何もしていないスクラムマスターは何をしているのか

「スクラムマスターって何をする役割なんですか?」

とよく聞かれるのですが、端的で納得できる気持ちのいい回答をしたことがありません。もう8年ぐらいスクラムマスターとして、さまざまなチームに携わってきたのに、まだこの言語化が上手くいかないのです。

この質問と同じぐらいの頻度で、
「スクラムイベント以外の時間ってスクラムマスターは何をしているんですか?」
という質問も多くいただきます。こちらの質問はだいぶスラスラと答えられるようになったので、今回はその話をします。


まずは「スクラムガイド」から始めましょう。スクラムに関することの疑問には、原典に立ち戻ることが大切なのでね。

スクラムマスターは、スクラムガイドで定義されたスクラムを確⽴させることの結果に責任を持つ。スクラムマスターは、スクラムチームと組織において、スクラムの理論とプラクティスを全員に理解してもらえるよう⽀援することで、その責任を果たす。

スクラムマスターは、スクラムチームの有効性に責任を持つ。スクラムマスターは、スクラムチームがスクラムフレームワーク内でプラクティスを改善できるようにすることで、その責任 を果たす。

スクラムマスターは、スクラムチームと、より⼤きな組織に奉仕する真のリーダーである。

スクラムマスターは、さまざまな形でスクラムチームを⽀援する。
・⾃⼰管理型で機能横断型のチームメンバーをコーチする。
・スクラムチームが完成の定義を満たす価値の⾼いインクリメントの作成に集中できるよう⽀援する。
・スクラムチームの進捗を妨げる障害物を排除するように働きかける。
・すべてのスクラムイベントが開催され、ポジティブで⽣産的であり、タイムボックスの制限が守られるようにする。

スクラムマスターは、さまざまな形でプロダクトオーナーを⽀援する。
・効果的なプロダクトゴールの定義とプロダクトバックログ管理の⽅法を探すことを⽀援する。
・明確で簡潔なプロダクトバックログアイテムの必要性についてスクラムチームに理解してもらう。
・複雑な環境での経験的なプロダクト計画の策定を⽀援する。
・必要に応じてステークホルダーとのコラボレーションを促進する。

スクラムマスターは、さまざまな形で組織を⽀援する。
・組織へのスクラムの導⼊を指導・トレーニング・コーチする。
・組織においてスクラムの実施⽅法を計画・助⾔する。
・複雑な作業に対する経験的アプローチを社員やステークホルダーに理解・実施してもらう。
・ステークホルダーとスクラムチームの間の障壁を取り除く。

2020-Scrum-Guide-Japanese.pdf

さて、スクラムマスターの責任と取るべき行動、もしくは指針は見えてきましたが、結局のところ普段何をすればいいのか、はよくわからないですね。この抽象度合い、曖昧さがスクラムガイドの良いところでもあるのですが、何か具体例を知りたいですよね。

ということで、今回お伝えする内容は、私の経験、試行錯誤の末に辿り着いた、普段やっていること紹介します。


何がともあれ「観察」

まずはスクラムマスターの定石である「観察」です。チームに何かアドバイスをしたり、現状を改善する前に、まずありのままを理解することが大切です。会話や雰囲気、メンバーの感情や関係性、作業の進め方等を観察し、いつどこまで介入するかの判断材料にします。

具体的には、Notionに殴り書きをして、どんな流れで会話が進んでいて、誰が議論をリードしていて、誰が発言できていないか。見落としていそうなことや、実はこっちの論点にフォーカスしたほうがいいんじゃないか、などなど。

またスクラムイベントや会議以外の時間でも、突発的に発生する会話やチャットツールの非同期コミュニケーション、times(分報)でのつぶやき、プルリクのレビューなど、チームで発生するできるだけ全てのことを観察して全体像を解像度高く把握しています。

そして書き溜めたメモを空いた時間に振り返って、レトロスペクティブで課題提起する、特定の人に話しかける、外部の事例を調べる、見守る、etc…と、このあとアクションにつなげていきます。

スクラムマスターがフルタイムである必要性はこの観察にあります。スクラムイベントのときだけ同席して、ファシリテーションやアドバイスしてもあまり実効的なものになりません。重要なのは、普段のチームを観察した結果に基づく行為です。スクラムイベントはスプリントの多くても2割程度の時間でしかないので、残り8割を見ていないなら、背景や前提を考慮できないので、教科書的なコメントしかできないと思います。


