「それで……こいつ、結局どうするのシロコ先輩?」
ぷにぷにの弾力にセリカが微妙な顔をする。
カービィは楽しそうでも嫌そうでもなく、ただ無表情で頬をむにっと伸ばされていた。
シロコは腕を組んで少し考えるように目を細めた。
「ん。決めてなかった。……とりあえず先生に――」
そう言いかけた瞬間。
──ドォンッ!!!
地面ごと震えるほどの爆撃音。
窓ガラスがビリビリと振動し、たい焼き袋が宙に舞った。
「な、なっ!? 何!?」
まず叫んだのはセリカだ。
続けてホシノもソファから起き、ノノミとアヤネも同時に窓へ駆け寄る。
外は砂埃がもうもうと上がり、灰色の地面に衝撃の波紋が広がっていた。
その奥――校門付近に、妙に動きの揃った小柄な影がわらわらとうごめいている。
「……カタカタヘルメット団?」
アヤネが息をのむ。
軍団の中の一人が、拡声器を掲げて叫んだ。
「ハッハー!! この前は世話になったなぁーー!!」
砂煙の中でもわかるくらい、最高に面倒くさいテンションだった。
セリカは怒気をはらんだ声で、
「アイツら! 最近来なくなったから懲りたと思ってたのに……!!
ていうか、もう学校を襲う理由なんて無いでしょ!? しつこいっての!」
ノノミは気持ちを切り替えるように拳を握りしめた。
「アヤネちゃん! 情報指揮をお願いします!」
「は、はい!皆さん、気をつけてください!」
メンバーは一斉に銃を手にを取る。
ホシノは大きな盾を構え、セリカは銃の弾を確認――
部屋の空気が一瞬で戦闘前の張りつめたものへ変わっていった。
カービィはというと……
まるで珍しい虫でも見つけたみたいに、窓の外で暴れているヘルメット団をじーっと眺めていた。
「カ、カービィさん! そこは危ないので……こっちに!」
アヤネが抱き上げると、カービィはもっちりとした体で素直に持ち上がり、
アヤネの腕の中で「ぽよぉ?」と間の抜けた声を出す。
外に出た瞬間、アビドスの乾いた空気が一気に戦場の匂いへと変わる。
降りしきる砂埃の奥、ヘルメット団が陣形も何もない猪突猛進で校門を突破してきた。
「ひゃー…めちゃくちゃ来てるねぇ……」
ホシノは半分寝起きみたいな顔のまま、巨大なシールドを構えつつ弱々しく笑う。
そしてその体勢のまま、気だるげに引き金を絞った。
──ズドォンッ!!
荒れた道に巨大な衝撃波が走り、前のヘルメット団をまとめて吹っ飛ばす。
砂が爆風に巻き上がり、一瞬視界が真っ白になる。
しかし。
「あいつら……すぐ立った!? 何あのタフさ!」
セリカの言う通り、ヘルメット団員は地面に転がった勢いのまま、バネみたいに跳ね起きる。
そしてそのまま突撃再開。
「この....!」
セリカがこちらに迫り来る団員に向け引き金を引く。
だが敵の侵攻を止めることは難しい。
『まずい……押されてる……!』
アヤネは情報を整理しながら端末を操作するが、焦りが隠せない。
数が多すぎる。
押し戻せてはいるけど、じりじりこちらが疲弊していくのがわかる。
『セリカちゃん、右から10! ノノミ先輩、左へ回りこんで!』
「了解!」
「任せてくださいっ!」
遠隔で指示を飛ばしながら、アヤネは全体を見回す――その瞬間。
(……あれ?)
