
お父さんに呼吸のこと、俺の知る技術を話してから五年の月日が経った。
俺達もみんな成長して、俺は14歳、燈矢は13歳、冬美に夏雄、焦凍もそれぞれ12歳と8歳と5歳になった。
この時代に生まれてから14年、以前で言えばもう鬼殺隊に入っている頃だ。
「炭兄!!遊ぼー!!」
「わかった、みんなで一緒に遊ぼう」
俺が家の掃除をしていると冬美がボールを持って遊びに誘ってくれる。
その後ろには夏雄と焦凍も一緒だ。
「燈矢はどうしたの?」
「俺はいいって部屋から出てこないの」
燈矢を誘ったのかを確認すると冬美が頬を膨らせてそう答える。
それを聞いた俺は今いるリビングから二階に上がり、窓から一度外に出て燈矢の部屋に移動する。
窓から部屋を覗けばつまらなそうにパソコンを見ている姿が見えた。
俺は息を吸い込んで燈矢に声をかける。
「燈矢!!俺達と一緒に遊ぼう!!」
「っ!!?え、ってなんで窓の外にいんだよ炭兄!!」
驚いた表情で叫ぶ燈矢に笑いながら窓から部屋に入る。
冬美が鍵を閉めていたっていうから、それならこっちから入ろうと思って。
「一緒に遊んだらすごく楽しいよ。ほら、一緒にいこう」
「・・・・わかったよ」
観念したようにパソコンを落として部屋を出る燈矢。
外に出ればみんなが俺達のことを待ってくれていた。
「あ、やっぱり炭兄に引っ張り出されたんだー」
「・・・・いやだって、窓から入ってこられたらしょうがねぇじゃん」
一度冬美からの誘いを断った燈矢はバツが悪そうに眼を逸らす。
それを見た冬美は笑いながら口を開いた。
「お父さんに訓練見てもらえなかったから拗ねてるんだ」
「うるせぇ!さっさとボール蹴れよ!」
笑う冬美に怒った燈矢がボールを奪おうと詰め寄る。
そうして奪ったボールを奪い返そうと冬美と夏雄が燈矢に向かって笑い声をあげながら向かっていった。
「ぁ、ぅ」
三人が密着しながらボールを奪い合うのを見て焦凍が自分も行きたそうにしているのが見えた。
けれど、どうしたらいいのかわからないのか動けずにいる。
「大丈夫だよ焦凍、俺と一緒に行こう」
「ぁ、炭兄」
不安そうな顔で俺を見る焦凍に微笑んで手を握る。
そうして手を繋いだまま一緒にみんなの輪の中に混ざってボールの取り合いをした。
みんな優しいから焦凍にもボールを回してくれて、焦凍も足元にきたボールを蹴って楽しそうに笑っていた。
そうして奪い合いからボールを蹴って渡す遊びに変えていると、家のリビングの窓が開いてそこからお母さんが姿を現す。
「あら、みんなで遊んでるの?」
そう言って微笑むお母さんに冬美が私が誘ったのと返事をする。
冬美の言葉に微笑みながら縁側に腰をかけて俺達を見守るお母さん。
そうやって遊んでいると、燈矢の視線が俺達以外の方へと向く。
その視線の先は訓練部屋、今お父さんがいる場所になる。
「お昼になったらお父さんも出てくるよ。そうしたら一緒に遊んでもらおう」
「・・・・うん」
俺がそう声をかければ燈矢は少し間をおいて頷く。
本当はお父さんと一緒に訓練がしたいんだろう、けどそれが叶わなくて辛そうだ。
お父さんが呼吸の訓練を始めてから五年。
その月日でお父さんは呼吸を完全に自分のものにすることに成功した。
水の呼吸やヒノカミ神楽はお父さんには合わず、お父さんは自分にあった呼吸を見つけ体得した。
その結果、身体能力や機能が強くなって同時に個性も成長したという。
俺が想像していた通り、火力が以前にも増して大きくなり、最高温度までの速度も速くなったらしい。