タイミングを見極めて「後押し」

さて、観察の次によくやっているのが「後押し」です。少し前に「⚪︎⚪︎すればいいのに」というロボットのミーム🤖が流行っていましたが、それと似たようなことをやっています。

チームの自律性を損なわせないように、必要なときにだけ背中をそっと押します。過干渉ではなく、内発的動機を刺激することを意識して。何かやりたそうな、前に進みそうだけど躊躇していそうなときにすかさず最後のワンプッシュをする感じです。

「チームのプロセスを⚪︎⚪︎にしたいな」「ドキュメントのフォーマットを変えたいな」「他チームにーーの相談したいな」といったシーンで「じゃあ、そうしようよ。微妙だったら戻せば良いし」「いつ話しかけにいく?」と唆します。

一方で、後押しと無理強いは紙一重です。無理強いしてしまうと「ぽろっと言わなきゃよかった…」「言い出しっぺの法則かよ…」とネガティブな方向に傾いてしまうので、普段からしっかり観察しておき、前提条件はクリアしていて、あと1歩背中を押せばいい状態かどうかを見極めておくことが大切にしています。


あえて「波紋」を呼ぶ

水面に石を投げ込んで、波紋を広げるように、チームに問いかけ、議論を誘発します。いわば「悪魔の代弁者」のような立ち回りです。

たとえば、チームが”惰性”でやっていそうなプロセスに対して「これって、なんでやっているんだっけ?」と問いかけてみたり、もっと強めに「これやる意味なさそうなんで、やめませんか?」と提案してみたり。

1つ前の「後押し」になぞらえると「それやめればいいのに🤖」ですね。これも不用意にやってしまうと、何でも遠回しに言ってくる、厭味ったらしい小姑のような人だと思われてしまうので、普段の観察が大切ですね。

チームに対する「批判」ではなく、「好奇心」もしくはモヤモヤを抱えているメンバーの背中を押すような気持ちで問いかけています。


「予測」しておく

観察して、背中を押したり、波紋を呼んでみたりすれば、終わり…ということではありません。ここからは外からはあまり見えない活動です。それが「予測」。問題が顕在化する前に備えるための予測です。チームやプロダクトの状況から、今後どうなりそうかを考えておきます。

会社、プロダクト、チームの特性によって、スクラムチームが取り組む課題は様々ですが、それでもパターンはあります。これまでの知識と経験をもとに「もしかしたら今後こうなるかもしれない」を考えておく。

そして、それが致命傷にならないように、リスクや摩擦を先回りして軽減しておきます。多少のかすり傷は放置してOKですが(むしろ放置したほうがいい)、ビジネスに影響がでるようなレベルは軽減しておくのもスクラムマスターの責務だと捉えています。

たとえ、知識や経験が少なくて精度が低そうだと思えても、予測する練習はしておいて損はないです。予測しようとすると、観察すべきことが明確になり、結果的に予測しやすくなります。


最後に「情報収集」

上記の活動をした上で残った時間は、情報収集に充てます。書籍を読んだり、登壇スライドやブログに目を通したり、カンファレンスやコミュニティに参加したり、と外の世界に目を向けています。今のチームが最高だと思っていても、外を見渡すとまだまだ伸びしろは見つかるものです。

また観察や予測で、課題が明確なときには、その解決策を重点的に収集しておくケースもあります。最近だとchatGPTに調べてもらうことが多いですね。それをそのままチームに伝えるのか、チームがヒントを渡すのかは別として。

それよりも外の世界に目を向け、情報収集することで、そもそも課題だと認識できなかったことを課題だと認識できる。もしくはチームの強みを認識できる。これがスクラムマスターの観察眼にも活かされます。


「スクラムイベント以外の時間ってスクラムマスターは何をしているんですか?」

ということで、冒頭の問いには
「チームをしっかり観察して、メンバーの背中を後押ししたり、波紋を呼んでみたり、今後の予測をしたり、情報収集して対策を立てています。」
と答えています。

とはいえ、あくまでも私のスタイルの話です。スクラムマスターたるもの、かくあるべき、と言いたいわけではありません。上記のことをしていないスクラムマスターがいてもいいと思いますし、むしろ世の中のスクラムマスターはスクラムイベント以外の時間をどう過ごしているのかを知りたいです。ぜひコメントや引用ツイートで教えてください。


さて、長々と書いてしまいましたが、来年には「スクラムマスターって何をする役割なんですか?」に答えられるように精進します。それでは。



本記事は NSSOL Advent Calendar 2025の 12日目の記事です。


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