ナニカサレタ生徒の顛末   作:影のビツケンヌ

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ターゲット確認、排除開始

「……それで? あの山野ツネコさんという方は、本当にそれだけの為にこの超天才病弱美少女ハッカーを呼び出したのですか?」

 

 特異現象調査部部長・明星ヒマリが、顔を引き攣らせ、こめかみに青筋を立てながらウタハに問うた。彼女の視線の先には、ロボットアームが何かを組み立て終わるのをじっと待つツネコの姿がある。先日支給され、アル達の助けを借りて着たおろしたてのミレニアムの制服は、既にオイルで汚れつつあった。

 

「……端的に言えば、そうなるね」

「まあ? 私のような羞花閉月の乙女が乗る車椅子ともなれば、一般に流通するそれとは比較にならない気品が付与されるのは至極当然でしょうけど? それにしたって、会話もそこそこに車椅子ばかりじろじろ見て、ご足労ありがとうございましたで終わりなんてあんまりじゃないですか?」

「ツネコなりの気遣いだとは思うんだけどねえ」

 

 不満を垂れるヒマリに、「彼女は口数が少ないからなあ」と、ウタハは苦笑いを浮かべるしかなかった。事実この状況は、エンジニア部の他の部員の手を煩わせず、ツネコが一人で行動した結果だからだ。彼女がシャーレの居住区で暮らすことが決まった翌日から、彼女の筋電義肢の開発は急ピッチで進められていたが、本人は独自に自走式車椅子を設計していた。ウタハ達がフレームパーツの素材の選定に悩んでいる間に、既にこうして組み立てが行われている――ウタハから見ても驚異的な開発速度である。

 そしてツネコが自分と同じく体の不自由な(ただし自分と違って手足は残っている)ヒマリをエンジニア部の部室に呼び寄せたのは、予め作ってあった二種類の設計のうちどちらを採用するべきかを決めるのが目的であった。

 

「一刻も早く自立した生活を送れるようになる、その為に時間は取らせない、そういう意思表示なんだろう。座して待つより何かをせずにはいられないタイプなのかもしれないね」

「むう……折角来たんですからお喋りの一つや二つしてくれたっていいのに……それに、結局車輪じゃなくて無限軌道ですよ?」

「そこはほら、ロマンがあっていいじゃないか」

「私が来た意味があるのかって言ってるんです!」

 

 概形が出来上がりつつあるツネコの‘車椅子’は、確かに全体的なシルエットこそ競技用車椅子に似てはいるのだろう。しかし、ツネコの脚部(があった場所)のソケットと接続することを前提としたそれには背もたれがなく、接続部位とジェネレーターを歪な六角形状の無限軌道ユニットが挟み込む構造になっていた。ウタハは車椅子にして車椅子らしからぬその()()()()デザインを気に入っていたが、装輪型が採用されず蔑ろにされた気分のヒマリは膨れっ面のままである。

 直後、完成を知らせるブザー音。ウタハは随分早く感じたが、駆動輪や転輪が剝き出しになっているのを見て理解した――設計上には存在した外装パーツはここでは取り付けないらしい。クレーンでツネコの真横に運ばれてくると、彼女は鉤爪の生えた翼で重い体を引きずるようにして椅子からそちらに乗り移った。

 

「手伝おうか?」

「いや……問題ない……すぐに終わる」

 

 ウタハの助力をツネコは(彼女としては)丁重に断った。寂しくはあるが、自分でできることを自分でやろうとする意志があるのはいいことだ。ウタハの手を借りることなく、ツネコの下半身は接続部位にすっぽり嵌まり込み、それは車椅子に胸像が載っているような奇妙な恰好になった。そのままツネコの上半身は基部から三六〇度回転し、車椅子もその場で戦車のように三六〇度超信地旋回する。

 

「……うん、なるほど。やはり君もロマンの何たるかを理解して――うわっ!?」

 

 だがウタハが感心したのも束の間、車椅子は山吹色の噴射炎と共に、二度続けて横っ飛びにかっ飛んだ。

 

「……クイックブースト、リロード性能は……悪くない。問題は、容量と……補充遅延か。ダウンサイジングが……響いているな……」

「い、今のは何ですか? 車椅子にしてはかなり、その……思い切った機能と言いますか……あれ? ウタハさん? どうしたんですかそんなに目を輝かせて……」

 

