教室へ戻ると、さっきまでの砂煙と爆発音が嘘みたいに静かだった。
ホシノはソファにどさっと倒れ込んで、靴をぱたぱた揺らしながら天井を見つめる。
アヤネとノノミはその横で先ほどの戦闘の振動で崩れた書類などをまとめていた。
セリカはというと、入室してからずっと扉のそばで腕を組み、眉をひそめたままピンク色の丸い影をにらんでいる。
その視線の先――カービィは、椅子に座っているシロコの膝の上で丸くなって、気持ちよさそうに寝息を立てていた。
戦いの直後とは思えないほど平和な寝顔で、シロコの太ももに重たくない程度の体重を預けている。シロコはその柔らかい頭(?)を軽くぽすぽすと叩きながら、小さく息をついた。
「ん……よく寝てる。」
「いや、なんでシロコ先輩はそんなに落ち着いてんのよ……!」
セリカが距離を取ったまま声を上げる。
シロコは首だけ動かして返事した。
「ん。かわいいし。強いし。」
「そこが問題なのよ!!」
セリカは勢いよく胸の前で手を振った。
「こいつ、手榴弾を飲み込んだと思ったらどこからともなく爆弾を出して投げて、あいつらをまとめて爆破したのよ!?わたしびっくりしすぎて今日のうちに寿命5年ぐらい縮んだんだけど!」
シロコはきょとんとしたまま。
「でも、悪いことはしてない。」
「そういうことじゃなく!!」
セリカの声がまた少し上ずる。
ホシノがソファの上から手をひらひらさせた。
「まあまあセリカちゃん〜、ほら、今は寝てるし。危険度ゼロだからゼロ〜。」
「そういう問題じゃ……!」
「そんなに怒ると可愛い顔にしわが増えちゃうよ~。ラジオの音楽でも聞いて落ち着こう?」
ホシノがソファの横に置かれた小型のラジオのダイヤルを回していく。
途切れ途切れの音声が混ざり、やがてクリアな放送に切り替わった。
――『次のニュースです。アビドス近郊で、近頃“住民や動物が突然獰猛化する”という事例が多発しています。』
教室の空気が一瞬にして固まった。
ノノミの手がぴたりと止まり、
ホシノはソファから上体を起こし、
セリカは息を飲む。
――『原因は不明で、暴れている間の記憶が抜け落ちるなどの共通点もあり、その際には黒い煙のようなものが立ち上っていたという情報が……』
その内容は、まさに――
「先ほどのヘルメット団と、同じ現象ですね……。」
アヤネが小さくつぶやいた。
穏やかな教室に流れる不穏なニュース。
膝の上で眠っているカービィの寝息とラジオの音だけが、どこか場違いなほど静かに響いていた。
「さっき……この子があいつらから出た黒い煙を目で追っかけてた。もしかしたら……何か関係があるのかな。」
「う~ん……」
ぐぅぅうう……
と、その時、部屋の中に大きなおなかの音が鳴った。
音の方を見ると、膝の上に寝ていたカービィが目を覚ましていた。
お腹(?)に手を当て困った顔をしている。
「はぁ……アンタさっきたくさん食べたばっかなのにもうお腹空いたの?」
「ぽよぉ……」
あきれながらセリカが聞き、力なくカービィが頷く。
「ではちょっと早いですが、お昼にしましょうか☆」
その言葉を聞いたとたん、カービィの目が輝いた。
各自がそれぞれの昼食を用意し、椅子へ座り手を合わせた。
「「「「「 いただきます。 」☆」」」」
「カービィちゃ~ん☆サンドイッチいかがですか~?」
ノノミが机の上に座っているカービィにサンドイッチを一つ差し出す。
「ぽよぉ!」
人からしたら大した大きさではないがカービィからしたら結構な大きさのサンドイッチを一口でほおばった。
そしておいしさに体を揺らした。
「かわいいですね~☆」
「カービィさん!こ、これ、食べますか?」
アヤネがお弁当から箸で取り出した卵焼きをカービィに向ける。
再び目を輝かせてアヤネの前へ飛ぶ。
口の中に卵焼きを入れると、先ほどと同じように体を揺らした。
(可愛いかも……)
「ちょっと、二人とも!こういうのって勝手にご飯をあげちゃっ……」
セリカが二人に声をかけようとしたその時、アヤネの前にいたカービィがいつの間にか自分の前に来ていた。
そしてセリカの手に握られているあんぱんの袋をじいっと見つめている。
セリカはあわてて袋を胸元に引き寄せた。
「ちょ、ちょっと!これは私の昼食なんだけど!? あんた、もう十分食べ――」
カービィはそんな抗議など気にしていない様子で、
つぶらな瞳をさらに丸くしてじーーーっと見つめてくる。
完全に“それほしい”の顔だ。
「……っ、な、なによその目……!」
シロコが小さく笑った。
「セリカ、負けてるよ。」
「負けてないし!!」
続いてノノミも、
「食べ物ならさっきセリカちゃんもたい焼きあげてたじゃないですか?」
「あれはこいつが勝手に食べたの!」
しかしセリカの手はじわじわ震え始め、
ついにはあんぱんの袋を開けて――
「……ちょっとだけだからね!」
カービィはぱぁっと花が咲いたみたいに表情を明るくし、
勢いよく飛びついてきた。
「きゃあっ!ちょっと待ちなさいって!」
笑い声が教室に広がる。
ついさっきまで外が物騒だったことを忘れるくらいの、平和な時間が流れていた。