個性以外にも筋力なども伸びたけど、お父さんが特に大きいと言っていたのがある。
それが身体に込める熱への耐性。
お父さんや燈矢の身体は炎を使えば使うほど身体に熱が籠って身体機能が低くなっていくらしい。
けれど呼吸によってその活動限界が飛躍的に伸びたと言っていた。
呼吸、柱稽古に玄弥から教えてもらった全ての感覚を一気に開く反復動作。
それらをお父さんは五年かけて全て使えるようになった。
強くなってる、以前とは匂いが違ってる。
お父さんも自分で感じているのかあの怒りの匂いが少し薄まった。
俺達とも一緒にいてくれるし、このまま全てが解決したらいいな。
「わっ!?」
「あっ、転んじゃったか」
ボールを蹴ろうして転んでしまった焦凍に駆け寄る。
擦りむいたのか血が少し出てしまっていた。
「う、だ、大丈夫」
「焦凍は強い子だなーお兄ちゃんと一緒に手当をしにいこう」
泣きそうになるのを我慢する焦凍に微笑みながら抱きかかえる。
そしてお母さんと一緒に消毒して軽い手当をした。
そうしているとちょうど訓練室から出て来たお父さんと会う。
「・・・・怪我か」
「う、うん。けどぼく大丈夫だから!泣いてない!」
擦りむいた場所を隠すようにしながらお父さんに向かって口を開く焦凍。
それに対しお父さんはそうかと短い言葉で返す。
「ぼくお父さんみたいなヒーローになるから、このくらいで泣かない」
「・・・・そうか。この後・・・・いや、一緒にサッカーをするか」
お父さんが何かを言いかけた後、それをやめて別の言葉を口にする。
俺は何を言いかけてやめたのかがわかった。
一瞬だけど、外に視線も向けていた。
「・・・・」
外では
嫉妬や怒り、そういった匂いが燈矢からしている。
・・・・まだ燈矢の体質は解決できていない。
だから燈矢は個性訓練が禁じられていて、ずっと苦しんでいるんだ。
焦凍にも思うところがあるのも知っている、この五年間、毎日話を聞いているから。
燈矢の抱えている悩みを解決してやりたい、家族が笑って過ごせるように。
「炭治郎、昨日の話だが」
お父さんが話を変えて俺へと話しかける。
昨日の話、きっと夜にみんなに言ったことだろう。
「本気なのか、
お父さんの言葉に俺は頷く。
今の俺は中学二年生、受験は来年以降になるけど今の内から勉強をしていかないといけない。
「そこで勉強出来れば燈矢の体質を改善できるサポートアイテムを作れるかもしれない」
それが俺が雄英に入ろうと思った理由だ。
もともと行きたい高校があるわけじゃなかった。
クラスのみんなはヒーローになりたいって言っているけど俺はそういうわけじゃないし。
個性がない俺でもサポート科なら入学することが出来るはずだ。
俺の説明にお父さんとお母さんは微妙な顔をする。
「・・・・炭治郎、あなたは本当に優しくて、家族想いなのはよくわかってるわ。けれど自分の人生を犠牲にする必要はないのよ」
お母さんの言葉に俺は笑顔で首を振る。
犠牲になんかなってない、俺は好きでこの道を選ぶんだから。
問題があるとすれば前の時代からまだこっちに慣れ切れてなくて機械の扱いにまだ自信がないこと。
サポート科に入るのならもっと機械に詳しくならないといけないのにこのままじゃダメだ。
俺は特別頭が良いわけじゃないから、一生懸命勉強しないと。
「・・・・それなら俺が提携しているサポート会社に連絡をとってみよう。勉強の役に立つことを教えてもらえるはずだ」
「ありがとうお父さん!」
ヒーローをしているからサポート会社の知り合いが多いみたいだ。
雄英に入るため、一生懸命がんばっていこう!