 ぶつぶつと何かを思案するツネコ。今度は別の意味で顔を引き攣らせるヒマリの言葉は、もうウタハには届いていなかった――感心は、最早感動へと変わっていた。

 

「何てこった……彼女は()()()()だよ。間違いない」

「はあ……?」

「部長、私は……これから、しばらく、野暮用で外す。何かあれば……連絡する」

「……ああ、いってらっしゃい! 夕飯までには戻ってくるんだよ!」

 

 かくして、ツネコの駆る噴進装置(ブースター)併用型履帯式車椅子、仮称コードネーム『フォルタレザ』は、エンジニア部の部室からミレニアムの校舎内へと遂に解き放たれてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 部室のドアが閉まった直後に聞こえてきた衝突音に、ゲーム開発部の面々の心臓は凍り付いた。人生ゲームで珍しく最下位になったテストプレイヤー・天童アリスに、罰ゲームとして限定フレーバーのアイスを買いに行かせたばかりだったのだ。

 

「アリス!!」

 

 一番に外へと飛び出したシナリオライター・才羽モモイが見たのは、横倒しになって転がる何かの機械と、その向こう側三メートル程の距離で、手足のないマネキンのようなものを抱えて仰向けに倒れているアリスの姿だった。

 

「大丈夫?!」

「怪我はない?!」

「はい、アリスは大丈夫です! でも、この人が……」

「え……」

 

 頑丈だとはわかっていても友人を心配せずにはいられない。モモイとその双子の妹にしてグラフィッカー・ミドリの安否確認に、アリス本人はけろりとして答えた。しかしアリスは、自分よりもぶつかってきた方の心配をしている――その‘マネキン’は、アリスの体の上でもぞもぞと動いた。

 

「む……」

「えっ――」

「う、動いた……!?」

「……すまない。前方不注意……私の落ち度だ。よく、受け止めてくれた……感謝する」

「は、はい、どういたしまして……」

 

 それ、もといその人物は、アリスの薄い胸に埋まる恰好になっていた顔を上げ、首だけをアリスに向けて独特な口調で謝罪と感謝の言葉を告げる。状況から推察するに、機械と共に突っ込んできた彼女がアリスにぶつかり、咄嗟の判断でアリスがそれを受け止めたようだ。幸いどちらにも大したダメージはないが、アリスは酷く面食らった様子だった。

 

「……ゲーム、開発部……天童アリスだな。先生から……情報は……得ている。私は、山野ツネコ。復学し……エンジニア部の……末席を、汚している。この礼は……またいずれ……」

 

 ツネコと名乗った彼女は、先生経由でアリスのことを知っていた。それがどこまでのことかはわからないが、復学とエンジニア部への入部は、まず間違いなく、極最近に先生が関わって行われたものだろうことはモモイにもわかった――それが彼女の身体的欠損に関係しているだろうことまでは、とても受け止められなかったが。

 ツネコは頭で反動をつけてごろりと転がり、アリスの上から体を退かせた。翼を立てて体を持ち上げると、その翼に生えた鉤爪で床を押し、のろのろと機械の方へ進んでいく。手足を持たぬが故の生理的な不協和をもたらす動きと、その緩慢さの理由であろう大きく膨れ上がった腹部は、モモイの心に得体の知れない不安感を植え付けた。

 

「……アリス、知ってます。これって、生体ユニット……人間を機械の部品にしてしまう、とても恐ろしいことだって……」

「いや、そんな、この人がそうって決まった訳じゃ……な、何か大きな事故とかで、その……なくなっちゃったのかもしれないし……」

「……」

 

 事故――自分でフォローして出しておきながら、それが苦しい言い分だというのは、モモイ自身も理解していた。ヘイローのない先生ならともかく、生徒が()()()()()四肢の全てを、それも根元から切断することなど果たしてありえるだろうか。ノースリーブに改造されたブラウスの裾や捲れ上がったスカートから覗く接続ソケットを見れば、アリスの言うところの“生体ユニット”という表現もあながち間違いではないのかもしれない。そこから立ち昇るどす黒い悪意の影に、普段陽気なムードメーカーのモモイも言葉少なになり、ミドリに至っては声すら発せなくなってしまった。

 

「ん……よし」

 

