出た!ピンクの訪問者!
アビドス自治区の朝は、いつものように乾いた風が吹いていた。
銀色の髪をなびかせながら、彼女は自転車のペダルを踏む。
学校までは少し距離がある。
けれど、この荒れた道にももう慣れてしまっていた。
砂混じりのアスファルトがざり、と後ろに流れ、一筋の跡が長く残る。
(ん……?)
ふと違和感に気づき、自転車を止めた。
道の端に、砂に半分埋もれた“ピンク色の丸いもの”。
彼女は自転車から降り、その奇妙な物体に近づく。
しゃがみ込み、指先でつまんで引き抜いてみると──
案外すっぽりと抜けた。
「……え?」
両の掌に乗るほどの大きさ。
丸くて、暖かくて、ぷにっとしていて、手足らしきものが生えている。
そして中央には、ばつの悪そうにぐるぐる目を回した顔。
「なにこれ……?」
とりあえずつついてみた。
指に吸い付くような、ぷにっとした手触り。
それは完全に気絶しているようだった。
周りを見渡すが、何も異変は見当たらない。
いくつもある廃墟と、壊れた標識があるだけ。
「……なんか先生と会ったときみたい。」
あの時と重なる。
彼女が先生と初めて会った時も、先生はアビドスの砂地でぶっ倒れていた。
何か縁を感じてしまい、放っておくわけにはいかなかった。
(とりあえず学校に持っていこう……)
悩んだ末、彼女はその謎の生き物をそっとバッグの中へ。
チャックを閉め、再び自転車へ跨る。
乾いた風がまた吹いた。
彼女はいつも通り、砂の道を学校へと走り出した。
学校に到着し、いつものドアを開ける。
「あ、おはようございます!シロコちゃん☆」
「シロコ先輩!おはようございます!」
入り口付近で雑談していたノノミとアヤネがぱっと顔をあげる。
「ん。おはよう。」
シロコが軽く会釈しながら部屋の奥へ視線を向けると──
ソファにはホシノがいつものようにぐでーっと寝そべり、
その横ではセリカが椅子に座って何か作業をしていた。
「あ、おはようシロコ先輩。」
「ん。なんかいい匂いがする。」
シロコがセリカの方を見ると、机の上にはたい焼き袋があった。
「あ、これ? 昨日の晩、みんなで食べてって大将から貰ったのよ。シロコ先輩の分も──」
セリカが袋を差し出そうとした、その瞬間だった。
シロコのバッグが突然、ぶるっと震え──
ぽんっ! と勢いよく何かが飛び出した。
「うわっ!? え、何!?!?」
セリカが驚いて手元を見る。
そこにあったはずのたい焼きが……ない。
その代わりに。
シロコとセリカの視線の先では、
ピンク色の丸い何かが机の上で、幸せそうな顔でたい焼きをもぐもぐと頬張っていた。
「なっ…何よこいつ!!」
セリカが思わず声を上げる横で、その丸い生物は袋に手を入れる。
そして取り出したたい焼きを次々と食べていく。
「あっ、ちょっと!それ以上食べないで!!」
セリカは慌てて袋を奪い返し、中身を確認したが既に空っぽになっており深いため息をついた。
「もう……こいつなんなの?」
「ん。わかんない。さっき来るときに拾った。」
「拾った!?」
セリカの叫びに気づき、他のメンバーも机の周りへ集まってくる。
「わ~!この子かわいいですねぇ☆」
ノノミがその生物に視線の高さを合わせ、瞳を輝かせる。
「い、一体何なんでしょうか…?図鑑でも見たことも無いですが……」
アヤネはノノミの隣で観察していた。
そんな二人の気配に気付いたのか、丸い生物はぱちっと目を開き、
二人の方を向いて元気よく声をあげる。
「かーびぃ! かーびぃ!」
「か、かーびぃ?」
「この子の名前、なんでしょうか?」
アヤネとノノミが顔を見合わせる。
シロコは淡々と丸い生物を見つめて、
少し首をかしげながら話しかけた。
「ん。あなた、カービィっていうの?」
その言葉を聞いた途端──
「ぽよ!」
ピンク色の生物は嬉しそうに ぴょんっ、ぴょんっ! と跳ね回った。