そうやって家事や弟たちのお世話をしながら勉強しているとあっと言う間に一年が過ぎた。
雄英の試験が始まって、筆記試験の他にもサポート科特有の実技試験もあって苦戦した。
実施試験は用意された材料で機械を作ること。
俺は苦戦しながらなんとか作り上げることが出来た、お父さんが連絡してくれたサポート会社の人から物つくりの基礎を教えてもらってなければ難しかったと思う。
試験を終えて、俺は無事に雄英高校サポート科に入学することが出来た。
サポート科では雄英高校にいるプロヒーローの人やサポート会社で活躍されている人が説明にやってきてくれたりしてすごく勉強になる。
俺はさっそく教師の方に相談しながら燈矢のためのサポートアイテム作成を始めた。
炎への耐性を向上させるアイテムは少しならともかく大きく向上させるとなると途端に難易度が上がるらしい。
俺の事情を知った先生やみんなが協力してくれるけど、なかなか成果が出てくれない。
時間はあるようでないんだ、燈矢は今中学三年生、高校受験までもう一年もない。
お父さんとお母さんには言ってないけど燈矢は雄英高校のヒーロー科を受験する。
このことは俺しか知らない、ある日の夜中に俺にだけ教えてくれたから。
燈矢の個性は強力だ、無理をすれば合格できるかもしれない。
けどもし合格できてもお父さん達がそれを許してくれるかは・・・・。
・・・・そのためにも俺は一年以内に絶対に燈矢の炎への耐性をあげるサポートアイテムを作るんだ!
けれど俺の思いとは裏腹に結果は出ない。
勉強して、先生やみんなとも話し合って実験もしてる、けれど肝心の成果が出てくれなかった。
協力してくれる友達からは諦めの匂いがし始める。
俺自身、寝ないで考えてみるけど頭がよくない俺じゃ全然進まない。
半年が経ってもアイテムは出来なかった。
焦る、足りない、勉強が足りないんだ。
もっとやらないと、もっと。
・・・・。
っっ!!わーーーっ!!くじけそう!!負けそう!!
「頑張れ俺!!頑張れ!!」
「うるせぇ!貴重な機械に頭突きすんじゃねぇよ!!」
「ああっ!?すいませんつい!!」
弱音が頭を過ってしまってそれを振り払うために頭突きをしてしまった。
それを見たパワーローダー先生に怒られてしまう。
頭を下げる俺に先生はため息を吐きながら一枚の紙を渡してきた。
「えっと、これは何ですか?」
「海外への留学許可書だよ。根津校長の計らいで有名な研究所がある高校へ行けるようにしてくれた」
「・・・・海外、ですか?」
まだ話の内容が掴み切れずに首を傾げる。
すると一から俺にもわかるように説明してくれた。
どうにも日本の技術だけでは俺の作りたいアイテムは難しいと判断したみたいで、海外の有名な研究施設の人達の力を借りられるように校長先生がお願いしてくれたらしい。
俺はそれがある高校に留学という形で少しの間いさせてもらい、そこで燈矢のためのサポートアイテムを作るという流れになるみたいだ。
「そこにはあの有名なデヴィット・シールドもいるらしいぜぇ。校長先生に感謝するんだな」
「はい!!ありがとうございます!!」
すごいぞ!海外の人の力も借りられるなんて!これなら燈矢のサポートアイテムもきっと。
さっそく校長先生にお礼を、あとはお父さん達に知らせて準備を。
「わーたーしーがー普通に扉から来た!!」
俺が部屋を出ようとした直後、見上げるような大きな人が姿を現す。
その特徴的な服と姿を見てすぐにそれが誰かわかった。
「オールマイトさん!!」
「やぁ!君が轟少年だね!!校長から話は聞いているよ」
彼を呼ぶと笑いながらこっちへとやってくる。
俺のことを知っているみたいだ、けど校長先生から話を聞いているってどういうことだろう。
「校長先生からデイブを紹介してくれと頼まれてね。私もコスチュームのメンテナンスで彼に用事があったからちょうどよかったよ!君が行く時に私も同行するからよろしくね!!」
「っ、ありがとうございます!!」
「私はすぐに帰らなければならないが、親友のデイブなら必ず君の力になってくれるはずだ」
その言葉に俺は力強く頷く。
みんな優しい、俺の家族のためにこんなにも協力してくれる。
今の俺じゃ何も返すことが出来ない、それがとても心苦しい。
