ゲヘナ風紀委員会――地下拘留室。
コンクリートの壁には縦横無尽にヒビが走り、奥へと続く牢屋の中から収監されている者たちの声が聞こえる。
その妙に物騒な空間の一部屋で、デデデ大王は鎖にぐるぐる巻きにされていた。
「おいコラ! ワシをこんなところに閉じ込めてどういうつもりだ!?」
「……静かにしてください」
横で見張りをしていた風紀委員の生徒が、
“未知の生物への恐怖”と“職務”の間で揺れながら応じる。
(な、なんでこんなのを取り扱う役目に……)
そんな不安げな視線がデデデに向けられた、その時――。
ガチャリ、と重たい扉が開いた。
「…………」
白い髪と黒い羽根を揺らし、ヒナが静かに入室する。
その瞬間、見張りの生徒は背筋を伸ばし直立不動になった。
「お、お疲れ様です!」
「お疲れ様。」
その一言だけで、牢内の空気が一段階冷え込む。
「あなた、申し訳ないけど少し席を外してもらえるかしら?」
「は、はい!」
ヒナは見張りをしていた風紀委員に指示を出して2人の空間を作った。
デデデは鎖に巻かれたまま、むすっとした顔でヒナを見上げた。
「まず聞かせてもらうわ。――あなた、何者?」
無表情のまま、ヒナの瞳が細くなる。
「ワシはプププランドの大王、デデデ大王だ!」
(……プププランド? 聞いたことがないわね)
「その国はどこにあるの?」
「ポップスターという星にあるぞ。」
「……星?」
ヒナの瞳がさらに鋭く細まる。
「冗談にしては悪質ね」
「冗談ではない! ワシは裂け目に吸い込まれて、気が付いたらあの雪原におったのだ!」
ヒナはデデデの目をじっと見つめた。
驚くほど真っすぐなその視線には、虚言の影がない。
(……嘘をついてはいないようね)
「まぁ、別の星から来た大王だとしても、風紀を乱した罪は消えないわ。一日くらいここで反省してなさい。」
「くぅ……!」
ちょうどその時、再び重い扉が勢いよく開いた。
「委員長! こちらにいましたか!」
駆け込んできた風紀委員の生徒は、とても慌てている。
「……どうしたの?」
「報告です! 万魔殿から依頼されていた火山の調査中、火口の奥で“生物”を発見しました!」
「生物?」
「はい! 見た目は少し可愛らしいのですが……水色の恐竜のようなものが地底にいるのが確認されまして。こちらがその写真です!」
ヒナは差し出された端末に目を落とす。
「何これ……見たことないわね……」
(可愛らしい?水色?まさか……)
聞き覚えのある特徴に耳を傾けていたデデデが牢の隙間からぐいっと顔を突き出した。
そしてデデデの目に見覚えのある生物が入った。
「ア、アイスドラゴン!?」
ヒナと風紀委員はその声に振り返る。
「アイスドラゴン? この生物を知っているの?」
「あ、ああ。ポップスターの雪山に生息しているのだが……こちらの星にもおったとはな。」
ヒナの表情がわずかに険しくなる。
「この生物について知っていることをすべて教えなさい。そうしたら釈放も“考えなくもない”わ。」
「おお、任せとけ! この生物はな――」
デデデはアイスドラゴンが氷を操ること、尾で空を飛ぶこと、
その他もろもろを得意げに語り始めた。
しかし、一つ一つが突拍子もない内容で、ヒナの眉間は説明を聞くたびどんどん深く寄っていく。
「……とまぁ、ワシが知っているのはこのくらいだな」
「あ…ありがとう……」
(じゃあ、ゲヘナの突然の大雪の原因はこのアイスドラゴン……?)
ヒナは考えながら問いかけた。
「ねぇ、そのアイスドラゴンって……広範囲を冬みたいにすることはできるの?」
「冬みたく? ワシの知る限りでは、そこまでの力はなかったはずだが……」
「……そう」
(じゃあ原因は別? ゲヘナの火山に現れた理由は?)
デデデが急に声を上げる。
「……少し例外があるかもしれん。その写真をよく見せてくれんか」
「あ、はいっ」
風紀委員が端末を差し出す。
デデデは画面に顔を近づけ、じっくりと目を凝らした。
「う〜ん? 特におかしいところは……ん? これは……!」
次の瞬間、デデデの目が大きく見開かれた。
写真のアイスドラゴンの身体にうっすらと黒い靄――“何か”がまとわりついている。
「こいつは……!こいつは……!!ダークマターじゃないか!!」
「ダ、ダークマター?」
デデデの大声にヒナの眉がぴくりと動く。
「ああ! こいつはな、過去にポップスターを何度も侵略しようとしてきた悪の存在だ!他者に取りついて、その者を支配する能力を持っとる! 支配するだけじゃない!そして……」
デデデは言葉を詰まらせた。
握りしめた拳がわなわなと震え――
ドンッ!
鎖の拘束も構わず、足を床に叩きつけた。
牢屋に硬い音が響き渡り、風紀委員がびくっと肩を震わせる。
「俺様も……過去にこいつに操られたことがある……ッ!」
その声には、怒りだけでなく、深い悔しさも滲んでいた。
「だから頼む!!俺様にこいつを倒させてくれ!!」
「……はぁ?」
あまりに唐突で、ヒナは完全に言葉を失う。
風紀委員も「えっ?」と目を丸くしていた。
「ま、待ってちょうだい。まだそいつが原因だと決まったわけじゃないでしょ?」
ヒナは混乱を押し殺しながら、一応の冷静さを取り戻す。しかしデデデは、ぐっと顔を上げて叫ぶように言い返した。
「ワシには断言できる……!ダークマターじゃ! 間違いない!!“残党”が、まだ残っておったのか!!」
鎖がギチギチと音を立てるほど、デデデの体は怒りで震えていた。
彼の中では、仲間たちと合流すること、ポップスターに戻ることよりも何よりも――
ダークマターに対する憎悪だけが、真っ赤な炎のように燃え上がっていた。