桃色に塗りつぶされたキャンバスで。   作:烈風一一

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これもまあある意味必然なんだから、何とかするしかないね。

「僕がゲヘナにいる」ということをハナコが知ったらしい。

正直ここまで遅いとは思わなかった。ハナコの優秀さを考えればもっと早いものだと思っていた。

まあ、ここからは僕が何とかするしかない。ひとまずヒナちゃんにはハナコに事実を知らせてもらった。ある程度ぼかすように言ったけど、これは本人の裁量だからどうにも。

さて。

「そろそろ、復讐を始めるかな...アビドスの事案が解決してからにはなると思うけど、先生がトリニティかゲヘナに介入してこないタイミングを狙わないと」

予測通りなら先生はこの後エデン条約がらみでゲヘナかトリニティ、あるいは両方に介入してくるはず。そこまでに復讐を完遂しないと。

命は奪ってやらなくていい。そこまですると後輩たちにも迷惑がかかる。

マコトやイブキちゃんたちにも迷惑はかけたくない。だから徹底的に再起不能にする。そのためならなんでもする。

銃剣、特殊弾、フルオート。自動拳銃、防弾ベスト。これだけじゃまだ足りない。スコープもつけよう。

トリニティすべてを破壊するまで言ってもいいかもしれない。そうすればあいつは無力感にさいなまれるだろうから。

それに、あいつなら6時間あればトリニティを転覆すらさせられるだろうから。

 

 

「...兄さん」

あの後私は泣き崩れてしまった。兄さんがいなくなった時と同じくらい泣いた。生きていることのうれしさと、私への拒絶両方のせいで。

風紀委員長はおそらく兄さんに連絡した。なら兄さんが私との接触を拒絶したはず。

でも、どうにかして一目だけ会いたい。私に存在を教えたならそこまで私に対する拒絶は強くないはずです。

「...風紀委員会と険悪な組織、パンデモニウムソサエティーでしたっけ」

あそこは政治の頂点だったはず。ならばあそこに行けば、何とかしてもらえるかもしれません。せめて伝言だけでも。

なら、向かいましょう。風紀委員会に会わないようにすればなんとかなるはずです。

 

「先輩」

私は家に戻った。家に入ってまず目に入るのは先輩と撮ったツーショット。まだ私が2年生の時に撮ってもらったもの。

この時私は情報部から風紀委員本体に転属になっていた。その戦闘能力を買われてのことだったけれど、単純に面倒だった。

面倒としか思わなかったその日々に光を与えてくれたのが先輩。もともと1年の時から情報部と万魔殿の連絡役をしていたから親交はあったし、何ならかなり仲が良かったと思う。万魔殿から派遣という形で私の教官を自分から務めてくれて、戦闘技術をたくさん教えてくれた。今の戦い方の一部は先輩に教えてもらった。

思えばそのあたりから私は先輩が好きだった。だからアタックをかけ始めた。

わざと書類仕事を増やし、バスや終電を遅らせることで先輩のバイクに乗せてもらった。恋愛の話を振ってみた。万魔殿の広報誌に載ってた先輩の写真を切り抜いてノートに貼った。一緒に撮ったプリクラは携帯のカバーの中に入れた。編集でカップルみたいにもした。使ったりもしたことがある。

そこまでしても先輩と私にいわゆる恋愛フラグがたつ兆候は一切なかった。

私は思い切って聞いてみた。先輩には好きな人がいるのか、と。

答えは否だった。私は歓喜した。でも同時に挫折もした。

「僕には恋愛なんてする資格ないからね」と、先輩が悲しそうに言ったからだ。

なぜか、私は問うた。

そうして、浦和ハナコのことを知った。私は許せないと思った。このことを知らなかった自分に対しても。

だから、今浦和ハナコが先輩に近づこうとしていることに私は怒りを覚えた。

今、私は全土に風紀委員会を配置しトリニティ生を一人たりとも入れないように指示している。

浦和ハナコが諦めたら、その時は。

「先輩、私のことを見てくれるわよね?」

 

「...万魔殿に接触したい、と」

「その通りです、セイアちゃん」

私のもとに届いたのは朗報と悲報だった。彼女の兄が生きていたことと所在が判明したことは喜ばしいが、面会を拒否されたことはどうしようもないかもしれない。

「最初に言っておくが、君のお兄さんが直接拒否したかもしれないということはそれ即ち君がゲヘナに行っても無駄かもしれないということだ」

「分かっています。それでも、一言だけでも伝えたいんです」

彼女の決意は固いようだ。しかも、希望を捨てない者の目をしている。

「...わかった。話を聞いてもらえそうな人に連絡を取ろう」

私にも終わりが近づいてきているみたいだ。最後の道楽としてでも悪くはないだろう。

「この人に連絡してくれ」

業務用の連絡先から"棗イロハ"を選択し、転送する。彼女は基本的に面倒くさがりだが、おそらく事態を理解してもらえれば問題ないはずだ。最悪、ゲヘナとトリニティの危機と言えば彼女は首を縦に振らざるを得ないだろう。

彼女の未来を私はいまだ見たことがない。見よう見ようと念じたりもしたし、迷信だが枕の下に写真を入れたりもしてみた。それでもだめだった。

だから、私ができるのはこれくらいしかない。それに賭けてみようと思った。

「ありがとうございます、セイアちゃん。わざわざお忙しいのにここまでしてくださって」

「友人の危機さ、当然だよ。それに、私も先が見えない君の未来を体験したくなってきた」

「本当にありがとうございます...!」

だから、彼女のこれからの未来に幸があらんことを祈っておこう。

 

セイアちゃんから連絡先をもらった後、私はすぐにメッセージを送信しました。面倒くさがりだから返信は早くないかもしれない、というセイアちゃんの発言を裏切るかのように3分程度で返信が来ました。

『何の用事ですか』

面倒くさがりなのは本当みたいですね。ならばさっと済ませてしまうのがいいかもしれません。

「浦和ミナトという人物についてご存じですか?」

即座に電話がかかってきました。

「はい、浦和です」

『...本当みたいですね、どうやら。初めまして、棗です。』

落ち着いたような声。喧嘩腰ではなく安心しました。

『ミナトさんについて知りたいんですか?』

「ええ、できれば一度だけでいいから会いたいんです」

10秒くらいの沈黙が長く感じます。少し気まずいですね。

『ミナトさんはあなたに会わないかもしれませんし、風紀委員長はこのことに関して神経をとがらせています。ですから、あなたの安全を保障することはできません。それでも行きますか?』

「ええ、もちろんです」

『わかりました...では、明日にそちらにお迎えに上がりますので。指定する地点に来てください、詳しくは後から送ります』

「ありがとうございます...!」

かつてないほど兄さんに近づいているのを感じます。あと一歩でやっと会えます。

会えた時は、一言でも謝らせてくださいね。

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