セーフティーネットの崩壊
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冬になると火事も多くなる。
そして、その犠牲となって焼死するのは「一人暮らしの老人」が定番となっている。
「いずれは我が身」と思うとゾッとする。
今、核家族化が極端に進み夫婦二人或いは一人暮らしの老人が増えている。
代々引き継がれて来た「家」も最後の住人の死後は「空き家」となり、やがて廃屋と化し「墓守」も居なくなる。
田舎の人口が急激に減少し、限界集落がやがては消滅集落となるのは「時間の問題」でしかない。
当集落も無策のままだと、その典型例となりそうだ。。
そんな中、今朝の毎日新聞「時代の風」は、「セーフティーネットの崩壊」について論じていて興味深く読んだ。
「非婚化」進む現代社会 壊された「安全網」の結果=長谷川眞理子・日本芸術文化振興会理事長 (毎日新聞「時代の風」2025.12.14)
少子化は、昨今の大きな問題だ。人々が持ちたいと思う子どもの数がどんどん減り、この国の将来に不安を感じさせるほどである。
少子化が進んでいる原因の一つは結婚年齢が遅くなる「晩婚化」だが、もう一つは、そもそも生涯にわたって結婚しない「非婚化」が進んでいることである。2020年の統計に基づくと、50歳時点の未婚割合は男性で28・3%、女性で17・8%にのぼる。
なぜ生涯結婚しない、という考えの人たちがこんなに増えているのか? それには、本当は結婚したいけれど「現実には結婚なんかできない」とあきらめる人たちと、「そもそも結婚したいとは思わない」という人たちが含まれる。そして、この二つのグループの人たちにとって、そう思う理由は異なるようだ。
本当は結婚したいけど現実的に結婚なんかできない、と感じている人々にとっては現在の日本社会における結婚のハードルが高過ぎる。一つは経済的な問題だ。所帯を持つには給料が安過ぎ、今の状況ではとてもできないと感じている。
そのほかにも結婚に関する法的制度の問題や住居の問題など、ちゅうちょの原因はいろいろあるだろう。それらの問題は、工夫すればなんとかできるはずだ。
一方、そもそも初めから結婚したいと思っていない人たちがいる。その人たちが結婚しない理由は、経済的その他の余裕の問題ではない。結婚したいと心から望む相手に出会っていないし、もし出会えたとしても「結婚」には踏み込めないだろう、と感じている。なおかつ、1人で暮らしていても不便は感じず、他者と共同生活するのはわずらわしいとすら感じる。
ここには、現代の文明がここ数十年から100年にわたって築いてきた方向性の負の面が表れていると思うのだ。それは「個人」の好みを尊重し、「個人」の自由を最大限に実現しようとする方向である。
昔の暮らしでは、それが狩猟採集社会であれ、農耕・牧畜などによる村生活であれ、個人のプライバシーというものはないし、その概念すらなかった。生活のさまざまな活動は共同作業であり、その多くは公共の場で行われていた。だから、誰もが生活のすみずみまで丸見えで、個人の秘密を守るのは難しかった。幸せも不幸せもみんな共有。互いに口出ししたりされたりで、とてもわずらわしい。
そんなわずらわしさから解放され、自分が好きなときに好きなことができる生活を、誰もが望んだ。それが社会の共通目標となり、「個人」の領域には踏み込まない、という方向に突き進んできたのが、この100年ではないだろうか。
昔の社会にプライバシーがなく、何でも踏み込まれてわずらわしかったのは事実だ。しかし同時にそれは、なんでも互いに支え合う社会でもあった。この社会関係が、今で言うところのセーフティーネットとして機能していた。それを、わずらわしさという悪い面ばかりを見て取り除こうとし、セーフティーネットをも壊してしまったのが現代なのだ。しかも昔のつながりに代わるセーフティーネットは、構築できずにいる。
私は、一人の人間が自分とつきあいのある範囲内で、本当に愛する相手を一人で見つけるのは大変に難しいことだと思う。だからマッチングアプリなどが登場し、それが多くの若い人たちに利用されるのだ。そんなアプリは、出会いに関する多くのデータを取り込んで分析し、どんなカップルがうまくいくのかを抽出している。しかし、出会いがうまくいくのは、単なる相性だけの問題ではない。
電子レンジと、温めればすぐに食べられる食品の普及は、1人暮らしの便利さを助長した。インターネットと交流サイト(SNS)は、いつでもどこでも、ポルノでも何でも見ることを可能にした。
個人情報の保護ということで、一緒に仕事する人々の間でも年齢その他、個人的とみなされることに踏み込んではいけない、ということになった。だから、生活のすべてを個人が自分で決めることになる。しかし、人間の生活とは本来、そんなものではなかった。
そして個人は、自分の選んだ結果の責任をすべて背負わねばならない。傷ついても助けてもらえないと思えば、傷つくことを避ける。それなら一人で十分だ。こうして、恋愛にも踏み込めなくなるのではないか。=毎週日曜日に掲載
