桃色に塗りつぶされたキャンバスで。   作:烈風一一

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結論から言いましょう。兄さんの痕跡は一切ありませんでした。

数日かけてすべての収蔵庫を見せていただきました。秘密主義のワイルドハントには珍しくほぼ制限なしで。これも先生のおかげかもしれませんね。

ですが、その中には兄さんの作品はひとつたりともありませんでした。中学時代の顔写真を見せてもみなさんご存じないようでしたし、そもそも18歳の生徒自体いませんでした。

「...また、徒労に終わってしまいましたね」

「大丈夫。きっと見つかる時が来るさ」

なんて、先生は月並みな言葉をかけてくださいましたが。私はこれで確信しました。兄さんはゲヘナにいる可能性が高いと。

ですから、ひとまずゲヘナの使者の方がこちらに向かうのを待つしかありません。その方と接触して人脈を作り、そこから捜索の手を広げてもらえば。

きっと、なんとかなるはずです。

 

そうして、使者の方がやってくる日になりました。

セイアちゃんによると、目立たないように夕方いらっしゃるみたいです。ですから、会合終了後にお話だけでも伺おうと思います。

「...理論は分かった。だが、水着である必要はあるのかい...?」

「あら、知らないんですか?これは学校-」

「隠す必要はないさ。バレないようにそうふるまっているだけだろう?」

「セイアちゃんにはすべてお見通しですね...その通りです。」

この姿だったら正実の方々にも"いつもの"として処理してくれると思います。逆に服を着ていれば怪しまれるでしょうから。

対面するときに着れば問題ありませんね。

「まあ、確認のため聞いたまでさ。頑張りたまえよ」

「ありがとうございます、セイアちゃん。」

そのような言葉をセイアちゃんからもらって、私は裏門の近くの茂みに隠れました。

 

それから数十分後。無事に会合は終わったようで、使者の方が出てきました。

暗くてよく見えませんが、小さい方のようです。もしかしたら風紀委員長の方かもしれませんね。

「...」

こっちに目線を向けられた気がします。バレていないと信じたいですが。

もはや得意となってしまった早着替えで服を着、使者の方のほうへゆっくり歩いていきます。

「...そこにいるのは分かってるわよ」

少ししたとき、後ろを振り返らずそういわれました。どうやらあの時見られていたみたいですね。

「あら、バレていましたか...」

「ええ、もちろん。お初にお目にかかるわね、浦和ハナコ」

私の名前を知ってる...!?

正直混乱します。一生徒でしかない私のことをなぜ知っているのでしょう?という気持ちでいっぱいです。

「あなたが知りたいのは何?」

私の方を向いたその人は、射殺さんばかりの視線を私に向けてきました。正直なところ、かなり怖いです。

「浦和ミナト、あるいはM.K.Ⅱという生徒を知りませんか?」

瞬間、空気が凍り付いたような錯覚を感じました。殺意や害意が刃となって私に襲い掛かってきたようにすら。

「...あなたはその人とどういう関係なのかしら」

「兄です」

「...そう。それ以上私からは今言うことはないわ。少し離れてなさい」

使者の方の姿が月明かりに照らされてよく見えました。やはり風紀委員長、空崎ヒナさんだったようですね。

「...うん、わかった。じゃあそう言うことにしておくわ」

誰かと電話していたみたいです。顔は依然として険しいままですね。

「さっき"浦和ミナト"がいるかと聞いたわね、あなたは」

「ええ、そうお尋ねしました」

「結論から言うわ。浦和ミナトはゲヘナ学園に存在する」

ああ、やっぱり。ゲヘナにいたんですね。どおりで今まで見つからなかったわけです。

今からでもすぐに会いに-

「だけれども。あなたは会うことも訪れることもできない。」

...え?

「あなたは彼にとって危険でしかないわ。それに、私としてもあなたを彼に会わせるわけにはいかない。」

「...確かに、私は兄さんに対して非道な行いをしてしまいました。だから、せめて謝る機会くらい-」

「二度は言わないわ」

銃を構える音がする。

「消えて。今すぐ消えないと撃つわよ」

私は戦闘に関してはあまりうまい方ではないので、撤退するしかありませんでした。

 

突然だけど、私、空崎ヒナは川瀬ミナト先輩が好きだ。

あの触れたら崩れてしまいそうな儚さ、どんなときにも私たちのことを気遣ってくれるやさしさ、そして過剰なまでの自己犠牲。守ってあげたい、と思ってしまう。

だけど先輩が見ているのはたぶん私じゃない。アコでもチナツでも、イオリでも。もちろんマコトでもない。

一度だけ聞いたことがある先輩の妹、浦和ハナコ。先輩を壊して、すべてを否定した一人。先輩の敵。

でも先輩は彼女を見ている。理解できなかった。私もその視線を独占したかった。

幸いだったのは浦和ハナコが先輩がどこにいてどうしているか知らないことだった。ゲヘナに非公式に近づいたトリニティ生の話は一切聞かなかったし、浦和ハナコは権力争いで疲弊していたと聞いていたから。これなら時間をかけて私だけを見てもらえる、そう思った。

先輩は自分を大事にしない。きっと浦和ハナコと両親のせいだ。あの3人が先輩の価値を否定し、壊してしまったから。だから私が守ってあげないと。

そう思って私はあらゆる努力をした。トリニティの情報はできるだけ私が請け負うようにしてたし、マコトもそれは同意している。

これで先輩は大丈夫、徐々に家族のことなんか忘れていく。そう思った私がばかだった。

先輩はいまだに浦和ハナコのことを忘れていない。その視線は家族愛から愛憎入り混じるものに変わっていた。

もうこれ以上先輩に負担をかけさせない。作業だってなんだって、私がこなして見せる。いつまでも先輩に頼ってはいけない。

先輩がそれでも自分を追い込もうとするなら監禁するし、愛が足りないなら私が愛してあげる。体が欲しいなら奴隷にだってなって見せる。

だから、まずはエデン条約を締結して私が先輩の重荷をいっしょに持ってあげられると証明しないと。

そう思った矢先、浦和ハナコがゲヘナに先輩がいることをかぎつけてきた。肝が据わっているのか、私に直接聞いてきた。

正直許せなかった。今更どの面を下げて先輩に会いたいなどと抜かすのかと。

だから再起不能にしてあげようと思った。でも、先輩からバレたら電話するように言われてる。

先輩の言うことに背くわけにはいかない。だから電話を掛けた。

「もしもし、先輩...浦和ハナコが。」

『...そうかい。存在は明かしていいけど絶対に会わない、と伝えてくれないかな』

「うん、わかった。じゃあそういうことにしておくわね」

予想外だった。明かしていい、とは思わなかった。でも、先輩に言われたからには。

だから、私は彼の存在を一部だけ明かした。でも会わないように脅した。

明るいことだとは思っていない、でも先輩のため。

それに、先輩はちょっとはわがままになっていいって言ってた。なら、このくらいいいでしょう?

私からあなたへの最初のわがままなのだから。

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