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信じた真剣交際、実は「独身偽装」 被害女性が法廷で訴えた深い傷

判決言い渡しの後、東京地裁前で取材に応じるマイコさん(仮名)=東京都千代田区で2025年12月8日午後2時37分、千脇康平撮影 拡大
判決言い渡しの後、東京地裁前で取材に応じるマイコさん(仮名)=東京都千代田区で2025年12月8日午後2時37分、千脇康平撮影

 独身と言ったから付き合ったのに、交際相手の男性には妻子がいた――。

 神奈川県の会社員、マイコさん(仮名)の人生は、既婚者が独身と詐称して交際する卑劣な「独身偽装」によって暗転。男性に損害賠償を求める訴訟を起こした。

 そして東京地裁(河原崇人裁判官)は8日、判決で被告の男性に約151万円の賠償を命じた。

 「独身偽装の被害者たちは人から責められ、自分を責めている。一歩を踏み出せない人たちに私の裁判例を使ってもらいたい。加害のない世の中になってほしい」

 マイコさんは閉廷後、胸の内を語った。

始まりは2年半前

 マイコさんによると、利用対象者を独身者に限定したマッチングアプリで当該の男性と知り合ったのは、2年半ほど前だった。

 「前提とはいかないまでも、結婚のことも考えて交際できる人と出会いたい」との思いでアプリを利用していたマイコさん。

 コンタクトしてきた男性に「既婚者の都合のいい不倫相手にされるのが最も嫌い」などと伝えたが、男性は自身について「独身で交際相手もいない」と言い切った。

 初めて会った男性の印象は「知的で素朴、誠実」で、お互い独身であることを改めて確認した。意気投合し、交際が始まった。

「独身偽装被害者の会」はX(ツイッター)で問題提起したり、署名活動したりしている=マイコさん(仮名)提供 拡大
「独身偽装被害者の会」はX(ツイッター)で問題提起したり、署名活動したりしている=マイコさん(仮名)提供

 有名企業に勤める男性は、忙しくてもまめだった。昼夜を問わず交流サイト(SNS)で連絡を取り合い、デートや泊まりがけの旅行などを楽しんだ。将来をにおわせる発言もあったことから、マイコさんは真剣な交際だと信じて疑わなかった。

 付き合って4カ月ほどたった23年10月のこと。デートの翌日、男性との連絡手段が次々とブロックされ、音信不通になった。

 調査会社に依頼すると、男性に妻子がいることが分かった。弁護士を通じた交渉で、男性側は謝罪せず、解決金20万円のみを提示し続けた。

 マイコさんは貞操権侵害を理由に、慰謝料など約440万円を求める損害賠償訴訟を起こした。体調悪化に伴う収入減などを考慮し、請求額は途中で約780万円に変更した。

 貞操権は、誰と性的関係を持つかなど、自由な選択をする性的自己決定権のことを指す。判例上、相手をだましたことによる貞操権侵害は不法行為になるとされてきた。

 マイコさんは、相手が既婚者であることを偽り、性的関係を持つために虚偽の申告をしたことによって貞操権を侵害されたと訴えたのだった。

 男性側は「結婚を前提とした真剣な交際ではなく性交渉を目的とした関係だったため、侵害はない」と主張した。

2年ぶりの「対話」

 10月の本人尋問では、マイコさんが証言台に座る男性を直接問いただす場面があった。

 連絡を絶たれてから、マイコさんが面と向かって男性と話すのは初めてだった。

 ばつが悪いのか、男性は入廷時からほとんどマイコさんに目線を向けず、次のようなやり取りが続いた。

 マイコさん「うそをついている実感は?」

 男性「ありました」

東京地裁=東京都千代田区で2025年12月8日午後0時56分、千脇康平撮影 拡大
東京地裁=東京都千代田区で2025年12月8日午後0時56分、千脇康平撮影

 既婚の事実を打ち明けなかった理由について、男性は被告代理人からの質問に「(マイコさんは)気が強い方という印象で、伝えたときに何が起きるか怖かった」と責任を転嫁するような発言をしていた。

 マイコさん「怖かったのなら早めにやめた方がよかったのでは?」

 男性は問いかけには無言で、マイコさんが続けた。

 マイコさん「余計怖くなりませんか」

 男性(10秒あまりの沈黙後)「すいません、ちょっと、答えがだいぶ難しいです」

 尋問では、河原裁判官から、マイコさんに対する男性の振る舞いについて認識を問う場面もあった。

 裁判官「説明を一言送ってからブロックするとか、しなかったのはどうしてですか」

 男性「妻からも連絡を絶てと言われてたんで、それをまず最優先にする判断をしたのかと思います」

 裁判官「今振り返ってみて、そのような措置をどう思っていますか」

 男性「もっとやりようがあったんじゃないか、とは思います」

 裁判官「具体的には?」

 男性「妻とちゃんと話して、相手がいることだからと(マイコさんに)一報入れてから連絡を絶つとか、折衷案を考えるべきだったかなと思います」

 謝罪の言葉は、最後まで口にしなかった。

 そして、迎えた判決。

 河原裁判官は、男性が「婚姻を見据えた交際を(マイコさんが)希望していたことを認識していた」と認定。独身であるとマイコさんに誤信させた上で婚姻の可能性を含んだ交際を始め、多数回の性交渉に及んだと指摘した。

 その上で「既婚者であることを意図的に秘して性行為を繰り返したことは、原告(マイコさん)の貞操権を侵害する故意の不法行為に当たる」と判断し、男性側に賠償を命じた。

「独身偽装は性加害」

 マイコさんは24年6月にX(ツイッター)にアカウントを作り、「独身偽装被害者の会」として活動を始めた。

Xで「独身偽装は性加害」と訴える「被害者の会」の投稿画面=スクリーンショットより 拡大
Xで「独身偽装は性加害」と訴える「被害者の会」の投稿画面=スクリーンショットより

 同様に独身偽装の被害者たちから数百件もの相談が寄せられた。活動に賛同する女性たちが傍聴に駆けつけ、背中を押してくれた。

 独身偽装行為については不同意性交罪などの刑事罰を問えず、貞操権侵害の慰謝料も数十万円程度にとどまる。

 マイコさんたちは、不条理と感じる現状を是正するための法改正などを求めている。

 判決後、報道陣の取材に応じたマイコさんは男性について「二度とやらないでほしい。人として自分が行ったことの重大性とちゃんと向き合ってほしい」とコメント。

 改めて、こう訴えた。

 「既婚者と知っていたら同意しないし、会うことすらないって人も多い。独身偽装は、不同意の性交渉を強いられる性的搾取の一環であり、性加害であるのは間違いない。だから、傷が深いんです」【千脇康平】

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