それからすぐに家族に報告をして留学の準備を進める。
みんなは俺が海外に行くことを心配してくれた、その気持ちをもらって俺は海外へ向かう。
ちなみにオールマイトさんが協力してくれたことを知ったお父さんはすごく複雑な顔をしていた。
「・・・・炭兄」
「大丈夫だよ燈矢、絶対に燈矢が個性を使えるようになるアイテムを作るから!」
不安そうな燈矢に微笑みながら答える。
海外の人から俺だけじゃなくて燈矢自身も一緒に来て欲しいと言われて今回二人で行くことになった。
きちんと直接調べて燈矢自身に合ったものを作る必要がある、俺がそう説明して燈矢も一緒に行くことに頷いてくれた。
見送りに来てくれたお母さん達に手を振って飛行機に乗る。
飛行機に乗り込み、反対の席に座るオールマイトが口を開く。
「炭治郎少年、燈矢少年、海外は初めてかな?」
俺と燈矢が頷くとオールマイトさんは笑いながら自分も一緒だから心配ないと言ってくれる。
「・・・・・君の事情は聞いたよ。燈矢少年のためにサポート科に入ったんだろう」
「はい!燈矢が個性を自由に使えるようになればと思って!」
そうやって目的の場所に到着するまでオールマイトさんと話をする。
俺がお父さん、エンデヴァーの息子であることも当然知っている彼は俺の話を真剣に聞いてくれた。
燈矢はオールマイトさんに緊張しているみたいで話には入ってこない。
話しかけてもどこか上の空だった。
「これは必ず成功させなくてはね!!デイブなら君達の力になってくれる、もちろん私もね」
「本当にありがとうございます!」
二人で笑いながら明るい話に切り替える。
そうして話していると、あっという間に目的の場所に到着した。
飛行機を降りて燈矢と一緒にオールマイトさんについていく。
すると学校らしき場所に到着した、日本とは作りが違っているけどこれが海外の建物なんだろう。
「デイブ!!久しぶりだね!!」
「トシ!君も元気そうで何よりだ」
案内された場所にいた人とオールマイトさんが楽しそうに話し始める。
あの人がデイブさんみたいだ。
「初めまして!!轟炭治郎と言います!!そして弟の燈矢です!」
「よ、よろしくお願いします」
俺と燈矢で一緒に頭を下げる。
そうすると彼は微笑みながら挨拶を返してくれた。
「話は聞いているよ、炎への耐性を上げる方法を探しているんだってね。さっそく検査をしよう」
そう言ってデイブさんの研究室に案内される。
俺にはまだまだ理解できない機械を使って燈矢を検査するみたいだ。
「・・・・なるほどね。確かに聞いていた通り個性の炎に身体の耐性が間に合っていないようだ」
「あの、なんとかできますか」
不安から思わずそう聞いてしまう。
俺の言葉にデイブさんは考え込むように口に手を当てて黙る。
そしてしばらくして微笑みながら俺達を見て口を開いた。
「うん、僕に任せてくれ。必ず燈矢くんの炎への耐性を上げてみせるよ」
「本当ですか!?っっ、よかったぁ。燈矢!デイブさんが手を貸してくれるって」
その言葉に勢いよく頭を下げてお礼を言う。
すごい人だ、俺がどんなに考えても思いつかなったのに。
「君にも協力してもらうことがたくさんある。炭治郎君は留学するんだろう?だったらしばらく一緒になるね」
「はい!俺に出来ることなら何でも!!」
もう一度頭を下げる。
そうしていると、デイブさんがじっと俺を見つめてきた。
「・・・・聞いてはいたけれど、君は無個性というのは本当かい?」
「はい!俺には個性はありません!でも全然気にしてません!!」
少し気を使いながら聞かれた内容に笑顔で頷く。
俺のその反応にデイブさんは少し驚いた表情する。
「そうか・・・・実は私の娘も無個性でね。もうすぐ五歳になるんだけど良かったら話をしてあげてほしい。同じ無個性で日本の雄英高校にいる君の話は娘も将来の参考になるだろうから」
「俺の話でいいなら喜んで!!」
そうして俺と燈矢の海外生活が始まった。
デイブさんの手伝いをしながら俺達はここの学校に通う。
留学になっているからしっかり通って勉強しないと日本に戻った時に進級できなくなってしまうからだ。
こっちに来てから数カ月が経ち、日本ではいくら勉強しても出なかった成果が姿を現し始める。
