夏夢
夏に起きたことはなんとなく夢のようだ。
あんなに世界が煌めいているわけないし、あんなに気が狂ったように熱を出しているわけない。
儚くブルーな情景が陽炎に揺らめいて、未だ僕に夢を見させている。
全ては君と出会ったところからだった。
直接的な繋がりがない人たちとたくさん出会い、たくさん夢を見た。でも僕が彼らをそういう不思議な関係性に感じてたのも 僕が学校に通っていたからだ。学校でできる友達を直接的な関係のある人たちと認識し、当たり前と呼ばれる生活に疑問を抱けなかった。今考えてみれば、そんな人たちこそ間接的な出会いで偶然集められただけの集団だったのかもしれない。本当に直接出会えたのはむしろ、あなたたちなのですね、と抱きしめたい。
夏は僕に夢を見させた。
夢のような一瞬を夏と呼び、全ては情熱によるものである。
あの頃君は金髪で、僕にとってそれは希望を示す記号のようだった。初めて自分の内側と外の世界が繋がったような気がした。その時初めて自分という存在に気付くことができた。僕を僕として生かしてくれるそんな存在が君だった。
駅に着けば探してしまった。君の金色の髪の毛を、太陽に透ける柔らかなすすきのような髪を。
全ては夢を見るためだった。
僕にとって直接的すぎる存在である君といる時間は短くて、しかし全てが煌めいていて、全部夢だったのではないかと感じる。
熱だけに動かされて手を進めた文字列と、上手く伝えられない僕の口は相性が悪くてもどかしい。
僕、君が思うより楽しい人ですよなんてことは言えなかった。
全てを覚えているのに全てが断片的だ。
まるでさっきまで見ていた夢のよう。
全てに熱を帯びていてそうでない部分のことは全く思い出せない。
とにかく、君は僕の希望だった。だから何も言えなかった。希望が希望のままである為に、始めてしまうことで終わりが来ないように。それは僕の祈りであった。
3年間ほど君のために文章を書いていたし、君のためにアコギを弾いた。君と同じ景色が見たくて散歩もしたし、同じ音楽を好きになって苦しんだ。
ゆく宛てもなく君の存在にすがりついたし、或いは君という学校に通っていたのかもしれない。
僕が僕として生きているのは君のおかげだし、冬だろうと夏を持って来てくれる君の存在は魔法だった。
君のもたらすものは全て夏みたいで、思い返すと短く断裂的なそれは夢のようである。
夏という夢。
過去は変えられないから、僕の過去にいるのが君でよかった。
夏生まれの君。
そしてあの時と同様、僕はどこまでも情けない。
僕は君にとっての誰かになりたかった。


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