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米FRB、意見割れる中で3会合連続0.25%利下げ―1-3月は利下げ停止視野に(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
記者会見に臨むジェローム・パウエルFRB議長=米NBC NEWSチャンネルより

FRBは今年最後の会合で小幅利下げを決めたが、3委員が反対票を投じた。FRBはインフレ再燃を警戒、追加利下げには慎重だ。1-3月は利下げ停止が予想され、2026年はわずか1回の利下げを予想している。

 FRB(米連邦準備制度理事会)は12月10日のFOMC(公開市場委員会)会合で、9対3の賛成多数で、政策金利であるFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を0.25ポイント引き下げ、3.5-3.75%(中央値3.625%)とすることを決めた。

 FRBは9月会合で2024年12月会合以来、9カ月ぶりに0.25ポイントの利下げを再開しており、これで利下げは3会合連続。市場では今回の利下げはインフレ抑制を優先したタカ派的な利下げで、今後の追加金融緩和は慎重になると予想している。

 また、FRBは金融市場の安定策として、ディスカウント・ウィンドウ(FRBが金融機関に直接資金を供給する制度)の適用金利も3.75%に、市中銀行が中銀に預ける準備預金の法定準備率(SRR)も3.65%に、いずれも0.25ポイント引き下げることを決めた。

 今回の追加利下げは市場の予想通りだった。ただ、今回の会合でもトランプ大統領が前回会合で指名した盟友のスティーブン・ミラン理事が0.5ポイントの大幅利下げを主張、また、FRB傘下のカンザスシティ地区連銀のジェフリー・R・シュミッド総裁とシカゴ地区連銀のオースタン・グールスビ総裁オースタン・D・グールズビー総裁の2人(前回はシュミッド総裁だけ)が金利据え置きを主張、いずれも0.25ポイントの小幅利下げに反対票を投じた。他のFOMC委員は前回会合以降、インフレ上振れリスクが高まっているとして懸念を表明している。

 FOMC委員が反対票を投じたのは3会合連続で、3委員が反対したのは2019年以来、6年ぶり。市場ではミラン委員の反対票はトランプ大統領が望んでいる0.5ポイント超の大幅利下げは時期尚早とのメッセージと受け止めており、市場ではFRBは次回1月会合でも連邦政府機関の閉鎖(10月1日-11月12日)に伴う雇用統計やインフレ統計の発表遅延(12月中旬以降)を踏まえ、慎重に金利決定を行うと見ている。

 FRBは2024年7月会合まで8会合連続で据え置いたいたあと、同9月会合から金利の正常化目指し、2020年3月以来、4年半ぶりに利下げサイクルを開始。同12月会合まで3会合連続で利下げ、利下げ幅も計1ポイントに達した。しかし、依然、物価目標の2%上昇を上回り続けるインフレ高止まりを受け、2025年1月から7月まで5会合連続で金利を据え置いた。9月会合で雇用市場の悪化の兆しを受け、利下げを再開。これで利下げは3会合連続となり、3.5-3.75%の金利水準は2022年9月(3-3.25%)以来、3年3カ月ぶりの低水準。

■FRB声明文

 市場が注目していた雇用市場の現状認識について、FRBは声明文で、前回10月会合時と同様、「経済活動が緩やかなペースで拡大している」とした上で、「雇用の伸びは今年鈍化し、失業率は9月まで小幅に上昇した」とし、前回会合時の「失業率は依然として低水準にある」との文言を削除、失業率の悪化懸念を強調している。インフレについては前回会合時と同様、「インフレ率は年初から上昇しており、依然やや高水準を維持している」とし、依然、インフレ懸念を強めている。

 その上で、FRBは前回会合時と同様、「長期的視点から物価目標の達成と雇用の最大化という2つの使命の達成を目指している」とし、「経済見通しに関する不確実性は依然として高い。この2つの使命(物価目標の達成と雇用の最大化)の両方向リスクに注意を払っている」としたが、「ここ数カ月で雇用に対する下振れリスクが高まっていると判断している」としている。

 金融政策のフォワードガイダンス(金融政策の指針)について、FRBは声明文で、前回会合時と同様、「適切な金融政策スタンスを検討する際、経済見通しに対する影響を引き続き監視し、FRBの使命の達成を妨げる可能性のあるリスクが発生した場合、金融政策スタンスを適切に調整する用意がある」との文言を残した。その上で、「政策金利の追加的な調整を検討するにあたり、FRBは今後入手するデータやそれらの今後の動向、そしてリスクバランスの変化(インフレ加速リスクや雇用下振れリスク)を慎重に評価する」とし、性急な利下げに慎重な考えを改めて強調している。

 利下げ決定直後、米債券市場では政策金利に敏感な2年国債は一時、前日終値比0.039ポイント低下の3.586%、10年国債の利回りも0.012ポイント低下の4.178%と、いずれも低下した。これはFRBが声明文で、「インフレは年初から上昇、依然高止まり」とした一方で、「雇用の伸びは鈍化した」と指摘、インフレ懸念(利回り上昇要因)と雇用悪化懸念(利回り低下要因)の綱引きが要因。

 また、FRBが声明文で、「今後、政策金利の追加的な調整を検討するにあたり、FRBは今後入手するデータやそれらの今後の動向、そしてリスクバランスを慎重に評価する」とし、性急な利下げに慎重な考えを強調したことや、ジェローム・パウエルFRB議長が会合後の会見で、「政策金利は中立金利のレンジの上限に達している」と述べ、慎重姿勢を示したことも背景。(『中』に続く)

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ありがとうございます。
The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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