「――――あ、熱くない」
燈矢からそんな声が漏れる。
俺の視界には炎を腕から出して個性を使う燈矢の姿。
いつもならもう火傷をしてしまっている。だけど今は火傷していない。
それはつまり。
「うん、成功だ。炎への耐性が上がっている、これで自身の個性で火傷をすることはないだろう」
燈矢の身体に張り付けられた機械から情報を読み取ったデイブさんがそう言う。
それを聞いて、俺の目から涙が溢れた。
「燈矢!やった、やったなぁ、これでもう自由に個性を使えるんだ」
「っ、炭兄、ぁ、ありがとう」
泣く俺に燈矢も同じように涙を流す、そして二人で抱き合って泣いてしまった。
それをデイブさんと娘のメリッサちゃんが優しく見守ってくれる。
「デ、デイブさん!ありがとうございます!!本当に!ありがとうございます!!」
「はは、そこまで感動されると頑張った甲斐があったよ」
俺と燈矢が頭を下げ続けるとデイブさんは笑って俺達を止める。
本当にすごい人だ、この人にはもう感謝してもしきれない。
「炭治郎くんがあまりにも一生懸命だったからね。娘の悩みも解決してくれたし、なんというか君は思わず力を貸したくなる、そんな不思議な魅力を持っているね」
「え、いえ俺はそんな!」
「それにこれ以上の感謝はいらないよ、前にも言ったけどこっちにもしっかりメリットがあった話だ。日本のNo2であるエンデヴァーの息子さん達、彼に貸しを作れた。それに今回の研究の成果は大勢の人を救えるはずさ」
確かにデイブさんと会った日にそう説明された。
でも匂いで彼が本当に善意から俺達を助けてくれたことを知っている。
本当にありがとうございます、この御恩は必ずお返しします。
「さて、目的は達成したんだ。君たちは日本に戻らないとね。特に燈矢くんは雄英高校への受験があるんだろう」
デイブさんの言葉に燈矢が焦る。
確かにここにはもう数か月以上滞在している、そろそろ戻らないと受験が始まってしまう。
「・・・・炭治郎お兄ちゃん、行っちゃうの?」
「メリッサちゃん・・・・ごめんね、けれど絶対にまた会いに来るから!!」
寂しそうな顔をするメリッサちゃんの頭を撫でて約束をする。
デイブさんや協力してくれた人たちに恩返しがしたい、だから絶対ここに戻ってくる!
「炭治郎くん」
「はい、なんですかデイブさん」
部屋を出る直前に呼び止められて振り返る。
俺をじっと見ながら彼は口を開く。
「君は技術者よりもヒーローの方が向いていると私は思う」
「え、俺がですか?」
確かにサポート科に入ったのは燈矢のためで、それは今達成された。
だから俺があそこにいる理由はなくなってしまったけど、だからと言ってやめようとは思ってない。
特別俺はヒーローに憧れとかはないし、急にどうしたんだろう。
「ああ、もしその気があるなら君専用のサポートアイテムを作ろう。君といるとなんだか懐かしい気持ちになってしまってね」
そう言うデイブさんに俺は答えを出せない。
何も言えない俺にデイブさんは笑いながら送り出してくれた。
そうして俺達は数カ月に及ぶ海外生活を終えて日本に戻る。
空港に着くと、家族のみんなが待っていてくれた。
「炭兄!燈矢兄!」
俺達を見つけた冬美が抱き着いてくる。
焦凍もそれを真似して飛びついてきたから慌てて抱き留めた。
「おかえりなさい、疲れたでしょう」
「ただいまお母さん」
焦凍を抱きかかえながらお母さんと話をする。
そうしていると一緒に迎えに来ていたお父さんが燈矢に話しかける。
「お父さん!俺!俺!!個性使っても火傷しなくなったんだ!だから俺を」
「ああ、帰ったらさっそく炎の扱いを教えよう」
「~~~~っ!!よーし!!急いで帰ろうぜ!ほらみんな急ぐぞ!」
お父さんの言葉に本当に嬉しそうに涙をこぼす燈矢。
それにみんなが笑う、お母さんと冬美はうっすらと涙を浮かべていた。
俺も二人の気持ちがよくわかった。
ああ、本当によかった。これで燈矢はお父さんに見てもらいながらヒーローを目指せる。
そしてずっと望んでいた時間が訪れる。
お父さんと燈矢が訓練している。
本当に楽しそうで、俺も嬉しくなった。
焦凍も一緒になって訓練を始めて、お父さんの取り合いになっていた。
あっと言う間に時間が過ぎていき、燈矢の雄英高校への受験が始まる。