 そんな彼女らを尻目に、ツネコはその機械の元へと辿り着く。接続部位と思しき穴のような機構を、翼の爪を引っかけて九十度回転させた彼女は、その場にそっと寝そべり、翼と後頭部を使った三転倒立の要領で足のない下半身を持ち上げた。そのまま下半身を穴に埋め込むと、ツネコの体は見事に機械に固定された恰好になる――機械に備わる無限軌道とツネコの体の状態という点同士が線で結ばれ、モモイはようやくそれが車椅子の一種だと思い至ったのだった。

 

「ほ……ふんっ……!」

 

 ところが、そこまで器用に――ぎこちない動きなのは認めざるを得ない――進めていたものの、ツネコは最後の行程で手詰まりになった。床に付けた翼を一気に伸ばす反動で車椅子ごと起き上がる算段だったのだろうが、かなり力を入れている様子なのに車椅子は殆ど持ち上がらない。

 

「……ダメか……む?」

 

 それを見ていたアリスは、思い出したかのように動き出し、車椅子をツネコごとひょいと掴み上げてまっすぐに立たせてみせた。エンジニア部謹製のオーバースペック極まるレールガンを得物とするだけの剛力に、ツネコは救われたのだ。

 

「……助かった。話に、聞く通りの……善良な生徒だな」

「はい! アリスは勇者ですから!」

 

 感情の読み取りにくいツネコの賞賛とは対照的に、にっこりと笑って答えるアリス。或いは彼女のように、欠失の経緯と窮境を嘆くよりも、今ある困難に共に向き合うことが肝要なのかもしれない。モモイがそう思い直し、改めてツネコに声をかけようとした時。

 

「……あっ、アリスはクエストの途中でした! 限定フレーバーがなくなるかもしれません!」

「それなら……提案がある。サブクエスト……引き受けて、くれるか?」

 

 ツネコが出したこの“提案”がちょっとした騒動を引き起こすことになるとは、この時点のモモイには想像もつかなかったのである。

 

 

 

 

 

「楽しいですツネコ!! ツネコはパラディンだったんですね!!」

 

 片側二車線の幹線道路をフォルタレザが疾走する。道行く人々が振り返るのは、パーソナルモビリティの域を超えたスピードだけが理由ではない――それを駆るツネコは、アリスを肩車していた。レールガンはアームレスト状に張り出した無限軌道ユニットの上部に置き、肩掛けベルトで固定した状態だ。

 ツネコの提案は、アリスの買い物の足になる代わりに、フォルタレザの実地試験に付き合うというもの。限定フレーバー入手の為、複数のコンビニを巡ることを視野に入れていたアリスにとっては、まさに渡りに船であった。

 

「パラディン程……大層では、ないが……フォルタレザは、気に入って、くれたか……」

「はい、ツネコの愛馬は凶暴です!!」

「ACS……姿勢制御、システムが……完全ではない。しっかりと、掴まっていろ」

 

 アリスとレールガンで合わせて一五〇キロ近い重量増をものともせず、フォルタレザは軽快に乗用車の群れを追い越していく。慣性の変化に若干振り回されるような動きこそあれ、機体が路面から浮くような兆候は見られない。履帯に付いたゴムパッドのグリップ力とサスペンションの働きの妙か、或いはブースターの巧みなマニュアル制御によるものか、その詳細はわからずとも、アリスに快適なドライブを提供することができていた。

 

「……到着した。私は、ここで――」

「いいえ、ここはツネコにもついてきて貰います! パーティーメンバーにも回復アイテムが必要です!」

「……そうか」

 

 ミレニアム本校舎から最も近い店舗を敢えて避け、やや離れた幹線道路沿いのカイザーコンビニに二人はやってきた。入口で待つつもりだったツネコの手を引くように翼を持ち、アリスは大仰な大股歩きで店内に入る。そのまま脇目も振らずに冷凍ショーケースに向かおうとして、

 

「――待て、アリス……様子がおかしい」

 

 ぐい、と掴んでいた翼に引っ張られた。振り返って見たツネコの顔は昆虫のように動かなかったが、アリスにはその瞳にどこか剣吞な光が宿っているように感じられた。

 

「状況を……確認しろ、アリス」

 

 ぐるりと店内を見回すツネコに倣い、アリスも周囲に注意を向けてみる。最初に気付いたのは音だった。

 

「……BGMが再生されていません。突発イベントでしょうか?」

 

