【小林 久】大阪人が「安売り」に惹かれなくなった?激安王「スーパー玉出」が大ピンチに《店舗数は最盛期の1/3に激減》
かつて関西を席巻した“日本一の安売り店”「スーパー玉出」が、いま苦境に立たされている。
2020年代に入り、仕入れ構造の変化や原材料費・人件費・電気代の高騰で採算が悪化。かつてのビジネスモデルが時代に合わなくなり、合理化を進める大型スーパーやドラッグストアとの競争に押されて閉店ラッシュが続いている。その背景を元スーパー経営者が解説する。
【前編記事】『大阪名物「スーパー玉出」が閉店ラッシュに…激安「1円セール」ビジネスが通用しなくなった理由』より続く。
「激安×24時間営業」が通用しない
玉出をさらに苦しめたのが、「激安×24時間営業」というビジネスモデルが、2020年代のコスト構造に合わなくなったことである。売り上げの小さい深夜帯に割増の人件費が発生し、上昇し続ける電気料金が利益を削る。そこに原材料高騰による食品の値上げ圧力も重くのしかかった。ディスカウントタイプのスーパーは、わずかなコスト上昇で一気に赤字にまっしぐらという繊細な構造なのである。
かつてはスポット品で粗利を稼ぐことで成り立っていた激安価格も、その前提が崩れ、低採算の深夜営業を支える余力が失われた。結果的に、24時間営業そのものが維持困難になったのである。
2024年12月、朝日新聞の取材に対し、運営会社の湯本正基社長はこう回答している。
「仕入れの値段があがり、人件費も高騰している。本当に状況は苦しい。例えば仕入れ値が10円上がったら、売るときの値段も10円上げて、それで売れたらいい。でも、なかなか売れない。買う人の給料がそこまで上がらず、追いついていないんだから」
「スーパー玉出は今も安いほうだと思う。手づくりの総菜などは500円以下で、人気がある。けれど、物価高の時代、これからは従業員の給料もしっかり上げていかなければと思う」
「正規のルートでナショナルブランドの商品を仕入れ、仕入れ値が上がり、従業員の給料も上げて、それで安く売るには限界があります」
ドラッグストアの急成長と相次ぐ不祥事
なお、関西がこれほどスーパーの激戦区となった背景には、東京市場の飽和がある。MBS NEWSの2024年の調査によれば、人口10万人あたりのスーパー店舗数は東京が21.5店と高水準。一方、大阪は17.3店で、千葉の16.3店とほぼ同水準にとどまる。東京では出店余地が限られるなか、各社が関西圏に商機を見いだし、全国の強豪スーパーが続々と上陸してきたのだ。
現在、全国規模で勢いを増すラ・ムー、トライアル、オーケー、業務スーパーなどはいずれも、巨大なスケール、自前の物流網、プライベートブランドの強化、DXの活用によって徹底した合理化と効率化を進めるビジネスモデルだ。
こうした「仕組み型ディスカウント」と比べると、玉出のスタイルは再現性が乏しく、もはや競争の土俵そのものが別次元へと移ってしまったといえる。
加えて、地方で台頭するドラッグストアも強力な競争相手になった。コスモス薬品をはじめとする企業は、食品を扱いながら驚異的な低コストオペレーションを構築し、「玉出に行かなくても生活が完結する」という環境を作り上げた。
また、2009年の労働基準法違反、2016年の食品衛生法違反に入管難民法違反、さらには2018年の前経営者の逮捕など相次ぐ不祥事の“影”もつきまとった。こうしたイメージダウンが重なるなかで、手強いライバル店と戦うのは容易ではない。
それでも玉出のネオンは消えない
暗い話題が続いたが、その一方で玉出は、未来を見据えた再出発を図っている。
2024年秋、本部機能と大阪市内の8店舗を「肉のハナマサ」の親会社であるJMホールディングス(茨城県)へ譲渡した。これらは外からは「敗戦処理」のようにも見えるが、筆者はそうは思わない。
スーパーが衰退する過程の重圧、従業員の不安、数字の下降、荒れていく売り場……。それらをすべて経験した身として、経営陣の苦悩は痛いほど理解できる。だが、おそらく玉出が最後に選んだのは、店舗を減らしながらも「玉出という文化を残す」道だったのではないだろうか。
今後はファンの多い大阪南部、特に西成区近辺に特化し、物流の効率化によって収益改善を目指す方針だという。
実際、今年12月6日には「スーパー玉出 喜連店」(大阪市平野区)がリニューアルオープンした。9月の信太山店(和泉市)、11月の御陵店(堺市)に続く3店舗目の刷新となった。撤退したのは、老朽化や家賃負担の大きい賃貸物件が中心であり、今後は自社保有店舗を増やす方針だ。ネオンは電気代高騰を踏まえて日中は消灯し、24時間営業の見直しにも踏み切っている。
玉出のビジネスモデルは、確かにいま曲がり角を迎えている。それでも、数字では測れない価値を持つ店であり、長い年月をかけて地域に根づいたそのレガシーは今も息づいている。
ネオンサインが減っても、その光景を覚えている人がいる限り、玉出の歴史が街から消えることはない。
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