自信満々の燈矢は不安一つなく試験を突破し、雄英高校ヒーロー科への合格を果たした。
「炭兄」
休みの日、俺が家の洗濯物を干していると燈矢が話しかけてくる。
すごく真剣な表情をしているけれど、どうしたんだろう。
「・・・・その、今まで本当にありがとう」
そう言って頭を下げる燈矢に首を傾げる。
お礼を言われるようなことはしてないけど、それにいきなりどうしたんだ?
「俺、炭兄がいてくれたから今までやってこれたよ。個性が自由に使えなくてお父さんも見てはくれてるけど、本当のところでは見てくれてなくて、嫌な感情が溜まっていったけど炭兄は嫌な顔せず俺の話を聞いてくれた」
「そんなの当たり前じゃないか、むしろ俺は話しか聞いてあげられなくて」
「・・・・炭兄はそういうけどさ、俺は本当に救われてたよ。だから、その、これからは俺が炭兄を支えるよ!困ったことがあったら俺に言ってくれ!絶対に力になるから!!」
真剣な表情でそう言ってくれる燈矢に嬉しくなって頭を撫でる。
燈矢は恥ずかしそうにしながらも抵抗しなかった。
それから燈矢が雄英高校に入学し、俺も二年生になった。
目的はなくなったけどサポート科のみんなと仲良くなれたし、今までのお礼だってしていきたい。
デイブさんとメリッサちゃんとも連絡を続けている。
特にデイブさんとはやり取りしているうちに俺の戦闘方法などの話になっていて、前に俺専用のサポートアイテムを作ってくれるという話から海外からわざわざそれを届けてくれた。
気持ちはすごく嬉しくて持たせてもらっている、けれどサポート科をやめるつもりはないしこれを使う日が来ることはないと思う。
あとオールマイトさんにもこの前会ってお礼を言うことが出来た。
何でもデイブさんが俺のことをすごく話しているみたいで気に入られたようだねと笑っていて少し照れくさかった。
そのまま日々が続き、雄英体育祭も無事終えてから少し時間が過ぎたころ。
「初めまして、轟炭治郎くんだよね」
「え、はい!そうですけど」
用事で街を歩いていると不意に声を掛けられる。
そこにいたのは柔和な笑みを浮かべた初老の方だった。
「よかった、実は君と話がしたくてね。時間があればそこに喫茶店で話を聞いてくれないかな」
そう言って近くにある喫茶店に目を向ける、話ってなんだろう。
困惑していると名刺をくれた。
どうやらサポートアイテム会社の人らしい。
優しそうな笑みを浮かべる彼は見るだけでは普通に話がしたいだけなんだろうと思う。
けれど。
「あの、もしかして悪いことをしようとしてますか?」
「え?何を言っているんだい?」
俺の言葉に彼は不思議そうに首を傾げる。
その態度はやはり普通の人にしか見えない。
けれど匂いは全然違う。
「俺は昔から鼻が利くんです。あなたからは
「・・・・」
俺がそう言った瞬間、柔和な笑みから一転、感情が抜け落ちたかのような無表情になった。
その表情を見て足に力を込めて距離をとる。
一瞬で身体に緊張が走った。鬼、いや人だ、なのになんだこの感覚は。
さっきと雰囲気が全然違う。まずい、こんなに人がたくさんいるところでもし暴れられたら。
「っ、こっちだ!俺に用があるんだろ!だったらついてこい!!」
人がいないところへ向かって走る。
相手もその方が都合がいいのか俺の誘いに乗ってきた。
走り続けて人の匂いがしない場所にたどり着く。よし、ここなら。
「本当はもっとうまく利用したかったんだけど、しょうがないね。
そう言った直後、彼の姿が変わる。
体格だけじゃない、人相すらも骨の歪む音と一緒に変わっていく。
そして変わった姿を見てより禍々しい何かを感じた。
「・・・・っ」
この時代に生まれなおしてから初めて味わう心臓を握られたような感覚。
身体中から汗が出て呼吸が荒くなる。
落ち着け、落ち着くんだ。
「やめておいた方がいい。君は無個性だろう、力を持たないなら抵抗しても無意味だ」
「そんなのやってみなくちゃわからない!」
呼吸を整える。
よし、相手は油断している。俺が無個性だから戦えないと思っているんだ。
何の目的なのかわからないけれど、この人は危険だ。
デイブさん、あなたが作ってくれたサポートアイテムを使わせてもらいます!!