 今時どこのコンビニでも流れているであろう店内放送が、入店から十数秒経っても聞こえてこない。不自然なくらいに静まり返っている。ツネコがフォルタレザをゆっくり前進させれば、モーターの駆動音が厭に大きく聞こえる程だった。

 果たしてツネコとアリスが見たのは、業務用の氷だけを残してごっそり品物が消えた冷凍ショーケースと、カウンターの奥で目を回して倒れている犬型獣人の店員二人であった。彼らの周囲には夥しい数の弾痕が刻まれ、苛烈な攻撃が加えられたことを物語っている。

 

「うわーん! 根こそぎなくなってます! NPCも無反応でアイスが買えません!」

 

 ゲーム脳とも形容し得るアリスも、この状況が何を意味するのかわからない程察しが悪くはなかった。このコンビニは何者かの襲撃を受け、限定フレーバーを含む全てのアイスを強奪されたのだ。その割にはレジが荒らされた形跡が見当たらず、犯人の偏執的な特性が垣間見える。即ち、アイスの為だけの強盗。

 

「この荒れ具合……同業者か?」

「同業者というと……もしや、ツネコは盗賊だったのですか?!」

「……脳を焼かれて……思い出せない、ことは、多いが……傭兵の……真似事を、していた……それは、確かだ。競合他社を、蹴落とす……強盗紛いの……依頼を……請け負う、ことも……あったと思う」

 

 平坦ながら訝しげなツネコの言葉に反応し、アリスが問うたその答えを、彼女は一種のフレーバーテキストとして理解した。先生らが遠慮して尋ねようとしなかったツネコの過去、その一端が彼女自らの口で語られたのは、自分が初めてだったということは、山野ツネコという生徒の境遇を先生から直接聞かされてからになる。

 

「行くぞ、アリス……被害は、これだけとは……限らない」

「わ、わかりました……ツネコは、元傭兵のパラディンで、歴戦の猛者だったんですね……ここはツネコに牽引してもらうのが良さそうです」

 

 胡乱な推測をしながらも、ツネコに金魚の糞のようについていくアリス。店外に出ようとするツネコの後頚部、無線LAN子機のドングルに似た機械から小さなアンテナが伸びるのを見て、アリスの中でのツネコの認識は目まぐるしく変化していた。

 そしていざ外に出てみると、中央分離帯を挟んだ反対側、斜向かいにある別系列のコンビニから、ヘルメットを被った生徒の一団が丁度飛び出してくるところだった。

 

「急げ急げ! アイスが融ける!」

「全く、だから冷凍車を買えって言ったのに……金欠で強盗してちゃ本末転倒だよ!」

「他の奴に襲われたらトラックなんていいカモだろ! それに保冷バッグならある!」

「にしたってあと何軒も回るんでしょ? それで持つのか……あだっ!?」

 

 一人が縁石に躓いて倒れ、持っていた保冷バッグの中身が路上に散乱する。アリスの優れた視力は、その中に混じる薄桃色のパッケージをはっきりと捉えた。

 

「あれは、限定フレーバー白桃味!! やはり盗賊の仕業でした!!」

「コンビニを……襲撃して、回るとは……相変わらずだな……ヒエヒエ、ヘルメット団……」

 

 キヴォトスの代表的な武装不良集団、ヘルメット団。今回はその一派が起こした事件であるようだ。転んだ一人はすぐに立ち上がってアイスを拾い集め、他の仲間と共にすぐ近くに止められていた装甲兵員輸送車M116ストライカーICVに乗り込んでいく。

 

「ツネコ、クエスト目標更新です! 奪われたアイスを取り返しましょう!」

「……少し、待て。補給シェルパを、手配した……」

「補給シェルパ……あ、あれですか?!」

 

 すぐにでも行動を起こしたいアリスを軽く諫め、ツネコはストライカーから自分の真上に視線を移した。つられてアリスも見上げると、ロケットブースターの付いた冷蔵庫のような何かが、ビルの合間を縫ってこちらに飛んでくるのが見える。その物体、もとい補給シェルパは急減速してツネコの真正面に降り立ち、観音開きにその中身を晒した。

 補給シェルパから伸びてきた簡素なロボットアームが、ツネコの両腕基部の接続部位にウェポンラックを取り付ける。右のウェポンラックには四つの発射管を備えたミサイルランチャーを、左のウェポンラックには二本の砲身が上下に並ぶ連装砲をそれぞれ続けて装備。

