桃色に塗りつぶされたキャンバスで。   作:烈風一一

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絵画の本質は理想であり現実であるのかもしれない。

「で、便利屋はアビドスのほうに行ったんですか...」

「そうなんだよねー。あいにくツーリング途中でさ、見かけたときにはもうあっちのほうに行っちゃってたんだよ」

あれから一夜明けた後。僕はだいぶぼかしてアコちゃんに昨日のことを伝えた。

「...まったく、仕方ないですね。あとは今度私たちで何とかします」

「おっ、助かる~。それと間違っても部隊出していかないようにね?学校間の問題になるのはお互い避けたいから」

アコちゃんはおそらく部隊か何かを率いていくんだろうと思う。多分聞いてくれないだろうけど、一応忠告はしておこうかな。

立場的にアコちゃんは僕の上司だから注意するってのも変だけどね。

「んじゃ、僕は万魔殿に書類出して帰るから。よろしく」

前日夜に残った人は翌日に半日の安みをとれるんだよね。普段めったに休みは取らないんだけれど、今回はやりたいことがあるから休みを取ることにしたんだ。

「ええ、こちらとしても助かります。ヒナ委員長にあなたが接触しないで済みますから」

...まったく、アコちゃんはヒナちゃんのことが好きすぎないか。他人を好きになるのはいいことだけど、度を越した愛は引かれるよ?

「...なんか失礼なことを考えましたね?」

「考えてないってば、アコちゃんったら僕のこと警戒しすぎだよ?僕のことなんだと思ってるのさ。」

あっぶない、女の人の感って怖いな。

「なんだと、ですか...万魔殿にいた信用できない男かと思えば風紀委員にきてしかも留年するとかいう馬鹿をした信用できず救えないドクズ男ですかね?」

「ねえひどくない?これでも誠実で名が通ってるんだよ?」

「知りませんし聞いたこともありません。ほら、さっさと帰ってください。お疲れさまでした」

これでもちゃんと書類仕事を手伝ってくれるし、目が覚めるような味のコーヒーを出してくれる優しい子なんだよね。

ヒナちゃんにあの味を出してるとは思いたくないけど。

「じゃ、また明日ね。なんかあったら遠慮なく呼んでくれていいから」

「あなたのお世話になりたくはありません、また明日。」

天井数個分の書類を何回かに分けて運び出す。もう、何回増やしたら気が済むのかな?何回か難癖付けられて増やされてるし...

「万魔殿さーん、風紀委員から愉快な書類のお届け物でーす。」

ドアを蹴って入る。今回はイロハちゃんもいないらしい。

「...さて、誰もいないんですか?」

さすがにこれはおかしい気がする。

「いませーん...」

小さな可愛らしい声が聞こえるな。だーれだっ!

机の下をのぞき込んでみる。

「わっ、ミナト先輩!?びっくりしちゃった…」

この天使は丹花イブキちゃん。ゲヘナに天使は彼女を除いていないだろう。

「こんにちは、イブキちゃん。かくれんぼかな?」

「シーッ、イロハ先輩にばれちゃう!」

「あら、ごめんね。はい、お土産」

イブキちゃんは確かクマのぬいぐるみが好きだったと思うからあげよう。この前ゲーセンで運よく取れたんだよね。

「わー、ありがとう!」

イブキちゃんがクマのぬいぐるみを抱きしめる。可愛い。やっぱゲヘナ唯一の天使でしょ。

「じゃ、鬼ごっこ頑張ってね?」

「うん、ありがと〜!」

この分だとマコトもかくれんぼしてるな。見つけたら写真撮ってやろ。

 

「羽沼マコトさーん、クソッタレな書類のお届け物でーす」

ドアを蹴破る。この前は形式的に敬意を払ってたけど今日は別にいらないでしょ。

「...いない!どこいるのマコト!」

嘘だろ、全然いない。今日はアレをもらう日でもあるのに。

「...書類終わったら私を見つけて受け取れ、か。嫌なことしてくれるねー...」

マコトは律儀にも書き置きを残していたようだ。

「...ま、そこにいるのはわかってるんだけどね」

嘘だ。全然どこにいるかわからない。でもこういえばマコトのことだから-

「な、何ぃっ!?」

ほら、やっぱり出てきた。

「ほら、いつもの。早くちょうだい」

「全く、これでも私は-」

「...手伝ってるのこれのためなの知ってるでしょ」

マコトはようやく渋々といった様子で三箱出してくれる。助かる〜。

「わかってはいるが、外では-」

「はいはいわかってるって。外で吸わないのと一日一本でしょ?それ以上は成分が過剰に作用して記憶を全て失いかねないってことも知ってるから」

「ならいいが...そろそろ本格的に禁煙したらどうなんだ?お前、そろそろ本当に体が悪くなるぞ」

「わかったったら、もう。マコトは心配性だなあ。じゃあねー。」

そう言って出る。全く、君は僕のおかa-

"何であなたはこんなこともできないの!ハナコは当たり前のようにできてるじゃない!"