「
普段は危ないから刀じゃなくて別の物になっている。
けれど俺の声に反応してその形を変える。
柄を握り構える。久しぶりに握る感触と緊張感。
何十年ぶりの実戦、その相手がこんな危険な匂いがする人。
そして鬼じゃなくて、人間。
っっ、余計なことは考えるな!今はこの状況を変えることに集中するんだ!!
「――――水の呼吸、壱ノ型」
呼吸で強化した足で大地を蹴って駆ける。
身体だけはずっと鍛えてきた。よし動ける、前と同じように!!
「
俺が戦えないと思って反応が鈍い、これは入る。
大丈夫。この刀で人は斬れない、あくまで打撲で気絶させるだけだ。
「面白い技だ。水を纏っているように見える」
「っ、う」
俺の攻撃が届く前に液体状の何かが身体から噴出して阻まれる。
これがこの人の個性か、粘液を作り出せるようだ。
「あくまでそう見えると錯覚するだけ、個性ではなく技術によるものみたいだ」
防がれた、攻撃が来るぞ。すぐに身体を動かすんだ!
相手が手を俺へと向ける、手からあの粘液を出すつもりだ。
その思って手に注意していた瞬間、光が俺の視界を覆った。
「うっ!?なにが」
次の瞬間、彼の手から光線が放たれた。
視界が塞がれる中の予想外の攻撃、俺はそれを感覚だけで身体を捻って躱す。
けれど衝撃波まではいなすことが出来ずに吹き飛ばされてしまう。
粘液じゃない?光を出す力、一体この人の個性はなんなんだ。
「不思議かい?けど僕も同じだ、無個性の君がどうしてそんなに速く動ける」
「教えるもんか!!そっちこそどうして俺を狙うんだ!!」
「少し興味が湧いてね。エンデヴァーの実力が上がった、そして体育祭で見た君の動き。無個性のはずの君が肉体強化系なみに動ける理由が知りたかった」
そう答えながら再び飛び出して振るう俺の攻撃を防ぐ。
連続で技を出すけど、それも防がれる。粘液だけじゃない、今度は白い壁のような物が出て来た。
もしかしてこの人は個性が一つだけじゃないのか。
きっとそうだ、それなら関係性のない力がいくつも使えることにも説明がつく。
「もともと君たち家族にはすごく興味があってね。できるなら穏便に接触して良い関係を築きたかったよ」
「っっ!!何が良い関係だ!そんな悪意の匂いをさせて信じられるか!!俺の家族に手を出すな!!」
「君にも振られてしまったか、燈矢君といい君たち家族は強情だ」
こいつ!もう燈矢にも会っていたのか!!
今度は相手の身体から黒色の骨が伸びてこっちに襲い掛かってくる。
複数の個性、相手がどんな攻撃をしてくるのか予測できない。
けれど、だからといって負けてたまるものか!!