 

「おおお……! ツネコがパワーアップしました! ツネコタンクです!」

「ファーロン・ダイナミクスの……四連装、ハンドミサイル……メリニットの……小型、二連装……グレネード、キャノン、『ソングバード』……備えは、あるべきだ」

 

 人間戦車とでもいうべき奇妙なスタイルだが、アリスはその姿にどこかしっくりくるものを感じていた。生身の部分がロボットだったなら、それこそロボットアクションゲームに登場してもアリスは受け入れていただろう。

 

「乗れ……追うぞ」

「はい! アリス、行きまーす!!」

 

 ヘルメット団全員が乗り込み発車するストライカーを横目で見て、ツネコはアリスに‘乗車’を促した。来た時と同じ形にアリスがタンクデサントするや、フォルタレザは中央分離帯に向けて突っ込んでいく。道の半ばを過ぎたと同時にブースターが点火、勢いに乗って柵を軽々と飛越。ドリフトターンで着地し、ブースターを噴かして猛追する。

 

「んあ? なんか来やがったぜ……ってなんじゃありゃあ?!」

 

 車体上部のハッチから顔を覗かせていた一人が、ストライカーのエンジン音に混じるフォルタレザの駆動音に気付いて振り向き、素っ頓狂な声を上げる。爆走する車椅子(のような機械)に乗って追いかけてくる光景が異常なものとは露程も思わず、対するアリスは素直に、そして勇ましく名乗りを上げた。

 

「やあやあ、我こそはゲーム開発部所属、勇者・天童アリス! そしてこちらはパラディンのツネコと愛馬フォルタレザ! アイス奪還の為、いざ尋常に!!」

「ターゲット確認、排除開始」

「お前らのような勇者パーティーがいるかっ!! アイスはあたしらのものだ、あたしらだけのものだ!」

 

 ストライカーには標準装備である筈の無人銃座がなく――非合法の入手故に粗悪品を掴まされたか――そのヘルメット団員は自前のマシンガンでアリスらを追い払おうと掃射してきた。ツネコはクイックブーストで対抗し、右に左に細かく動いて狙いを付けさせない。

 

「ええいちょこまかと……ぐががっ!?」

「うわっ! おい大丈夫か?!」

「くっそー、よくもぎゃあああ!?」

 

 お返しとばかりにソングバードが火を噴き、撃ち出された二発の小型榴弾がヘルメット団員に直撃、炸裂した。代わりに出てきた人員も四連装ハンドミサイルの爆炎に呑まれ、各個撃破される。高速走行しながらの的確なエイミングは、元傭兵の面目躍如といったところか。

 反撃の手段を失ったらしきストライカーは更にスピードを上げ、高速道路に入ろうとしていた。このまま畳みかければ撃破できるというところで、ツネコは追撃の手を止めている。アリスがそれを怪訝に思った時、ツネコの方から声がかかった。

 

「アリス……レールガンで、ギアボックスを……破壊、してくれ。グレネードと、ミサイルでは……積荷が傷付く」

「ギアボックスですか? タイヤかエンジンを撃てばいいのでは?」

「ストライカーの、タイヤは……パンクしても、走れる……エンジンを撃てば……爆発して、アイスは、食べられない」

「で、でもアリス、ギアボックスの位置はわかりません!」

「問題ない……私が、照準(FCS)反動(ACS)……出力(EN)の制御を……担当する」

 

 ハンドミサイルがパージされ、右のウェポンラックがフリーになる。ツネコの体は九十度回転して、展開されたウェポンラックがアリスのレールガンをがっしりと把握した。「支えてくれ」と言われたアリスが、ツネコの体に巻かれていた肩掛けベルトを自分の腕で引き上げ、再びツネコが体を正面に向ければ、レールガンは前方に指向された形になる。

 

「仕掛ける、タイミングは……お前に任せる」

「わかりました! アリス、目標を狙い撃ちます!」

 

 フォルタレザはストライカーに速度を合わせ、一定の車間距離を維持している。車線変更し、相手の右斜め後方に陣取った。狙うは車体右前方、エンジンルーム直下に位置する、回転運動をシャフトへと伝達するギアボックス。

 

「……EMLモジュール全点接続、エネルギータービン全開、出力八〇、九〇……緊急弁全閉鎖、リミッター解除……一〇〇、一一〇、一一五……レールキャノン最大出力」

 