心臓がひゅっと縮む。
カービィがいない。
さっきまでアヤネが抱えていたはずなのに、腕の中はいつの間にか空っぽだ。
「えっ……ちょ、カービィさん!? どこ行ったんですか!?」
慌てて周囲を見渡すアヤネ。
そして絶望のまま目を見開いた。
『……ちょ、ちょっと待って!? あそこに!?』
戦場のど真ん中――
ヘルメット団の大群の前で、カービィがひょっこり立っていた。
スンスンと鼻を鳴らし、敵を物珍しそうに眺めている。
「な、なんで前に出てるのよアイツ!!」
セリカが叫ぶ。
その声に反応したかのように、ヘルメット団の一人が、カービィを指さして吠えた。
「おい! ピンクの丸いの! 邪魔だッ!」
そして。
手榴弾のピンを抜き、カービィ目掛けて思い切り投げつけた。
アヤネが悲鳴を上げる。
『カービィさん!!危ないっ!!!』
手から離れた手榴弾は回転しながら弧を描き、カービィへ一直線に迫る――
次の瞬間。
カービィはのんびり顔のまま、
――ぱかっと大きく口を開け。
――それをすぽん、と吸い込んだ。
「「「……えっ」」」
敵味方全員の時が止まった。
食べ物だと思ったのだろうか。
このままでは口内で爆発してしまう。
キヴォトスの住民でも内部からの攻撃には耐えられるかどうか……
そもそもキヴォトス外部の生物の可能性もあった。
シロコの脳裏に先生の面影が現れた。
「あっシロコちゃん!危ないよ!」
ホシノがシロコを静止するが、シロコはその言葉など耳に入らず足がひとりでに動いていた。
「はやく!吐き出して!」
カービィの口を掴んでこじ開けた。
だがそこあるはずの手榴弾は見当たらなかった。
「そんな……もう飲み込んじゃった……?」
もし体内で爆発したら――
シロコが手を突っ込もうとした、その刹那。
カービィが、ぽわん、と光った。
「……ん?」
光が収まったカービィの頭には、まるでクラッカーをそのまま被ったかのような派手な帽子があった。
「……その帽子、いつの間に……」
その瞬間、カービィの手のひらから――
ぽんっ!
と、黒く丸い爆弾が生成された。
何もない空間から生まれた。
導火線に火もついている。
「……え? それ、どこから……」
シロコが思わず固まる中、カービィはふわっとシロコの手元から離れ、
掌に乗った爆弾を――まるでボールでも放り投げるみたいに、軽い動作で前方へ投げ放った。
その軌道はふらふらしているようで、なぜか妙に正確だった。
爆弾は空中でくるくる回転しながら飛び、ヘルメット団の“ど真ん中”、
最も密集していた塊の足元へ吸い込まれるように落ちていく。
「あ?なんだこれ――」
ドォォォォンッ!!!
地面を揺さぶる爆音と衝撃波、そして様々な色のまばゆい光が辺りに広がった。
まるで打ち上げ花火のような爆発に巻き込まれたヘルメット団員は、まとめて吹き飛んでいく。
カービィは爆風に煽られた砂煙をものともせず、次々に掌から爆弾を生み出していく。
そのたびに、ヘルメット団へと無造作に投げつけていく――
「おわっ!?」「ぐぇ!?」「がぁ!?」
悲鳴と花火の音が入り混じり、戦場が一瞬でカオスと化した。
やがて――
あたりが静かになる頃。
ヘルメット団は全員、グラウンドに大の字で転がっていた。
『え、えぇ……』
アヤネが声を漏らす。
静寂が降りた。
ついさっきまで怒号と爆音が渦巻いていた場所とは思えないほどの、重い沈黙。
ふと、倒れている団員たちの身体から、黒い靄のようなものがじわじわと立ち上り、
煙のように空へ吸い込まれるように飛んでいく。
その靄が完全に消えた瞬間――
「……う、ぐ……?」
「ん、あれ……アタシ達何して……?」
ヘルメット団員たちが一斉に上半身を起こした。
さっきまでの狂気じみた突撃とは違い、目の焦点はどこかぼんやりしている。
「え?ちょ、ちょっとアンタら、さっきまで――」
セリカが問い詰めるが、
「え? 何の話だ?」
「ここ……アビドス高校?」
「俺ら、なんでこんなとこで寝てんだ?」
本気で困惑している顔だった。
どうやら記憶がすっぽり抜け落ちているらしい。
互いに顔を見合わせた後、
「……ま、まあでかいケガもしてねぇし、帰るか。」
と、何事もなかったかのように帰っていった。
「ん、あなた。強いんだね。」
シロコがカービィの元へ駆け寄り、軽く息を整えながら声をかける。
だがカービィは返事をしなかった。
ぽつんとそこに立ったまま、空の一点をじーっと見上げている。
黒い煙が消えていった方向――まるで、まだ何かがそこに残っているかのように。
風がひとつ吹き、砂がさらさらと流れた。
その音に紛れて、シロコは小さく眉をひそめる。
「……気になるの? あれ。」
カービィは空の方を見上げたまま小さく頷く。
無邪気にも見えるし、警戒しているようにも見える。
感じ取っている“何か”が、シロコには分からなかった。
だが――
ほんの少しだけ、シロコの背筋に冷たいものが走った。
後書きには今回登場したコピー能力の説明を掲載します。
コピー能力:ボム
コピー元:手榴弾
花火の ばくだん もち上げて
角どを キメてポイッとなげよう
なげてドカン! しかけてドカン!
てきにのっけて ドカン ドカン!
ゴロリころがし ストライクだ!