「参ノ型、
相手の攻撃をさばきながら一気に詰め寄る。
大丈夫だ、多種多様な攻撃も呼吸でしのげてる、攻撃もできている。
「この水の呼吸という剣技、すばらしい技術だ。けれど僕にはいらないなぁ」
「そもそもあげるつもりはない!!」
これは鱗滝さんから教えられた技だ。
日の呼吸と同じ、想いを乗せて代々受け継がれていったものだ、悪意を持って利用なんてさせるものか!!
剣を振るえばまた液体に取り込まれて止められる。
これが来るのはわかってた、この状態なら!!
「陸ノ型 ねじれ渦!!」
ねじれ渦は水中のような抵抗が強い時こそ威力をあげる技だ。
これならこの防御を、貫ける!!
「へぇ」
液体による防御を貫いて剣を相手に振るう。
けれどその直前に今度は白い壁が出現する。
これも来ると思ってた、だから。
「――――日の呼吸!!」
水の呼吸から日の呼吸に呼吸を瞬時に切り替える。
剣が纏うものが水から火へと移り変わる。
「
俺の場合、水の呼吸よりも日の呼吸の方が威力を出せる。
これなら相手の固い防御だって。
「っ!!ああぁぁぁ!!」
壁にぶつかった瞬間、腕に響く強い抵抗。
けれど、それよりもこっちの技の方が強い!!
一瞬の抵抗の後、白い壁が砕け今度こそ俺の剣が相手に直撃する。
強烈な打撃音と共に相手が吹き飛ぶ。
いつもなら鬼を倒せた手ごたえ、これでこの人も。
相手は人、鬼のように再生はしない。
攻撃をした後に一瞬の後悔、それが油断に繋がってしまった。
「うわ!?」
気が付けば足に触手のようなものが絡みついていた。
その触手によって俺は地面から離され空中に持ち上げられる。
それを俺が斬るよりも早く、触手によって勢いよく地面に叩きつけられてしまった。
「がっ!!?」
うっ!口から空気が漏れる、すぐに立て、相手が無事ならすぐに攻撃がくる!
受け身をとって立て直す、触手も日の呼吸で斬ることが出来た。
視線を上げた瞬間、視界を埋め尽くすように岩や骨の槍、見たことのない生物が襲い掛かってくる。
やばい。これだけの量、まだ身体を起こせてないのに。
っっ諦めるな!動け!致命傷を避けるんだ!!
「日の呼吸!」
剣を握り直し、息を吸い込み身体に力を込める。
そうして技を出そうとした瞬間。
「デトロイト スマァァァァシュ!!!」
相手の攻撃全てを凄まじい衝撃波が発生して吹き飛ばす。
そのあまりの風圧に思わず目を閉じそうになるのを耐えて腕で守りながら前を見る。
そして俺の前に現れた人の姿を見て、思わず声が上がった。
「オールマイトさん!!」
「炭治郎少年、遅くなってすまない。もう大丈夫、私が来た!!」
相手へ警戒しながらも俺へ笑顔を向けてくれるオールマイトさんに俺も笑顔で頷く。
よかった、オールマイトさんが来てくれるなんてすごく心強いぞ。
「しかしこれは、あの男と戦っていたのか」
抉れた地面や崩れた建物を見て状況を把握するオールマイトさん。
あ、しまった!ヒーローでもない俺が戦うのはまずいんだった!
「
「会いたかったぞ、オールフォーワン!!」
そう言って二人が衝突する。
オールマイトさん、この人と知り合いみたいだ。
言葉はそれだけ、そこからは強烈な力がぶつかり合う。
速い、オールマイトさんの動きが目で追えない。
「炭治郎少年!ここからすぐに離れるんだ!」
「あ、はい!わかりました!!」
今の俺は足手まといになる、オールマイトさんの言う通り急いでここを離れないと。
「
その声が耳に届いた瞬間、突然地面が爆ぜた。
いきなり地面から匂いが、これは人なのか。
砕けた地面から脱出した俺はいきなり姿を現した巨人に動きを止めてしまう。
「炭治郎少年!!」
オールマイトさんの叫びに反応して視線を向ければ、俺に向かって炎や岩が迫っていた。
この戦いは、まだ終わる気配が見えなかった。