 レールガン前方の機構が変形し、砲身が露出する。青白い光が内部で収束していく。ツネコのアナウンスでテンションの上がったアリスは、いつも以上に乗りに乗って、合図を出した(決め台詞)

 

「――光よ!!」

 

 ミレニアムの空に、一際大きな爆音が響き渡った。

 

 

 

 

 

「……ファーロンとメリニットから取り寄せた装備の費用を経費に含めるのはいいでしょう。苦心して作った車椅子です、こんなことで壊されたら困りますよね。正式に配備される前の補給シェルパをハッキングして無断で使ったのも……まあ、いいでしょう……」

 

 ヒエヒエヘルメット団を壊滅させてヴァルキューレ警察学校に引き渡し、限定フレーバーを手に凱旋したアリスとツネコを待ち構えていたのは、眉を吊り上げて仁王立ちするユウカだった。

 

「でもあなたは妊婦で、肢体不自由1級の身体障害者なんです!! ツネコさんやお腹の赤ちゃんに何かあったら私、どうしたらいいか……!」

「ユウカ、ツネコは――」

「あなたもよアリスちゃん! 荒事に首を突っ込むなら、ツネコさんを連れて行ってはダメ! 次も無傷で済むとは限らないんだから!」

「あ……ご、ごめんなさい……」

 

 しかし怒りの色こそ強いものの、それを傍から見ていたヒマリには、心配と安堵の方が多くを占めているのがよくわかった。自尊心と能力の高さ故に不自由を憐れまれることのない自分とは――ハッキングが許されているという点に於いても――正反対といえよう。アリスにも矛先が向くのは、ツネコを心から案じるが故か。

 

「ユウカ……アリスは……護衛でもあった。依頼を、完遂した……それだけだ。責任は……依頼主の、私にある。すまなかった……私は……急ぎ過ぎた、ようだ」

 

 ツネコの精神状態については、ウタハから話を聞いていた。フォルタレザを作ってすぐにテストに乗り出したことは、救出後三日も経たないうちにパルスガンを開発したことと通底している。通信履歴を調べれば、武装をすぐに呼び出せるよう、予め補給シェルパに入れていたことは明白である。校外に出ることで銃撃戦に遭遇する可能性を見越していた、或いは()()()()()()に違いない――今の自分が‘どこまでやれるのか’を、確かめる為に。

 

「――横から美少女が嫋やかに失礼します。ツネコさんもこうおっしゃっていることですし、清楚の擬人化たる私に免じて、今回は大目に見てあげてくださいな。ツネコさんも、急いては事を仕損じると言いますから、焦らずやっていきましょう。美貌と頭脳に於いて右に出る者のないこの明星ヒマリが手を貸すからには、大船に乗ったつもりでいてください」

 

 ヒマリは、本来同い年であるこの少女に先輩風を吹かせたくなった。個人としての自立性に戦闘能力(性能)が直結しているらしきツネコは、放っておけば自分が蛇蝎の如く嫌う生徒会長のように、合理性の名の下に人間性を軽視するようになってしまうのではないか、という恐れが働いたのだ。

 尤も、「そこまで言うなら……」と不承不承ながら受け入れたユウカや、事が丸く収まって満足気に笑うアリスのような友人達がそばにいる限りは安泰だろう。はっきりした根拠はなくとも、ヒマリはそう信じることにした。

 

「では……早速だが、ヒマリ……フォルタレザ……履帯式車椅子の……運用データが、集まった。あなたの、それも……履帯に……換装、してみるか?」

「……結構です」




書きたい描写を詰めに詰めまくったら10000文字近くなってしまいました。
アリスとの出会いを境に二つにぶった切ることも考えたのですが、この小説を書く上で自分に課している「各話タイトルに使用されている歴代ACシリーズの名言を必ず文中に入れる」という縛りを達成できなくなってしまうので、泣く泣く繋げています。言い訳になりますが、これがなければ十月前半には更新できていました。長らくお待たせして申し訳ございません。

結局ブルアカエアプに戻りつつあり、特に「このキャラはこのキャラをこう呼ぶ」というのが鬼門になっています。ヒマリがユウカを何と呼ぶのかわからず、意図的に(違和感がない程度に)名を呼ばせずに書いていますので、どなたか教えてくださればすぐに修正いたします。
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