「うん、時間はかかるかもしれないけどね。探してる人でもいるのかい?」
思った通り、ですね。恐らく強制的に呼びつけることなども可能でしょう。
「ええ、探してる人がいまして。白髪黒目、絵を描くのが好きな男の子です。恐らく19歳になっているはずです」
「それなら外に出たんじゃないの〜?」
「いえ、それがそうでもないと思うんです。おそらく一年間学校に通っていないと思われるんです」
そう、兄さんの痕跡を見て私が出した結論は「1年間学校に通わず絵を売って金を稼ぎ、そこから何かしらの学校に入った」というものです。
最後に私が見つけた絵には3月31日の日付が書かれていましたから。
「ってことは今三年生だよね。わかった、少し時間は掛かるかもしれないけど探してみる。名前とかはわかるかな?」
「おそらく私の知っているものとは別の名前を名乗っているはずです。唯一の手掛かりがM.K.Ⅱというペンネームだけですね」
「ペンネームってことは作家だったりするの?」
「絵を好んで描いていました。賞を大量にとってたのでそこから追ってみましたが駄目でした」
にしても、無条件に人を信じますね。よっぽどのお人よし、あるいは考えなしなのでしょう。
「ワイルドハントには向かってみた?」
「入ることすらも拒否されまして。」
あの学園は私たち以上に排外的なくだりがあるんです。私が作品を見たいといったときすら取り合ってもらえなかったほどですから。
「わかった、そしたら今度行ってみようか」
「ありがとうございます!」
なんにせよ、この人は使えます。
悪いですが、兄さんを見つけるまで利用させてもらうとします。
「それでは、私たちは一度帰ります。先生、アビドスの皆さん、またいつかお会いしましょうね」
「ありがとうございました...!」
連絡先だけ交換して私たちは別れることになった。
ゲヘナにはたどり着けなかったものの、それ以上の収穫があったという点では有益だといえますね。
兎にも角にも、ワイルドハントに行けるようにしておかないと。
...おかしい。
4日間も普通いなくなるか?
しかもブラックマーケットで銀行強盗が起こったなんて言うニュースも誰も連絡しない。でかい情報が自力で動かないと手に入らないのは久しぶりだよ。
ヒナちゃんは今日もマコトのとこだし、アコちゃんたちはあれから一度も見ない。
「まさか...ね。」
一応監視網を展開してみる。アビドスはすでに自治領としての体裁をなしていないし、カイザー共にならいくらでも喧嘩を売っていい。所詮はPMC。戦術も戦略も優れていないただのごろつきさ。
...それに。アビドスには今先生がいる。中途半端に先生の情報を与えたのがまずかった。
おそらく主な目的は先生だろう。
「...はあ」
最悪の事態だ。アコちゃんたちはアビドスに進軍してる。先生を目的として。便利屋は体のいい口実に過ぎない。
「これは...僕の責任だね。血気盛んなアコちゃんにこんなこと言ったのが間違いだった。」
だが、同時にこれは風紀委員会の一部、具体的には僕を完全とは言えないけど信用させられる機会だ。
だから、しっかり収めるところまでやろう。
「アビドス、こっちに接近中、発砲します!」
一方のわれらが風紀委員会は、紫関ラーメンを吹き飛ばしたところにさらに迫撃砲をぶち込み、アビドスを怒らせていた。
「考えてる暇なんかない、いくぞ!」
「フォーメーションをしっかり、いくよ」
そこからは蹂躙であった。アビドスの連携はすさまじく、風紀委員一個中隊規模の戦力を以てしても返り討ちであった。
「な、なに!?私たちが負けただと!?」
そんな、どこかかませ役のようなセリフをイオリちゃんが吐いたのち、あたりは沈黙に包まれた。
「久しぶりだね、チナツ」
「先生...はあ、先生がそちらにいらっしゃると分かった瞬間後退すべきでした」
「アビドス対策委員会の奥空アヤネです、所属をお願いします」
「それについては私から」
「あ、アコ行政官...」
風紀委員会の後方から靴の音がする。やがて、アコちゃんが前に出てきた。
「お初にお目にかかります、シャーレの先生。ゲヘナ学園風紀委員会、行政官をしております天雨アコです」
「君たちは何のためにこんなことをしてるのかい?」
「ふふっ、噂ではかなり聡明な方とお聞きしていましたが私の買い被りでしたでしょうか。便利屋68の-」
「先生が目的だろ、アコちゃん」
通信に割り込む。忘れたのかな、すべての通信網は僕のものであることに等しいのに。
「...川瀬部隊長」
「なんで僕が通信に割り込んだか、わかるね?」
「私に行動を思いとどまらせるため、ですかね?」
「甘いね、まあ見たことないならしょうがないさ」
だんだん目視でも見えてきた。オートパイロットをつける。
「君たちを懲罰するため、そして責任を取るためさ」
「しかし、執務室にいるあなたには何もできない。でしょう?構わず攻撃を再開しなさい」
「う、うん...!」
イオリちゃんたちは攻撃を開始する。
「風紀委員も一枚岩じゃないってことね...ならやりようはいくらでもある。行くよ、もう一回」
そう、その通り。アビドスもなかなかやるね。
でも、僕も対処させてもらわないと面目が立たない。だから。
飛び降りる。
ついでに何人か急所を外し、痛くないように気絶させる。
ウィングスーツを着てるから、もう大丈夫。
「誰が執務室にしかいない書類生産マシーンだって?」
「...これがあなたの本来の戦い方ですか。」
「ヒナちゃんしか見たことはなかったけどね。噂くらいならチナツちゃんはあるか...さて。」
「先生、お初にお目にかかります。このような無様な出会いになってしまったことは痛恨の極みではございますが...責任は取りますので」
マガジンを変える。煙草は飛行機の中だから見られない。
大丈夫。
「さて...改めて。ゲヘナの隼の異名を知る覚悟は?」