"何でお前なんかが私の子供なの!消えてしまえ!"

「ゲホッ、ゲホッ!」

ああ、嫌なのを思い出しちゃった。

「おい、大丈夫か?やっぱりタバコは-」

「いやいや、それじゃないって。もう出るよ」

これ以上話すと自分でなくなる。

「気をつけろよ、過去がお前の命取りにならないようにな」

「...わかってるさ」

 

家に帰った後、僕は私服に着替えてイーゼルとP規格のキャンバス、それに筆を家から取って出る。

家には普段遅くに帰ることが多いからかあんまり生活感がないって言われるんだけど、絵を描くスペースは必ず綺麗にするようにしてるんだ。

「今日はどこへ行こうか...」

いつも気ままにどこかへ行ってその風景をそのまま描いているから、今日も行く場所を決めてないんだよね。

「今日は人がいない風景を描きたいから...うん、できるだけ寂れてそうな方に行こうかな」

交差点ではできるだけ人が少なく、物が古い方へ行くことにした。人ばっかりの絵は描くのに時間がかかるからね。

ゲヘナはうるさいところではあるけど、その分寂れているところもないわけじゃない。だからたまにはそういうところに行くのも悪くないかな。

 

そうして、ゲヘナには珍しい全く人の手が入っていない森を見つけた。トリニティに近い方だから昔はそっちだったのかもね。

「これ以上はバイクが進めないか...」

仕方なしにバイクに鍵をかけて停めておく。ここからは歩きだ。

「何か奥にありそうなのは間違いないね」

こういう時の僕の勘はよく当たる。それにこの辺はまだまだ人の手が入ってしまってるから、もっと奥にいかないと。

 

そうして、40分くらい彷徨った後。

「まさか、こんなところに教会があるなんて...」

寂れた教会を見つけた。蔦で覆われていて、ところどころ壁も崩壊しそうなほど。しかし、尚も誇り高く立たず待っているようにも思える。

いいねいいね。こういうの、惹かれるんだよね。

リュックから折りたたみ式のイーゼルを取り出す。特注の金属製なんだよね。

三脚を立てて準備し、絵の具と筆、キャンバスを用意すればもう絵を描く準備はOK!

「...よし、始めようか。」

まずは鉛筆で大体のあたりを取る。

それから絵の具を出す。くすんだ白と緑数色、茶色などなどをパレットに出す。クイックドライの溶剤を使って準備OK。

「さて、楽しい楽しいお絵描きの始まりだよっと。」

あるがままの自然な風景を描いていく。時間はいくらでもあるから大丈夫さ。

風の音、森独特の空気。こういう環境が一番落ち着く。

だって、この時は妹のことも両親のことも忘れられるからね。

 

「よーっし...できたできた」

おかげさまで満足いく仕上がりの絵が完成。あたりは若干暗くなってきたけど、こんなこともあろうかと野宿セットは持ってきてるんだよね。

いくらクイックドライの油を使ってるからって、油絵具は乾くのが遅い。だから、描いた日はよっぽど家が近くなければ野宿かな。

でも、今日は。

「野宿するつもりだったけど、この教会を使わせてもらおうかな」

開けられた形跡のないドアを開ける。

中は思ったより清潔に保たれてたし、蝋燭もまだ使えそうだ。

「すみません、今日一晩だけ泊まることをお許しください」

一応祈りを捧げてから礼拝室以外のところを探す。

「あったあった...」

多分身寄りのない人のための部屋なんだろうと思うけど、寝泊まりできそうな部屋があった。

ご飯は確保してある。イーゼルを置いて絵を乾かしながらご飯を食べる。

「...うん、保存食ってやっぱあんま美味しくないな」

そう思いながら完食する。こうなるとやることないんだよね。

「...寝るかあ」

ベッドはカビが生えてて使いたくない。寝袋も持ってきてるし、今日は寝袋で寝よう。

「...おやすみ」

誰にいうまでもなくその言葉を発し、今日も一日が終わった。




次回の投稿は多分休日のどこかになると思います。流石にちょっと体力がもたない...

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